第 5 章 ナセル風速に基づく発電機トルク下限値制御の提案
5.6 実機試験結果
本節では,図5-5に示す商用規模の2MW浮体式洋上風力発電システムに提案手法を実装し,
その有効性を確認した試験結果について述べる.表5-5に,実証試験時の条件を示す.ハブ高平 均風速は遷移条件に含まれる9.55m/s近傍とした.また,式(5-15)から式(5-17)を決定する座標を,
図5-11. シミュレーション結果:最大荷重の比較
0.996 1.000 1.004 1.008
Rotor shaft Yaw bearing Tower bottom Blade root Ratio of Extreme Loads (bending)[-]
Without proposed method With Proposed
予備試験結果に基づいて(𝑉𝑉𝑒𝑒𝑎𝑎𝑐𝑐1 𝑞𝑞1) =�8.5 𝐾𝐾𝑜𝑜𝑟𝑟𝑡𝑡𝜔𝜔𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡2�,および(𝑉𝑉𝑒𝑒𝑎𝑎𝑐𝑐2 𝑞𝑞2) = (12.0 𝑄𝑄𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡)とし た.シミュレーションの座標よりも風速が低いが,これは,発電運転時にはハブ高風速よりもナ セル風速が低下する特性があるためである.なお,式(5-18)にて利用する時定数𝑇𝑇𝐹𝐹 は,シミュレ ーションと同様に0.5sと設定した.
図5-13および図5-14に,平均風速は9.58 m/sでの従来手法の試験結果である時間応答,およ び周波数特性を示す.図5-13の横軸は時間を示し,縦軸は図上方よりナセル風速,ロータ(発 電機)回転角速度,発電電力,ブレードピッチ角度,およびナセルピッチ角度をそれぞれ示す.
図5-14は,図5-13に示した時系列データを周波数解析した結果であるPSDを示す.図5-14の 横軸は周波数を示し,縦軸は図上方より図5-13と同様の順序でプロットしている.
まず,図5-13の時間応答に注目すると,ナセルピッチ角度が時刻100 s直前より振動が開始し,
時刻600 sまで継続していることが確認できる.ナセル風速も同様の振動をしているが,自然風
にはこのような周期的な成分は含まれないため,ナセルピッチ角度の振動によって,ナセルが風 に対して相対的に変化したためと推測する.同様の振動が,ロータ(発電機)回転角速度,発電 電力,およびブレードピッチ角度にも存在し,同期していることが確認できる.これらの振動は,
時刻80s近傍のナセル風速,およびロータ(発電機)回転角速度の増加によって引き起こされた 可能性がある.VSC,GTC,BPCT,およびFVCの入力は,ロータ(発電機)回転角速度,およ びナセルピッチ角度に依存することから,ブレードピッチ角度の制御干渉が上述のナセル風速の 急変で引き起こされた後,周期的な振動が発生したと推測する.
次に,図5-14に示す周波数特性に注目する.ナセル風速には,0.025 Hzおよび0.035 Hzの周
図5-12. シミュレーション結果:疲労等価荷重の比較
表5-5. 実証試験時の条件
ハブ高平均風速 [m/s] 9.58(従来手法),
9.54(提案手法適用時)
式(5-17)の低風速側座標 (𝑣𝑣2, 𝑞𝑞2) [m/s,kNm] �8.5, 𝐾𝐾𝑜𝑜𝑟𝑟𝑡𝑡𝜔𝜔𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡2� 式(5-17)の高風速側座標 (𝑣𝑣3, 𝑞𝑞3) [m/s,kNm] (12, 𝑄𝑄𝑟𝑟𝑎𝑎𝑡𝑡)
時定数 𝑇𝑇𝐹𝐹 [s] 0.5
0.975 0.985 0.995 1.000
Ratio of Fatigue Loads (bending) [-]
Rotor shaft Yaw bearing Tower bottom Blade root
1.005
0.990
0.980
Without proposed method With Proposed
波数帯域近傍にピークが存在することが確認できる.これまでの経験上,このような周期的な成 分が自然風に存在することは確認していないため,上述の制御干渉によって発生したと考える.
他項目の周波数特性においても同様のピークが確認できる.後者の周波数帯域はナセルピッチ角 度の固有周波数であることを確認していることから,浮体前後動揺が励起され,継続したと判断 できる.前者の0.025Hzの成分はVSCやFVCのブレードピッチ角度および発電機トルクの変化 により励起されたと推測する.
図5-15および図5-16に,提案制御適用時の平均風速9.54m/sでの試験結果を示す.図5-15は 時間応答であり,横軸は時刻,縦軸は図上方よりナセル風速,ロータ(発電機)回転速度,ロー タトルク,発電電力,ブレードピッチ角度,およびナセルピッチ角度を示す.図5-16はPSDで あり,横軸は周波数を示し,縦軸は図5-16と同様である.なお,図5-13および図5-15は従来手 法および提案手法を適用した場合の試験結果であるが,試験時刻は従来手法の直後に提案手法を 実施しており,風況や海象はほぼ同等であった.
図5-13. 実機試験結果:平均風速9.58m/sでの従来手法の時間応答
8 10 12
Nacelle wind speed [m/s]
12 16 20
Rotorspeed [min-1]
Fine Feather
Blademean pitchangle [deg]
0 5 10
Nacelle pitchangle [deg]
0 100 200 300 400 500 600
Time [s]
0.5 1.5 2
Electrical power [MW]
1
図5-15より,提案手法の適用により,図5-13で確認された遷移条件でのナセルピッチ角度の 振動が低減できていることが確認できる.また,ロータ(発電機)回転角速度,発電電力,およ びブレードピッチ角度の振動も抑制できていることが確認できる.また,図5-16 より,ナセル ピッチ角度の0.025 Hzおよび0.035 Hz近傍のピークがなくなっていることが確認できる.
以上の実機試験結果より,提案手法は遷移条件における浮体前後動揺の抑制に有効であること を確認した.