第 6 章 浮体前後動揺と発電電力低下を抑制する独立ピッチ角度制御の提案
6.5 実機試験結果
式(6-6)を用いて,FVC が決定するブレードピッチ角度指令値に対して,提案制御のブレード ピッチ角度指令値の方向を決定する.また,式(6-7)を用いて,アジマス角度において,提案制御 のブレードピッチ角度の振幅をアジマス角度に基づいて変化させる.さらに,式(6-8)を用いて,
提案制御によるブレードピッチ角度指令値を制限する.
図6-9. 環境省実証にて建設された2MW浮体式洋上風力発電システムの概観
表6-1. 浮体式洋上風力発システムの仕様
定格出力 [kW] 2000
ロータ位置 ダウンウィンド
ロータ直径 [m] 80
浮体構造物 ハイブリッドスパー型
係留 カテナリー,3本
ハブ高さ [m] 55.88
定格風速 [m/s] 12
Modal inertia 30062 kN m s2/rad
Modal damping coefficient 74 kN m s/rad Modal stiffness coefficient 1805 kN m/rad
表6-2. 試験に用いたパラメータ
パラメータ名称 値 単位
𝑎𝑎𝐺𝐺𝑎𝑎𝑒𝑒 -0.24 deg*min
𝑏𝑏𝐺𝐺𝑎𝑎𝑒𝑒 544 deg
𝑘𝑘𝐼𝐼𝑃𝑃𝐶𝐶 0.5
𝜌𝜌𝐼𝐼𝑃𝑃𝐶𝐶𝑂𝑂𝑀𝑀𝑑𝑑𝑀𝑀𝑡𝑡 2 deg
有効化した結果である.図6-10の下側に注目すると,時刻5.8s近傍よりブレードピッチ角度が 番号毎に周期的に変化していることから,ブレードピッチ角度が独立に制御されていることが確 認できる.また,ブレード#1 に関して図上方のアジマス角度と図下方のブレードピッチ角度を 比較すると,ブレードが最下点位置となるアジマス角度180deg近傍と,最高点位置となるアジ
マス角度 360deg(0deg)近傍でブレードピッチ角度の振幅がピークを取ることが確認できる.
この結果は,図6-4(a)(b)に示したようなブレードピッチ角度の独立した調整が実現できているこ とを示す.
6.5.3 ナセルピッチ角度の時間応答と運転特性
図6-11に,提案制御を適用した場合のナセルピッチ角度に関する試験結果を示す.図6-11の 横軸はナセル風速,縦軸は提案制御未適用時を基準とした,提案制御適用時のナセルピッチ角度 の変化率を示す.本結果は,1sにて計測した値の10分間の平均値を利用しており,ナセル風速 が1m/sの幅毎に平均値を算出し,提案制御未適用時と適用時の変化率を演算することで作成し た.なお,縦軸のナセルピッチ角度の符号は,正側が,ナセルピッチ角度が風下側に変化する場 合(ロータが後方に変化する場合)を示す.
図6-11より,ナセル風速が6m/sから13m/sの範囲でナセルピッチ角度の変化率が上昇してい ることが確認できる.これはこのナセル風速範囲において,ロータに加わるスラスト力が増加し たことを示す.この理由は,提案制御を適用することによって,ブレードピッチ角度がVSCの 指令値の方向,すなわちスラスト力が大きくなる方向,に近づいたためと推測する.
図6-12に,提案制御適用時の時系列データの一例を示す.図6-12の横軸は時刻,縦軸は図上 方よりナセル風速,発電機回転角速度,発電電力,ブレード#1 のブレードピッチ角度,および ナセルピッチ角度を示す.なお,図6-12における平均ナセル風速は12.33m/sであり,定格風速
12m/sを含み,提案制御の動作範囲である16m/s未満の条件である.
図6-12の発電機回転角速度に注目すると,ほぼ全期間において定格である2098[min-1]近傍を 推移していることが確認できる.また,発電電力に注目すると,定格電力2MWを最大値として 推移しており,定格未満と定格条件を行き来する試験条件であることが確認できる.これまでの 検討の結果,FVC が適切に調整されていない場合には,浮体前後動揺(ナセルピッチ角度の低 周波数での振動)が励起される.また,FVCが適切に調整されていたとしても,提案制御がFVC
図6-10. 試験結果1:ブレードピッチ角度動作の変化
0 100 200 300 400
0 2 4 6 8 10 12
Fine Feather
Azimuth angle [deg]Bladed pitch angle [deg]
Time [s]
Blade #3 Blade #1
Blade #2 For blade #1
IPC ON
図6-11. 試験結果2:提案制御によるナセルピッチ角度の変化
図6-12. 試験結果3:提案制御適用時の時系列データの一例
(平均ナセル風速12.33m/s)
Nacelle wind speed [m/s]
Increasing rateof nacelle pitch angle [%]
2 4 6 8 10 12 14 16
-1 0 1 2 3 4 5
0 10 20
Wind speed [m/s]
1000 1500 2000 2500
Generatorspeed [min-1]
0 1 2
Electrical power [MW]
Fine Feather
Blade #1 pitch angle [deg]
0 200 400 600 800 1000
0 5 10
Nacelle pitchangle [deg]
Time [s]
の効果を相殺する場合には,同様に浮体前後動揺が励起されることが推測できる.しかしながら,
図最下段のナセルピッチ角度に注目すると,前章までに示した低周波数での周期的な振動は確認 できない.この結果より,提案制御を適用しても,浮体前後動揺を励起することはないことが確 認できた.
以上の結果より,提案制御は,浮体前後動揺を抑制するというFVCの効果を妨害しないこと,
および,ナセルピッチ角度はロータが倒される方向にシフトする傾向があることを確認した.
6.5.4 発電電力の運転特性
図6-13に,提案制御を適用した場合の発電電力に関する試験結果を示す.図6-13の横軸はナ セル風速,縦軸は提案制御未適用時を基準とした,提案制御適用時の発電電力の変化率を示す.
本結果は,図6-11と同様に,1sにて計測した値の10分間の平均値を利用しており,ナセル風速 が1m/sの幅毎に平均値を算出し,提案制御未適用時と適用時の変化率を演算して作成した.
図6-13より,提案制御を適用することにより,ナセル風速が6m/s以上において発電電力が上 昇していることが確認できる.これは,上述の通り,提案制御が所定のアジマス角の範囲におい て,FVC のブレードピッチ角度指令値をキャンセルする方向にブレードピッチ角度を操作し,
ブレードピッチ角度が,発電効率が高いVSCの指令値に近づいたためと考える.なお,発電電 力の上昇率は,平均風速が12m/s以下の発電電力が定格未満の条件において比較的大きくなって いる.提案制御適用時を基準としてこの結果を見ることで,提案制御未適用時,すなわち FVC 適用時には,この風速範囲において発電電力が低下することを示すと考える.提案制御の適用に より,FVCによるこのような影響を相殺し,発電電力が上昇したと考える.
なお,ナセル風速が3m/sおよび5m/sで発電電力の変化率の符号が負を示しているが,これは この風速条件での試験データ点数が少ないためであり,継続した試験を実施することで0%また は正符号の結果が得られると推測する.
以上の結果より,提案制御を適用することで,FVC 適用時の発電電力の低下を抑制できるこ とを確認した.
6.5.5 ブレードピッチ角度の運転特性
図6-14に,提案制御適用有無でのナセル風速毎の平均ブレードピッチ角度(運転特性)に関 する試験結果を示す.図6-14の横軸はナセル風速,縦軸はブレード#1の平均ブレードピッチ角 度を示す.図6-14において,本結果は,図6-11,および図6-13と同様に,1sにて計測した値の 10分間の平均値を利用しており,ナセル風速が1m/sの幅毎に平均値を算出することで作成した.
また,図6-14の縦軸上方はフェザー方向を示し,図下方はファイン方向を示す.なお,黒色点 線×印が提案制御未適用時の結果を,青色実線三角印が提案制御適用時の結果をそれぞれ示す.
図6-14より,ナセル風速が7m/sから11m/sにおいて,ブレードピッチ角度が顕著にファイン 方向に変化していることが確認できる.これは,上述の発電電力の変化理由と同様に,提案制御 が,FVCが指令するブレードピッチ角度の動作をキャンセルし,VSCが指令するブレードピッ チ角度,すなわち発電効率の高い状態に近づけたためと推測する.逆に言えば,FVCの適用に
より,ブレードピッチ角度がフェザー側にシフトすることを示す.これは,FVC の適用により 発電電力が低下することを裏付けることができる.特にその影響は発電電力が定格となるナセル
風速が12m/s未満に顕著となることを示す.
図6-15に,提案制御適用有無でのナセル風速毎のブレードピッチ角度の標準偏差に関する試 験結果を示す.図6-15の横軸はナセル風速,縦軸は提案制御未適用時を基準とした,提案制御 適用時のブレード#1のブレードピッチ角度の標準偏差の変化を示す.本結果は,1sにて計測し た値の10分間の標準偏差を利用しており,ナセル風速が1m/sの幅毎に平均値を演算することで 作成した.また,黒色点線×印が提案制御未適用時の結果を,青色実線三角印が提案制御適用時 の結果をそれぞれ示す.
図6-15より,提案制御の適用により,ブレードピッチ角度の標準偏差は変化するが,上述の 傾向とは異なり,ナセル風速に対して一律に片側へ変化するような明確な傾向がないことが確認
図6-13. 試験結果4:提案制御による発電電力の変化
図6-14. 試験結果5:提案制御適用有無でのナセル風速毎の平均ブレードピッチ角度
-8 -6 -4 -2 0 2 4
Nacelle wind speed [m/s]
2 4 6 8 10 12 14 16
Increasing rateof electric power [%]
Fine Feather
Nacelle wind speed [m/s]
2 4 6 8 10 12 14 16
Blade #1 pitchangle (average) [deg]
without the proposed IPC with the proposed IPC
できる.推測の域を超えないが,提案制御の適用有無でブレードピッチ角度の標準偏差に大き な変化はないと考える.これは,第4.3節にて説明した通り,提案制御によるブレードピッチ角 度の補正値には制限を設けており,その変化量はFVCが指令するブレードピッチ角度指令値の 範囲内に留められるためと推測する.
以上の結果より,提案制御の適用により,ブレードピッチ角度がファイン側にシフトする傾向 があること,および,ブレードピッチ角度の標準偏差は適用前後で特長的な変化をしないこと,
を確認した.