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浮体構造物の設計指針

第 3 章 古典制御理論を用いた浮体前後動揺現象の安定性解析

3.5 浮体構造物および浮体動揺制御の設計指針

3.5.1 浮体構造物の設計指針

𝐺𝐺𝑊𝑊𝑇𝑇3𝑀𝑀𝑀𝑀𝑒𝑒𝑒𝑒𝑀𝑀𝑎𝑎=�2𝑎𝑎𝑏𝑏𝑉𝑉𝑎𝑎𝑟𝑟𝑀𝑀𝑎𝑎𝑏𝑏𝑀𝑀𝑎𝑎𝛽𝛽𝑟𝑟𝑎𝑎𝑟𝑟𝑉𝑉𝑎𝑎𝑟𝑟𝑀𝑀𝑎𝑎𝑏𝑏𝑀𝑀𝑎𝑎+𝑏𝑏𝑏𝑏𝑉𝑉𝑎𝑎𝑟𝑟𝑀𝑀𝑎𝑎𝑏𝑏𝑀𝑀𝑎𝑎�𝐿𝐿 …式(3-76) これらの伝達関数を利用し,前章と同様にFVCを追加した系についての安定性を評価した.

FVCのパラメータは表3-6に示したものを利用した.図3-20に,FVCを追加した系のNyquist 線図とBode線図を示す.図3-20(a)のNyquist線図に注目すると,FVCを追加した伝達関数の軌 跡も(−1,𝑗𝑗0)を内側に含まないため,系は安定であり,FVCの追加で不安定化しないことが確認 できる.また,軌跡が囲む面積は陸上風力発電システムよりも小さくなっている.図 3-20(b)の Bode線図のゲインに注目すると,FVC追加前と比較してナセルピッチ角度の固有周波数近傍の ピークが低減した.これらの結果は,FVC 追加によってナセルピッチ角度の振動を低減できる ことを示す.このことから,可変速条件においても,FVC の追加によって風速や波の状況によ って発生するナセルピッチ角度振動の収束性を向上できると推測する.

3.5.1.2 ナセル代表点とナセルピッチ角度の回転中心との距離

次に,第3の要因である「ナセル代表点とナセルピッチ角度の回転中心(メタセンター)との 距離が長いこと」に注目する.対策としてはシンプルであり,ナセル代表点とナセルピッチ角度 の回転中心との距離を短くすること,である.1つ目としては,ナセル代表点を低くする,すな わちハブ高さを決定するタワー高さを下げることが挙げられる.これは設計上可能であるが,以 下の理由で制限がある.

(a) ブレード先端が海水面に接触するまで高さを下げられない.また,浮体式洋上風力発電 システムのメンテナンス用の扉は,荒天時の海水の浸入を避けるためある程度海水面よ り高くする必要があると共に,作業員とブレード先端の接触を避けるため,上記扉より

(a) Nyquist線図 (b) Bode線図

図3-20. 可変速条件での発電機回転角速度とナセルピッチ角度の伝達関数のNyquist線図と

Bode線図:陸上風力発電システム,浮体式洋上風力発電システム,および浮体動揺制御を適 用した浮体式洋上風力発電システムの比較

(a) スパー型の例 (b) バージ型の例

図3-21. 浮体構造物のモーダル粘性係数を増加させる方策

-1 0 1 2 3 4 5 6

-3 -2 -1 0 1 2 3

Real

Image

Bottom-fixed Floating Floating with FVC

-200 -150 -100 -50

10-4 10-3 10-2 10-1 100 101 102

-180 -135 -90 -45 0

Gain [dB]Phase [deg.]

Frequency [Hz]

Bottom-fixed Floating Floating with FVC

プレート スパー型浮体構造物

プレート バージ型浮体構造物

もブレード先端の最下端高さがある程度の距離をもつ必要がある.

(b) タワー高さを下げ,ロータ中心(ハブ)の高さが下がることで,上空の高い風力エネル ギーをロータに流入させることが出来ない.すなわち,発電特性が劣化する.

これらの制限より,タワー高さを下げることは現実的ではない.

また,2つ目としては,ナセルピッチ角度の回転中心(メタセンター)を可能な限り,ナセル 代表点に近づけることである.図3-22に,メタセンター(傾心)の概要を示す.図3-22は浮体 構造物を,海水面に垂直かつ,浮体構造物の前後方向を含む面で切断した断面を示す.ただし,

浮体構造部が前後方向に傾斜する状態を想定している.図 3-22(a)は浮体構造物が傾斜していな い場合を示しており,点A-B-C-D で囲まれる浮体構造物が線分 H-H’に示す海面に浮いており,

海水面下の断面を点J-B-C-Lで示す.また,浮体構造物の線分A-Dと線分B-Cに垂直が線分を 線分E-Fとする.さらに,点Mは重心を,点Sは点J-B-C-Lで示す断面の断面中心を示す.図

3-22(b)は浮体構造物が傾斜した場合を示しており,海水面下の浮体構造物の断面が点 J’-B-C-L’

に変化し,その断面中心がS’に変化した場合である.海水面(線分H-H’)に垂直かつS’を含む

線分V-V’に対し,線分E-Fが交錯する点MCがメタセンター(傾心)を示す.メタセンターの

海水面からの高さを決定する要素は,断面中心S から断面中心S’への海水面方向への変化であ り,浮体構造物の線分ADおよび線分BCが線分ABおよび線分CDよりも長い横長の浮体構造 物は,断面中心S から断面中心S’への海水面方向の変化が大きいため,メタセンターの位置を 海底面からより高い位置に配置することができる.これに対して,浮体構造物の線分ADおよび 線分BCが線分ABおよび線分CDよりも短い縦長の浮体構造物は,断面中心Sから断面中心S’

への海水面方向の変化が小さいため,メタセンターの位置が海水面下に配置される.すなわち,

スパー型よりも,セミサブ型,およびバージ型のメタセンター位置が高く,ナセル代表点とメタ センター(ナセルピッチ角度の回転中心)の距離を短くできる.

3.5.1.3 まとめ

上述をまとめると,定格条件での浮体前後動揺を抑制するためには,基本構造として,ナセル 代表点とナセルピッチ角度(メタセンター)との距離が短いバージ型またはセミサブ型とし,そ の海底面側にナセルピッチ角度の変化の抵抗となるプレートを設置すること,が有効であること を示す.しかしながら,浮体構造物の形状はこれだけでは決定できない.要因の1つとして,製 造工程がある.バージ型およびセミサブ型は水平面方向に広い構造を持つため,構造物の強度を 保つための補強部材を要し,構造が複雑になる.これに対し,スパー型は円筒形状のシンプルな 構造のため,製造コストの上昇を抑制できる.また,2つ目の要因として,荒天時の衝撃荷重が ある.横長形状の浮体構造物は,暴風時の波高が高い場合に,浮体構造物の一部が海水面上に露 出することがあり,再び海水面下に戻る際,海水面に叩きつけられることで大きな衝撃荷重が生 ずる.上述のような,浮体構造物の海水面側にプレートを設置した場合,このような衝撃荷重に 耐えられる強度を担保する構造を備える必要があり,この点もコスト増に繋がる.対してスパー 型は波高が高い場合であっても,浮体構造物が海水に叩きつけられるような現象は起こらないた

め,上述の衝撃荷重を考慮する必要はなく,この点に関連するコスト増加がない.このように,

総合的な観点から浮体構造物を設計する必要がある.