第 5 章 ナセル風速に基づく発電機トルク下限値制御の提案
5.5 シミュレーション結果
5.5.2 発電運転時の時間応答
図5-6および図5-7に,平均風速が10m/sおよび初期ヨーエラーが0degでの発電運転時のシ ミュレーション結果を示す.図5-6は時系列データであり,横軸は時刻,縦軸は図上方よりハブ 高風速,ロータ(発電機)回転角速度,発電電力,ブレードピッチ角度(3本の平均値),およ
図5-5. 環境省実証にて建設された2MW浮体式洋上風力発電システムの概観
表5-2. 浮体式洋上風力発システムの仕様
定格出力 [kW] 2000
ロータ位置 ダウンウィンド
ロータ直径 [m] 80
浮体構造物 ハイブリッドスパー型
係留 カテナリー,3本
ハブ高さ [m] 55.88
定格風速 [m/s] 12
Modal inertia 30062 kN m s2/rad
Modal damping coefficient 74 kN m s/rad Modal stiffness coefficient 1805 kN m/rad
びナセルピッチ角度(浮体ピッチ角度),を示す.図5-7は図6のシミュレーション結果の周波 数特性であり,横軸が周波数,縦軸は図5-6と同様の項目のパワースペクトル密度(Power Spectral density,PSD)を同様の順序でプロットしたものである.なお,図中において黒色点線が提案手 法未適用時(従来)のシミュレーション結果を示し,青色実線が提案手法のシミュレーション結 果を示す.以下では,提案手法未適用時を従来手法と定義する.
まず,図5-6のロータ(発電機)回転角速度に注目すると,従来手法では時刻220s頃から時 刻400s頃までブレードピッチ角度,ナセルピッチ角度,および発電電力の変動が継続している.
上述の通り,これは制御干渉またはロータに流入する風速の変動が要因であると推測する.これ に対し,提案手法の結果に注目すると,上述の変動が低減していることが確認できる.これは提 案手法によってロータ(発電機)回転角速度の変動を発電機トルク下限値の調整で吸収したため と考える.ブレードピッチ角度に注目すると,従来手法ではファイン角度(ブレード効率が高い ブレードピッチ角度)からフェザー方向(ブレード効率が低いブレードピッチ角度の操作方向)
の範囲へ大きく変化しているのに対し,提案手法適用時にはブレードピッチ角度の動作範囲が低 減している.これは,提案手法により,ロータ(発電機)回転角速度の変動を抑制できたことで,
VSC によるブレードピッチ角度の調整指令の頻度が減少したためと考える.ナセルピッチ角度 に注目すると,提案手法はナセルピッチ角度の動揺を抑制できているが,これはロータ(発電機)
回転角速度の変動を抑制することで,結果としてスラスト力の変動を抑制できたためと考える.
次に,図5-7に示す周波数特性に注目すると,ロータ(発電機)回転角速度,発電電力,ブレ ードピッチ角度,およびナセルピッチ角度において,従来手法では周波数が0.05Hzを中心とし た帯域のPSDが高いことがわかる.対する提案手法では,その帯域でのPSDが減少しているこ とが確認できる.図5-5に示す浮体式洋上風力発電システムの浮体前後動揺(ナセルピッチ角度 の振動)の固有周波数は0.035Hz近傍であることを確認しているため,上記0.05Hz近傍の成分 は浮体前後動揺ではなく,上述の制御干渉によって発生したと推測する.提案手法の適用により,
表5-3. シミュレーション条件:
発電運転時の時間応答確認用
表5-4. シミュレーション条件:
運転特性確認用
平均風速 [m/s] 10, 12
乱流強度 [-] 0.12 (IEC Class C) 初期ヨーエラー [deg] 0
波タイプ 標準波
流れ [m/s] 0
シミュレーション期間 [s] 600 式(5-17)の 低 風 速 側 座 標
(𝑣𝑣2, 𝑞𝑞2) [m/s, kNm] �10, 𝐾𝐾𝑜𝑜𝑟𝑟𝑡𝑡𝜔𝜔𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡2� 式(5-17)の 高 風 速 側 座 標
(𝑣𝑣3, 𝑞𝑞3) [m/s, kNm] (13, 𝑄𝑄𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡)
時定数 𝑇𝑇𝐹𝐹 [s] 0.5
平均風速 [m/s] 6–24 m/s
乱流強度 [-] 0.12 (IEC Class C) 初期ヨーエラー [deg] –8, 0, 8
波タイプ 標準波
流れ [m/s] 0
シミュレーション期間 [s] 600 式(5-17)の低風速側座標
(𝑣𝑣2, 𝑞𝑞2) [m/s, kNm] �10, 𝐾𝐾𝑜𝑜𝑟𝑟𝑡𝑡𝜔𝜔𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡2� 式(5-17)の高風速側座標
(𝑣𝑣3, 𝑞𝑞3) [m/s, kNm] (13, 𝑄𝑄𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡)
時定数 𝑇𝑇𝐹𝐹 [s] 0.5
ブレードピッチ角度の制御干渉が軽減されることでロータ回転角速度の変動が低減し,結果とし て制御対象である浮体式洋上風力発電システムの応答を安定化できたと考える.
また,図5-8および図5-9に,平均風速が12m/sおよび初期ヨーエラーが-8degでの発電運転 時のシミュレーションの時間応答と周波数特性を示す.図5-8および図5-9のフォーマットはそ れぞれ図5-6および図5-7と同様であるため,説明を省略する.
図 5-8 に示すロータ(発電機)回転角速度に注目すると,提案手法の適用により,特に時刻 200sから時刻400sにおいてロータ回転角速度の変動を低減できていることが確認できる.また,
ブレードピッチ角度に注目すると,提案手法はブレードピッチ角度の頻繁な変化を抑制できてい る.ナセルピッチ角度においては,提案手法は従来手法と同様にナセルピッチ角度を安定化でき ており,時刻250sから時刻400sでの周期的な変動も抑制できている.
さらに,図5-9の周波数特性に注目すると,ロータ(発電機)回転角速度,発電電力,ブレー
図5-6. シミュレーション結果:平均風速10m/sでの時間応答
6 10 14
Wind speed [m/s]
15 16 17 18
Rotor speed [min-1]
0.5 1.5 2.5
Electrical power [MW]
Fine Feather
Blade mean pitch angle [deg]
0 100 200 300 400 500 600
3 5 7
Nacelle pitchangle [deg]
Time [s]
Without proposed method With proposed
ドピッチ角度,およびナセルピッチ角度において,従来手法の結果に見られる0.04Hz近傍の帯 域で成分を,提案手法の適用で低減できたことが確認できる.これは図5-7の結果と同様に,ナ セルピッチ角度の固有周波数0.026Hzとは異なるため,ブレードピッチ角度の制御干渉によって 発生したものと推測でき,提案手法によってこの干渉を抑制できていることを示すと考える.
以上の結果より,提案手法はロータ(発電機)回転角速度の変動を抑制することで,ブレード ピッチ角度の変化を減少させるとともに,発電電力およびナセルピッチ角度を安定化できること を確認した.