第3章 東北津波を対象とした従来手法および建物地形化モデル による津波浸水シミュレーションの再現性の検討
3.3. 計算条件
3.3.1. 検討ケース
本研究では,津波浸水 予測によって 再現計算 を行い,その 再現性と 課題につ いて整理する .また,建物の取り扱 いを従来 手法の粗度と した場合 と建物を地 物として形状 を考慮し た場合の検討 を行った .また,建物の 地物化 は震災前の 建物と震災後 に残存し た建物とした.計算ケ ース一覧 と建 物の表現 方法 の概要 を表 3.2,図 3.10に示す.ケース 1が従来 手法となり,建物の影 響を粗度係 数で表現する 場合,ケ ース
2
が 震災前の 建 物を地物化, ケー ス3
が震災後に 残存した場合 のケース となる.各ケ ースの粗 度係数につい ては ,「3.2.2
の地形 データ等の作 成」で詳 細を示すが, ケース1
では,建物の 影響を 粗度として 取り扱い,ケ ース2,3
は街路やさ ら地を想 定して設定を 行ってい る.表 3.2 再現計算のケ ース一覧
ケース 建 物 (使 用 した標 高 データの種 類 ) 倒 壊 有 無 1 従 来 通 り 粗 度 で 評 価 (DEMデ ー タ で 作 成 )
倒 壊 な し 2 震 災 前 の 全 て の 建 物 を 地 形 (DSMデ ー タ で 作 成 )
3 震 災 後 の 残 存 し た 建 物 を 地 形(DSMデ ー タ で 作 成 )
(a)実際の建物状 況 (b)Case1(粗度係数)
(c)Case2(震災前 DSM データ) (d)Case3(震災後 DSM データ)
x z
倒壊・流失 した建物
残存した建物
地盤高
x z
粗度係数を設定して建物 による流れの阻害を表現
地盤高
x z
すべての建物を地形化
地盤高
x z
震災後に残存した建物のみを地形化
3.3.2.
地形データ等の作成(1) 計算領域・計 算格子間 隔の設定
津 波 浸 水 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン の 検 討 対 象 と す る 領 域 は , 津 波 の 波 源 域 か ら 沿 岸・市街地となる .沿 岸 域や市街地を 詳細に計 算するために は,より 細かいメッ シュを作成す る必要が あるが,広域に おけて も同一の格子 幅で計算 を行うこと は,計算 負荷・計算効 率 の観点から現 実的では ない.通 常の津波 浸水 シミュレー ションでは ,広域 では 粗い格子幅で ,沿 岸・市 街地では細か い格子幅 を採用し,
領域接続行う のが一般 的である.本研究で も ,広域から 沿岸・市街 地までに複 数の計算領域 と格子幅 を設定し,計 算領域間 は接続計算を 行うもの とした.
計 算 格 子 幅 は 内 閣 府 の デ ー タ 27)を 参 考 に
1350m
( 領 域1
),450m( 領 域
2),150m(領域 3),50m(領域 4)とした .さらに気仙 沼市街地 を詳細に計
算する目的 で
10m(領域 5) ,2m(領域 6)の格子幅を 採用した .沖側境界を
設定する格子 幅1350m(領域 1)の計算領 域 は,内閣府 (2006)
25)に 基づき設定を 行ったが,規模 が大き い津波を計算 する場合 に沖側境界で 波が反射 する場合が ある.予備 計算を踏 ま え計算領域 の拡大を 行 っている. また ,気 仙沼市街地 における計算 領域6は ,東北地方太平 洋沖地 震津波時の浸 水範囲が 包括できる 範囲とした.本研 究で 設定した領域 の概要,範囲を表 3.3および図 3.11に示 す.表 3.3 計算領域の概 要
No. 格子幅(分割 数)
領域南西端の 座標
(平面直角座 標第 10 系)
領域 1
1350m(840 ×1020) x= -49950.0 y =-992250.0
領域 2450m( 386 ×479) x = -2250.0 y = -261450.0
領域 3150m( 710×150) x = 33000.0 y = -206400.0
領域 450m( 362×497) x = 56300.0 y = -133750.0
領域 510m( 462 ×727) x = 62670.0 y = -125480.0
領域 62m(652 ×1447
)x = 64524.0 y= -121396.0
図 3.11 計算領 域の 設定( 1350,450m,50m,10m)
Dimain1
Dimain2
Dimain2
Dimain3
Dimain5 Dimain4
Dimain6
(2) 水深・地盤高 の設定
本節では,津波 浸水シ ミュレーショ ンのメッ シュデータを 作成する 際に用い た水深・地盤 高データ と作成方法を 示す.
津波浸水シミ ュレーシ ョンを精度よ く予測す るためには,計 算格子 幅も重要 であるが,計算 格子に 設定する水深・地盤高 データも重要 となる.広域,沿岸・
市街地などの スケール や,陸域 ,海 域,河 川 域などの管理 域の関係 により,作 成時に適用す るデータ が異なり,適 切にデー タを適用する 必要があ る.
本研究で収集 した水深 ・標高に関す るデータ と適用先を表 3.4 に 示す.
表 3.4 地形モデル作 成に用いた水 深・標高 データ一覧
id
データ名 出典 適用先1
日本海溝・千 島海溝周 辺海 溝型地震の検 討会デー タ内 閣 府 中 央 防 災 会 議(
2006)
27)広域(領域
1~4)の
陸海域2 ETOPO1 NOAA
同上3
海 底 地 形 デ ジ タ ル デ ー タ(M7000)
日本水路協会 詳細域( 領域
5~6)
の海域
4
航 空 レ ー ザ ー 測 量 に よ る標高データ
(2m
メッシ ュ)国 土 交 通 省 国 土 地 理院 21)
詳細域( 領域
5~6)
の陸域
5
大川,鹿折川 の復旧計 画平面,縦断,横 断図
気仙沼土木事 務所 ウェブサイ ト 29)
詳細域( 領域
5~6)
の河川
【海域のメッ シュデー タ】
広域の領域
(領域 1~4)の水深値は内 閣府デー タに基づき設 定した .ただし,
領域
1
につい てのみ 内閣府よりも 広い範囲 を設定してい るため, 領域拡大部分に,NATIONAL CENTER FOR ENVIRONMENTAL INFORMATIONで 取 得
し た ETOPO1(1分( 約 1.8km)間 隔 の メ ッ シ ュ デ ー タ)を 用 い た .沿岸・市 街地
領域(領域
5,6)の水深値は,日本水 路協会の 海底地形デジ タルデー タを用いた .
なお,海底地 形デジタ ルデータは東 北津波の 震災前のデー タであっ たため,実 績の地殻変動 量を考慮 し水深値の修 正を行っ た. 図 3.12に示す通 り使用した 海底地形デー タは等深 線データとな っている ため,2m間隔の点群 データに変 換し,TIN 補間で メッ シュデータを 作成した .図
3.12 海底地 形デ ジタルデータ の一例
気仙沼市鹿折 地区
【陸域のメッ シュデー タ】
広 域 の領 域(領 域
1~4)に お ける 標 高 デ ー タ , 海 域デ ー タ の 作 成 方 法 と 同様
に内閣府デー タとETOPO1
を用いた .沿岸・市街地(領域 5,6)における陸域は ,
震災後の航空 測量デー タ(2m グリッド)を 用いた.な お,震 災後 に測量され たデータとな るため,地殻変動によ る補正は 行っていない .データ の補間方法 については,メッシュ 内に含まれる 標高・水 深値を平均し メッシュ に与えてい る.また,建物を地 物化と して取り扱う ケースの 場合建物の形 状と高さ 情報が必 要となる.本 研究では 建物の影響を 地形の高 さで表現する にあたり ,建物の高 さを整理し ,計算格 子 に反映させ た.反映 さ せる計算格 子の判別 は ,図 3.13 に 示 す よ う に 格 子 の 重 心 が 建 物 の 外 郭 の 内 側 に あ る 計 算 メ ッ シ ュ に 建 物 の 高 さを付与 した. なお, 建物の外 郭ポリ ゴンは 国土地理 院基盤 地図情 報 21)を用 いた.
図 3.13 建物の 高さ を与えるメッ シュの定 義
また,建物 の高さ情 報 については ,建物の 外 郭ポリゴン内 の
DSM
データ(航 空測 量 デ ータ の 建 物や 樹林 等 の 情報 を 除 去す る前 の デ ータ )とDEM
データ(建物や樹林 等の情報 を除去したデ ータ)の 平均値の差分 を整理し て設定した .
【凡例】
建物メッシュ 建物の線形
【凡例】
■建物高さを付与する格子 ー建物の外郭ポリゴン
図 3.14 建物の 高さ 情報の取得 ( 一部加筆 )29)
【河川域のメ ッシュデ ータ】
沿岸・市街 地(領 域
5,6)における鹿 折川 の 河床高は,宮城県気 仙 沼土木事
務所のウ ェブサ イト 28)より 取得し た,鹿 折 川復旧計 画より 整理し た.収集 し た計画図の一 例を図 3.15 に示す.同デ ータ からは鹿折川 の4
断 面 の河床高が 取得可能とな っており ,断面間の河 床高は一 次線形補間を 行って設 定した.以上の手順に よって作 成 し た 各 領 域 の 地 形 デ ー タ の 一 例 を図 3.16に 示 す . 建物の高さ=
DSM平均値-DEM平均値
航空レーザーで取得した点 群
建物や樹木等の点を含んだ表層 モ デル(DSM)
建物や樹木等を除いた地形モデル(DEM)
図 3.15 鹿折川 の河 床高 27)
(a)領域 1:格 子幅 1350m (b)領域 2:格 子幅 450m
(c)領域 3:格子 幅 150m (d)領域 4:格子 幅 50m
図 3.16 作成し た地 形データ(領 域 1~領 域 4)
図 3.17 作成し た地 形データ(領 域 5,格 子幅 10m)
ケース1
(DEM)
ケース2(震災前 DSM)
ケース3(震災後 DSM)
図 3.18 作成し た地 形データ(領 域 6, 格 子幅 2m)(3) 粗度係数の設 定
津波浸水予測 計算で対 象とする波源 域から市 街地において,様々な 流れ の阻害物が存 在する .例えば,市街地の 建物 や山地の森林 等が挙げ られる.
一般的には,この様な 抵抗となるも のを粗度 係数を設定し ,数値計 算上で 流れの抵抗を 取り扱う .また ,土地 利用形態 と 粗度係数の関 係につい ては,
小谷 ら
(1998)
30)の研 究 成果 が 活 用さ れ てい る .表 3.5 に 土 地利 用 形態 と 粗度係数の設 定例を示 す.本章では計算 ケースに 応じて設定し た.ケー ス1について は従来の 手法 に従い,市 街地の影 響 を粗度係数で 設定した .土地利用 形態は ,国 土数値 情報などに整 理されて いるが,ここ では内閣 府の成果を活 用した.設定し た粗度係数の 一例を示 す.この図よ り,気仙 沼市街地では
0.04
が設定さ れていること がわかる .また ,ケー ス2
,3 については ,建物 の影 響を直 接地物で扱う ため,こ こでは,街路 や建物倒 壊を想定して ,0.025
とした.各ケースの設 定した粗 度係数一覧を表 3.6に示す.
表 3.5 土地利用形態 と粗度係数の 設定例 土地利用形態 粗度係数 (m-13・s) 住宅地(高密 度)
0.080
住宅地(中密 度)
0.060
住宅地(低密 度)0.040
工業地等
0.040
農地
0.020
真値
0.030
水域
0.025
その他(空き 地,緑地 )