第2章 数10MeV核子によるフラグメント生成 断面積データの現状と測定法の検討
2.5 グリッドチェンバー手法
当研究室では中性子による二次荷電粒子検出券としてグリッドチェンバー(Gridded loni21ation Chamber : GIC、グリッド電離箱)を用いた方法に着目し、この測定システムの設計・開発を進めてきた【114】。これまでに、
この手法によって4〜14 MeVにわたる中性子エネルギー領域で、 Fb, Ni, Cu, 50crの(n,a)二重微分断面積、
敬lo keV中性子による14N(A,p)反応断面積について貴重な実験データを得ている【114, 115, 116, 87, 117]。
このグリッド電離箱の構造を図2.19に示す。この検出器はアノード・カソードの平行平板二極電離箱に 中間電圧を印加したグリッドを挿入したグリッド付き電離箱を、カソードを共通として二対背中合わせに組 み合わせたもので、カソード板上に薄膜試料を有している。中性子をグリッド電離箱外部から照射し、試料 上で反応を起こして放出された荷電粒子は、グリッド電離箱の幾何形状からほぼ全方向について測定する
ことが可能である。さらに、グリッド電離箱はそのアノードとカソードから出力を取り出しそれらを組み合 わせることにより、検出した粒子ごとにエネルギーと検出位置を決定することができる(詳細は第3章に示 すがカソード面上の箔試料から放出された粒子の角度情報はカソードからの距離と等価である)。したがっ て、前節で述べたカウンターテレスコープを用いた測定法に比べ優に50倍を超える効率で測定を行いなが
ら、放出粒子のエネルギーと角度の情報を得ることができる。
このグリッド電離箱を用いた手法の特徴を以下にまとめる。
0 4打の大きな立体角で測定が可能
●大立体角で測定しながら放出粒子の角度弁別が可能
.大面積の試料を用いながら良好な角度分解能で放出粒子の角度の測定が可能
このような特徴はグリッド電離箱手法に特有のものである。さらに中性子線に付随する7線に不感なこ と、アノード・カソードのコインシデンス測定による二次元データ処理によってバックグラウンドイベン ト除去が可能なことなども利点として挙げられる。これらの利点は中性子による二次荷電粒子スペクトロ メータとして非常に優れた性能をもたらす。図2.20に実際にGICで得られた二重微分断面積の例を示す が、 〜200keVほどのエネルギー分解能で得られており、十分に各励起レベルの弁別ができている。しかし、
この検出器は主に数MeV〜10数MeV領域での単一反応(例えば(n,α)反応)の測定用に開発されており、
それ自身での粒子弁別性を備えていない。数10 MeV領域の中性子に対する対するフラグメント測定にお いてはフラグメントの生成量が非常に少ないことが予想されるため、多粒子同時測定が行える検出器が求 められる。
図2.19:グリッド電離箱の模式図
4 5 6 7 8 9 10 Channel Energy 【MeV)
図2.20: En = 6.2 MeVでの58Ni(n,α)の
二重微分断面積:ポイントがGICによっ て得られた実験値(320 (上)と630 (下))、
実線が計算値である【117】。
‑ 1
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b o
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rJ sJ
^a MJ qu ]u O! 13 3S SS Oh U
2.6 ブラツゲカーブカウンタ(Bragg Curve Counter : BCC)
プラッグカーブカウンタ(Brag首 Curve Countα :以下BCC13)法はブラックピークの違いを利用して 粒子弁別を行い、放出荷電粒子のエネルギースペクトルを測定する手法である。検出凝自体はガス検出器 であり、上記で述べたグリッド電離箱(GIC)の一種である。主に電イオン入射反応の生成フラグメントの 弁別測定に用いられる。
この検出法では、単一のガス検出器に粒子を入射させ、粒子を低圧の検出ガス中を走らせることにより、
数Qnの距離で減速させ、その飛跡に沿ってエネルギーを付与させ停止させる。粒子のエネルギーはガス中 の原子を電離させるのに使われ、その単位距離あたりの電離量(比電離)は粒子のエネルギー損失(dE/也) に比例した分布となる。その電離量を距離の関数として得ることによって、物質中深さに対するのdE/dx の分布であるプラッグカープを得ることができる。図2.21に各粒子のdE/也(Ⅹ) (プラッグカーブ)を示 すが、その大きな特徴として、粒子が止まる寸前で急激に大きなェネルギ‑損失を起こし、プラッグピーク
と呼ばれるピーク値を示す14。 BCCでは、ブラッグピークを粒子が止まる直前の検出ガスの電離畳として 測定し、エネルギーを検出器内で生成された全電荷畳として測定する。プラッグピークは粒子の原子番号Z によって決まるため、この値を測定することによって図2.22に示すように、粒子の原子番号Zを同定する ことができる。さらにプラッグカープは、粒子のエネルギー、電荷、質慶の情報など粒子に関するほぼすべ ての情報を持っており、重荷電粒子測定に有用だと考えられる。
10 20 30 40
Rmgp (cm)
図2.21: Ⅱ〜Cまでの入射エネルギーに対
するdE/dxの違い、 Br喝g Curve (Ar +
10%CE4 200to汀中)2 4 6 8 10
Energy (MeV)
図2・22: Ⅱ〜CまでのEnergy vs. Bragg‑
peak (dE/dxの最大値)二次元プロット の計算値(Ar + 10% CH4 200torr中)
高エネルギー核物理学実簾における応用【120, 1211
ガス検出器であるBCCは、その構造上放射線損傷に非常に強く、多くの高エネルギー粒子が飛び 交う高エネルギー核物理学実験でのフラグメント測定に応用されている。核物理実験では、数GeV
13Br喝g Ctm Spectrometer (BCS)とも呼ばれる0
14当然このプラッグピークで局所的に大きなエネルギーが付与されるため、この現象は粒子線治療など応用されている。
の高エネルギー粒子を高Zの核種に入射させて、生成されるフラグメントを検出することにで、核破 砕反応メカニズム【1211や超励起核の研究が行われている【1201。
図2.23に京都大学とKEKを中心とするグループの実験体系を示す【120】。通常、 BCC法も他のカ ウンターテレスコープ法と同様に加速粒子で薄い試料を照射し、試料から放出される荷電粒子をある 角度に設置した検出器で計測する。ターゲットで生成したフラグメントはターゲット側の真空と検出 器側のガスを仕切る薄い窓から検出器に入射させる。単一の検出器であるため、この入射窓が検出器 の立体角を決定しており、入射窓を大きくすることで検出器の幾何学検出効率を大きくすることがで きる。これは、ガス検出器の大きな利点の一つであり、大きくすることが難しいSSD検出器やタイミ ング検出器によって立体角が決まってしまうE‑TOF法と異なり、自由度が大きい。検出器自体の大 きさも自由に決定できるが、ガス圧、流動速度、最大印加電圧、放電限界などのパラメータから決定 され、 30‑40cm程のものが主流である。
測定系では、アノード信号を電荷型前置増幅器(PreAmp.)の出力を異なる時定数の増幅器(Shaper Amp.)で微分することによって、プラッグカープからエネルギー情報とプラッグピークの情報を引
き出す。アノード電極はグリッドによってグリッド以前の検出領域が電気的に遮蔽されており、その 信号は、カソード・グリッド間の電界(‑1500V)によってグリッドに引き寄せられた電子がグリッ ドを通過した瞬間から計測される。すなわち、アノードで観測される電荷量の時間変化が、時間的に ブラッグカープを反転させた形で計測される。そこで、アノード信号を短い時定数で波形整形するこ とによって、粒子が止まる瞬間のブラッグピーク情報を取得し、全ての生成電子がグリッドを通過す るのに必要な長い時定数で波形整形することによって、エネルギー情報を取得する。アノード信号だ けで粒子弁別・エネルギー測定ができる。
図2.23: KEXのグループによるBCCによるフラグメント測定模式図【12ql
粒子が検出器内で失った全エネルギー情報とプラッグピークの情報の二次元プロットによって、粒 子ごとにROI15をかけることで粒子弁別をし、粒子ごとのエネルギースペクトル情報が得られる。図 2.24にAuターゲットに陽子12 GeVを入射させた際に900方向に放出されたフラグメントの縦軸 をプラッグピーク、横軸をエネルギーにとった二次元図を示す。ブラッグピークの違いから原子番号 Zで、酸素0からバナジウムVまで粒子が弁別されているのがわかる。一方で、酸素0からマグ
16Rcgion Of Interest
ネシウムMgまでの比較的軽いフラグメントにおいて、最大エネルギー付近で、一定であるはず16の ブラッグピーク値が折れ曲がっているのが見られる.これは粒子によって、物質中のエネルギー損失 (dE/也)つまりは飛程が大きく異なるため、重いフラグメントではガス中で完全にエネルギーを失 い停止するが、高エネルギー軽フラグメントは、ガス中で完全にエネルギーを失うことができず、検 出器を突き抜けてしまうためである。特に最もエネルギーを付与するブラッグピーク部が検出領域外 に抜けてしまうため、このような折れ曲がり現象が現れる。また、低エネルギー領域では、各粒子は 重なってしまい弁別できない。これは、図2.22でも明らかな様に、プラッグピークを形成しないほど エネルギーの低い粒子は、プラッグピーク情報が無いため原理的に弁別できないからである。そのた め、 BCC法では、検出エネルギーのダイナミックレンジはブラッグピークの弁別下限値から突抜エ ネルギーまでに限られる。図2.24の場合は、検出下限値は1.5 MeV/Aであり、上限はガス圧によっ て決まる粒子の飛程が検出器の大きさと同じになるエネルギーである。図2.25に得られたナトリウ ムNaのエネルギースペクトルを示すが、測定下限値は‑30 MeVで上限は〜95 MeVとなっている。
この測定エネルギー領域が狭いことがBCC法の大きな欠点であり、これを延ばすことはBCC法に とって重要な課題である。
tHo 20 40 60 ∞ 100120140160
h脚■Y)
図2.24: Energy vs. Bragg‑peak二次元プロットの例
【12q】
20 棚 00 ∞ 100 120
bWV)
図2.25:測定したエネルギースペクトルの例
(Na) 【12q】
一方、ドイツ、イタリア、ポーランドを中心としたグループで陽子入射による核破砕実験(Proton‑
Induced SpallAtion experiment : PISA)プロジェクトが現在行われている【121】。この実験において もフラグメント測定にBCCが用いられている。このBCCの特徴として、図2.27に示すようにBCC を突き抜けてしまうような高エネルギー粒子を測定するため、 BCCの後ろにSSD検出器を配置して いるo さらに、低エネルギー方向にエネルギー領域をのばすために、アノード信号の取得にフラッシュ ADC (FADC)を採用し、ブラッグカーブの波形17を直接測定している。 BCCに波形処理を適用す ることで、いろいろな情報を持つブラッグカーブを最大限に利用できる。図2.27に示すように、ブ ラッグカープを測定することによって一つの検出器で、エネルギー情報、プラッグピークの情報だけ でなくAEの情報が得られる。
プラッグピーク値の最大値をとる深さ(Ⅹ)は粒子によって異なるが、図2.23に示すような回路に よる手法では粒子種毎によって微分時定数を変えることはできないため、すべての粒子に対して最適
16プラッグピーク値は粒子が止まる直前に落とすエネルギー規矢であるため、入射エネルギーによらず一定になるc