第二章 過渡期における現代的株式会社形態と国有企業の齟齬
第一節 株式会社制度の設計およびその問題 1 資産の株式化における制度設計の問題
2 現代株式会社法の機関設計およびその問題点
前述したように、中国では市場化および国有企業改革にともない所詮法規定、政策など をもって社会主義の国有体制において所有と経営の分離の試みをして株式制度を進める方 向を示した。
そして株式会社機関の設計において、日本を模倣して三権分立の機関説をとった。しか し、前述した株式会社制度導入のステップをみると分かるように、中国の最初の株式会社 における株主は国、従業員、経営陣により構成し、国有企業の上級行政機関により派遣さ れてきたものが取締役となり、これらの人達が取締役会を構成し、監査役は国有企業にお ける党の組織と労働組合の構成員が肩書きを変えただけであった。
各企業では、工場長が会社の法人代表となっており、工場長と同じく指導者として共産 党委員会の書記官がいて、工場長と書記官はおよそ上級の行政機関から派遣されてきてお り、公務員の身分を兼任していた。また、従業員の利益を守るために労働組合(原語:「工 会」という)を設置しており、労働組合の責任者を「工会主席」といい、工会主席は従業 員により選出され、工場長と書記官を監督する地位となっており、従業員の中から選出さ れていた。
そして、国有企業では、かつてより存在した組織である党委員会、従業員代表大会、工 会(労働組合)などを「老三会」と称し、また、国有企業の株式化にともない株主総会、
取締役会、監査役(会)制度を確立しているが、これを「新三会」といい、企業の現代化 において新三会が老三会を代替するか並立していた。代替した場合というのは、工場長と 党委員会が取締役会を構成し、労働組合が監査役会、従業員代表大会が株主総会(従業員 持株会)となった。こうして株式会社の機関の形だけ整って、元国有企業の経営陣がその まま現代企業制度の機関を運営すると制度導入の意味がないように思われるが、こんな無 理をしないと改革ははじまらないから仕方なかったかもしれない。
そして、国有企業改革は前後として、工場長、支配人請負制度、所有と経営の分離、経 営メカニズムの転換、政治・企業の分離等の段階を経ていた。しかし、こういうメカニズ
ムは地雷をうめたみたいに、証券市場・株式制度の発展段階においてその弊害を呈したが、
政府・経営陣の圏銭のための場には成り立った。全国民が証券市場に連れられ、国民も政 府も全て「金・金」をめぐって動く世界となり、証券市場はいよいよと骨の髄まで吸い取 られる窮地に至り、証券市場の健全性が破壊される状況となった。今後、企業における政 府支配、会社制度の健全性をはかることにより証券市場の透明性をはかり、投資者は政府 にたよらず自主機関を設けることが最も重要であると思う。しかし、中国の国民の素質・
意識はまだ高くなく、金がない仕事には誰も手を貸そうとしないのである。この状態が続 くと依然として政府に左右されるしかない。なお、これらの問題が発生したのは、企業の 統治構造にも問題があったように思われる。
周知のとおり、会社の機関は、会社を動かし経営する機関とその経営を監督する機関に より主として構成されているが、各国の株式会社制度ではいまだにこれだという制度の模 索がまだできていないのである。中国でも同様に、株式会社の現代化の名目で設置された 各機関が形骸化した現象が生じた。元の国有企業の経営人員が変わらず、イデオロギーが 変わらない限り、如何に立派な会社の統治機構があってもうまく作動するはずがない。
会社法の諸規定をみると、中国でも明らかに現代化をはかるための努力をしていた。た だし、ほとんどの経営者および政府の指導者らは現代化が企業・地方政府の目の前の財政 難さえ解決できればいいと思ったようである。ここで、会社法における各機関に関する規 定を考察し、これを株式制度の導入・運用の実態と比較するとなぜ制度と実践のギャップ が生じたかがわかる。
現代株式会社法における会社の各機関
株式会社
株主総会 取締役(会) 監査役(会)
総裁(執行役)
取締役会秘書(新会社法)
中国では形式上法制度も整備され、株式会社・有限会社の実態を備えた現代企業も建設 されているが、非常に拙速な作り方をとっている制度は機能せず、制度と実務間にはギャ ップが生じ、未成熟な制度の弊害がそのまま露呈した。そして世間ではその弊害をほぼ国
有株の存在に帰結しているが、筆者が思うに、それも一つの原因であるといえるが、経営 者支配の弊害を含む他の原因も重要である。本節では中国における会社機関制度の問題点 を指摘することをその目的としている。
ⅰ.株主総会
中国の旧会社法は中小株主の利益保護、株主総会運営規制が整備されていない状況であ った。旧会社法においても株主の権利についてさまざまな規定28を置いてはあったが、その 不備による問題は以下の面において主に現われた29。
第一に、旧会社法では、臨時総会の必要性、時間等臨時株主総会の規定を設けているが、
株主による自主的召集権と監査役会による特別召集権については何らの規定もなく、また 取締役会が権利を濫用して臨時株主総会を開かない場合は如何なる責任を負うべきかにつ いても明確な規定を設けていなかった。第二に、会社法は委任状による投票について原則 的規定は設けているが、委任状による投票の有効要件に関する規定がないので、実務にお いて委任状による投票は混乱をもたらしている現象が生じていた。第三に、会社法は株主 に代位訴訟権または株主代表訴訟について規定していなかった。第四に、会社法は、株主 総会決議に瑕疵がある場合、それに対する法的救済規定を設けていないし、かつ株主が訴 訟の権利を行使しうる条件と手続きについても明確に規定しなかった。つまり、株主総会 は形骸化し、会社の決議機関としての役割を果たしていなかった。ただ、2005 年の新会社 法はこれらの問題に照らして、全てに対応するようにしている。
ここで、新会社法の規定をみることにする。新会社法では:①株主権利を拡大する規定 を増設した。すなわち、新会社法 98 条では、株主に会社書類の閲覧権を与えた。同規定に よると「株主は、定款、株主名簿、社債原簿、株主総会の議事録、取締役会会議の決議、
監査役会会議の決議および財務会計報告を閲覧し、会社の経営について提案または質問す る権限を有する」とした。同条文は、株主の閲覧権、提案権、質問権についての規定であ る。旧会社法第 110 条における株主の閲覧権の適用範囲を拡大し、取締役会会議の決議お よび監査役会会議の決議に対する閲覧権を増やした。これは、株主がアクセス権を実現す るための重要なルートであると考えたからである。ただし、株主が閲覧をする範囲は、上 記二つの会議の決議に限られるものであり、二つの会議の議事録は対象に含まれない、と いうことは、指摘するに値するであろう。
なお新会社法第 170 条第 1 項において、「会社は、会計監査業務を担当する会計士事務所
28株主総会への出席権および議決権(第
106
条第1
項)、会社の定款株主総会議事録および帳簿 閲覧権(第110
条)を与え、株主提案権(第110
条)、質問権(第110
条)、株主総会招集権(第104
条第3
項)について規定し、なお株主の適法的な権利が損害を受けた場合に関する株主総会 および取締役会決議につき、裁判所に違法行為および侵害行為の差し止めを求める権利(第111
条)についても規定し、株券交付請求権(第136
条)、新株引受優先購入権(第138
条第4
項)、株式譲渡権(第
143
条)、利益配当請求権(第177
条第4
項)、剰余財産分配請求権(第195
条 第3
項)ついて規定した。29 趙旭東編『新旧会社法比較分析』、人民法院出版社、2005年
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月出版。を招聘し、または解任する場合には、定款の定めに照らして、社員総会もしくは株主総会 または取締役会が決定する」と規定した。更に、新会社法 101 条において臨時株主総会提 案権30について規定した。②株主の議決権行使31に関する制度の整備をはかった。③管理、
監督機関が職務を履行しない場合に関する解決策もはかった。取締役または執行役が株主 総会の招集と運営において職務履行が不能または履行しない場合に、一定の議決権を有す る株主らはみずから株主総会を招集し・運営することができる32。これらの規定によりかり に利害関係をもっているものによる招集により利益衝突が生じた場合に解決策を提供し、
会社機関の有効的な運営を保障しようとしている。④株主代表訴訟に関する規定33をもうけ た。株主代表訴訟権利は株主代表訴訟と株主の直接訴訟34二つの内容が含まれている。
30第 101 条:株主総会は、毎年一回の年度会議を招集・開催しなければならない。次に掲げる事 由のいずれか一つがある場合には、二カ月内に臨時株主総会を招集・開催しなければならない。
(1)取締役の人数がこの法律に定める人数または定款に定める人数の三分の二に満たない場合、
(2)会社が未だ補填しない欠損が実際に払い込まれた株式資本総額の三分の一に達した場合、
(3)単独で、または合計して会社の百分の十以上の株式を保有する株主が請求する場合、
(4)取締役会が必要であると認めた場合、
(5)監査役会が招集・開催を提案した場合、
(6)定款に定めるその他の事由。
31第 104 条:「株主は、株主総会の会議に出席する場合には、その保有する一つの株式毎に一つ の議決権を有する。ただし、会社が保有する当該会社の株式については、議決権がない。」
②株主総会は、決議をする場合には、会議に出席する株主の保有する議決権の過半数による採択 を経なければならない。ただし、株主総会は、定款を変更する決議、登録資本を増加または減少 する旨の決議および会社を合併し、分割し、解散し、または会社形態を変更する旨の決議をなす ときには、会議に出席する株主の保有する議決権の 3 分の 2 以上による採択を経なければならな い。
32第 41 条:有限会社に取締役会を設ける場合には、社員総会会議については、取締役会が招集し、
董事長が主宰する。董事長が職務を履行することができない場合または職務を履行しない場合に は、副董事長が主宰しをする。副董事長が職務を履行することができない場合または職務を履行 しない場合には、半数以上の取締役が共同して推薦した一名の取締役が主宰する。
②有限会社に取締役会を設けない場合には、社員総会については、執行取締役が招集し、主宰す る。
③取締役会または執行取締役が社員総会会議を招集するという職務を、履行することができない 場合または履行しない場合には、監査役会または監査役会を設けない会社の監査役が招集し、主 宰する。監査役会または監査が招集し、および主宰をしない場合には、10 分の 1 以上の議決権 を有する社員は、自身で招集し、主宰することができる。
33新会社法第 152 条:取締役および高級管理職にこの法律の第 150 条の定める事由がある場合に は、有限会社の社員または株式会社の連続して 180 日以上、単独で、または合計して会社の百分 の一以上の株式を保有する株主は、書面を以って、監査役会または監査役会を置かない有限会社 の監査役が人民法院に向けて訴訟を提起するよう請求することができる。監査役にこの法律の第 150 条に定める事由が生じた場合には、左記の株主は、書面を以って、取締役会または取締役会 を置かない有限会社の執行取締役が人民法院に向けて訴訟を提起するよう請求することができ る。②監査役会もしくは監査役会を置かない有限会社の監査役または取締役会もしくは執行取締 役は、前項に定める株主による書面の請求を受けた後に訴訟を提起することを拒む場合、請求を 受けた日から起算して 30 日内において未だ訴訟を提起しない場合または状況が緊急であり、直 ちに訴訟を提起しなければ会社の利益に回復の困難な損害を与えるおそれのある場合には、前項 に定める株主は、会社の利益のために自己の名義を以って直接に人民法院に向けて訴訟を提起す る権利を有する。
③他人が会社の適法な権利・利益を害し、会社に損失をもたらした場合には、本条の第一項が定 める株主は、前両項の定めにより人民法院に向けて訴訟を提起することができる。
34新会社法第 153 条:「取締役および高級管理職は、法律もしくは行政法規または定款の定めに