第6章 年中行事
第 1 節 正月
(1)正月の準備
[大掃除]
12 月中旬から下旬にかけて大掃除を行なう。旧家 では 12 月 29 日か 30 日に大掃除を行なう例がある など月末近くに行なうことにしている家が多い。現在 は窓ガラス拭きを必ず行なうなどとする家もあるが、
大掃除は日常の掃除の延長線上のため、特別なことは しないと説明される。茅葺き屋根の時は、ササダケ(笹 竹)を使って屋根裏の煤払いをした。これをスシハキ、
ススアゲまたはススハライと呼ぶ。煤払いは男性の仕 事とすることが多い。
神棚、仏壇も掃除する。神棚のゴシンプ(御神符、
神札)ほか飾りはこのときに下げて床の間にまとめて おき、年が明けてからオミョウジンサマと呼ぶ屋敷神 の前で焼くか、若宮八幡神社のどんと祭で焼く。大掃 除に際してカマ神の目玉を拭き、墨で目玉を書き直す といった家もある。
上宿のある家では大掃除の後に「鬼やらい」を行 なう。これは戸主が、炒ったダイズを「福は内、鬼は 外、鬼の目玉」と唱えながら撒く節分の豆撒きである。
撒いたダイズは拾って食べた。
[納豆ねせ]
正月に納豆餅を食べるために、12 月 20 日頃から 納豆を作り始める。これを納豆ねせと呼ぶ。
[餅搗き]
12 月 27、28、30 日に搗くことが一般的である。
29 日はクニチのクが苦に繋がることから縁起が悪い として、餅搗きをしない家が多い。現在は餅搗き機を 使ったり、もち米を生産しなくなったことから市販の 餅を購入するようになった。
餅は供え用の丸餅と、食用の切り餅の 2 種を作る。
米のみを使った白い餅のほか、炊いたアズキを混ぜ込 んだ赤い餅を合わせて搗き供え餅とする家がある。こ の餅はシロモチ、アカモチないしアカッコモチとそれ ぞれ呼ばれる。
丸餅は少し乾かしてから丸める。切り餅は伸し餅 にして乾燥させ、1、2 日おいて包丁の刃が立つよう になってから包丁で切り分けた。
餅を搗き終わると使った臼を伏せる。臼には正月
飾りとして大晦日に注連縄を張る。
[正月料理の準備]
正月料理の準備は家によって異なるが、早い家で 12 月 20 日頃から始める。あらかじめ用意するのは アンコ餅のための餡作りと、ツユ餅のためのヒキナ作 りである。餡はアズキを炊き、潰してから笊などで漉 す漉し餡にする。ヒキナは引き菜と書き、大根を千切 りにしたものである。
正月料理の野菜は自家生産のものを用いるが、魚 など購入する材料は、新沼内の商店や近在のスーパー マーケットで購入する。
(2)正月飾りと供え物
[ゴシンプ、ヘイソク、オカザリ]
12 月 30 日に、若宮八幡神社の神職がゴシンプ(御 神符、神札)、ヘイソク(幣束)、オカザリを氏子に配 布する。これは各家が神社へ受け取りに行く。これを オヘイソク配りと呼ぶ人もいる。以前は氏子総代が代 わりに配布して回ることもあった。また、近年では、
神社庁が発行する翌年のカレンダーも併せて配布され ている。戸主がゴシンプやヘイソク、オカザリを受け 取りに行く場合は、米か餅、ろうそく、賽銭を神社に 納めることになっている。
配布されるゴシンプは天照大神、大歳神、大国主 神(ダイコクサマ)、事代主神(エビスサマ)、釜神様(釜 の神)である。ヘイソクは、オミョウジンサマなどに 供えるもので、複数もらい受ける。このほかにオカザ リをもらう家もある。オカザリは切り紙細工で、特に 一升枡、俵、フナを表す紙注連型のオカザリをまとめ てサンプク(三服)という。これとは別に、神職が 1 枚の和紙を切り抜いて作った、切り透かし型のオカ 図 6-1 臼と杵
ザリをもらう家もある。あらかじめ必要なものを神社 に伝えておき、切ってもらっておく。これらのゴシン プとオカザリは神棚に飾る。神棚には大きく 3 つの 社があり、中央の社は天照大神を祀っている。向かっ て右の社にはエビスサマとダイコクサマを祀る社であ る。左の社は鎮守である若宮八幡神社の祭礼などで配 られる神札ほか、 各地の神社などに参拝した際にもら い受けた札を納める社である。この神棚に、中央の社 には天照大神の札を納める。恵比須大黒の社には、 大 国主命と事代主神の札を納め、社の全面にフナと俵と 一升枡を描いたオカザリを飾る。
このほか、「水神の飾り」という特別なヘイソクが ある。これは、家の周りの水路や井戸に、竹にヘイソ クを挟んだものを飾るというもので、この飾り自体を スイジン(水神)と呼んでいる。水道が通ってからは、
水道メーターに水神の飾りをするという家もある。
ヘイソクやゴシンプは 1 月 14 日まで飾り、若宮 八幡神社で行なわれるどんと祭に納める。なお、オカ ザリと大歳神のゴシンプは通年で飾り、年末の大掃除 のときに外す。
[シメナワとオトシナ]
12 月 31 日には注連縄を飾る。カドマツや神棚に 供えるために細長く綯ったものをシメナワ(注連縄)、
各部屋の入り口などに供えるために短く綯ったものを オトシナ(御年縄)と呼ぶ。両者を総称する場合は注 連縄と呼ぶ。注連縄はコンバインを使って稲刈りをす ることから、藁の入手が難しくなったこともあり、多 くの家でスーパーマーケットやホームセンターなどで 購入しているが、以前は各家で戸主が作成していた。
シメナワは垂れとして藁を七本、五本、三本と垂らす ことからシチゴンと呼ぶこともある。藁は長さや固さ からモチワラと呼ぶもち米の藁を使う方が好まれる。
また注連縄に使う藁は、まだ青いイネを特別に取って 来て使う家もある。
注連縄は 12 月 31 日の午前中に作る。稀に 28 日 に作る家もある。戸主は事前に藁打ちをしておき、注 連縄作りに先立ち風呂に入って身を清める。縄綯いは 座敷もしくは土間、または作業場で行なった。注連縄 を作る際は、滑り止めとして手を濡らすが、この際つ ばを使ってはならず、水を使わなくてはならないとす る人もいる。また、注連縄は普段綯う右縄とは逆に、
反時計回りに撚る左縄にした。注連縄を作り終えたら、
供えるまでトコマエ(床の間の前)にゴザを敷いて保 管しておく。
注連縄を供える場所は神棚、母屋の玄関、屋敷神 は各家で共通するが、このほかにもカマ神、仏壇、床 の間、便所などを含めた各部屋の入口、味噌小屋、蔵、
作業場など屋敷地の建物、井戸や農具に飾る家もある。
このうち、神棚、玄関はカドマツを立て、そこにシメ ナワを張る家もある。また、座敷にシメナワを一周巡 らせる家もある。
正月飾りの飾り付けは戸主の男性が行ない、女性 は触ってはいけないとされる。
注連縄は 31 日の夜、家によっては元旦の早朝にま ず屋敷神に飾り、その後、各場所に供えていく。ある 家ではこれに先立ち、ひと束の藁を戸口で焚き、拝ん でから家の中の飾りつけをすることを家例にしてい る。
[カドマツ]
カドマツは、12 月 31 日までに戸主がマツを採っ て来て設える。マツを採りに行くことをカドマツムカ エ(門松迎え)という。ある人は、このときは木に感 謝を込めて採るものであるという。マツは自家の持ち 山から採ってくる。27 日または 28 日、30 日にマツ
図 6-2 オヘイソク配り 図 6-3 水神のヘイソク
竹を屋敷地の入口に 2 本刺し、その間に縄をわたす 竹の門が一緒に飾られた。
カドマツも 1 月 14 日まで飾る。マツは翌 15 日の 朝に作るアカツキガユを炊く際の薪にする。
[ミズキモチ]
餅を搗いたら、女性や子どもがミズキの木に白い 餅をつけた飾り物を作り、戸主が神棚の横に飾った。
これをミズキモチといい、イネの花を模したものと説 明される。
1 月 15 日まで飾る家もあれば、一年中飾っておく 家もあり、決まりは明確ではない。神様に供えたもの なので、乾燥して落ちた餅は捨ててはならず、揚げた り炒ったりして食べなくてはならない。ミズキは自宅 の庭や近隣に生えているものを切って使用する。近年 ではミズキモチ自体をホームセンターで購入するとい う話も多く聞かれる。
[アワボ]
餅を搗き、それを小さく丸めに紅白に着色し、川 辺に生えていたヤナギの木の枝を取って来て刺した。
豊作になるようにと願いを込めていた。アワボは年神 をとりに行き、31 日に風呂に入ってから注連縄とと
もに飾りを作ることが多い。私有地にマツが無い場合、
生えているものを土地の所有者に断らずにとっていた が、とがめられることはない。カドマツにするマツは、
枝ぶりが三段になっているサンガイマツ(三階松)を 選ぶ。無い場合は見た目が近いマツを選び、余分な枝 や葉を切り落として形を整えた。カドマツのマツには、
正月の神様であるオショウガツサマ(お正月様)が降 りてくるものとされる。
カドマツは、門の外に飾るものをソトカドといい、
玄関や神棚など門の内側に飾るものをウチカドとい う。ソトカドは、門の両脇にイナグイを刺し、それを 支えにマツを立ててシメナワを張り、その中心にミカ ン、昆布、切り紙、餅を飾った。紅白の水引を加える 家もある。ただ、カドマツもいくつか形態があり、マ ツに太く作ったトシナワを付け、門の左右にそれぞれ 飾る家もある。この場合はシメナワを渡さない。ウチ カドの場合、床の間に飾るという家では、床の間の両 端の柱の上部にマツをくくりつけ、そこから注連縄を 張った。また、座敷のナカマ(中間)とカミザシキ(上 座敷)をつなぐ桟にマツを 2 本立てて、シメナワを 張る家もある。また、マツで作ったカドマツとともに、
図 6-5 ウチカド
図 6-4 ソトカド 図 6-6 ミズキモチ
図 6-7 ミダマサマ