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第 3 章 研究方法

3.2 調査の概要

3.2.2 データの収集方法

(1)談話完成テスト(Discourse Completion Test:DCT)

DCT は統制されたコンテクストにおいて大量の発話データを短時間で集めるこ

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とができるという利点があり、これまでの中間言語語用論の研究で一般的に最も多 く使われているデータ収集の手段である(Beebe and Takahashi,1989b)。また、特 定の状況において、参加者に架空の人物がどのように行動するかを想像させ、参加 者自身がどのように行動するかを考えさせるという点においてはロールプレイと同 じ役割分担をさせることができる。調査目的が、コミュニケーション活動が行われ る際のストラテジーのタイプについて情報を得ることであるなら、DCT調査がデー タ収集の効果的な方法となる。

なお、DCT調査の後にフォローアップ・インタビューを実施して、被験者がどの ような意識の下で回答をしているのかを追究する。学習者について日本語母語話者 と異なる回答が得られた場合、それが母語からの影響によるものか、言語運用能力 の不足によるものかを明らかにし、韓国人の価値観や意識が回答に反映されている かなどを検証するためにフォローアップ・インタビューを実施した。

ファン(2002:88)は、フォローアップ・インタビューを次のように定義してい る。

「フォローアップ・インタビューは、調査対象者の実際の行動に伴う認知プロセ スを意識化し、言語化するための方法論である。フォローアップ・インタビューは 録音や録画に反映されない対象者の調査時の意識や考えを明らかにしようとする目 的で行われ、調査データを質的に補足する。フォローアップ・インタビューは調査 後にしばしば行われる対象者の感想や意見の採取や調査内容の確認のためのインタ ーアクションとは異なり、体系的な手続きである。」

フォローアップ・インタビューの利点や必要性、フォローアップ・インタビュー の際の注意点について言及している研究にはEricsson & Simon(1993)、ネウスト プニー(1994)、ファン(2002)、村岡(2004)などがあり、以下に挙げる。

Ericsson & Simon(1993)は、被調査者は実際には多くのストラテジーを使用し

ていたり、ストラテジーを変更したりしているので、一貫した情報が得られる可能

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性は低いと述べている。よって、何らかのタスクが終わった直後に被調査者に対し て思考の言語化を求める発話思考法(think aloud)が、短期記憶にアクセスする最 も有効な方法であり、この方法によって内省法の妥当性の低下を防止することがで きるとしている。

ネウストプニー(1994:12)は、「私たちが行動している間、自分の行動をモニ ターしたり評価したりしており、また評価の結果、適切でない箇所があるとすれば、

その訂正の適否を考察したのち、訂正を実行することもある」と述べている。ただ し、これらのプロセスがほとんど行動の表面に出ないので、録音や録画には記録さ れないため、詳細な記録を得る為にフォローアップ・インタビューという研究方法 が使えると指摘している。

ファン(2002:92)は、フォローアップ・インタビューは対象者の内省における 言葉の記録を採集する方法であるため、対象者の表現しやすい言語で行うのが基本 的な要件であると説明している。なお、フォローアップ・インタビューの質問を準 備するとき、特に注意しなければならないのは次の5点であると述べている。

(1)研究者の意識または解釈を加えないこと。たとえば、「ここは(研究者の解釈)

のつもりで言いましたか」などの質問は最初の質問としては避けるべきである。

(2)内容確認だけで終わらないこと。フォローアップ・インタビューの目的は表 面化された行動の追認だけではないことを常に意識し、行動を支配する対象者の意 識(意識の有無、行動の計画、行動への評価、行動の選択、感情など)や、表面化 されなかった行動(回避など)について積極的に質問すべきである。

(3)フォローアップ・インタビュー時点での一般的な印象や意見に関する質問が 中心にならないようにすること。フォローアップ・インタビューの開始と終了の際 には比較のため、本調査後の意識を確認してもよいが、長い時間をかけないように 気をつける。

(4)柔軟性を持つこと。表現力、認知力の異なる様々な対象者がいるので、彼ら

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の気持ちを無視して、機械的に予定の質問を全部こなしても、よいデータを収集す ることはできない。

(5)できる限り、やさしいことばを使う。たとえば、「どう感じたか」、「何と思っ たか」、など。

村岡(2004:225)は、ファン(2002)の項目に加えて、インタビューに際して は以下のような点にも留意する必要があるとしている。

(1)インタビュアーは対象者が長期記憶からの取り出しに集中することをスキー マとして伝えるような質問の仕方を工夫する必要がある。

(2)長期記憶に痕跡がない場合には、推測・生成によって応答する傾向が強い。

(3)インタビュアーが不用意に示す解釈フレームは対象者の応答に作用せざるを えないため、できるかぎり、避けることが望ましい。

(4)報告不可能な行動についての解釈は、会話時の言語管理データとしてではな く、会話の相互作用を理解するための解釈データとして有効である。

以上の先行研究の提案に基づき、以下の調査手順を策定した。

(2)勧誘者と被勧誘者の意識に関する調査

(ⅰ)勧誘者の相手への配慮行動に関する質問紙調査(調査1)

調査1においては、次の二つの設問を設ける。

・ 設問① 勧誘を相手(誘われる側)に躊躇されたら、その後どのように言うか。

・ 設問② なぜそのように(設問①の回答のように)言うか。

この調査は、勧誘者が勧誘を行う際にどのような点に気を配っているか、どうし てそのように気を配る必要があるか、各被験者間に配慮意識の違いがあるかを調べ るためのものである。勧誘行為は誘われる側の置かれている状況次第では、何らか の負担がかかり、勧誘に応じるために犠牲を余儀なくされることもあり得る。特に、

一度相手に躊躇された勧誘者は、誘い続ける際に相手の不都合を感じ取り、何らか

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の配慮を示してから誘い続けることが考えられる。本調査では、その配慮意識や配 慮が現れると思われる言語表現に注目して考察していく。分析においては、被験者 からの回答で得られた発話を分類し、配慮行動のカテゴリーを決定する。

(ⅱ)被勧誘者(勧誘される側)の意識調査(調査2)

調査2においては、 被験者に誘われる立場になってもらい、次の二つの設問を 提示する。

・ 設問① 勧誘者の勧誘に躊躇したらそれ以上に誘ってこない場合、どのように 感じるか。

・ 設問② 勧誘者の勧誘に躊躇したら2回も3回もしつこく誘ってくる場合、ど のように感じるか。

この調査を通して、日本語母語話者が韓国語流5に勧誘された場合にどのように感 じるか、また、韓国語母語話者が日本語流6に勧誘された場合にどのように感じるか を調べる。なお、日本で生活している韓国人日本語学習者はそれぞれの誘い方をど のように感じ、韓国語母語話者との間に隔たりはみられるのかを検証する。それに よって、両母語話者の一般的で典型的であると言われる誘い方で誘われた場合、お 互いの母語話者はどのように感じ、受け止めるのかについて考察したい。

本研究では自由記述による質問紙調査の方法でデータを収集する。評価尺度法

(rating scale)という調査方法もあるが、その方法の場合、被験者が深く考えず適 当に回答することも考えられるため、より深く被験者の意識を掘り下げるために自 由記述の方法を採用する。具体的には、調査1の設問①については談話完成テスト を行い、調査1の設問②及び調査2の設問①、②については意識調査を行うことに する。

5 鄭(2006)のKKにより多くみられた典型的な誘い方である。

6 鄭(2006)のJJにより多くみられた典型的な誘い方である。

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