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山岳トンネルにおける劣化予測の現状と課題

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第 4 章 維持管理の現状と新しい維持管理手法の提案

4.2 トンネルの維持管理の現状

4.2.5 山岳トンネルにおける劣化予測の現状と課題

土木構造物の劣化予測方法としては,鋼構造物,鉄筋コンクリート構造物,アスファル ト舗装等の構造材料の劣化度を定量的に評価できる構造物において劣化予測方法の研究が 進んでおり,道路構造物としては,特に橋梁,舗装等の劣化予測方法が実用レベルにある.

山岳トンネル分野においては,他の構造物に見られない特殊性を有しており,計画的か つ戦略的な維持管理の必要性から各機関において合理的な劣化予測手法の研究が始まった 段階である.

現況の研究レベルでは以下に示すような「力学的な解析手法」と「確率論を用いた手法」

がある.

①周辺地山の地圧増大の時間依存性を考慮した変状解析手法4)

②確率論を用いた劣化予測(マルコフ過程に基づく劣化予測)5)

③点検履歴から確率過程を用いた劣化予測手法6),7)

ここでは,現状の劣化に関する研究に関して以下に概要と課題を簡単に述べる.

(1)周辺地山の地圧増大の時間依存性を考慮した変状解析手法

トンネルの変状が生じる原因には,地質的な要因で長期的に変形を生じる場合や天端の 覆工背面の空隙による影響など,様々な要因が複雑に関連している.覆工の耐力や補強に よる増加耐力を求めて対策工を検討する方法として,変状状況から塑性圧を推定し,骨組 構造解析や有限要素解析による手法が用いられる.これらの手法では,表-4.2.3 に示す.

①地山劣化モデルと②梁ばねモデルの 2種類の解析モデルを用いることにより,最小限の 地質情報と計測結果を利用した解析的な検討が可能となる.

この変状解析手法では,地質情報の制約を受けるトンネルの場合においても,基本的に は地山の一軸圧縮強度が推定でき,かつある期間の内空変位(変位速度)が得られれば解 析的な評価が可能となる.また,地山の劣化の時間依存性を考慮するうえで,クリープ定 数で代表される時間ファクターを必要としないことから,劣化予測が行える変状解析手法 である.

表-4.2.4 に周辺地山の地圧増大の時間依存性を考慮した変状解析手法による山岳トン ネルの劣化予測における特徴と課題をまとめた.

※厚ざを断面剛性の低下でモデル化することも可能であるが,解析上構造が不安定となり やすい

表-4.2.3 変状解析手法の特徴4)

梁ばねモデル

(骨組構造解析)

地山劣化モデル

(有限差分法など)

地山 地盤反力をばね(圧縮,せん断)でモデル化 Mohr-Coulombnb降伏規準で地山劣化をモデル化 覆工 梁部材でモデル化(ばね切りで背面空洞を評価) 非線形材料でモデル化(インターフェイス要素で空洞を評価)

ひび割れ コンクリートの引張強度で評価,塑性ヒンジでモデル化 引張強度で評価,開口をインターフェイス要素でモデル化 厚ざ コンクリートの圧縮限界で評価,解析を終了※ 圧縮強度で評価,材料非線形を考慮

解析結果 変状箇所,作用地圧と変位 変状箇所,変位と経時時間,地山の応力状態

(2) マルコフ過程に基づく劣化予測

図-4.2.2に示すような,最も単純なマルコフ過程に従う劣化進行のモデルを考える.ここ で,S,B,A,2Aおよび3Aは,「道路トンネル維持管理便覧」による変状判定区分で ある.Piは変状が次の判定区分に進行する移行確率であり,Niはそれを判定する経年で ある.すなわち,建設当初はS(変状が全くない)だった覆工が,N1年後には確率P1で B(変状がないか,あっても軽微)に進行し,残った確率(1-P)は現状維持するこ とになる.同様の手法で,N,N,N年後に判定区分ごとの移行確率を用いて,劣化 進行を確率的に予測する.Pi,Ni は,いわゆるパラメータであり,個々のトンネル・覆 工スパンで異なるものとなるが,その設定方法は①劣化原因の組み合わせ,②点検結果の 判定区分を用いての推定が考えられる.

表-4.2.5にマルコフ過程に基づく劣化予測の特徴と課題をまとめた.

前提条件 課題 予測によるメリット

①トンネル毎に地山条件,施工方法,

変状状況が異なるため個別トンネル での予測となる

②対象トンネルが限定される

・変状の著しいトンネル

・長期計測データが存在する

・時間依存の変状が地山特性に依存 する場合に限られる。

①地山劣化モデルの設定が重要。

・ ト ンネ ルの構 造 :背 面空洞 の 有無 ,変 状 状況(ひび割れ,圧ざ等),施工法の相違

・作用土圧:塑性圧,緩み土圧,偏圧

② 計 測デ ータ: 長 期間 にわた る 計測 値, デ ー タ の 数 に よ り 予 測 精 度 に 影響

(一般的には,長期計測データは少ない)

③ 施 工時 の情報 が 重要 (一般 的 には 、詳 細 な情報が無い場合が多い)

① 計 測 デ ー タ に 基 づ く 再 現 解 析 の 実 施 に よ り 適 切 な 地 山 劣 化 モデルを構築し,予測解析が可 能となる。

・ 破 壊 形 態 な ど も 再 現 可 能 で あ り、具体的な対策工の検討(設 計)が可能

② ケ ー ス ス タ デ ィ に よ り 対 策 工 の効果が把握できる。

S

S S S S

B B B B

A A A

2A 2A

3A

N1 N2 N3 N4

P1 P1 P1 P1

P4

P2 P2 P2

P3 P3

トンネル経年

劣化進行

表-4.2.4 変状解析手法のまとめ

図-4.2.2 劣化進行の確率モデル5)

(3)点検履歴から確率過程を用いた劣化予測手法

一般的に,点検は2年から 5年程度の間隔で行われることが多い.すなわち,点検デー タそのものは点検間隔に応じた離散データになる.しかし,LCCを検討する上で,健全度 低下モデルは,時間に関する連続モデルとして扱うことが望ましい.

これを図に示すと図-4.2.3のA~Fの経路となる.しかしながら,健全度の低下は点検 時毎に判明するため,どの時点で変状による健全度低下が発生したかを点検結果のみから 判定することは困難である.ここで,ひび割れ等の変状や補修・補強といった対策工によ る健全度回復という健全度の不連続性を平均的にとらえば,健全度低下を図中の波線(全 体的な傾向を示す曲線)のようにモデル化できる.

以上の点を考慮して,安田ら 6)-8)は健全度低下を全体的な傾向でとらえ,幾何学的ブラ ウン運動モデルを導入した確率過程によって健全度低下をモデル化している.

なお,対策工による健全度回復に関しては,その時点が明確であるため,モデルに組み 込み,一方,点検そのものが数点しか存在しないという現実をふまえて,各スパンでの不 確実性としてとらえ,全スパンでの全体的な傾向で健全度低下モデルを構築している.

トンネルの劣化予測を検討する上で,ひび割れなどの変状が発生することによって,ト ンネルの性能や機能水準は低下し,結果としてトンネルの健全度が低下する.この時期を 点検のみによって確認することは困難で,安田らはひび割れの発生に着目しポアソン過程 を用いてモデルの拡張を行っている7),8).表-4.2.6に点検履歴から確率過程を用いた予測に おける特徴と課題をまとめた.

前提条件 課題 予測によるメリット

①トンネルの条件に左右さ れない。

(対象トンネルを限定しな い)

②点検データが最低2時点 以上あること

・竣工時に状態が把握され ていれば、これを1時点と することが出来る。

③重み付けは専門知識のあ る技術者により設定するこ

①移行確率をいかに同定するかがキーポイント(設定 そのものは容易であるが,移行確率により結果はど のようにでもなる)

② ト ン ネ ル の 変 状 と 移 行 確 率 の 設 定 方 法 を い か に 実 施するかを決定する必要がある

③重み付けをどう設定するかで結果が異なる。

④パラメータが多いため,多くのトンネルでの検証が 必要

⑤点検データの精度に影響される

⑥初期値をどう設定するかが課題

⑦ 点 検 デ ー タ と 健 全 度 の 関 係 を 明 確 に す る 必 要 が あ る。

⑧補修・補強の効果を評価に取り入れる場合、補修・

補強の結果と点検データ、健全度データとの関係を明 らかにする必要がある。また、補修・補強後の移行確 率を設定する必要がある。

① 移 行 確 率 , パ ラ メ ー タ を 同 定 できれば,作業は容易

② 予 測 方 法 が 簡 便 で 理 解 し や す

③ 点 検 デ ー タ が 少 な く て も 将 来 予測は可能

④ 一 般 的 な ト ン ネ ル ( 山 岳 、 シ ールド、開削)に適用できる

表-4.2.5 マルコフ過程に基づく劣化予測手法のまとめ

前提条件 課題 予測によるメリット

① ト ン ネ ル の 条 件 に 左 右 さ れ ない

( 対 象 ト ン ネ ル を 限 定 し な い)

② 点 検 デ ー タ が 最 低 2 時 点 以 上あること

③ ト ン ネ ル の 変 状 挙 動 と 想 定 し た 確 率 過 程 が 対 応 し て い る ( コ ン ク リ ー ト の 劣 化 の 場 合 と 地 山 の ク リ ー プ で は 異なるのではないか?)

①点検データの精度(データの数,ランク,閾 値)に左右される

②点検データが少ない場合には精度に影響

③スパン全体の評価と変状箇所個別評価の取り 扱いをどうするか

④劣化予測過程が点検頻度で異なる

⑤臨界健全度を大幅に下回る場合の構造安定性 の評価をどうするか

⑥LCC検討にあたり,対策費用の設定をどうす るか

⑦対策工が途中で実施される場合の評価をどう するか

⑧解析過程で得られるばらつきをどう評価する

① ス パ ン 全 体 で 評 価 す れ ば , 維 持 管 理 予 算 の 確 保 , 対 策 の 順 序 を 決定する上で有効

② 点 検 デ ー タ が 少 な く て も 予 測 は 可能

前回点検

ひび割れ発生に

よるジャンプ 補修時の補正

予防保全(補修)

によるジャンプ 実際の劣化曲線

点検結果による 劣化曲線

今回点検 次回点検 50

40

30

20

10

全体的な傾向を示 す劣化曲線

健全度

Δt

A

C B

D E

F

図-4.2.3 トンネル覆工の劣化過程に関するモデル図5) 表-4.2.6 点検履歴から確率過程を用いた劣化予測のまとめ

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