• 検索結果がありません。

第 5 章 考察

5.1.1 発話内容にみられる言語表現の相違

101

102

(1)躊躇する理由や都合を尋ねる発話にみられる日韓差

第4章の表11と表12に示されているように、韓国語母語話者は他の被験者グル ープに比べて「都合・理由の尋ね」の使用頻度が若干高く、残差分析の結果も正の 数値を示しており、他のグループより大きいことが分かった。また、このような数 値上の差だけでなく、その言語表現にも違いがみられた。

表11 主勧誘部分の意味公式とその全体的使用頻度

主勧誘部分 JJ KK KJSL 意味公式 %(使用回数) %(使用回数) %(使用回数)

1. 都合・理由の尋ね 21.4(49) 23.2(63) 18.6(52)

2. 代案・解決策の提示 12.2(28) 9.2(25) 11.1(31) 3. 誘導発話 11.4(26) 18.0(49) 15.4(43)

4. 共同行為要求 19.7(45) 33.8(92) 27.1(76)

5. 勧誘の諦め 14.4(33) 7.0(19) 13.9(39)

6. 次回への勧誘 21.0(48) 8.8(24) 13.9(39) 合計 %(使用回数) 100(229) 100(272) 100(280)

表12 調整済み残差(主勧誘部分)

意味公式

都合・理由 代案・解決策 誘導 共同行為要求 諦め 次回 被験者 JJ

KK KJSL

.2 .9 -1.9 -3.1 1.5 3.5

1.1 -1.0 1.7 3.0 -3.0 -3.2

-1.2 .2 .1 -.1 1.5 -.2

鄭(2011:76)でも述べたように、韓国語母語話者には相手の躊躇する理由や都 合について立て続けに質問をする発話が比較的多くみられた。韓国語母語話者のこ のような言語表現は、任・井出(2004)の研究でも指摘されているように、韓国人

103

には質問を通して積極的に相手との話を押し進める傾向があることを示すものと言 える。このような発話は、相手への興味や関心をはっきりと示すことにつながり、

韓国人はそれが相手に対する配慮であり、相手のことを思っていることの表れであ ると捉えている。それに該当する発話例が次の(1)~(3)である。なお、【KK12】

などは発話者を示している。

(1)왜 그러는데? 약속 있었나? 벌써 저녁 먹은거가? 【KK12】

(どうしたの?約束あった?もう夕飯食べたの?)

(2)왜? 집에 일찍 가야해? 시간 안돼? 【KK13】

(なんで?家に早く帰らなければならないの?都合悪い?)

(3)혹시 선약 있으세요? 아님 분위기가 불편하세요? 【KK18】

(もしかして、先約あるんですか?それとも、雰囲気が気まずいですか?)

また、下記の例(4)、(5)のように、相手の都合を尋ねた後にさらに誘い続ける 傾向が韓国語母語話者の特徴としてみられた。

(4)왜 시간이 안 되세요? 그래도 저흰 교수님이랑 같이 가고 싶어요. 시간 좀 내주시면 안 될까요? 【KK26】

(ご都合が悪いですか?でも、私たちは先生と一緒に行きたいです。時間をちょ っと割いていただけないでしょうか。)

(5)알바 있어서 시간 내기 힘들어? 그래도 다같이 가는건데…. 같이 가자.

【KK23】

(アルバイトがあるから、時間作れない?でも、みんなで行くことだから…。一 緒に行こう。)

104

次に、日本語母語話者に多くみられた発話例を(6)~(11)に挙げる。

(6)忙しい?都合がよければの話だけど。【JJ14】

(7)どうしても無理?無理なら仕方ないけど…。【JJ20】

(8)ご無理でなければ、ぜひ参加して頂けないでしょうか。【JJ29】

(9)お忙しいですか?ご都合が悪いようでしたら、大丈夫です。【JJ8】

(10)バイト忙しいよね?無理言って悪かった。【JJ21】

(11)お忙しいですか?お忙しいところ、ご無理を言ってすみません。【JJ12】

以上の例(6)~(9)にみられるように、日本語母語話者は「都合がよければ」、

「無理なら仕方ないけど」、「ご無理でなければ」、「ご都合が悪いようでしたら」な どの相手の負担を軽減させる表現を用いて、無理に押し付けないように配慮した間 接的な誘い方をする傾向が強いことが分かった。また、発話例(10)と(11)にみ られるように、突然誘ったことで相手に負担をかけてしまったと思い、それに対し て謝る発話も韓国語母語話者に比べて多くみられた。さらに、相手の都合を尋ねる 発話の後で勧誘をやめる傾向がみられ、この点も韓国語母語話者とは異なる結果で あった。

(2)誘い続ける発話にみられる日韓差

第4章の表11と表12に示されているように、日本語母語話者は他の被験者グル ープに比べて「代案・解決策の提示」の使用頻度が若干高い。また、残差分析の結 果、「代案・解決策の提示」の使用がH0における推定値より有意に多いとは言えな

105

いものの、正の数値を示しており、他のグループより大きい。ここでは、数値上の 結果を踏まえて、両母語話者の発話にみられた対照的な言語表現を取り上げて比較 する。

表11 主勧誘部分の意味公式とその全体的使用頻度

主勧誘部分 JJ KK KJSL 意味公式 %(使用回数) %(使用回数) %(使用回数)

1. 都合・理由の尋ね 21.4(49) 23.2(63) 18.6(52)

2. 代案・解決策の提示 12.2(28) 9.2(25) 11.1(31)

3. 誘導発話 11.4(26) 18.0(49) 15.4(43)

4. 共同行為要求 19.7(45) 33.8(92) 27.1(76)

5. 勧誘の諦め 14.4(33) 7.0(19) 13.9(39)

6. 次回への勧誘 21.0(48) 8.8(24) 13.9(39)

合計 %(使用回数) 100(229) 100(272) 100(280)

表12 調整済み残差(主勧誘部分)

意味公式

都合・理由 代案・解決策 誘導 共同行為要求 諦め 次回 被験者 JJ

KK KJSL

.2 .9 -1.9 -3.1 1.5 3.5

1.1 -1.0 1.7 3.0 -3.0 -3.2

-1.2 .2 .1 -.1 1.5 -.2

発話例(12)、(13)は日本語母語話者の例で、調査1の教え子に部活の入部を勧 誘する場面2でみられた回答である。場面2における日本語母語話者の「代案・解 決策の提示」にみられた発話のほとんどには、例(12)、(13)のように、負担を軽 減する「一回見学に」や「体験に」のような表現が含まれており、被勧誘者に対す る配慮が窺える。一方、韓国語母語話者においては、このような表現は1例もみら

106 れなかった。

(12)一回見学に来たら?【JJ19】

(13)是非一度、体験に来て。【JJ27】

他方、友達をサークル旅行に誘う場面6において、発話例(14)~(16)のよう に日韓の両母語話者に共通して、スケジュールの調整など代案を提示して誘い続け る傾向がみられた。

(14)バイトの日にちをずらしたりできない?【JJ5】

(15)알바 변경 안돼? 아님 하루 정도도 못셔? 【KK19】

(アルバイトの変更はできない?それとも、一日も休めない?)

(16)전일정이 무리면 하루라도 괜찮으니까 와. 아니면 늦게라도 괜찮으니까 와라. 【KK20】

(全日程が無理なら、一日だけでもいいから来てね。それとも、遅れてでもいいか ら来てね。)

しかし、韓国語母語話者には下記の例(17)、(18)のようにアルバイトの代わり を探すといった相手の領域に立ち入った発話が多数みられたのに対して、日本語母 語話者にはこのような発話は1例もみられなかった。

(17)무슨 과목 가르친다고 했지? 영어? 내 친구중에 영어 잘하는 애 있는데, 걔한테 너 대신 며칠 알바 뛸 수 있는지 물어볼게. 【KK16】

(何の科目を教えているんだっけ?英語?私の友達の中に英語が上手な子がいるん

107

だけど、その子に君の代わりに何日間かアルバイトができるかどうか聞いてみる わ。)

(18)과외 알바하는 친구 많은데, 함 찾아볼까? 아마 너보다 더 잘 가르치지 싶다. ㅋㅋ. 【KK17】

(家庭教師のアルバイトをしている友達が多いんだけど、一度探してみようか?多 分、君より教え上手だと思う。(笑))

尾崎(2008)9でも指摘されているように、日本語母語話者と韓国語母語話者の 間にはテリトリー意識や働きかけ方に違いがあることが窺える。(17)や(18)の ような発話は、韓国人同士の会話であれば全く問題にならないが、会話の相手が文 化の異なる人となれば、不快感や違和感を与えてしまいかねない。

次に、「誘導発話」において、両母語話者の違いがみられた。第4章の表19と表 21に示されているように、調査1の場面2、4における「誘導発話」の使用回数は 韓国語母語話者の方が日本語母語話者より多くみられた。

9 尾崎(2008:57)は、日本では相手が親しい間柄でも了解なしに自分の領域を侵害されることに対し否定 的だが、韓国では親しい間柄なら了解なしでも許容する傾向があると指摘している。

108

表19 JJの各場面における主勧誘部分の意味公式の使用頻度

主勧誘部分 場面1 場面2 場面3 場面4 場面5 場面6 意味公式 %

(使用回数)

(使用回数)

(使用回数)

(使用回数)

(使用回数)

(使用回数)

都合・理由の尋ね 16.7(5) 0.0(0) 30.9(13) 20.5(8) 38.5(15) 18.6(8)

代案・解決策の提示 0.0(0) 27.8(10) 4.8(2) 20.5(8) 0.0(0) 18.6(8)

誘導発話 0.0(0) 19.4(7) 14.3(6) 15.4(6) 0.0(0) 16.3(7) 共同行為要求 16.7(5) 22.2(8) 23.8(10) 18.0(7) 23.1(9) 13.9(6)

勧誘の諦め 13.3(4) 30.6(11) 4.8(2) 12.8(5) 10.2(4) 16.3(7)

次回への勧誘 53.3(16) 0.0(0) 21.4(9) 12.8(5) 28.2(11) 16.3(7) 合計 %(使用回数) 100(30) 100(36) 100(42) 100(39) 100(39) 100(43)

表21 KKの各場面における主勧誘部分の意味公式の使用頻度

主勧誘部分 場面1 場面2 場面3 場面4 場面5 場面6 意味公式 %

(使用回数)

(使用回数)

(使用回数)

(使用回数)

(使用回数)

(使用回数)

都合・理由の尋ね 38.3(18) 18.1(8) 27.1(13) 8.1(4) 40.9(18) 5.0(2)

代案・解決策の提示 0.0(0) 6.8(3) 0.0(0) 18.4(9) 0.0(0) 32.5(13)

誘導発話 10.6(5) 36.4(16) 16.7(8) 24.5(12) 0.0(0) 20.0(8) 共同行為発話 25.5(12) 25.0(11) 43.8(21) 40.8(20) 38.6(17) 27.5(11)

勧誘の諦め 4.3(2) 11.4(5) 6.2(3) 4.1(2) 6.8(3) 10.0(4)

次回への勧誘 21.3(10) 2.3(1) 6.2(3) 4.1(2) 13.7(6) 5.0(2)

合計 %(使用回数) 100(47) 100(44) 100(48) 100(49) 100(44) 100(40)

表19、表21に示されているように、「誘導発話」において、発話例(19)~(21)

(場面 2 の発話例)のように相手の才能や実力を褒める発話や、例(22)~(25)

109

(場面 4、6 の発話例)のように相手の不可欠性に言及し、相手の“他者によく思 われたい”というポジティブ・フェイスを高める発話が日韓母語話者に共通してみ られた。このように、相手が勧誘に乗ってくるように誘導し働きかける表現は両者 にみられたが、日本語母語話者はその発話数が韓国語母語話者に比べて少ない。

(19)君なら、絶対にいい成績を残せるよ。【JJ28】

(20)体格もいいし、バレーのほうが向いてるよ。【JJ22】

(21)저번에 보니, 넌 배구에 더 재능이 있는 거 같아. 【KK4】

(この間見たら、君はバレーボールにもっと才能があると思う。)

(22)先生、主役がいないと盛り上がらないです!ぜひ、お願いします。【JJ9】

(23)너 없으면 재미없어. 가자가자. 【KK24】

(君がいないと楽しくないよ。行こう行こう。)

(24)야, 너 때문에 나도 가는건데, 니가 안 오면 어떡하노? 【KK7】

(おい、君のために私も行くのに、君が来なくてどうするの?)

(25)교수님하고 같이 가고 싶어서 기획한건데, 교수님이 안 계시면 아무 의미가 없어요. 【KK6】

(先生と一緒に行きたくて企画したのに、先生がいらっしゃらないと何の意味もあ りません。)

さらに、韓国語母語話者には相手の不可欠性に言及する発話に加えて、友達を誘 う場面 5、6においては以下に挙げる発話例(26)~(28)のように、友達に対し