第五章 制度不備に対する政府の対処
第二節 株式会社に対する監督管理システムの強化
中国証券監督管理委員会は、アジア金融危機および証券市場における投機行為に対処し、
リスクを防止することを目的に、中国証券市場の健全な発展をはかって、1997 年から 2001 年の期間において 100 個以上の市場ルールを公布した。本節では、その中で監督管理シス テムを強化するために導入された独立取締役制度のみを取上げて検討する。
―独立取締役制度の導入
この時期にもう一つ注目できるのは、香港証券監督管理委員会の史美林氏が中国証券監 督管理委員会の副主席に就任したことである。同氏は、就任してすぐ証券市場に対する監 督管理を強化する措置を講じた。その措置の一つとして独立取締役制度の導入され、導入 段階から現在に至るまで議論が耐えない状況となっている。
2001 年 8 月 16 日に中国証券監督委員会から「上場会社において独立取締役168制度を確立 する指導意見」(以下指導意見と略称)が公布された169。この「指導意見」により、中国に おける上場会社は、2002 年 6 月 30 日までに、取締役会構成員として最低2名の独立取締役 の選任が要求され、2003 年 6 月 30 日までに、取締役会構成員の 1/3 を独立取締役とするこ とが要求されることとなった。
―独立取締役制度導入の過程
独立取締役制度を正式に導入する前、中国証券監督委員会と各行政機関及び地方政府は 株式会社の経営監督組織の試行作業として続々と独立取締役制度を部分的に実施してきた。
◎地方・各証券取引所の動き170
―2000 年 11 月に、上海証券取引所は「上場会社コーポレートガバナンスガイドライン」(草 案)を公布した。当該「ガイドライン」には、上場会社は少なくとも2名の独立取締役を 設置すべきであると規定されており、かつ、独立取締役は取締役会の 20%(取締役長と総 経理を一人が兼任する場合はこの比例は 30%に達することと規定されている)以上を占め なければならないと規定した。取締役会の所属委員会―報酬委員会、指名委員会、会計監 査委員会は、主に独立取締役で構成されるべきであり、委員会の執行主席も取締役が就任 すべきであると規定している。
―2001 年の初めに、深圳取引所では「上場会社における独立取締役制度実施のガイドライ ン」を公布しており、独立取締役の資格と職責に関して詳しく規定した。
―会社統治機構の整備において、地方政府の規則を取上げることもできる。(ⅰ)2001 年 1 月、深圳政府が公布した「深圳市国有企業改革と発展をもう一歩加速化させることに関す る実施意見」(以下「深圳意見」と略称する)があり、そこには国有資産管理会社に「適切 比例」の独立取締役を取り入れるべきであると規定されていた。(ⅱ)2000 年末に、河北省 政府は「会社法人統治機構を規範化する暫定方法」を公布し、会社は経済、金融、法律と 証券などの方面における専門家を独立取締役として設置するべきであると規定した。しか し、取締役会での独立取締役の比例に関する規定はなく、各会社は定款を持って規定する
168 中国では独立取締役と称する。
169 中国の証券市場は「証券取引法」を主体として関連する行政法規、部門規定(日本の省令に 該当すると思う)を補助に規制されている。部門規制は強制力をもっている。
170
Donald C. Clarke著羅培新訳「独立取締役と中国会社統治―上場会社における独立取締役
指導意見分析」6頁を参照。
http://article.chinalawinfo.com/article/user/article_display.asp?ArticleId
。2001年11
月清華 大学商法研究センター「投資者利益保護―国際経験と中国実践」シンポジウム資料。ようになっていた。
上述したように各証券取引所と地方政府は、会社の統治機構における独立取締役規制の 導入を既に試みていた。
◎中国証券監督管理委員会(CSRCとも称する)の動き171
中国証券監督委員会も、独立取締役制度の強制的、本格的な実施の前に、既にその動き を見せていた。中国証券監督委員会は政府の行政部門であり、監督委員会により公布され た条令172は、上場会社に対して強制力を持っている。
―1997 年の 9 月に、証券監督委員会は「上場会社定款ガイドライン」を公布した。このガ イドラインでは、独立取締役に関してほとんど規定しておらず、上場会社は需要により、
独立取締役制度を確立することができると規定すると共に、独立取締役の資格をも設けた173。
―1999 年の 3 月に、国経済貿易委員会と中国証券監督委員会は連合して「国外における上 場会社の規範化運営促進と改革深化の意見」174を公布したが、そこには「H株会社において 独立取締役を2名以上確立することができ、その2名以上の独立取締役は、臨時株主総会 を開くことを提案することができる」と規定されていた。これによって、中国は独立取締 役制度を導入するための経験を積むことができたのである。
―2000 年の 8 月に、証券監督委員会は「マイナ市場(ナスダック市場に類似する)での上 場規則(草案)」を公布した。当該規則では取締役会構成員の 1/3 を独立取締役にするよう 要求した。
―2001 年の 1 月に、証券監督委員会は「証券会社の内部支配ガイドライン」を公布し、証 券会社内部組織機構に関して規定した。そこでは、さほど明確ではないにしても、証券会 社は「独立取締役」の監督機能を発揮させるべきだと規定していた。
―2001 年の 6 月 20 日に、証券監督委員会は「証券会社管理方法」(意見聴衆稿)を公布し た。この「方法」では、次の幾つかの場合において、取締役会構成員の 1/3 を独立取締役 にしなければならないと明確に規定した。すなわち、取締役長と総経理を一人が兼任する 場合、取締役会の構成員の中で内部取締役が約 1/5 を占めている場合、証券会社の信義不 足で株主の利益に損害を与える場合、証券会社の主管部門、株主総会または証券監督委員 会が必要であると認めた場合である。
―2001 年の 9 月に、「上場会社における独立取締役制度を確立する指導意見」の公布後、証 券監督委員会は「中国上場会社コーポレートガバナンス準則(意見聴衆稿)」を公布した。
しかし、中国における独立取締役制度は、歴史が浅いこともあり、その職責・責任など についてはまだまだ不明確な点も多い。そうした中、近時、独立取締役に対して企業の上
171 前掲注(165)Donald C.
Clarke著羅培新訳、7
頁。172 虞建新「中国における独立取締役制度の導入について」月刊監査役461号(2002年
7
月号)条令の翻訳において
17
頁以下を参照173 会社の株主または会社株主の職員、会社の職員、会社と関係をもっている人は独立取締役 になってはいけないと規定した。
174 中国マクロ経済情報ネットhttp://www.macrochina.com.cn/2001年
6
月29
日場時における粉飾決算について行政処分が下された事例が現れた。この事例において、処 分を下された独立取締役は、その処分を不服として、処分を下した中国証券監督委員会を 被告として訴え、責任の有無を裁判で争うこととなった。最終的に、裁判所は手続き上、
訴訟期限を超えたことを理由に原告の起訴を却下し、原告側の敗訴で訴訟が終わってしま った。この事例は独立取締役が絡まれた初の事例として注目を浴びた。ここでは、この事 例を契機に、中国における独立取締役制度の近時導入状況について若干紹介する。
◎事案の概要175
本件は、上場会社である鄭州百文株式会社176(以下「鄭会社」と称する)の不祥事問題が 発覚し、2001 年の 9 月 27 日に、中国証券監督委員会が「2001」19 号にて行政処罰177の決定 をしたことがきっかけとなっている。証券監督委員会は、株式発行条例 74 条第 2 項178の規 定により、鄭会社の取締役長李福乾、副取締役長魯一徳にそれぞれ 30 万元と 20 万元の罰 金を、陸家豪179を始めとする 10 名の取締役には 10 万元ずつ過料を科した。しかし、取締役 の一員として、陸は上記の行政処罰を不服として行政再議を申立て、2002 年の 2 月に、証 券監督委員会は行政再議の結果を公布した。証券監督委員会は、上場会社の年度有価証券 報告書は取締役会決議を通したものであるため、陸は取締役としてその真実性に対して責 任を持つべきであるとした。独立取締役として、会社の日常の経営管理に参加しなかった こと、報酬手当てをもらっていないこと等を理由として、処罰を減免することはできない と認定した。そこで、陸は 4 月 22 日に中国証券監督委員会を被告として、北京市第一中級 人民法院に 10 万元過料の決定を撤回することを求めて起訴した。6 月 20 日に、法規定によ って公開審理180が行われた。2002 年 9 月 25 日、北京市中級人民法院は「法定起訴有効期限 を超えていること」を理由として、陸の起訴を却下した。陸は一審判決を不服とし,上訴 期限内に北京高等裁判所に上訴した。これに対し、上訴審は原審を維持するとの判決181を下
175 「中国で独立取締役が処罰された第一案」参考中国弁護士網
2002
年12
月13
日http://www.chineselawyer.com.cn/
176 鄭百文会社―http://news.sdinfo.net/2001-02-02
河南省の唯一の上場会社である。地方政府も注視し、保護する企業であった。財務状況の悪化、
販売ネットの遅滞、管理上はコントロールできない混乱の状態だった。1999年から会社は復帰 できなくて,特別処理の範囲(ST)に入った。2000年度は国有企業改革の模範であった鄭会 社は空になっている状態だった。
177
http://www.csrc.gov.cn/CSRCSite/default.htm
178 中国では会社法と証券取引法以外証券監督委員会の規制をもって株式会社及び上場会社を 規制している。その中の一つとして「上場会社における株式発行条例」があるが、当該「発行条 例」74条
2
項はー「上場会社の情報開示に関して取締役は責任を負うべきであり、かつ連帯責 任がある。」と規定されている。179 本件の原告陸家豪179は鄭州大学外国語学部の副教授である。
180
6
月20
日法廷審査の状況―中国証券報2002
年6
月21
日報道。181北京市中級法院より提供:判旨―本件で陸は行政訴訟法上規定された起訴期限を超えたのは 事実である。上訴した裁判所である北京市高等裁判所では、陸の起訴を却下する一審判決を維持 すると判決を下した。2002年