第 4 章 維持管理の現状と新しい維持管理手法の提案
4.3 モデルトンネルの概要と健全度評価の試行
(1) 施工状況と変状状況
対象としたAトンネルは全長L=2,375mの道路トンネルであり,うち平成8年に工事を 完了した南工区L=1,108mであり,図-4.3.1に示すように施工時には断層破砕帯等の特殊 条件の脆弱な地山区間において,小崩落(天端・鏡面),吹付けコンクリートはく落,プレ ート変状といった変状現象が発生しており,各種補助工法により対処している.
特に,本トンネルでは湧水の発生が多く,トンネルの施工においては,水抜きボーリン グを併用して掘進を進めていた.竣工後,覆工コンクリートに変状を生じている.発生し た変状の主なものは,ひび割れ,漏水である(写真-4.3.1).
(2) 点検結果の概要
平成 12 年に定期点検を実施し,その結果に基づき補修工事(ひび割れ注入,排水工,
導水工)を施工した箇所(STA.131 付近)については,トンネル施工時に変状が発生し,
補助工法を多用した箇所の1つにあたる.
1) 外観調査結果
外観調査結果から,主たる変状はトンネルのスプリングライン付近(左右)の軸方向の 水平ひび割れであり,ほぼスパン全体に連続して発生していた.また,ひび割れ幅は概ね
0.15~0.25mm程度であり,ひび割れからは漏水または漏水跡が観察された.
2) コンクリート圧縮強度
全ての調査箇所において,コアによる圧縮試験の結果は,設計基準強度(18N/mm2)を 大きく上回っており,平均値で 31.1 N/mm2であった.シュミットハンマーの結果も平均
で29.7N/mm2であった.同時に測定した弾性係数に関しては平均で27,5N/mm2であった.
一方,採取した覆工コンクリートのコアにより実施した中性化試験では,その深さ は 13mmと本構造物の供用年数を考慮すると多少大きな値であった.これは通行車両の排気 ガスに伴う炭酸化が原因と考えられるが,覆工コンクリート自体は無筋構造であり健全度 は確保されていると判断した.
写真 4.3.1 A トンネル変状状況
3) 内空変位測定
内空変位測定結果では,天端が最大変位で 20mm(内空側),側壁が 17mm(地山側)
と変位していたが,設計上の余裕(50mm)内であり,問題はないと判断した.
また,変状部(漏水有り)のスパンでは工事竣工時の値に比べ側壁の変位が内空側に生 じていた.
4) 追跡調査
変状の程度が著しいスパンの変状部(ひび割れ箇所)および健全部(ひび割れなし)の 10箇所を選定して1年間,季節毎(4回/年)の変化を追跡調査の結果,坑内温度の変化 に伴うものが主であり,最も変位の大きな箇所でも変位量に換算して 0.1mm程度であり,
特に変状の進行性は確認されなかった.
図-4.3.1 A トンネル地質縦断および施工実績
(南工区施工実績)
(2) 変状原因の推定と対策工
施工記録によれば,今回の変状が発生したスパンに関しては,トンネル掘削時にも湧水 が多く,地山条件が悪い箇所であった.変状状況,漏水の発生等から,変状の原因は図-4.3.2 に示すように,トンネル完成後の背面水位回復に伴う水圧の作用によるものと判断した.
したがって,覆工背面の水位低下の目的で図-4.3.3のように排水工を設置し,漏水箇所 に関しては,導水工法による水みちを確保して過度の水圧の発生を抑止する対策をとった.
対策後,1年間の変化を追跡調査により確認したが,対策した箇所に関しては,新たな変 状が発生することなく推移しており,対策工の効果が確認された.
図-4.3.4に特に変状の大きかった20~30スパンにおける変状展開図を示す
図-4.3.2 作用荷重と変形モード
図-4.3.3 対策工(排水工設置)
4.3.2 トンネル健全度判定表(案)の提案
山岳トンネルの健全度評価に関しては,「道路トンネル定期点検要領(案) 平成14年4 月 (社)国土交通省道路局国道課」では,点検結果をS,A,Bのグレーディングに分け て評価している.
しかしながら,点検結果をもとに劣化予測を行う場合,これまでの点検結果のS,A,
Bの判定のみでは劣化予測モデルの構築や劣化予測の評価が困難であるため,点検結果を 定量的な判定指標としてとらえる必要がある.
本研究では,表-4.3.1に示すとおり,点検結果で得られるデータを考慮し,劣化予測の ための判定項目を抽出し,判定項目毎に劣化度(健全度)を表す指標を細分化,かつ定量 化した健全度判定表(案)を提案した.
提案した健全度判定表に基づき評価を実施するにあたり,判定表の評価にあたっては,
変状の影響度合いに配慮して,判定区分Ⅰについては各項目を5点刻みで評点し,各項目 の最大値を判定区分Ⅰの最終評点とした.
ここで,5点刻みにしたのは,1点刻みでは評価が困難であること,また10点刻みでは 劣化度の変化を追っていく場合あまりにも評点が粗すぎると考えたためである.また最大 値としたのは利用者の安全度は最大値で評価されるべきものと考えたためである.
判定区分Ⅱについては各項目を1点刻みで評点し,各項目の平均点を判定区分Ⅱの最終 評点とした.
ここで,1点刻みにしたのは,1点刻みでも比較的容易に評価が可能であると考えたた めである.なお,判定項目のうち,今回健全度評価に用いた項目を着色している.
0.5 0.3
0.5
0.3
0.2
0.2
0.5
0.7 0.3
0.25
0.3 0.4
DⅡ DⅠ
200 210 230
190
0.4
0.8 0.25
0.3 0.3 0.7
1.0
0.5 0.2
0.8 0.2
1.0
L=1150
L=1400
L=
2050 0.2
0.5 0.2
0.4
1.0
0.3
0.7
0.4 1.2
1.0 1.0
0.2
L=3800 0.5
0.3
0.7 0.5
0.7
0.2 0.3
0.8 1.0
L=900 0.5
0.4
0.2 0.2
坑口からの距離 280 290
L=1800 L=1650 0.3
L=1200 L=2000
300
L=3300 L=2500
0.2 0.2
L=800
L=1350 L=900
L=10400
L=5050
L=8150 L=2150
L=1450
L=1550
270
L=1200
L=3400
L=2400 L=1850
L=2350
L=6950 L=800
L=2300
0.7
1.0 0.3
0.3
0.5 0.2
1.0
L=400
L=4300 L=950
L=2200
L=1850
L=2550 0.5
0.5
L=1150
L=2750
L=3400
L=
1450 L=1450L=1500
L=2300
L=350
1.0
L=1050
L=2800 L=1900 L=3000
0.3 L=250
L=2400
0.55
0.7 0.3
0.2
L=650
L=5100
L=1 100
L=1600
L=600 L=700 L=700
L=400 L=900
L=4300
L=400 L=550
1.3 0.3
1.0
L=2300
L=1150 L=5200
0.3
L=3
850 L=
1300 L=650
L=300 L=700 L=550
0.5 0.4
0.3 0.4
0.3
0.5 0.3
0.2 0.7 0.2
L=800
0.4
0.3
0.2
L-4100
L=950
0.7 L=6950 L=5600
L=6900
0.5 L=250
L=5200
L=1450 L=3300
L=2200
L=10450 0.5
L=6500 L=2500
L=2800
L=10500
L=10250 L=10550 L=1200
L=8850 0.3
1.3 0.55
L=650
L=3400
L=1050
L=350 1.0
1.0 0.5 L=2400
L=1400
1.0
L=4000
L=8150
L=800
0.4
0.7 L=8800
L=3800
L=2350 L=2000
L=2150 1.2
21 24
1.0
0.3
0.3 0.6
0.3
0.2
L=8850 0.2
0.3 0.7
0.7
0.3 L=
450
0.8
0.5
L=
1500 L=550
L=4700
L=1700
L=10450 L=3250
L=2850
L=1
550
L=1150 L=2150
L=1900
L=2550
L=
1650
L=2200L=350 L=1850
L=2200
L=1500
L=6900 L=2200
L=1100
L=1100 L=1850
L=1600 L=1750 L=950 L=500
L=350
L=1550 L=1
350
L=1450 L=10250
L=1750L=1550L=1550
0.5
L=10550
L=8150 L=1600 L=1550
L=3400 0.3
1.0 0.2
0.5
0.2
0.4 0.2
0.5
0.3
L=1050L=1400
L=1600 L=
1050
L=1650
L=6500 L=1400 0.4
L=1900
L=1350
L=650 L=4000 L=800
L=2800
1.0
L=1600
0.5 L=800
L=1700 L=2100
L=1000
L=1450
L=1350 L=10500
L=2150L=1150 L=800
L=2550 L=1200
L=1550 L=550
L=3100
L=800 L=2300
L=3000
L=1350
L=650 L=
1950 L=1450L=800
L=450
L=1900
L-1500
L=10500
L=2650
L=1000 L=2950
L=1750
L=650
L=3450 L=2900 L=850
L=2500 L=1050
L=1200
L=1750
L=1950
L=1050
1.5 0.2 0.2
0.2 0.35
0.2 0.2
0.2
0.3 0.6
0.2
260
0.2
0.2
220
支保パターン
240
1.0
250
0.2 L=2200
0.7
0.3
0.8 0.2
1.0 0.5
0.5 0.5
0.2
L=750
L=450
L=2350
L=8800 L=1
000 L=800
0.2
0.5
0.2 0.8
0.4
平成12年度で確認されたが
0.3
平成16年度は確認されなかった
CL
CL SL
SL SL
SL
0.5
0.4
0.5
0.7 1.2
1.0 0.2
1.0
0.8
0.8
0.7 1.0
L=
1950 0.3
1.0
L=850
L=
2900
L=1700
L=2250 0.2
0.2
1.0 1.0
1.0 1.0
0.8 1.0
0.5
0.7 0.3 0.8
23 29 22
0.7 0.5
30
平成16年度は確認されなかった
26
0.8
20
1.0
L=1750
平成12年度で確認されたが
覆工NO. 25
L=1850
L=
1100
L=1350335.8
L=2300 L=10700 0.7
27
L=1450
1.0 0.2
0.3 0.2
0.9
0.2
0.3 0.5
0.5 1.0
0.2 0.5
1.0 0.4 L=2150
L=1750
L=2000
L=6600
L=2800 L=3800
0.3 0.7
0.3 0.3
L=5500
0.7
0.7 0.2
0.9 0.9
0.3
1.0
0.7 1.0
0.9
1.2 1.0
28
0.5
0.2 0.5
0.5
0.8
0.4
0.3 1.0
0.3
1.0
0.3
L=1850 0.25
平 成 16 年 度 調 査 平 成 12 年 度 調 査
図-4.3.4 A トンネル変状展開図(変状大スパン:20~30)
30 20 20 10 10 0 連続した
2方向ひび割れ 健全
ひび割れ面積 2.0m2程度
ひび割れ面積 なし
ひび割れ長さ 10cm程度
ひび割れ幅 tc×(1.0以上)
ひび割れ幅 なし
20cm程度 ひび割れ幅
tc×(0.75以上) ひび割れ幅
なし
20cm以上 ひび割れ幅
tc×(0.5以上) ひび割れ幅
なし
10箇所以上 健全
ひび割れ幅
tc×0.75 健全
材質劣化,車輌接 触により早晩,落下 の恐れがある。
健全
覆工巻厚
t=td×0.33~0.5 健全
覆工巻厚
t=td×0.33以下 覆工巻厚
t=td×0.67以上
― 覆工巻厚
t=td×0.5以上
噴出 にじみ
- 滴水
~にじみ
非常に多い なし
同上 なし
30 20 20 10 10 0
ひび割れ長さ
1m/5年 ― 健全
1m/2年 ― 健全
1m/1年 ひび割れ幅
1mm/1年 健全
10mm/年以上 健全
せん断ひび割れ があり、圧ざが見 られる。変形あり
健全
45cm/m2以下 0
(健全)
2.0~3.0mm未満 0.2mm未満
(健全)
○ひび割れの発生状態
・ひび割れ発生パターン(軸方向、横断方向)
・発生部位(天端,側壁部)
・ひび割れ幅 最大ひび割れ幅 1.0~2.0mm未満 0.2~1.0mm未満
ひび割れ (進行性なし)
ひび割れ密度 30cm/m2以下 15cm/m2以下
○内空変位量、絶対変位量
・沈下量、不等沈下によるねじれ
外力による変状
山側肩部以外に軸方 向引張ひび割れあり。
変形なし
山側肩部に軸方向引 張ひび割れあり
○変形、沈下と同様(トンネルの変形)
○地すべり地、膨張性地山、偏圧地形等 特殊地山条件の有無
ひび割れ幅 1mm/5年
変形、沈下 10mm/2年 10mm/5年
着目点
判定区分Ⅱ 構造的な変状
ひび割れ (進行性あり)
進 行 性
― ひび割れ幅
1mm/1~2年
○ひび割れの進行性(幅と長さ)
・天端はランクアップ ひび割れ幅
1mm/1年
ひび割れ幅 1mm/2~5年
ひび割れ幅 1mm/2年
A B S
土砂流出等 同上 同上 ○土砂流出の量とその位置
・天端はランクアップ
つらら等 多い(面的に分布) 少ない~中程度
(散在)
○ツララの量とその位置
・天端はランクアップ
○漏水の量とその位置
・天端はランクアップ
側壁 噴出 流下
漏水
アーチ 流下 滴水
Hm=0.2m ― 覆工巻厚
t=td×0.33~0.5 軽微な変状はあるが,材 質劣化,車輌接触による 落下の可能性が少な い。
○補修材の工種毎に個別に判断
・シートの浮き
・アンカーの緩み
・モルタルのクラック など
突発性崩落
覆工背面空洞高さ
Hm=1m 覆工巻厚
t=td×0.5~0.67 覆工巻厚
t=td×0.67以上 ○覆工厚さと覆工背面空洞の有無 ・Hm:覆工背面空洞高さ ・t :覆工巻厚(調査値)
・td :設計覆工巻厚
○施工方法の確認 ・矢板は力学的機能あり ・NATMは力学的機能なし
Hm=0.5m 覆工巻厚
t=td×0.33~0.5
覆工巻厚 t=td×0.5~0.67
1~4箇所 ○ひび割れの交差分岐箇所
放射状 ひび割れ幅
tc×(0.5~0.75)
ひび割れ幅 tc×0.5未満
○放射状のひび割れ幅
・ひび割れ幅の基準値(tc)は閉合型と同じ ひび割れ幅
tc×(0.5未満)
○閉合型ひび割れの長さと幅(長辺方向)
・ひび割れ幅の基準値(tc)
(設計覆工巻厚(td)30cmの場合)
tc=td×0.35%=(300mm)×0.0035=1.0mm ひび割れ幅
tc×(0.75未満) ―
ひび割れ幅
tc×(0.5未満) ― 部分的にひび割れ
○打音検査時の濁音とひび割れ状況
・ひび割れ発生パターン(閉合他)
・貫通ひび割れか
・ひび割れ発生部位(天端、側壁部)
亀甲状 ひび割れ面積
1.5m2程度
ひび割れ面積
1.0m2程度 ○亀甲状のひび割れ面積
判定区分Ⅰ 利用者被害を 誘発する変状
浮き、剥離
(覆工)
ひび割れ性状 部分的~不連続な
2方向ひび割れ
閉 合 型
ひび割れ幅 tc×(0.5~1.0)
交差分岐 5~9箇所
浮き、剥離
(補修材料)
材質劣化,車輌接触に より,将来的に落下の恐 れがある。
A B S 着目点
表-4.3.1 健全度判定表(案)9)
4.3.3 健全度判定表(案)による A トンネルにおける健全度評価
検討ケースとしては,変状が大きい21スパン(20-40)を抽出し,前述の健全度評価表
(案)に基づき,トンネル業務に係わる技術者により評価した.
(1) 評価に関する判定条件
点検結果に関する評価にあたっては,以下の評価に関する判定条件の統一を図った.
①判定区分Ⅰは最大値評価(5点刻み),判定区分Ⅱは該当項目の平均値評価(1点刻み)
とする.
(判定区分Ⅱの評価項目は4項目のため合計を4で割った平均値を劣化度とする.)
②判定区分Ⅰの突発性崩落,判定区分Ⅱの変形,沈下は評価しないこととし,判定区分Ⅱの 外圧は評価する.
③進行性有りのひび割れ経過年数はトンネル構築をH8年とし以下の通りとする.
H12:第 1回点検(トンネル構築から 4年間経過)
H16:第 2回点検(第1回点検から4年間経過)
④その他,外圧の影響,ひび割れ進行性等の評価にあたっては,トンネル条件(NATM,
H12漏水対策工実施済み,対象区間はインバート未設置区間など)に留意して評価した.
(2) 変状の大きいスパン(No.29)における点検結果の評価
図-4.3.4 に(一例として)No29 スパンの健全度評価結果を示し,以下に健全度評価の 分析結果を示す.
①スパン全体での評価では,どの評価者も判定区分Ⅱより,判定区分Ⅰの劣化度の方が 大きくなっており,評価点の最大値をスパンの評価とした判定区分Ⅰ(利用者被害)
に関する評価が優先する結果となった.
②H12年度の評価において,アーチ部に閉合ひび割れのあるスパンでは,判定区分Ⅰの 劣化度は高く評価されているが,それらを除いては,判定区分Ⅰ,Ⅱの評価はほとん ど同程度である.
判定区分Ⅱの劣化度を大きく評価している箇所も多く見受けられるが,これらは側壁 部の水平ひび割れを外力によるものとして評価しているためであると考えられる.
③H16年度の評価において,判定区分Ⅱでは一部のスパンを除いて劣化度の増分は5程 度未満であるが,判定区分Ⅰでは10~20程度となっている.
④評価のバラツキに関しては,ひび割れ性状(発生位置,幅,長さ)や閉合ひび割れの はく落評価において評価者によるバラツキが大きくなっていることが分かる.
⑤判定区分Ⅱの劣化度の増分が小さい理由としては,H12年度時点ですでにSL付近の ひび割れはスパン間に発生しており,H16年度に進行しているひび割れは横断方向に 延びる比較的ひび割れ幅,長さの小さいものであること,判定区分Ⅱの評価が平均値 評価となっていることなどが考えられる.
⑥客観的にみて構造的な変状が特に進行性しているとは考えられない.