第 4 章 増幅器前置き型波形整形 105
4.2 原理
4.2.1 時間空間結合効果の緩和
これまでも増幅された整形パルスをコヒーレント制御に用いるために波形整形器を増幅器後に 設置して整形した例が報告されている4, 7–9).しかし Fig. 2.15やFig. 2.16など ,§ 2.2.4で得ら れた知見に基づくと ,時間空間結合効果によるビ ームプロファイルの変調は決して無視してはな らない .特に ,§ 7.4で行なう分子の光解離反応制御実験のような高次非線形効果を伴う実験に
第4章 増幅器前置き型波形整形 106 おいてはこの空間プロファイルの変調は致命的である .本研究で用いる増幅器前置き型波形整形 システムの最大のメリットはその点にある .我々のレーザシステムでは再生増幅器を用いるが , 再生増幅器は共振器の構成をとっている.レーザ共振器はその空間プロファイルを既定する固有 モード を有するが ,再生増幅器も例外ではない .増幅器前に設置された波形整形器で時間的に変 調を加えられた光パルスは空間変調が加わるもの ,自身が固有のモード を持つ再生増幅器にシー ド される際に空間的にフィルターされる.非常に強い時間空間結合効果が波形整形器で加わった
場合にはFig. 2.19のようにスペクトル強度に変調が加わることがあるが ,空間フィルターを用い
れば ,空間域の変調をかなり低減することが可能である.
Fig. 4.1 (a)のビームプロファイルは波形整形器後のビ ームプ ロファイルを測定した結果であ
る .LC-SLMに加えた変調の有無によりビームプロファイルが変化することがわかる.Fig. 4.1
で 加えた交代位相マスクは 最も 時間空間結合効果が 顕著に 現れ るマスクとし て 知られ る10).
Fig. 2.15 (h)より,波形整形器後の時間空間結合効果の空間域の効果は空間プロファイルでは波
形整形器でのグレーティングの横分散方向に平行にビームが広がる現象として現れることから , この Fig. 4.1 (a)のビームプロファイルは時間空間結合によるものである .一方Fig. 4.1 (b)は
(a-1) (a-2)
(b-1) (b-2)
Fig.4.1 (a) Measured CCD profiles after the pulse shaper. The beam profile when no modulation is added (a-1), and when alternative phase mask is added on the mask (a-2). (b) Measured beam profiles after the CPA system. The beam profile when no modulation is added (b-1) and when the alternative phase mask is added (b-2).
第4章 増幅器前置き型波形整形 107 CPA後のビ ームプ ロファイルであるが ,波形整形器での変調の有無にかかわらず ,ビ ームプロ ファイルに変化は全く 観測されない .波形整形器の時間空間結合効果は必ずビームプロファイル への変調として現れるので ,この測定結果は増幅器後のパルスでは時間空間結合作用がほとんど 観測されないことを示している .但し ,時間空間結合による影響は位相振幅結合としてスペクト ルに現れることは§ 2.2.4 (p. 74)で述べた通りである.
4.2.2 パワー取り出し効率の向上・最大取り出しパワーの向上
増幅器前置き型波形整形システムのもう一つの大きな利点はレーザシステムからの光パワーの 取り出し 効率と最大得ることが可能な光パワーの向上が図られる点である.波形整形システムの スループ ットは AOPDFでは最大60 %程度であるが位相変調のみを変化させた場合でもその取 り出し効率を一定に保つことは難しい(§ 2.3.3 (p. 82)).
4f 波形整形器ではグレーティング対を用いるために ,スループットを高く設計するのは簡単で はない.グレーティングの回折効率を60 %と仮定し ,他では損失が無いとしても波形整形器全体 では 36 %の伝送効率にしかならない .グレーティングで高い回折効率を得るにはブレーズ角に よって決定される,使用波長での最も高い回折効率が得られる角度などにも注意を払って使用す る必要があり制約条件が多い11).また波形整形器へ入射する光パルスのスペクトル帯域が広い場 合,グレーティングでの横分散が大きすぎてLC-SLMの窓に収まらないことがないように ,使用 するグレーティングのグルーブ 間隔を大きくする必要がある.しかしグルーブ 間隔が広いグレー ティングを用いると ,高次の回折角が存在するために回折効率が低減する.そのために ,波形整 形器の効率も低下することになる.
波形整形器に振幅変調を加えた場合にはその振幅フィルターに依存して伝送効率が変化するの で設計パルス毎に異なるパルスエネルギーが得られる.光と物質のコヒーレント相互作用には当 然光強度も重要なパラメータであるために ,波形毎に得られる光強度が変化する波形整形システ ムを用いたのでは ,物質の量子状態の変化が時間波形の変化による影響であるのか光パルスの強 度の変化に起因するのか問題を切り分けることが難し くなる.さらに ,高強度な光電界を用いた 応用では少しでも強いパルスエネルギーが欲しいので増幅器後に波形整形器を配置したのではパ ワー効率の面で不利である.増幅器前置き型波形整形システムでは増幅器へのシード 光を整形す る事になるが ,増幅器では光強度が103〜104増幅されるので ,シード 光でのエネルギー損失は増 幅されたパルスに対しては無視可能なほど 微小である.その結果システム全体は ,常に一定のエ ネルギーが得られる.これが前置き型波形整形システムの第1の利点である.
第2の利点は ,前置き型波形整形システムでは ,高強度光パルスによる光学機器の損傷を防ぐ ことができることである .AOPDFで 用いる結晶は損傷閾値が低く増幅器後に用いることはで きない.また ,4f 型波形整形器の変調器として最も広く用いられているLC-SLMのダ メージン グ 閾値は一般に10 mJ/cm2 程度である12).増幅器後のビ ーム径を10 mmとし ,波形整形器に
第4章 増幅器前置き型波形整形 108
f = 150 mmのレンズを使用すると仮定すると ,LC-SLMに照射可能なエネルギーは約80 µJに
制限される.波形整形器のグレーティングの回折効率が 60 %と仮定しても ,波形整形器後に得 られるパルスの最大パルスエネルギーは約50 µJに制限される.この問題はフーリエレンズにシ リンド リカルレンズを用いる用いることによって解決可能であるが7, 13),更に高強度な増幅シス テムを用いた場合ではそれでも限界が存在する.またシリンド リカルレンズを用いる場合には別 の問題も生じる.本研究で用いたLC-SLMの縦方向のピクセル幅は2 mmであるが ,縦方向のみ 光を2 mmにコリメートすると ,フレネル回折の影響を強く受けるようになる.そのため,2 mm の縦ビーム径のまま波形整形器中を伝搬させるのは簡単ではない .またシリンド リカルレンズを 用いた場合には ,グレーティングとレンズの傾きが整形パルスの精度に特に鋭敏になるので ,波 形整形器のセットアップは極端に難しくなる.一方 ,前置き型波形整形システムではシード 光の パルスエネルギーは数100 pJ程度なので ,AOPDFにおいても ,LC-SLMにおいても波形整形 器の光学素子が損傷することはない.
従って ,増幅器前置き型波形整形システムは
1. 変調を変化させても恒に一定のパルスエネルギーが得られる
2. PW/cm2を超えるようなエネルギーの光パルスが整形波形として得られる
の利点がある.