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実験結果及び考察

ドキュメント内 高精度波形整形に関する研究 (ページ 189-196)

第 6 章 高精度増幅器前置き型波形整形 (TADPOLE 参照補正 ) 150

7.3 蛍光色素励起の適応制御

7.3.3 実験結果及び考察

蛍光スペクト ル

初めに色素IR140の蛍光を確認した .励起光と色素の発光スペクトルをFig. 7.8に示す.分光 器は相馬光学社製小型マルチチャンネル分光計S-2600を使用した .測定範囲300–1050 nm,分 解能3.6 nm,波長正確さ±0.5 nmである.励起光の中心スペクトルが 800 nmに対して ,蛍光

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

700 750 800 850 900 950 1000

Wavelength (nm)

Spectrum of pump pulse

Fluorecence of dye (IR140)

Intensity (a.u.)

Fig.7.8 Fluorescence spectrum from IR140 dye

スペクトル中心はストークスシフトし 860 nmであり,励起光と蛍光スペクトルが十分識別可能 であることを確認した .またこの蛍光スペクトルは励起光の進行方向から見て 90の位置から ファイバ分光計にて測定した.

蛍光スペクト ルの方向依存

蛍光スペクトルに蛍光方向依存があることが観測された .蛍光スペクトルをFig. 7.9に示す.

それぞれ ,励起光の進行方向に対して4590135 の方向から蛍光スペクトルを観測 した.

これはフローセルの構造に原因がある .光はほとんど 集光していないので ,光励起を受ける体 積はデ ィスク状の形をしている .蛍光を観測する方向によって ,測定器に到達するまでに蛍光が 試料中を伝搬する距離が異なる.吸収スペクトルは ,蛍光スペクトルに対して短波長側にあるの

第7章 波形整形システムの光プロセス及び超高速コヒーレント制御への応用 183

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

700 750 800 850 900 950 1000

Wavelength (nm) 90 deg 45 deg

135 deg

Pump pulse

Intensity (a.u.)

Fig.7.9 Fluorescence spectra of dye from different observation directions.

で ,励起ボリュームに対して ,蛍光が試料中をより多く伝搬する方向から観測すると ,蛍光の短 波長側は試料を再び励起するのに使用されるために ,長波長側がより強く観測されるようになる.

90 から観測した場合が最も励起ボリュームまで遠いいために ,蛍光スペクトルは長波長側しか 観測されない.

一光子励起蛍光強度最適化実験

蛍光強度の最適化実験は以下の手順で行った .蛍光強度は励起光に対して90の位置に浜松 フォトニクス社製S5972シリコン PINフォトダ イオード を設置し 観測した .フォトダ イオード の信号はロックインアンプによって同期検波され ,その信号はオッシロスコープを介してPCに 取り込まれる.SAを用いた最適化制御ではマスクの書き換えによる変化を検出できる必要がある ので ,こうしてロックインアンプを用いたSNの向上は特に重要な技術的な要素である.信号強 度を強めるようにSA法によってマスク関数を変化させて励起パルスを最適化した.

初期励起パルス波形はPG-FROGをモニタし つつ LC-SLMの変調を変化させ ,2次及び 3次 分散を加えることによってCPAの分散補償を行い ,フーリエ限界パルス(32 fs)を設計したもの とした .このときのマスクを初期マスク関数として LC-SLMにバックグラウンド として印加し て最適化を開始し た .このときの SA のパラ メータはグレーレベル G = 2π/32 rad,初期温度 Tini = 5.0×102,温度冷却係数η = 9.995×101であった .最適化の様子をFig. 7.10に示す.

コスト関数の増加及び ,システム温度を表示している.コスト関数はロックインアンプからの電

第7章 波形整形システムの光プロセス及び超高速コヒーレント制御への応用 184

2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6 6.5

0.04 0.042 0.044 0.046 0.048 0.05

0 50 100 150 200

Iteration #

Fig.7.10 Dye fluorescence intensity in respect of iteration number.

圧値をオッシロスコープで読み取った値であるが ,零点校正をおこなわなかったために縦軸には 不明な量のバイアスが存在する.したがってコスト関数の上昇率が直接光強度の増加倍数に対応 するわけではない.

200回最適化後の場合の蛍光スペクトル強度をFig. 7.11に示す.Regular,Reject,Acceptは それぞれ36,149,15であった .点線はフーリエ限界パルスの初期波形で励起したときのスペク トル強度を示し ,実線は最適化後のスペクトル強度である.蛍光強度がフーリエ限界パルスで励起 した場合と比較して約2.8倍強められた .この最適化された励起パルスのマスク関数をFig. 7.12 に実線で示す.横軸はマスクのピクセルであり波長に対応する .最適化されたマスクはスペクト ル中心付近において正の線形チャープ 構造を取る事がわかった .これは蛍光強度を強める励起パ ルスとして周波数領域で正の線形チャープを持っているものがよいことを示唆している.

そこで ,Fig. 7.12における点線は 9.26.×103 ps2でフィッティングした線形チャープであ り,その変調をマスクに加えた励起パルスで励起した時の蛍光スペクトル強度をFig. 7.11の破線 で示す.ここで ,周波数面で扱う場合に正のチャープ パルスは ,逆フーリエ変換を行なうと時間 軸ではその複素電界の ,位相のチャープの向きは負になっていることに注意する.周波数面で正 にチャープしたパルスはフーリエ限界パルスを用いて励起している場合と比較して ,3倍以上の蛍 光励起強度が達成された .最適化によって得られるマスクの端のピクセルが正のチャープに最適 化されないのは ,マスク両端のピクセルはそれぞれ 750 nm,850 nmに対応し ,CPA後の波形 においてはこの波長のスペクトル強度はほぼ 零であるのでマスクの端のピクセルが多少変化して もそれは励起パルスにはほとんど 影響を与えない為と考えられる.

第7章 波形整形システムの光プロセス及び超高速コヒーレント制御への応用 185

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5

750 800 850 900 950

Wavelength (nm)

TL pulse

Optimized pulse Positive chirped pulse

(9.26x10 (ps ))-3 2

Intensity (a.u.)

Fig.7.11 Fluorescence spectra of a laser dye pumped with transform limited pulse (dotted), optimized pulse (solid), and positive chirped pulse (broken).

-20 -10 0 10 20 30

0 20 40 60 80 100 120

Pixel #

Optimized mask

Positive chirp mask (9.26x10 (ps ))-3 2

Phase (rad)

Fig.7.12 Mask function of the pumping pulse at the optimized fluorescence.

第7章 波形整形システムの光プロセス及び超高速コヒーレント制御への応用 186 さらに ,チャープ の向きが 蛍光強度に 依存することを確認するために LC-SLMに 印加する チャープを正と負で変化させ ,そのときの蛍光強度を測定した.このときの蛍光スペクトル強度を

Fig. 7.13に示す.この結果,正にチャープを加えた時のみに ,蛍光強度が強まることがわかった .

0 0.5 1 1.5 2 2.5

800 820 840 860 880 900

Wavelength (nm)

Positive chirp (3.5x10 (ps ))

Negative chirp

(-3.5x10 (ps )) TL pulse

-3 2

-3 2

Fig.7.13 Fluorescence intensity with chirp direction dependence.

今回の実験では増幅パルスを用いているために ,その光強度はGW/cm2レベルと比較的強い . こうした領域においては光子のエネルギーと分子の固有値を結合したドレスド 状態で原子分子を 記述する必要がある.今単純のために ,2準位系原子のドレスド 状態のエネルギーダ イアグラムを

Fig. 7.14に示す24).正に線形チャープした光は ,時間的には周波数が低い成分から ,周波数が高

い成分まで ,時間に対して線形に掃引するパルスである.そこで ,電子と光子のエネルギー準位 を時間をパラメータとして表示すると ,時間に対して線形にエネルギーレベルが傾く.Fig. 7.14 には1光子で共鳴する基底準位|a ,上準位|b がそれぞれ ,|n+ 1 ,|n のフォトンとカップリン グしている様子を示した .実線が透熱エネルギー,破線で断熱エネルギーカーブを表わした .光 の周波数がBohr周波数と一致する点で断熱エネルギーカーブは交差する.光子のやりとりの ため ,非交差エネルギーが形成される.これが断熱エネルギーカーブであり,ここで光電場の周 波数をゆっくりと掃引していくと ,断熱エネルギーカーブに沿って ,Landau-Zener遷移とも呼ば れる断熱遷移(adiabatic passage)が生じる32).このadiabatic passageを用いると非常に効率的 な励起が達成される.さらには遷移モーメントの許されていない準位間でも ,遷移が可能である.

今回の実験結果で得られた9.26×103 ps2 の線形チャープはパルス幅に換算すると約660 fs

第7章 波形整形システムの光プロセス及び超高速コヒーレント制御への応用 187

(Red) (blue)

| b , n >

| a , n +1>

Time

Total Energy

positive chirp

negative chirp

Fig.7.14 Schematic image of adiabatic passage. The dressed eigenstates cross when the field frequency is swept.

に対応する .こうした比較的長い時間パルスでadiabatic passageによる電子励起が起きている と考えられる.

こうした2準位系でadiabatic passageの考えに基づくと ,Fig. 7.14に示すように ,光子場は 周波数の高い方から低い方へも,またその逆でも効率的に励起が達成される.即ち,チャープ の 方向に励起は依存しないはずである .実際に D. Maas等は ,励起光の強度が弱い領域では負の チャープを用いた場合のみ効率的に励起されていたのが ,強い励起を行なうと正負のチャープに 依存が見られなくなることを報告している25).一見Fig. 7.13の結果はadiabatic passageモデル に反している様に見える.しかし ,実際にはIR140は複数の振動・回転準位が存在し不均一にエ ネルギー帯が広がっているために ,Fig. 7.14に示すような2準位系で単純にモデル化することは できない .J. Melinger等は回転準位幅が狭い場合にはチャープ の方向に依存しないものの ,回 転準位の幅が広い場合に正のチャープのみが良く励起する事を理論的に示した12).それは ,青か ら赤へ掃引する方向(負の線形チャープ)の場合には ,基底準位の最も低い回転準位が ,掃引が終 わった後の基底準位の高い回転準位と交差するため ,光が通り過ぎた後には励起波束の一部が基 底準位に再び戻されてし まっているからである.IR140が広いエネルギー準位広がりを持ってい る事を考慮すると ,Fig. 7.13はこの理論を非常に良く裏付ける実験結果である.

多光子励起蛍光最適化実験

同様の閉ル ープ 制御に よる励起偏在化実験をレ ーザ色素 Coumarin515を用いて 行なった . レ ーザ色素Coumarin515の物性値を Tab. 7.2に示す .Coumarin515はエチレング リコールに

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