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第2章  数10MeV核子によるフラグメント生成 断面積データの現状と測定法の検討

2.2  理論計算コード

実験データが不足している状況で、数10 MeV領域における核反応を十分に説明する原子核反応理論も 未だ確立されていない。数10 MeV額域はカスケードモデルを中心とする高エネルギー領域の核反応を記 述するモデルと統計モデルを中心とした低エネルギー領域のモデルの接点の領域に相当し、両サイドから のアプローチが進められている。

核反応による粒子放出過掛ま、入射粒子と標的核の核内核子との相互作用回数や時間スケールの違いに ょって、大きく分けて直接過程、複合核過程、前平衡過程に大別される。核反応は、単一のモデルで統一的

1より皇子力学的に忠実なFKX(Fdbadl‑Kermadl‑Koo血)模型も使用できるが・計算時間が長く実用的でないため、

検証のみ

に使われている,また両手法はほぼ同等の値を与える,

2これは、 GNASHでは生成粒子の角度分布をⅩalbadらによって評価された系統式で評価しているため・実験値のないフラグ もtilト態鮎瓢又㈱良く憩亀でも触、ためであるq

に説明する計算手法が確立されていないため、一般に上記に示した3つの競合する放出過程に対してそれ ぞれ異なるモデルで記述される。直接過程の計算には、主に量子論的平均場理論である光学模型、歪曲波

Born近似(DWBA : Distorted‑Wave Bom Approximation)チャンネル結合法(cc : Coupled‑Chaznels

method)によって計算される。また、複合核過程にはⅡauser‑Feshb批Ilの統計模型[48]が有効な模型とし て知られている。特に数10 MeV領域では、反応時間スケールが直接過程と蒸発過程の中間である前平衡 過程が大きな割合を占めその取り扱いが重要となる。さらにフラグメント生成は反応が複雑な多体系での 計算になるため、正確な量子力学に基づいて計算することが難しく、計算できるモデルも限られている。現 在主流の計算コードでは、反応の前平衡過程を取り扱うモデルは大きく分けると、核内カスケードによる 半古典的な手法と励起子モデルによる現象論的な手法の二つに分けられる。

2.2.1核内カスケードモデル(Intra Nuclear Cascade model : INC)

このモデルでは核内核子を自由粒子とみなし核反応計算を核内核子と入射粒子との散乱として、核内で の入射粒子によるカスケード反応を核子の輸送計算として扱う。この手法は、核子一核子断面積を入力パ ラメータとし高エネルギー領域における核子放出反応を良く説明する。これは数100 MeV以上の高エネル ギー領域では、入射粒子のド・プロイ波長が原子核の直径に比べて十分に小さく、ほぼ一定であるため、数 血の径を持つ粒子としての近似的取り扱いができるためである。一般に、核子一核子散乱断面積はクーロ

ン散乱の影響を受けないほどにエネルギーが高い(1 GeV以上)と、入射粒子の電荷にも標的核の核内励 起準位にも影響されず、ほぼ粒子の幾何学的な断面積で決定されが。従って一般にmCコードで使用され る核子一核子断面積は〜GeV領域でのp‑p散乱などを基準に決定されている。数10MeV領域では散乱断 面積の実験値には、粒子の電荷や残留核の影響が現れてくるので、計算値との差異が生じ、低エネルギー 領域では取り扱いが難しい。低エネルギー領域の核子一核子断面積としては、 Cugnonら【68, 69】によって 評価されたデータが有名であり、核内の媒質境界面での反射、屈折を考慮し、媒質効果を加えパラメータ 評価している。しかし、一般にINCの適用エネルギー限界は100 MeV付近とされている。通常INCコー

ドでは、多数回衝突散乱を繰り返し低エネルギーになった核子は輸送を止め、蒸発モデル計算につなげる。

蒸発モデル計算では、励起した原子核の平衡状態について、蒸発過程の計算を行う。そのため、 mCモデ

ルは蒸発モデルと併せて、 NC/E (htra Nucleiu Cascade / Evaporation model)モデルとして用いられ

ることが多い。

mCモデルを含んだコードシステムの主なものにはLANLで開発されたLAHETコード4【64]、仁井田や 岩瀬らによって開発がすすめられているPⅢTSコード5[66, 67トFLUKAコードなどがある。生成フラグ

メント粒子の輸送まで行えるコードはPHITSコードだけである。

LAHETコードでは中性子、陽子、パイオン、ミューオン、光子の他に重陽子、三重陽子、 3Ⅱe、 α粒 子までが輸送計算でき、コードの核となる断面積計算には核内カスケードモデルとしてBertiniモデルと ISABEI一モデルが使用できる。

現在、開発段階であるPHITSコードではLAHETコードと同様に軽粒子(中性子、陽子、パイオン、

ミューオン、光子、重陽子、三重陽子、 3He、 α粒子)の輸送に加えてそれ以上の重粒子まで輸送計算で取 り扱える。組み込まれている核反応モデルには高エネルギー側に核内カスケードモデルとしてBertiniモデ ル、 ISOBARモデル、 GcV以上の高エネルギー領域に対してJAMコード、低エネルギー側の蒸発モデル としてGEMモデル【72トDRESモデル、 SDMモデル【73,叫がある。また重粒子入射に対しては、各粒子 をガウス型の波動関数で表すことにより平均場的効果を付加させたQuantummol∝ular dymics (QMD) モデル【73, 74]を採用しており、核子入射以外の反応にはJQMDモデル(JAEfu QMD)と蒸発モデルに よる計算が主になる。 QMDモデルでは、図2.2に示すように反応の時間発展を追って計算を行う。各モデ

3QuaBi Fb散乱といわれる

4LAHETコードはMCNPに組み込まれMCNPXとして20 MeV以下の中性子のデータは評価済み断面積データライブラリー

が使えるようになっている。

5旧NMTC/JAER197(65】でGEM、 JAMコードなど組み込みNMTC/JAMとなり、現在は開発段階だがJQMD、 EETC‑

mcコードを組み込み重粒子まで輸送可能となっているC

ルの詳細に関しては付録A章を参照されたい。

これらのカスケード系のコードは、その性質上主として核子放出反応を取り扱うものであり、核子のクラ スターの放出(重陽子、 a粒子など)まで考慮されたコードはあまりない。これまで、軽粒子クラスター の放出を記述するコードは2.2.2節に示す励起子モデルによって実験値を再現するように開発されている。

一方、 mCモデルは励起子モデルのような経験則ではないため、反応系の角運動量や運動量の保存を補足 し、特に多体崩壊時のそれぞれの生成粒子に関して物理的に矛盾のない角運動豊やエネルギーなどの物環 畳を模擬できる。しかし、 mCではクラスター判定基準によってその生成量は大きく異なり、これまでの 近接距離からクラスター判定する方法(図2.2参照)では実験値を再現しないことが報告されている【71】。

近年、 mCやQMDを用いたクラスター判定に関して、 Pha紀SpaCeを用いることによって、軽クラスター に対して実験値の再現性が向上することが確認されている【70, 71]が、粒子ごとに最適なパラメータが異な るため、さらなる開発が望まれる。

重クラスター(フラグメント)に関してはまだ実験値が希少であるため、実験値の再現性に対して確認さ れていないが、今後フラグメント計算の最も有力な手法になりうると考えられる。これらの計算手法の開 発においては二重微分断面積の実験値による計算値の検証が特に重要となる。

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図2.2: QMDによる核反応の時間発展【73,

74】

2.2.2 励起子モデル(Exiton model)

励起子模型では、 Femi面上に励起された粒子の数とFermi面下にできた空孔の数で定義される状態の間 の遷移(励起子状億)で核反応を記述するo励起子状態の時間変化を流入項と流出項とからなる古典的なボ ルツマン輸送方程式6で表わし、統計的な問題として計算する【45].一方、前平衡過程からの複合核粒子生成 は反応過程が複雑で取り扱いがむずかしい。そのため、代表的な励起子モデルコードであるGNASHコ‑

6マスター方程式と呼ばれる

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ドやTALYSコード7[43, 44]では、複合粒子生成(d,七,3He,a粒子)についてはKalbachにより提案された 半経験的励起子模型を用いていが。 I(albadhの半経験的励起子模型では軽粒子放出に対してピックアップ 過程が考慮されており、 α粒子にはノックアウト過程が考慮されている。しかし、計算を多くのパラメータ に頼っており、様々の核種やェネルギ一に対して適用できるかは確認されていない。また、 α粒子より重い 核は残留核として取り扱い、積極的に生成させるパラメータはない。そのため、フラグメント生成の計算に 対しては、そのままのモデルでは適用するのは難しいと考えられる。このモデルの開発にも実験値による 新たなパラメータが望まれている。

2.3 実験データ

以上述べてきたようにフラグメント生成に関する実験値は絶対的に不足しており、新たな系統的なデー タの取得がのぞまれている。しかし、これまでフラグメント生成データの工学的な重要性は認識されていな かったため、系統的な実験値はほとんどなく、二重微分断面積に至っては、高エネルギー核物理(GeV領 域)や天体物理学における非常に限られたデータしか無く、工学的に重要な広いエネルギー範囲にわたる系 統的な測定はほとんど無い。

既存のフラグメント生成の実験値は放射化による放射性同位体の生成断面積データがほとんどで、微分 断面積としては、表2.2に示すようにエネルギー・飛行時間差法によって測定されたC. N. DavidsやC. T.

Rodheらの陽子による炭素の質量分布データ【103, 104トⅩ・ Ⅹwiatkowskiらの180 MeV陽子によるアルミ ニウムの質量分布データ【105】しかない。表2・3、 2・4に陽子入射反応により炭素、アルミニウム、シリコン から生成される放射性核種について、実験値の有無と共にまとめた。高エネルギー領域では非常に多くの 核種が生成される可能性があるが、半減期の短いものがほとんどで、断面積も大きくないので、工学的に重 要とは言い難い。また放射化実験による測定では、断面積が大きい安定核種の生成量に対してデータが得

られないため、断片的なデータになってしまう.

半導体SEEや線量の評価にはフラグメントの生成量だけでなくエネルギースペクトルの情報が必要であ り、微分データが望まれる。表2.2に示すデータが現在唯一の参照できる微分実験データである。実際、半 導体でのフラグメントの生成量の評価にはK. Kwiatkow8kiらの180 MeV陽子によるアルミニウムのデー

タが用いられている。このデータでは、アルミニウムから生成されるほぼすべてのフラグメントを測定で きているが、入射エネルギーは180 MeVの一点だけである。半導体SEEの評価では、数10MeV以上の 広域のデータセットが必要であるため、他のエネルギーに対しては、 180MeV陽子によるアルミニウムの データを基準としてパラメータ評価した理論計算を用いている。この手法が他のエネルギーに対して妥当 かどうかは、実験値がないため確かめられていない。

図2.3、 2.4にC. T. Ro血eらによって得られた炭素からの質量数7と11の二重微分断面積を示すが、 100 MeVのデータでは測定エネルギーが15 MeV付近で途切れており、 kinematicsで考えられる最大エネル ギー(12C(p,7Be)6Li反応では300方向に7Beは最大54 MeVを持ちうる)を考えると不自然である。ま た、図2.4で示されている各生成粒子質量の励起関数も誤差が大きい。

図2.5にK. Kwiatkowskiらによる180 MeV陽子入射のAlからのフラグメント生成質量分布を示すが、

実線、破線、点線で示された種々のINC計算との比較では大きな差異がある。計算値は、ターゲット核近 傍の生成核を過大評価しており、軽フラグメントの生成を過小評価している候向がある。特に質量数8以下 の核種に関しては、計算では全く粒子が生成されていない。これから、これまでの計算手法では核破砕反応 のフラグメンテーションを正しく模擬できていないことがわかる。図2.6、 2.7に質量数7, 12, 16, 22,24, 25のフラグメント生成角度分布と質量数7, 16, 22のフラグメント生成二重微分断面積をそれぞれ示すが、

計算値は実験値をあまり再現できていない。特に二重微分断面積に関してはオーダーで異なっている。

7近年報告された最も新しい包括的断面積計算コードである。

8GNASHはPRE(コ0‑D2 modelでTALYSはより新しいPRECO2000 mode】を採用している。