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第 5 章 考察

5.1.2 相手の「躊躇」の受け止め方と相手への働きかけ方の違い

筆者は鄭(2010)において、日韓両母語話者には相手の「躊躇」の受け止め方に 隔たりがあることを明らかにした。鄭(2010)は、本調査と同じ場面を被験者に提 示し、勧誘に対する相手の躊躇する返答をどのように受け止めるかについて質問紙 調査を行ったものである。日本語母語話者の場合は6つの場面中、5つの場面にお いて相手の「躊躇」の返事を「断り」として受け止める回答率が最も高く、残りの

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1つの場面(場面5)では「(承諾、断り)半々」として受け止める回答率が最も高 かった。一方、韓国語母語話者の場合は6つの場面中、4つの場面において、相手 の「躊躇」を「(承諾、断り)半々」として受け止める回答率が最も高く、2つの場

面(場面1、4)だけ「断り」として受け止める回答率が最も高いことが分かった。

さらに、韓国語母語話者では3つの場面(場面3:13.3%、場面5:26.7%、場面6:

3.3%)において、相手の「躊躇」の返事を「承諾」として受け止める回答もみられ た。それに対して、日本語母語話者では一つの場面にだけ(場面5:6.7%)、「承諾」

として受け止める回答がみられた。その結果を鄭(2010)から引用して、図4~9 に示す。

図4 場面1「躊躇の受け止め方」 図5 場面2「躊躇の受け止め方」

(目下、負荷小) (目下、負荷大)

図6 場面3「躊躇の受け止め方」 図7 場面4「躊躇の受け止め方」

(目上、負荷小) (目上、負荷大)

0 0

43.3 23.3

56.7 76.7

0% 50% 100%

韓国人 日本人

承諾 半々 断り

0 0

53.3 40

46.7 60

0% 50% 100%

韓国人 日本人

承諾 半々 断り

13.3 0

66.7 43.3

20 56.7

0% 50% 100%

韓国人 日本人

承諾 半々 断り

0 0

43.3 23.3

56.7 76.7

0% 50% 100%

韓国人 日本人

承諾 半々 断り

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図8 場面5「躊躇の受け止め方」 図9 場面6「躊躇の受け止め方」

(同等、負荷小) (同等、負荷大)

図4~9にみられるように、相手との上下関係と相手への負荷の度合いにより、「躊 躇」の受け止め方が変わってくることが明らかになった。

まず、目下の相手の「躊躇」に対しては、相手への負荷が相対的に大きい勧誘に なれば、日本語母語話者、韓国語母語話者ともに「(承諾、断り)半々」として受け 止める傾向が強くなり、「断り」として受け止める傾向は弱くなっている。一方、目 上の相手の「躊躇」に対しては、日本語母語話者の場合は相手への負荷が相対的に 大きい勧誘になれば、「断り」として受け止める傾向が強くなり、韓国語母語話者の 場合も「断り」として受け止める傾向が強くなっている。しかし、韓国語母語話者 には「(承諾、断り)半々」として受け止めるという回答も 4 割以上みられ、日本 語母語話者とは異なる傾向である。そして、同等の相手の「躊躇」に対しては、相 手への負荷が相対的に大きい勧誘になれば、日本語母語話者の場合は「断り」とし て受け止める傾向が強くなっている。韓国語母語話者も日本語母語話者と同様、「断 り」として受け止める回答率は高くなっているものの、「(承諾、断り)半々」とし て受け止めるという回答が負荷の度合いにかかわらず、6割以上となっている。

つまり、日本語母語話者は韓国語母語話者に比べて、全体的に「躊躇」を「断り」

として受け止める傾向が相当の差で上回っており、それに対して、韓国語母語話者 は日本語母語話者に比べて全体的に「(承諾、断り)半々」として受け止める傾向が

26.7 6.7

66.7 60

6.7 33.3

0% 50% 100%

韓国人 日本人

承諾 半々 断り

3.3 0

63.3 43.3

33.3 56.7

0% 50% 100%

韓国人 日本人

承諾 半々 断り

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強く、その割合は場面によって約4~7割程度にも及ぶ。特に、韓国語母語話者で は場面3、5において、「承諾」として受け止める回答が約1~3割程度みられ、日 本語母語話者とは異なる傾向を示している。こういった傾向の存在は、統計的分析 によって裏付けられていないので、断定的はできないが、両者の間には相手の「躊 躇」の受け止め方に違いがある可能性があり、その意識の相違は両者の再勧誘の仕 方や言語表現の差異に起因すると考えられる。