第 三章 現代化と会社の博弈
第二節 不正企業に対する制度の対応 1 粉飾決算および会計監査制度
4 上場=国有企業に対する政府の褒美?
ここで紅光実業企業の株式会社への改組、上場過程を取上げ、政府の意図的行為が資本 市場の不安定をもたらした要素であることを再度強調したい。
◎紅光実業の事例160
紅光実業は成都紅光実業株式有限会社の略称であり、1997 年 6 月に上海証券取引所に上 場した企業である。同企業の前身は、国営紅光電子管工場であり、1958 年に成都市工商行 政管理局に登記した全民所有制の企業であり、中国で初めてカラーテレビのブラウン管を 生産した企業として知られている。
紅光実業は、成都市体制改革委員会の認可を経て、1993 年の 5 月に国営紅光電子管工場 の生産経営性の純資産を投入し、四川省信託投資会社、中国銀行四川省支店、交通銀行成 都支店とともに発起人として、縁故募集の方式で会社形態に組織変更された。そして、1995 年に、四川省人民政府の認可を経て全国現代企業制度試行企業に選ばれた。
その後、中国証券監督管理委員会の認可を経て 1997 年 5 月 23 日に一株当たり 6.05 元の 価格で一般株主に 7,000 万株を発行し、一般株主の持株比率は発行済株式総数の 30.43%と なり、同発行により 4.1 億元の資金を調達した。しかし、同社は上場してまもなく不正行 為が発覚した。同社の一連の上場操作をみると、まさに政府が手助けしたようにみえる。
①上場のための会計操作
中国では、最初上場会社に対し、「株式発行総数を制限」する政策を実施した。財務書類
160 「紅光案と中国の会計監査制度」、中国会計士協会編集≪業種法制動向≫2003年
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月、第1
期。は上場手続きにおける肝心な情報として扱われていた。財務書類の数値に基づいて中国証 券監督管理委員会は上場を認可し、発行価格を承認していた。紅光実業が開示した財務書 類は、成都市蜀都会計事務所の会計監査を経ており、上場前の直近三年の売上および利益 総額の状況は以下の通りであった(単位:万元)。
項目/年度 1996 年 1995 年 1994 年 主業務収入 42,492 95,676 83,771 利益総額 6,331 11,685 9,042 純利益 5,428 7,860 6,076
紅光実業は、1997 年 4 月、公開発行の前に、一度 1:04 の比率で株式を縮小し、4億株の 株式総数を 1.6 億株に減らした。また、株式を縮小した後の株式総数をもって直近三年の 純利益をもって一株当たりの収益を計算し、遡って 1994 から 1996 年まで計算し、この期 間中において、税引き後の利益は、0.380 元、0.491 元、0.339 元と計算されていた。こう いう数値を下に、更に一株 6.05 元の価格で発行した。
こういう財務情報以外に、上場会社の発展展望に関する情報も重要である。素人がみて も、中国証券監督管理委員会は、発展の見込みがない上場会社を許可してはならないのは 当然である。会社展望に関する作成文は、目論見書および上場会社公告書の主要なテクニ ックとなっていた。開示書類としての同社の目論見書および上場公告書をみると、前途有 望な電子企業であると書かれていた。なお、会計監査を経た数値をみると、会社の 1997 年 の全年度の純利益は、7,055 万元、一株当たりの税引き後の利益は、0.3063 元であった。
しかし、これらの数値は、いずれも虚偽の情報であった。
②不正の発覚
紅光実業は 1997 年 6 月に上場発行し、4.1 億元を調達し、同年度の有価証券届書による と 1.98 億元欠損しており、一株当たりの収益は、-0.86 元である。上場した年度に欠損し たのは、中国証券市場にかつてなかったことである。そこで、中国証券監督管理委員会は、
調査を行い、結果を公布した。
―虚偽の利益を偽造し、上場資格を騙し取ったことが判明した。紅光実業が株式発行上場 書類の届書において 1996 年に 5,000 万元営利したと称したが、調査した結果によると、製 品の売上を偽造し、棚卸商品を増加し、不正な財務処理を行うなどの手段で 15,700 万元の 利益が虚偽であり、1996 年に実際 10,300 万元欠損していた。
―欠損金額を少な目に開示し、投資者を騙した。紅光実業は上場後、1997 年 8 月に公布し た中期報告において 6,500 万元欠損しているが、純利益が 1,674 万元であると虚偽の開示 をし、虚偽に利益を 8,174 万元であると届け出た。1998 年の 4 月に公布した 1997 年の年度 報告においても実際 22,952 万元欠損したのを 19,800 万元欠損したと届け、3,152 万元を少 なめに報告した。
―重大な事項を隠した。紅光実業は、株式の発行における上場届出資料において、生産設
備の減価償却率が上昇し、正常な生産を維持できない状況については開示しなかった。会 社の欠損という事情があると上場資格を得るはずがないのである。かりに上場資格を得た としても資金調達の目的を達成することができないのである。
―訴訟および結果。巨額な欠損の情報が発覚し、株価が大幅に下落しており、資本市場に おける投資者の損失は重大であった。1998 年 12 月に、上海の投資者である民間人の女性が 上海市浦東新区人民法院に紅光会社の経営陣を対象に提訴した。2000 年の初め、上海市呉 某がまた成都市において再度紅光会社の経営陣を対象に提訴したが、「提訴人の損失と被提 訴人の不正行為は必然的な因果関係を有せず、同紛争は人民法院の受理範囲に含まれてい ない」という理由で不受理となった。
一般投資者らの提訴が不受理となったが、2000 年 1 月に、成都市人民検察院は、成都市 中級人民法院に株式虚偽発行罪で公訴し、2000 年 12 月 14 日に、成都市中級人民法院は株 式虚偽発行罪で紅光実業に 100 万人民元の罰金決定を下した。なお、関連責任者は、3年 の有期懲役に処するとした。
同事件では、偶々検察院が役割を果たして会社法で規制できなかった分を刑事罰で処理 しているが、あらゆる事例について、民事責任を追及ができない場合、即行刑事罰で処理 できるかというとそう簡単に行かないのである。一つは、経営者の経営行動を萎縮するお それがあるし、もう一つは経営者と公的機関が癒着関係をもっているため、検察院のよう な公務機関が中々動き難いのが事実である。
③政府の「役割」―不正「支持」の源泉?
株式会社の上場は、経営陣、支配株主、株式市場の投資者、仲介機構、地方政府、中国 証券監督管理委員会というステークホルダーの利益衡量に関わっている。紅光実業のよう な会社があるということは、会計情報開示制度がまだ整備されていないこと、政府が株式 会社の上場において如何なる役割を果たしたかが十分窺える。
政府は経済規則の制定者および監督者であり、市場運営には参加しないはずである。し かし、中国では数十年間国有経済モデルの下で、政府が経済活動に自ら関わるようになっ た。また、長い間、地方政府および中央政府の間には利益対立もあった。これは国有企業 の上場過程にも現れた。ある地域の経済発展過程は、一つの級の政府が高度に関心を寄せ ているところであり、中央政府が上場クォータ制度を実施する前提条件の下で、地域にお いてより多くの会社を上場させるのは、各級政府の義務当然となっていた。
各級政府は経済発展を目標とし、虚偽会計情報については監督しなかった。中国の国有 企業の多くは欠損していたので、欠損企業を資本市場に押し出しと、「困難」企業が巨額の 資金を調達できるだけではなく、倒産危機を緩和することもでき、地域経済の活性化をは かることもできると判断された。かつて、ある地域における上場会社数は地域経済発展の 一つの特徴となっていた。事実上、虚偽の会計情報の「助け」がないと、ほとんどの国有 企業は上場できなかったはずである。
紅光実業の上場過程においても、地方政府の参与度は非常に高かった。これは紅光実業 の上場公告書および目論見書の公開開示においても既に示された。成都市体制改革委員会、
四川省人民政府の許可書類がないと紅光実業会社は上場できないはずである。例えば、1992 年に同社を株式会社化したのは、それは時代の流れによる政府の責務であり、ハイテク技 術企業と認定されたのは更に企業に錦上に花を添えたのと同様で、四川省政府により全国 百社の現代企業制度試行企業とされたのは、地方政府が同企業に対する「格別な配慮」で あるといえる。
なお、同企業を救うために地方政府は企業再編を行う措置を講じたが、企業再編の相手 の確定においても地方政府が直接関与していた。実際、政府は企業の偽計を黙認するしか なかったのであろうか。同企業において問題が発覚したときに、政府には何らの責任も問 われなかったが、会社法制の健全な発展、会社法制の信用度を高めるために、もっとも中 国の特徴のある会社制度として、政府責任および賠償制度も整備すべきではないかと思う。
勿論、行政法において国家賠償法が存在しているが、それは会社法には適用されないし、
中国の株式会社および市場において国はまだ完全に退出する予定がないので、会社法にお ける国の位置づけを新たに検討する必要がある。
また、不正といつもセットになっている仲介機構の役割をみることにする。結局仲介機 構が怖いもの知らずに企業と馴れ合い行動を行うのも、国の制度設計に問題があるのは確 かである。
④仲介機構
国有企業の改組上場過程において関連する仲介機構として、資産評価事務所、会計士事 務所、証券会社、弁護士事務所がある。その中で、資産評価事務所は、上場会社の資産、
負債などに対し価値評価を行い、会計士事務所は上場会社の直近三年の経営業績および財 務状況について会計監査を行い、証券会社は上場申請の全過程、例えば上場前の指導、上 場関連資料の準備および最終的上場・発行などに対し責任を負い、弁護士は主に関連書類 に対し法律意見書を提出するのである。
中国証券監督管理委員会が公布した資料によると、紅光実業会社が上場過程で支払った 各種費用は 1,400 万元である。その内、中興信託投資有限責任会社に 8 万元、中興企業託 管理会社に(紅光会社の財務顧問)100 万元、成都資産評価事務所に 10 万元、蜀都会計事 務所に 30 万元、四川経済弁護士事務所に 23 万元、北京市国方弁護士事務所 30 万元の費用 を支払った。中国証券監督委員会は、調査した結果に基づいてこれらの仲介機構に過料の 処罰を下した。中興信託に 200 万元(業務収入の 25%)、中興企業託管に 50 万元(業務収 入の 200%)、四川省経済弁護士事務所に 20 万元(業務収入の 200%)、国方弁護士事務所 60 万元(業務収入の 200%)の過料をし、証券会社の株式販売および自営業業務許可を取 上げ、会計士事務所の証券業務を 3 年間停止し、その他関連責任者の資格を取上げ、証券 市場への立ち入りを禁止した。