第 2 章 波形整形器とその時間空間結合作用 44
2.2.2 時間空間特性
第2章 波形整形器とその時間空間結合作用 50
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
-2000 -1000 0 1000 2000
eq. (2.5) angular frequency eq. (2.7) wavelength eq. (2.8) no approximation
Time (fs)
Fig.2.3 Calculated double pulses with various approximations when alternate phase mask is applied to the LC-SLM. Solid line represents the ideal shaped waveform, where dotted line represents calculation results with various approximations, which is described in the text.
第2章 波形整形器とその時間空間結合作用 51 フーリエ変換及び ,逆変換は
F(ω) = 1 2π
∞
−∞
f(t) exp(−iωt)dt (2.10a)
f(t) =− 1 2π
∞
−∞
F(ω) exp(iωt)dω (2.10b)
で定義する.
電界の時間 tに 関するフーリエ変換及び フーリエ逆変換を表すのに ,E(ω) = Ft{e(t)} や , e(t) = Fω−1{E(ω)}の表式も用いるものとする .eの様に小文字で表した時には時間領域,E の 様に大文字で表した時には角周波数領域を示すものとする .一方ビームの進行方向に直交する方 向の空間xに関するフーリエ変換及び逆変換はe(k) =˜ Fx{e(x)}や ,e(x) =Fk−1{e(k)˜ }と表す.
空間角周波数領域は˜をつけて表すものとする.
レンズ ,グレーティング ,自由空間伝搬の定式化
はじ めに光パル スがグレ ーテ ィング ,レンズ及び 自由伝搬し た時に受ける作用についてまと める.ビームの断面方向の空間をx,進行方向を z,時間を tとし ,それらの関数として光電界 e(x, z, t)を表す.
1. レンズによる作用13)
焦点距離 f レンズの前焦点面におけ る複素光電界を e(x,−f, t) または 角周波数表示で E(x,−f, ω)と表したときに ,レンズの後ろ焦点面z =fにおける複素光電界は
e(x, f, t) = 2π λfe˜
2πx λf ,−f, t
(2.11a) E(x, f, ω) = 2π
λf E˜
2πx
λf ,−f, ω
(2.11b) である.
2. 近軸近似による自由区間伝搬14)
z =z0での複素光電界をe(x, z0, t)または角周波数表示で E(z, z0, ω)で表したとき ,ある 点z =z1 までz 方向に伝搬した複素光電界は ,フレネル近似を用いると
˜
e(k, z1, t) = ˜e(k, z0, t) exp
−i(z1−z0)λk2 4π
(2.12a) E(k, z˜ 1, ω) = ˜E(k, z0, ω) exp
−i(z1−z0)λk2 4π
(2.12b) である.
3. グレーティングによる作用
以下の表式はO. Martinezによって与えられている15).グレーティングによる1次回折光
第2章 波形整形器とその時間空間結合作用 52 は入射直前の電界包絡線がEin(x, zin, ω)で表される場合,回折直後の複素光電界は ,
E(x, zdiff, ω) =
βEin(βx, zin,Ω) exp(iγΩx) (2.13)
となる.ここでΩ =ω−ω0である.1次回折光の方向から光が入射するアンチパラレルに 配置されているグレーティングの場合には ,
E(x, zdiff, ω) = 1 βEin
x
β, zin, ω
exp
iγ βΩx
(2.14) である.ただし ,β, γはグレーティングのパラメータによって決定する定数であり,
β = cosθi
cosθd(ω0) (2.15a)
γ = 2π
ω0dcosθd(ω0) (2.15b)
である.ここでdはグレーティングのグルーブ間隔,θiは入射角,θdは回折角である.
波形整形器の時間空間特性(理想状態)
理想的な状態の波形整形器の時間空間特性は K. Nelsonや J. Paye 等によって定式化されて
いる9–11).ここでは ,W. WefersとK. Nelsonによる波形整形器からの出射パルスの時空間プ
ロファイルの表式を示す10).彼らは ,入射パルスがEq. (2.9)で表されるときに出力複素光電界 eout(x, t)が
eout(x, t) = exp(iω0t)
ein(−(x−x), t−t)g(x, t)dxdt (2.16) と示されることを導出した.ここで g(x, t)は
g(x, t) =
√2π βλ0fM
2πx βλ0f
δ
t+ γ
βx
(2.17a) g(x, t) =
√2π γλ0fM
− 2πt γλ0f
δ
x+ β
γt
(2.17b) のいずれかで表される.ここでδ(x)はディラックのデルタ関数であり,
δ(x−a) =
1 (x =a)
0 (x =a) (2.18a)
∞
−∞δ(x) = 1 (2.18b)
の性質を有する.M(k)はマスク関数m(x)のxに関する空間フーリエ変換関数である.
第2章 波形整形器とその時間空間結合作用 53 Eq. (2.16),Eq. (2.17)より出力波形はマスクの畳み込みと入力パルスの電界の畳み込みで表さ れるので ,角波数空間と角周波数空間では単なる乗算の形で表され
Eout(k, ω) = ˜Ein(−k,Ω)m
−λ0f
2π (γω+βk)
(2.19) である.
整形された出力波形の空間と時間の結合性はEqs. (2.16),(2.17)においてデルタ関数内のみに 現れる.時間空間結合の度合はパラメータγ/βによって決定され ,それはEq. (2.15)より
γ
β = 2π
ω0dcosθi (2.20)
で与えられる定数である.
時間空間結合とは ,4f 型波形整形器において時間波形を変調すると出力電界パルスの空間プロ ファイルまでもが変調を受けてしまう効果として知られている .定性的には ,グレーティングと レンズ対が各波長ごとの空間フーリエ変換像をLC-SLM面上に結像するために ,その面において 空間プロファイルが各周波数成分毎に畳み込んだ形をするために ,そこでの変調が出力電界の空 間にも影響を与えると説明できる.
波形整形器の時間空間特性(ミスコンフィグレーション状態)
次に ,波形整形器が理想状態からずれた場合についてその出力プロファイルを定式化する12).
Fig. 2.4に ,本解析における波形整形器の図を示す.z 軸はパルスの伝搬方向を正にとり,x軸は
LC-SLM
Fig.2.4 Axis of coordinates and the arrangement of components in a 4f pulse shaper.
The variables are described in the text.
図の矢印の方向を正とした .また ,入射側のグレーティングの定数を γ, βとし ,出射側をγ, β とした .
入射パルスをEq. (2.9)で表すと ,グレーティング直後 の光電界はEq. (2.13)を用いて , E2(x, ω) =
βEin(βx,Ω) exp(iγΩx) (2.21)
第2章 波形整形器とその時間空間結合作用 54 となる.空間角周波数k 空間で表すと ,
E˜2(k, ω) = 1
√β E˜in
1 βk− γ
βΩ,Ω
(2.22) となる.さらに L1伝搬後 は ,Eq. (2.12b)より,
E˜2∆(k, ω) = ˜E2(k, ω) exp
−L1λ0k2 4π
(2.23) と な る .これが 第 1 のレ ン ズ の 前 焦点 面に おけ る電界表 示で あ るので ,Eq. (2.11b) よ り , 後ろ焦点面 での電界表示は ,
E3∆−(x, ω) = 2π λ0f
E˜2∆ 2πx
λ0f, ω
(2.24) となる.さらに L2伝搬 することによってマスク直前での電界が ,
E˜3(k, ω) = ˜E3∆−(k, ω) exp
−iL2λ0k2 4π
(2.25) と求まる.これをx空間で表示した場合には ,L2 = 0の条件の元でフレネルの回折積分計算を行 なうと ,
E3(x, ω) =− 1
√L2λ0
exp −iπ
4
E3∆−(x, ω)⊗xexp
−i π L2λ0
x2
(2.26) となる.但し ⊗xはxに関する畳み込み演算子を表す.
マスク直後 の電界はマスク関数m(x)をかけて
E3(x, ω) =E3(x, ω)m(x) (2.27)
となる.さらに L3伝搬 後は E˜3∆+(k, ω) = ˜E3(k, ω) exp
−iL3λ0k2 4π
(2.28) である.これを x空間で表示した場合には ,
E3∆+(k, ω) =− 1
√L3λ0
exp −iπ
4
E3(x, ω)⊗x exp
−i π L3λ0
x2
(2.29) と な る .こ の 電 界は 第 2 のレ ン ズ の 前 焦 点 面に 来 て い る の で 後ろ焦点面 で の 光 電 界は , Eq. (2.11a)より,
E4∆(x, ω) = 2π λ0fE˜3∆+
2πx λf , ω
(2.30)
第2章 波形整形器とその時間空間結合作用 55 である.これを k空間で表現すれば ,
E˜4∆(k, ω) =− λ0f 2π E3∆+
−λ0f 2π , ω
(2.31) である.
グレーティングの距離が L4だけ伸びていた場合,グレーティング直前 の電界はEq. (2.12b)を 用いて ,
E˜4(k, ω) = ˜E4∆(k, ω) exp
−iL4λ0k2 4π
(2.32) となる .これがグレ ーテ ィングによって作用され るので ,グレ ーテ ィング 直後の波形整形器の 出力電界 は ,Eq. (2.14)より,
Eout(x, ω) = 1
√βE4 x
β, ω
exp
iγ βΩx
(2.33) となる.出力電界を k空間で表示すると ,
E˜out(x, ω) =
βE˜4(βk−γΩ, ω) (2.34)
となる.出力電界表示E˜out(k, ω)を入力電界E˜in(k, ω)で表現するには ,すでに必要な式変形は 上記で済んでいるので ,単純にEq. (2.34)からEq. (2.21)まで逆順に代入してゆくだけでよい .
計算を進めると ,L2 >0,L3 >0の条件のもと , E˜out(k, ω) = 1
λ0
√L2L3
β
β exp −iπ
2
E˜in
−βk + (γ−γ)Ω
β ,Ω
exp
−iλ0L1
4π (βk−γΩ)2
⊗x exp
−iλ0f2 4πL2
(βk−γΩ)2
m
−λ0f
2π (βk−γΩ)
⊗x exp
−iλ0f2 4πL3
(βk−γΩ)2
exp
−iλ0L4
4π (βk−γΩ)2
(2.35)
となる.但し x =−λ20πf(βk−γΩ)である.
L2 = L3 = 0の場合には , E˜out(k, ω) = ˜Ein
−βk+ (γ−γ)Ω
β ,Ω
m
−λ0f
2π (βk−γΩ)
exp
−i(L1+ L4)λ0
4π (βk−γΩ)2
(2.36)
となる.
第2章 波形整形器とその時間空間結合作用 56 Eq. (2.36)の式で理想的な波形整形器の場合には ,L2 = L3 = 0の条件に加えて ,L1 = L4 = 0, 更にβ =β,γ =γなので ,Eq. (2.19)に一致する.
今マスク関数m(x)が位相マスクの場合には ,β = β,γ = γ のグレーティングの回転角が 合っていない場合を除いて ,ミスアライメントの影響は全て複素指数関数の内部に現れるので ,波 形整形器のミスアライメントの影響は時間領域ではスペクトル位相,空間領域には空間周波数位 相に影響を与えると理解できる.
グレーティングの角度がミスアライメントされていた状態の場合,つまり β =β,γ =γ,の 場合に注目すると ,ミスアライメントの影響は Eq. (2.35)やEq. (2.36)の入射電界E˜in(k, ω)の 波数空間kに作用することがわかる.これは出力電界の異なるスペクトルが異なる波数の値を示 すことを意味する.グレーティングは入射電界を空間的に波長に分解するが ,出力側グレーティ ングの角度が入力側と異なれば ,それぞれのグレーティングでの横分散力が異なるので ,出力側 グレーティングで入射側グレーティングで受けた分の横分散を補正することができない .そのた め空間的にスペクトル毎に異なる方向で波形整形器から出射するようになるという直感的理解と も一致する.その他の項には入射と出射グレーティングのパラメータが結合した形式は現れない .
一方,グレーティングの距離が異なる距離に配置されている場合(L1 およびL4)は ,Eq. (2.36) 中の位相項に作用する .つまり ,グレ ーテ ィングの距離のみがずれた場合には出力電界の位相 のみを変化させる.一般にグレーティングの距離が理想的な4f 状態からずれた場合には ,線形 チャープ (2次分散)が波形整形器で加わるとされる.これはEq. (2.36) からも正しいことがわか る.簡単のため入射ビームに平面波を仮定すると入射電界E˜in(k, ω)はある空間角周波数k = k0
を持ち,波数関数はδ関数として表現される.すると Eq. (2.36)の第3項はΩ2(L1+L4)の関数 である.そのためにグレーティングの距離のズレは出力パルスに線形チャープを加えることがわ かる.但し ,ここで注意しなくてはいけないのは入力ビームが有限の空間プロファイルを持つ場 合にはk =k0 以外の値が存在するためにEq. (2.36)の第3項はk2の関数にもなるので ,グレー ティングの距離を変化させると出力電界の波数域の位相がゆがむ.波数域の位相の2次分散は空 間域でも2次の分散関数になるので波面が2次に歪むことを示している.ここで Eq. (2.36)のマ スク関数m(x)に着目すれば ,マスク関数で 2次の位相分散を加えた時にはグレーティングがず れた場合と同じ項の形状(βk−γΩ)2が現れることがわかる.つまり,グレーティングの距離を 変化させることによる周波数及び波数領域の変調はマスクで 2次分散を加えることによって周波 数も波数も補正可能である.グレーティングの距離を変え線形チャープを誘起した場合は ,時間 空間結合効果から逃れられないが ,逆にグレーティングの距離のミスアライメントによって引き 起こされた時間空間結合効果は線形チャープを補正するマスクを印可することによって波数も周 波数も補正される.また ,Eq. (2.36)によれば ,波形整形器は必ずしも4f セットアップになって いる必要はなくL1 = −L4の関係が満たされていれば 4f セットアップと等価であることがわか る.この知見はアライメント手順を知る上で重要である.ただし ,入射側と出射側のグレーティ ングとレンズ間の距離の差があまりにも大きい場合,第1レンズと第2レンズでの光の屈折角に
第2章 波形整形器とその時間空間結合作用 57 大きな差が出てくるために ,収差の影響を受けやすくなると考えられる.
レンズの距離が適切でない場合は Eq. (2.35)の畳み込み関数の位相項に影響がでる.即ちこの 影響によって時間域の位相及び空間域の波面の双方が線形チャープ する.特に波面がチャープ す ることは即ち出力電界は入力電界とは異なる発散角で伝搬していくことを示している.焦点距離 がf の2枚のレンズを 2f 間隔以外の距離で配置した場合には出力ビームが発散角を持つように なるという幾何光学的な直感的理解とも一致する .Eq. (2.35)からもわかるようにこのレンズの 距離のズレはいかなるマスク関数を加えたところで ,補正できない.そのためにレンズの距離の アライメントは特に注意を要する.