第 3 章 特殊条件下における補助工法の設計と適用
3.5 特殊地形における補助工法の設計と適用
3.5.2 偏圧地形におけるトンネルでの適用
(1) 概要
本トンネルでは,偏圧地形で強度が低く,土被りの小さい沢部といった厳しい施工条件 の下で,斜面安定対策を兼ねた切羽安定対策として採用した垂直縫地工法に関して,施工 時の現場計測の分析ならびに計測値に基づき実施した逆解析により地山の挙動および縫地 ボルトの補強メカニズムに関する分析を行った.また,補助工法としての垂直縫地工法の 選定過程および設計方針を示し,トンネル施工時に実施した現場計測と計測値に基づく逆 解析手法を用いた斜面安定管理を通して垂直縫地工法の補強効果に関して評価し,今後,
同様の施工条件における垂直縫地工法の検討及び設計に関する提案を行った.
(2) 適用トンネルの概要
垂直縫地を適用したトンネルは,東海北陸自動車道荘川工事においてNATMで施工され た山岳トンネル工事であり,起点側坑口部付近においては,図-3.5.1に示すとおり,偏圧 地形に斜面平行型でトンネルが位置し,その途中に最低土被りが 4.5mの沢部が位置する という厳しい施工条件下での施工であった.また,斜面の直下には民家や一般国道が近接 しており,トンネル施工時の対策工については,通常考えられるトンネル切羽の安定対策 の他に斜面安定対策を施す必要があった.
1) 地形条件
地形的には,いわゆる偏圧地形(斜面斜交型)であった.また,施工前の地表踏査の結 果,対策工を実施した沢部付近には,幾つかの小規模地すべり跡が観察されており,トン ネル施工時の上部斜面の安定性が懸念された.図-3.5.2に示すとおり,沢部の最も土被り の小さい部分はわずか4.5mであった.
2) 地質条件
地質状況としては,事前の調査ボーリング(STA.12+28)から,図-3.5.2に示すとおり,
岩質は石英閃緑岩,微文象花崗岩の強風化および弱風化したものであり,RQDは平均 12%程度で,コアの観察からは,粘土が多数狭在していることも観察された.また,沢部 では位置的にトンネル断面内に一部強風化層(土砂状)がかかるものと思われた.
(3) 補助工法の選定
前述の施工条件,すなわち偏圧地形,低土被り,地山劣化さらには,当該箇所が豪雪地 帯である事等をふまえた上で,対策工としての補助工法の検討を行った.
一次選定については,切羽安定対策として ・パイプルーフ
・注入式長尺フォアパイリング(AGF工法)
・ウレタン圧入式フォアポーリング(PU-IF工法) ・ウレタン注入地盤改良(岩盤固結工法)
・薬液注入工法 ・垂直縫地工法
を選定し,偏土圧,斜面安定対策として ・ウレタン注入地盤改良(岩盤固結工法)
・薬液注入工法
図-3.5.2 地形・地質図
・アンカー工法 ・抑止杭 ・垂直縫地工法
を選定した.
これらの各工法について,本トンネルにおいては,切羽安定と斜面安定の両面から有効 と考えられる工法を選定するという必要性から,①ウレタン注入地盤改良(岩盤固結工法)
②薬液注入工法③垂直縫地工法を二次選定し,これらの3工法に関して,表-3.5.1に示す とおり,施工条件にも配慮して対策効果の信頼性,施工性,経済性といった観点から比較 検討を行い,斜面安定にも効果があり切羽進行に影響を与えない垂直縫地工法が最適と考 え対策工として採用した.
(4) 垂直縫地工法の設計
垂直縫地工法の設計については,これまでの設計事例を調査したところ,確立された手 法はないものの,以下の方法で設計が行われている.
・過去の類似地山の実績による設計 ボルト径 φ25~32mm 削孔径 φ100~120mm
打設間隔 1.5m×1.5m~2.0m×2.0m ・すべり面に対して鉄筋をせん断杭として設計
・地山のせん断強度の改良効果をFEM解析により評価して設計
本トンネルにおいては,最も土被りの薄い沢部においてトンネル掘削時のすべりに対す 表-3.5.1 補助工法比較表
対策工 ①ウレタン注入工法(坑内)
(岩盤固結工法) ②薬液注入工法(坑内) ③垂直縫地ボルト工法(坑外)
概 要
図 坑内より天端付近にL=3m,4mの圧入ボ ルトを打設し,ウレタンを注入すること で,ウレタン改良体による地山固結改良 をする。
坑内より天端付近を中心にセメント系の 薬液を注入し,地山を固結改良する。
地表面ボーリングを行い,セメントミル クを注入した後,縫地ボルトD32(SD35)
を挿入することにより,地山の縫付け,
および吊下げ効果を発揮する。
信 頼 性
セメント系の注入材に比べて粒子が細か く流動性が高いため,注入の確実性は高 いが先行変位は止められない。
限定された範囲を確実に固結改良でき改 良ゾーンの強度,効果の確実性も高く実 績も多い。
破砕帯や漏水箇所では,注入の確実性に 懸念があり十分な改良効果が望めない。
均一な地山改良ができれば,切羽の自立 性の向上,クラウン部地山の崩落,崩壊 防止に効果がある。
すべり土塊を多くもの鉄筋で補強するも のであり,すべりの方向性に左右されず 効果がある。
薬剤による先行緩み防止効果もあり,切 羽安定にも有効である。
施 工 性
掘削サイクルに取り込める。
特別な機械を必要としない。
地表からの作業は可能であるが,削孔延 長が長くなる。坑内の施工の場合,掘削 サイクルには取り込めない。
施工ヤードが斜面となり,工事用進入道 路及び足場が必要となる。
経 済 性
注入範囲は薬液注入工法に比べて少なく て済むが,材料が高価で経済的には 不利。
注入範囲が広範囲となり注入量も多くな ることから経済性は劣る。
多くの杭を削孔,注入により施工する必 要があるが,他の2工法に比べて 安価。
工 期
掘削サイクルに取り込めるため,工期的 に若干の遅れが出る程度である。
注入作業に時間がかかり掘削サイクルに 取り込めない。
事前に施工できるため掘削サイクルには 影響を及ぼさない。
総合
評価 △ × ○
S.L.
CL 垂直縫地
切 羽 S.L.
CL 薬液注入
切 羽 ウレタン注入
120゜
CL
S.L. 羽
切
△ ○
○
△ △
○
× ○
×
× ○
△
る安定計算を行い,鉄筋のせん断抵抗力により必要鉄筋量を算定し,過去の施工事例も参 考にして下記に示す設計方針により仕様を決定した.
①ボルト径については,これまで最も実績の多い D32を採用し,必要ボルト本数は前述の とおり鉄筋のせん断抵抗力から決定し,トンネル横断方向1断面あたり12本とした.
②ボルトの配置に関しては,用地等の制約条件に配慮し,横断方向の配置は,トンネルセ ンターから極力分散させる目的でピッチを 2m 間隔とし,公団用地内の山側,川側へそ れぞれ 6本づつ配置した.なお,縦断方向に関しては,トンネル掘削ピッチを考慮して ピッチを縮め,1.5m間隔に配置した.
①削孔径については,経済性に配慮し,二重管式の最小径とされるφ90mmを採用した.
根入れ長については,想定すべり面から 2m 根入れするものとし,最深のものでS.L.ま でとした.なお,トンネル掘削断面内に関しては,施工においては核残しにより切羽の 安定を図ることを前提に,トンネル掘削断面内に2m根入れした.図-3.5.3に垂直縫地 工のボルト配置図を示した.
(5)挙動計測 1)計測項目
NATMにおいては地山自身を支保メンバーと考えているため,トンネル掘削時の地山挙 動を的確に把握する必要があり,その結果に基づいてリアルタイムに対応することが施工 時の安全性確保の面では重要となる.本トンネルの計測項目の選定にあたっては,トンネ ル掘削時の斜面の挙動および対策工としての縫地ボルトの効果を把握する目的から通常の A計測に加えて坑外計測項目として
・地中水平変位測定(多段式傾斜計)
・縫地ボルト軸力測定
縫地ボルト軸力計(D32)
(3ヵ所)
データロガー,ユニット,パソコン
4 0.5D⑤
θ=45°+φ/2=60°
地中水平変位測定 多段式傾斜計
(2ヵ所)
Vp=2.7~2.9
[email protected]=26.0
θ:主働崩壊角
22
11m 26 24
11m 8 10 12
⑥ 0.5 4.5 2.5 10.5
15.5 13.0 20θ 18 16 14
E
6 3.0
5.5 12 7.7 10
8 F
0.5 K L
⑫ 4.5 2 6.2
6 4 2.5 0 G H
I J ⑧⑦
⑨
⑩
⑪ 0.7~0.9
垂直縫地ボルト(D32) 1.5~1.7
CL [email protected]=22m
③ A
B C 0 2
②
①
④
(STA.12+20) 計 測 断 面
[email protected]=12.0
計測箱
:地中水平変位計設置位置
889.873 S.L.
:軸力計設置位置
図-3.5.3 垂直縫地ボルトおよび計測工配置図
といった項目を選定した.なお,通常斜面挙動計測として実施する地表面沈下計測に関し ては,施工時期が冬季にあたり積雪が多い(年平均 6m)という事情から実施できなかっ た.また,坑外計測システムについては,積雪が多く斜面勾配が急峻(約 40度)なことに 加え,トンネル掘削時にリアルタイムかつ連続的にデータを得る必要性から,パソコンを 用いてデータを自動的に蓄積する自動計測システムを採用した.
2) 計測結果の分析
本トンネルで実施した各計測項目の結果から得られた知見を以下に示す.
a)トンネル坑内計測(A計測)
図-3.5.4にA計測結果(内空変位,天端沈下)を示す.変位モードとしては,内空変位 に比べて天端沈下が卓越するという土被りの薄い部分でよく見られる変位の傾向を示した.
また,地形的な特徴を反映し,川側(E)が縮み山側(D)が伸びるという偏圧作用が 確認できた.
経時変化としては,天端沈下については,計測開始直後から下半通過後に至るまで大き く増大し,下半切羽通過後 49.2mmで収束した.上半水平変位(F)については,上半切 羽通過時は 2mm程度と小さな変位量であったが,下半切羽通過時にも変位が増大し,最
終的に 11.7mmで収束した.
b)縫地ボルト軸力測定
図-3.5.5 に示したとおり,山側(測線 C),天端(測線 F),川側(測線 J)の3箇所に おいて縫地ボルト軸力計を設置し,ボルトに発生する鉄筋応力測定を行った.以下にデー タ分析結果について述べる.
①トンネルセンター(測線 F)
測線Fに関しては地表面に近いF-0.5の位置では上半通過時に引張応力25MPaが働き,
その後,下半掘削時にはさほど影響もなく収束した.F-2.5 では上下半切羽通過直前に一 旦急激に圧縮力が働き,切羽到達と同時に引張側へ移行し,その後,圧縮応力が増大した.
これらの挙動については,切羽に近いF-2.5 において垂直縫地工法の特長といわれる下 支え効果(吊下げ効果)が発揮されていたと考えられる.
D E F 天端沈下
STA.12 + 23.0
D
I
(山側)
I E F
(川側)
F
天端沈下 E
I D
49.2 15.8 -1.1
11.7 7.2 -20
-10 0 10 20 30 40 50 60
3月1日 3月21日 4月10日 4月30日 5月20日 6月9日
変位量(mm)
図-3.5.4 A計測経時変化図