第2章 数10MeV核子によるフラグメント生成 断面積データの現状と測定法の検討
2.4 従来の荷電粒子放出断面積測定法
これまでに用いられている二次荷電粒子の計測法は、 (1)生成量を測定する方法(積分データ)と・ (2) 生成粒子を直接測定する方法(微分データ)に大別される。また、二次荷電粒子を測定するためには・様々 な生成粒子の中から粒子種を弁別する必要があり、その弁別法としていくつかの方法がある。 (1)に属する ものとしては、放射化法、質量分析法があり、 (2)としてはカウンターテレスコープ、エネルギー・飛行時 間差(Energy Timed‑Flight ‥ EITOF)法などの二次荷電粒子検出器を用いる方法がある。以下にこれら の手法について簡単にまとめる。
2.4.1 放射化法
この手法は二次荷電粒子生成反応によって生成した残留核の放射能(γ線のエネルギー、放出率)から、
核種の同定を行い、残留核の生成量を求めることにより・発生した二次荷電粒子生成反応の断面積を推定す る手法である【1, 2, 4, 5, 8恥放出粒子を直接測定している訳ではないので放出粒子のエネルギーや放出角 度に関する情報を得ることはできないが、実験が比較的容易であるため、二次荷電粒子生成反応断面積の 多くがこの手法により測定されている。しかし、この手法を適用するためには残留核が放射性でかつ適当 な半減期を持つ必要があり、そのため適用可能な反応が限られている。また数10 MeV中性子による二次 荷電粒子生成反応の測定では、単色中性子が存在しないため7Li(p,n)反応による準単色中性子源が用いら れるが、中性子が単色でないことによる実験上の困難がある。放射化法で得られる残留核の生成量は準単 色中性子のピーク部分とテール部分(非単色部分)から成る全中性子エネルギーで生成される積分データ となる。ピークエネルギー中性子の反応断面積を導出する際にはそのテール部分によって生成される量を 差し引く必要があり、その差し引きに用いる断面積値よって得られるデータは変動し大きな誤差を招く。
2.4.2 質量分析法
この手法は試料を中性子や荷電粒子で照射し、二次荷電粒子生成反応によって生成した残留核を、照射後 に加速器ベースのマスセパレーターにより弁別測定しその生成量を得る手法である【22】。この手法は放射化 法と異なり残留核が放射性である必要はなく非常に高感度であるが、積分実験であるため・放出粒子のエ ネルギーや放出角度に関する情報は得られない。また、質量弁別に加速器とダイポールマグネットを用いる ため非常に大がかりな装置が必要となり、その取り扱いの面で不便さがある。数10 MeV領域の高エネル ギー中性子による二次荷電粒子生成反応の測定では、得られる生成量がエネルギー積分値であるため放射 化法と同様の非単色スペクトルの問題を抱えている。
2.4.3 カウンターテレスコープ法
これは荷電粒子を放出可能な薄い試料を用いて、図2.8のように試料からある角度に設置したテレスコー プ型検出#9で放出荷電粒子を弁別し、各粒子のエネルギースペクトルを測定する手法である【108, 109, 110】。
テレスコープの構成としては、図2.9に示すように通過型の△E検出器とフルストップさせるE検出器か らなり、通常AEとE (半比例の関係)の二次元プロット(同じエネルギーで各粒子によってdE/血が異 なることを利用‥次式参照)によって粒子を弁別(AEIE法)して各粒子のエネルギースペクトルを測定す る。この方法は2.1式に示すように質量と電荷に依存し、放出粒子の同位体レベルで弁別測定できるため、
荷電粒子DDX測定において、一般的に用いられている。
○複数の検出器をターゲットの方向に向けてスタックした検出半群
入射粒子のエネルギーをE、質量を皿、原子量を2iとするとBetheの式より、
・Z(ln字‑ln(1‑g) ‑封 (2・1)
・Z巴誓・誓NZ
(2.2)
となる。ここで、各パラメータは表2.5に示す1
表2.5: Betheの式のパラメータ
定数 物質原子のパラメータ 入射粒子のパラメータ e :電子の電荷 N :物質原子の密度 Z :入射粒子の原子番号 me :電子の静止質量 Z :物質原子の原子番号 V :入射粒子の速度 e:光の速度 ∫:物質原子のイオン化ポテンシャル m :入射粒子の質量
E :入射粒子のエネルギー
N eutron
‑慨警r
02rTdl ¢77 rrm
図2.9:テレスコープ検出器【108】
図2.8:テレスコープ法による実験体系【108】
この検出法では、検出器の位置を変えることにより角度の情報も得られるので、二次荷電粒子のエネル ギーと放出角度の測定が可能である。また、放射化法と異なり、原理的には如何なる反応にも適用可能であ る。しかし、高速中性子による二次荷電粒子の直接測定には、高いバックグラウンドと、低い計数率とい う問題がある。これは、二次荷電粒子が十分離脱できるように試料を薄くする必要があるが、一方で、試 料に比べ膨大な原子数を有する真空チェンバーや真空窓などの検出器本体などからも同様に荷電粒子が放 出されることが原因である。また、放出荷電粒子の角度情報を得るためには、検出器の試料に対するβ方 向の角度をある程度絞らざるを得ないが、このことによって試料からの二次荷電粒子の幾何学的検出効率・
立体角は悪化する。
更にα粒子より重い塵粒子の場合はLETが大きいため、高エネルギーを持った粒子しかAE検出器を通 過することができない。 AEとE検出器の関係を用いて弁別を行うため、単一の△E検出器だけでは粒子
の同定ができず、そのため測定下限エネルギーが高くなり、ほとんどの生成粒子の情報を捨ててしまうこと になる。図2.11に△E検出器として一般的に使われるSSD(表面障壁型シリコン検出器:図2.10参照)の α粒子以上の重い粒子に対する飛程をSRMコード【51, 52】によって計算した結果を示す。仮に50pm厚 さのSSDを△E検出器として用いると、 α粒子に対しては〜10MeV以下の粒子は△E検出器を通過でき ず、測定ができないo 更にCarbonに対しては〜45 MeVの粒子がAE検出器で止まってしまうo
6〝m厚の薄いSSDもあるが、検出器厚さを薄くすると有効径を大きくすることが制作上困難となり、テ レスコープ検出系の立体角を大きくできないといった問題が生ずる。更にまた、検出器内でロスするエネル ギー量が小さいので、 S/Nがあまり良くなく分解能が悪い10。プラスチック薄膜シンチレ一夕など有効径の 大きさをある程度保ちながらより薄くできる検出器もあるが、この測定法で重要なェネルギ‑分解能を達 成できない。そのため、軽荷砥粒子の測定には非常に有効であるが、重荷電位子の測定に適用するのは困難 である。
図2.10:シリコン検出器(上)図式表示(下)市 販の検出器の写真(ORTEC社) [7]
‑
.47
≡酢1e 劔
20 40 60 80 1 00
hcided energy (MeV)
図2.ll: SRMコードによるSi中の各粒子の飛程
2.4.4 逆運動学法(hverse kinematics)
この方法は逆反応を利用し、二次粒子が核反応から持ち出すエネルギー以上のエネルギーを重心のエネ ルギーから得ることによって、生成した二次粒子を入射粒子の方向に収束させて一網打尽にする方法であ る【111】。つまり、逆反応では、中性子や陽子といった軽い粒子を加速する(正反応)のではなく・標的粒 子となるCやSiなどの重い粒子を加速し、軽い粒子の標的核に衝突させる(逆反応)。核反応を重心系で 記述すれば、入射粒子と標的粒子を入れ替えても、その断面積は等しい。
図2.12に正戊応を用いた場合と逆反応を用いた場合の実験室で観測される二次粒子の運動量ベクトルの 違いを示す。重粒子を加速する際はそのエネルギーのほとんどは重心系のエネルギーに使われるため、重心 系の反応に使われるエネルギーが等しくなるように正反応のときと同じvaで加速する。このことにより、
106 pm厚のSSDを使った場合、分解能が良くないため、電荷Zでの分離はできるが質壌Mの分離はできなくなる。
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重心系でみた場合の反応過程及びエネルギー、角度は正反応のときと等しくなる。この反応を実験室系で みた場合、重心系での放出ベクトルに重心ベクトル'¢ (ほぼ入射速度に等しい)が加わるため、粒子は重 心の速度に乗り前方に強く放出されることになる。またこのときの放出粒子のエネルギーは重心のエネル ギーに大きく影響されるため、そのエネルギーはほぼをMiVまで表され、重心速度(砧,α)と放出粒子の質 量だけの関数となる。
Nu由r T%Ction LJbratory sy細
Fbjedile Targ癖 血 飴mpJe
●
●
======コ●
lig ht parh'de hen particle
lnveT* kinena触s ruction
●
heavy parbckB (Si, C etc.)
■一一一一◆
l垣ht paTtide
(pTVtOn dc. )
■‑・●・
VC■≒○
E・ ‑iMLV・2
‑・ト悔・
VcN ≒ Y.
VcI≒ V.
図2.12:逆反応の概念図
このように逆反応を用いて、粒子を前方に放出させることにより高い効率で検出できる。さらに、正反応 を用いた場合、エネルギーが低くサンプル内で止まってしまい検出器に入ってこない二次粒子や検出器弁別 のしきい値より低いエネルギーの粒子に対しても、重心のエネルギーを与えることにより、しきい値以上の ェネルギ一にして弁別測定できる。つまり、核反応で生じた粒子はその放出エネルギー、放出角度によら ず、ほぼ100%の簸何学的検出効率で検出される。
実際、加速器遮蔽・線量評価・照射効果に重要であるの臥軽粒子による荷電粒子生成反応であるので逆 反応で検出された情報を運動学(kinematics)から正反応の情報に変換する。理論的には逆反応で得られた 粒子エネルギーと角度情報からkinematics的に正反応のときのDDXが導出される。しかし、測定される フラグメントのエネルギーと角度は重心の速度に支配されることや反応が特定できないなどの問題のため、
逆反応で得られた測定スペクトルから、正反応の際のエネルギーと角度の情報を引き出すのは難しいと考 ぇられる。しかし、検出効率が大きく、如何なる粒子でも測定可能であるため・反応断面積測定には大きな 力を発揮し、現在GSIll、 MSU12などの大型加速器施設で系統的なデータ【112, 113】が取得されている。
近年、 Uppsala大学Svedberg Labratoryにおいて半導体ソフトエラーに開通した核データを逆反応+オ ンライン質量分析器で測定しようとする試みが行われている【111]。図2・13に実験装置の概要を示す。タ ゲットとして水素の低温クラスタージェットターゲットを用い・加速したSiイオンを入射させる。 Siのエ ネルギーとして、核子あたり100MeV‑470MeV領域を測定対象としている。主な検出部はシリコンスト リップ検出器(SSD)とプラスチックシンチレークからなっており、 Oo方向に放出した粒子をZAD (Zero Angle Detector)で測定し、角度を持った粒子をSAD (SmallAngle Detector)やFWD (Forw打d Wan Detector)で測定する。図2.14はSADで得られたプラスチックシンチレ一夕の波高分布であるが、上記に 示したようにエネルギー分布が質量の分布となることより各粒子が同定される。この実験は2004年度から 開始されたばかりであり、まだ系統的なデータ取得には至っておらず、現在開発段階である。
11ドイツ重イオン研究所
12ミシガン州立大学(Na.tionalSuperconducting Cyclotron Labra・tory : NSCL)