第 4 章 ゲインスケジューリング機能を備えた浮体動揺制御の提案
4.3 ゲインスケジューリング機能を備えた浮体動揺制御
図4-1から図4-3に,定格条件,遷移条件,および可変速条件でのブレードピッチ角度制御を 示す.第2章にて述べたように,ブレードピッチ角度制御の基本的な構成は,陸上風力発電シス テムのブレードピッチ角度制御にFVCが追加される.まず,各図のFVC以外に注目する.図
4-1に示すように,定格条件では,ロータ(発電機)回転角速度の目標値と計測値の差分に従い,
VSC がブレードピッチ角度を決定する.この際,ブレードピッチ角度はロータ(発電機)回転 角速度を一定にするように積極的に調整される.また,図4-2に示すように,遷移条件では,上 述のVSCと共に,発電機トルクの目標値と計測値の差分に基づいてブレードピッチ角度を決定 する,発電機トルクに基づくブレードピッチ角度制御(BPCT)が追加される.遷移条件では,
ロータ(発電機)回転角速度を一定にする一方で,風速に基づいて発電機トルクを上昇させる必 要がある.VSC のみだと,ロータ(発電機)回転角速度を一定にすることのみにブレードピッ チ角度が調整されるため,ロータのエネルギー変換効率が低くなり,発電機トルクを増加させる
図2-18(再掲). 浮体式洋上風力発電システムの前後方向の傾斜角度(ナセルピッチ角度)
図4-1. 定格条件でのブレードピッチ角度制御
Floating platform Floating platform pitch angle (fore-aft)
Tower Nacelle Wind Hub
Blade
Sea level
Center of rotation (meta center)
Negative Positive
Variable speed control
(VSC)
Floating platform vibration control
(FVC)
Blade pitch angle demand +
+ Reference
generator speed
Nacelle pitch angle
+ -Measured
generator speed
ことが出来ない.BPCT はこのような状態を防ぐように,発電機トルクの発生状況に基づいて,
ロータ効率を上昇させる方向であるファイン方向にブレードピッチ角度を調整する.さらに,図 4-3に示すように,可変速条件ではブレードピッチ角度を,ロータ効率が最も高いファイン角度
(一定値)に保持するようにブレードピッチ角度を調整する.
図4-4に,提案するFVCのブロック線図を示す.ナセルピッチ角度(浮体構造物のピッチ角 度)𝜃𝜃に基づいて,FVCが必要とするブレードピッチ角度の目標値𝛽𝛽𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶を決定するが,2次の伝 達特性を備えるバンドパスフィルタ(Band-pass filter,BPF)と,比例微分(Proportional-derivative,
PD)制御により構成される.バンドパスフィルタはナセルに設置した傾斜角度信号であるナセ ルピッチ角度𝜃𝜃より,ナセルピッチ角度の固有振動数近傍の周波数成分𝜃𝜃𝐵𝐵𝑃𝑃𝐹𝐹を抽出する.2 次の 伝達特性を用いた理由は,バンドパスフィルタの特性を角周波数と減衰比で特性を明確に規定で きるためである.PD制御は𝜃𝜃𝐵𝐵𝑃𝑃𝐹𝐹に基づいてFVCの出力であるブレードピッチ角度の目標値𝜃𝜃𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶
を決定する.この𝜃𝜃𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶がロータに加わるスラスト力が調整することで,ナセルピッチ角度の回転 中心回りに,浮体前後動揺を抑制するような回転力が発生する.バンドパスフィルタとPD制御 を以下に示す.
𝐺𝐺𝐵𝐵𝑃𝑃𝐹𝐹 =𝜃𝜃𝐵𝐵𝑃𝑃𝐹𝐹(𝑠𝑠) 𝜃𝜃(𝑠𝑠) =
2𝜁𝜁𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶𝜔𝜔𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶𝑠𝑠
𝑠𝑠2+ 2𝜁𝜁𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶𝜔𝜔𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶𝑠𝑠+𝜔𝜔𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶2 …式(4-1)
𝐺𝐺𝑃𝑃𝑆𝑆 =𝛽𝛽𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶(𝑠𝑠)
𝜃𝜃𝐵𝐵𝑃𝑃𝐹𝐹(𝑠𝑠) =𝐾𝐾𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶𝑃𝑃 (1 +𝜏𝜏𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶𝑠𝑠) …式(4-2)
ここで,𝑠𝑠はラプラス演算子,𝜁𝜁𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶はバンドパスフィルタの減衰比,𝜔𝜔𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶はバンドパスフィルタ の角周波数,𝐾𝐾𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶𝑃𝑃 はPD制御の比例ゲイン,および𝜏𝜏𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶はPD制御の微分時間,である.
バンドパスフィルタの目的は浮体前後動揺の周波数成分の抽出であることから,バンドパスフ ィルタの角周波数𝜔𝜔𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶はナセルピッチ角度の固有周波数と近い値とする必要がある.第 3 章で 述べたように,ナセルピッチ角度の固有周波数の2~3倍が適当である.減衰比𝜁𝜁𝐹𝐹𝑉𝑉𝐶𝐶はバンドパ
図4-2. 遷移条件でのブレードピッチ角度制御
Variable speed control
(VSC)
Floating platform vibration control
(FVC)
Blade pitch angle demand +
+ Reference
generator speed
Nacelle pitch angle
+
- Measured
generator speed
+ +
Blade pitch angle control based on generator torque
(BPCT) Reference
generator torque +
- Measured
generator torque
スフィルタが抽出する周波数帯域の広さを調整するのに有効である.上記2つのパラメータは,
適用する浮体式洋上風力発電システム,特に浮体構造物の浮体前後動揺特性に依存するため,シ ミュレーションや実機試験にて適切な値に設定する必要がある.
その上,提案するFVCは発電電力に基づいて,上述のバンドパスフィルタやPD制御のゲイ ンスケジューリング機能を備える.図 4-5 に,ゲインスケジューリング機能の概要を示す.図 4-5(a)および(b)はそれぞれ,発電電力とバンドパスフィルタの角周波数の関係,および発電電力 とPD 制御のゲインの関係,を示す.提案制御は,発電電力が𝑃𝑃𝑂𝑂未満の条件,および𝑃𝑃𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡𝑎𝑎𝑒𝑒以上 において,上述の角周波数とゲインを一定値に保つ.ここで,𝑃𝑃𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡𝑎𝑎𝑒𝑒は定格発電電力,および𝑃𝑃𝑂𝑂は
𝑃𝑃𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡𝑎𝑎𝑒𝑒より小さい発電電力を示す.𝑃𝑃𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡𝑎𝑎𝑒𝑒の値はシステムの特性に合わせて設定する必要がある
が,𝑃𝑃𝑂𝑂と𝑃𝑃𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡𝑎𝑎𝑒𝑒の差は運転条件が𝑃𝑃𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡𝑎𝑎𝑒𝑒における発電電力の変動値よりも大きな値が適切である.
例えば,𝑃𝑃𝑂𝑂= 0.95𝑃𝑃𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡𝑎𝑎𝑒𝑒である.また,発電電力が𝑃𝑃𝑂𝑂以上,および𝑃𝑃𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡𝑎𝑎𝑒𝑒未満では,バンドパス フィルタの角周波数,およびPD制御のゲインが連続的に変化するようにした.これはそれぞれ の値が急変することで,FVCの特性が急変し,FVCによってナセルピッチ角度の変動を励起し ないようにするためである.上記のゲインスケジューリング機能は,浮体式洋上風力発電システ ムの運転条件が,定格と定格未満の間で交互に行き来する条件において,浮体前後動揺の抑制に 有効である.これにより,定格条件のみならず,定格未満の運転条件において浮体式洋上風力発 電システムの運転状態を安定化できる.