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第3章  フラグメント測定システムの開発

3.2  従来のBCC手法の問題点

2.6節でも述べたが、 BCCはエネルギーダイナミックレンジを大きくできないという大きな欠点がある。

大きなェネルギ‑ダイナミックレンジは、生成フラグメントのエネルギースペクトルの全体像をみるのに 非常に重要である。 BCCのダイナミックレンジを大きくできない原因としては以下の二つの原理的な要因 があげられる。以下にこれらの要因についてそれぞれ述べる。

●高エネルギーフラグメントの突き抜け

●低エネルギーフラグメントのプラッグピークによる弁別限界

3.2.1高エネルギー軽フラグメントの突き抜け

重いフラグメントではガス中で完全にエネルギーを失い停止するが、高エネルギー軽フラグメントは、ガ ス中で完全にエネルギーを失うことができず、検出器を突き抜けてしまう。これは、粒子(電荷・質量)に よって検出ガス中に落とすェネルギ‑損失(dE/dx)の量が大きく異なるたわ、飛程が粒子種によって大き く異なることに起因する。

図3.7にBCCでよく用いられるガスであるPIO (Ar + 10%CⅡ4) 200torrにおける各粒子の飛程を示 すが、同じエネルギーでも粒子によって飛程が大きく異なることがわかる。 (例えば、 10MeVに着日する とα粒子の飛程40cm程であるが、 12C以上の重いフラグメントの飛程は5cm以下である。)また、検出 器長さを40 cmとした場合、 α粒子は10 MeVまでしか検出器に全エネルギー付与をしないが、 12C以上 の重いフラグメントでは50 MeV以上のエネルギーでも全エネルギー付与し、そのままェネルギ‑の測定 ができる。すなわち重いフラグメントを測定するためには、低圧のガスで十分であるが、軽い粒子を測定す るためには、ガス圧を大幅に上げる必要がある。しかし、ガス圧を上げることは次に述べるように、軽粒子 によるバックグラウンドの上昇や、さらに高い耐電圧、入射窓の耐圧の必要性につながり、メリットよりも デメリットの方が大きい。

Rangp in PIO伊S 【200 Torr]

10      20      30      40      50

Energy (MeV)

図3.7: 200 to汀PIOガスでの各粒子の飛程

0

0

3

2

(u

fo )a gu et L

ガス圧を上げることのデメリットは、以下のようなものである。

●放電の問題

●入射窓の厚さ

●軽粒子のバックグラウンド

●低エネルギーでの弁別

3.4節で述べるが、ガス圧を上げると電子の流動速度が落ちるため、それを補償するため極板により高い 電圧をかけ電子のドリフト領域に強い電界を形成する必要がある。また、流動速度が速く電離箱の検出ガ スによく用いられるPIOガス(Ar+10%CH4)は放電しやすく、あまり高い電圧をかけられない。

ガス圧をあげるとフラグメントの入射窓も厚くする必要があるが、フラグメントのエネルギー損失の面 からは入射窓を厚くすることは望ましくない。ガスに比べて入射窓は原子数密度が高いので大きなェネル ギ‑損失が生じ、低エネルギーフラグメントはそこにおいて止まってしまう。

また、ガス圧があがると軽粒子のエネルギー付与が無視できなくなり、バックグラウンドの増加や計数 率の低下を招く。次節で述べるが、ブラッグカーブが圧縮した形になるため、ピーク部分の取得が難しく なる。

3.2.2 低エネルギーフラグメントのフラッグピークによる弁別限界

3.1.2節で説明したように、 BCCは、粒子の原子番号Zに依存するプラッグピークを取得することによっ て粒子弁別を行う検出器である。プラッグピークは粒子の止まる直前での大きなエネルギー損失(dE/血) 現象であるので、均一な媒体中を十分なエネルギーを持った粒子が走れば、粒子によって常に一定の値を示 す。しかし、粒子がすでに止まる直前のエネルギーしか持っていないような場合、粒子はブラッグピークを 形成する間もなく全エネルギーを失い停止してしまう。そのため、こういった低エネルギー粒子について は、粒子弁別に必要なブラッグピークの情報が得られない。つまり、プラッグピークによる粒子弁別方法は ブラッグピ‑クを形成しうるエネルギーを持たない粒子に対しては無力である。よって、 BCCではプラッ グピークを形成するエネルギーが低エネルギー側の限界値になる。

図3.8、図3.9に媒質ガスにPIOガスを常圧の760to汀で用いた場合という条件でSRIMコードによって 各粒子100 MeVまで計算した各粒子のプラッグカーブと阻止能の図を示す。 BCCでは図3・8で示されるブ ラッグカーブ情報を検出ガスの電離密度の時間分布の形で取得する。図3・8、図319の両グラフのピーク値 を比べると、粒子のエネルギー損失量がピーク値に達する深さ(プラッグピーク)は粒子によってあまり大 きく違わないが、粒子のエネルギー損失量がピーク値に達するエネルギーは粒子によって大きく異なるこ とがわかる.これは、重い粒子では阻止能dE/dx(Ⅹ)が大きいため、ピークに達する深さまでにより多くの ェネルギ‑を物質に付与し、プラッグピークを形成するのに必要なェネルギ‑が大きく異なるためである。

また、ピークを形成するのに必要なェネルギ‑は、粒子自身の性質によるもので、媒質ガスの種類やガス 圧にはよらない。図3.10、図3.11に同じ媒質ガスでより低圧の200torrの条件でSRJMコードによって各 粒子100 MeVまで計算した各粒子のプラッグカーブと阻止能の図を示す。ガス圧が低くなったため媒質距 離に関する阻止能dE/dx(冗)は広がった形になっているが、エネルギー損失量がピーク値に達する深さ(ブ ラッグピーク)は粒子によってあまり違わない。一方、図3.11では、低圧のため全体的に低い値になって いるが、 760 to汀の場合と同様にエネルギー損失量のピーク値に達するエネルギーは粒子によって異なり、

図3.9と同じエネルギーでピーク値をとっているのがわかる。

図3.12に各粒子のプラッグピークを形成するのに必要なエネルギーを横軸原子番号Zとしてプロットし た。またこの図の直線はプラッグピークを形成するのに必要なエネルギーB・P・ ‑ Zとした線であるoブ ラッグピークを形成するのに必要なエネルギーはほぼZに比例しているが、軽い核ではZより若干小さい 値を示し、重い核ではZより若干大きい値を示している.

一方、図3.13にPIOガス200 to汀における各粒子のプラッグピークでの阻止能の計算値つまり理想的な プラッグピーク値を示すが、ほぼZに比例しているのがわかる。

以上、 BCCでのブラッグピークを用いた手法では、低エネルギー側に原理的限界があることを示した。

より低エネルギーにBCCのエネルギーダイナミックレンジを拡大するためにはブラッグピーク以外の新た なパラメータ検出が必要である。

3.2.3 その他の問題点 .数〝Sの遅い出力信号

また電子をアノード極板までドリフトさせてプラッグカープを取得する性質上、出力信号はドリフト速度 に依存し、数pSの遅い信号となる。高計数率測定には、なるべく流動速度の早い検出ガスが望まれる。

また、 BCCの問題点ではなく課題であるが、下記に示すようなものがある。

●同位体による粒子弁別

●中性子入射反応‑の適用

詳細な核データの提供という面では、同位体の粒子弁別が望まれるが、プラッグピークによる弁別では粒 子の原子番号でしか粒子弁別できないため、同位体の粒子弁別に適用するためには新たな手法の開発が必 要である。

また、中性子入射反応には、以上のような荷電粒子入射反応での問題以外にも中性子特有の問題である 高いバックグラウンドや低い入射粒子フラックスという問題が付随する。特に入射粒子のフラックスの強 度に関しては、中性子は一次粒子である陽子に比べて極端に小さい。また中性子は荷電粒子のように加速 器で加速できないため、数10MeV領域の単色中性子(実際は準単色)は数10 MeVに加速した陽子をリ チウムに当て、 7Li(p,A)7Be反応を経由し生成される。変換効率は非常に小さく・断面積にして‑35 mb/sr 程度である。実際、標準的な準単色中性子源施設である原子力研究開発機構高崎研究所TmRA施設の中性 子源をみると65 MeV中性子のピーク収量は4.82× 109 n/(ら,・p c)となっており、実際の照射場では〜106 n/(cm2・S)が限度である3。これは、数nAでの陽子入射反応の実験で用いられる粒子数の1/1000以下に相 当する4。よって、中性子入射反応に適用するためには検出器の検出効率を上げる工夫が必要となる。

次節ではこれらの問題に対する対策・解決手法を検討する。

3例えば、中性子源一サンプル距離を

3 m、サンプル径を5 cm、入射陽子の電流値を1.5J▲ Aとすると照射位置でサンプルに入射 する中性子数は1.58× 106 a/Sと計算される。

41 nAの粒子数は10‑9 ÷ 1.63×10‑19で6.25× 109 m/Sと計算される。

、℃         1 0         20

depth (cm)

図3.8: PIOガス760 torrにおける各粒子 のブラッグカープ

Brag CⅧⅣe h Plo gas l200 Torr]

Ⅶ         10         20

depth(cn)

図3.10: PIOガス200torrにおける各粒子

のプラッグカーブ

30

dE/dx in Plo BaS (760 Torr]

‑℃   1 0   20   30   40   50

E托Tgy (MeV)

図3.9: PIOガス760 to汀における各粒子 のエネルギーに対する阻止能

dE/dx h Plo gas l200 Torr]

、℃   10   20   30   40   50

Energy (Mew)

図3.ll: PIOガス200 torrにおける各粒子

のエネルギーに対する阻止能

(t tT OJ

^a yV )X PJ gT )

( 9]

^a Jd xp Ja P

0

10       20

Atomic number (初

図3.12:各粒子のプラッグピーク生成エネ ルギー

図3.13: PIOガス200 torrにおける各粒子

のプラッグピークでの阻止能