第 6 章 高精度増幅器前置き型波形整形 (TADPOLE 参照補正 ) 150
7.2 周波数制御による Si 表面の周期パターン光プロセス応用
AOPDFによる超短光パルス制御技術を用いた光プロセス応用を行なった .
フェムト 秒レーザパルスを用いたアブレーションなどの光加工は光プロセスの可能性を広げて いる.フェムト秒レーザを用いて ,透明物質の内部改質や ,金属・誘電体の表面のアブレーショ ン加工が行える.フェムト 秒レーザのパルス幅が誘電体物質の熱拡散時間よりも短いために ,非 常に綺麗な熱的損傷の少ない加工断面を得ることができる1, 2).フェムト 秒レーザ加工はフェム ト 秒レーザ技術の中でも近年特に産業界から注目されている.例えば ,多光子吸収を用いると透 明誘電体物質中にサブマイクロ領域の回折限界よりも小さな微細加工を施すことができる事に着 目したマイクロリアクター作成技術応用3),多光子吸収ポリマー化を利用した微細3次元形成4)を 利用したフォトニック結晶作成技術応用5)等,研究が盛んに行なわれている.
また ,近年サファイヤ基板やダ イヤモンド 内に周期構造を持つホログラフィックを形成した報 告がなされている6, 7).この報告では光の空間的な干渉効果を用いているので ,2つのビームの入 射角度を変化させたり,一方の波面を整形することによって周期構造を変化させている.
もし ,機械的に光軸を動作させることなしに周期パターンを変化させることができれば ,安定 性が高い機能的な光プロセスシステムを構築することができる.そこで ,本節では波形整形器を 用いると ,機械操作なしに機能的にフリンジの周期パターンを変化させることができることに着 目し ,波形整形技術を光プロセスに応用する.しかし ,加工応用に用いる光強度で波形整形器を 直接使用したのでは波形整形器が光学的に損傷してまう.そこで ,本研究で構築した増幅器前置 き型波形システムを用いる.
波形整形器にはAOPDFを用いて ,AOPDFでスペクトル振幅変調を加える.光加工はフーリ エ面で行なうために ,周波数整形がそのまま周期パターンの加工として転写される.
7.2.2 原理及び実験セット アップ
実験システムを Fig.7.1に示す.波形整形器には AOPDFを用いて ,スペクトル振幅位相変調 を加えた .AOPDFにおいて時間的ダブルパルスを整形することによって増幅器後のスペクトル にフリンジパターンを得ることができる.2つのパルスの遅延及び位相差はAOPDFの音響波を 設計することによって変化させた .SI 装置を改良し ,そのフーリエ面にサンプルを配置した .SI は f = 20 mmのフーリエレンズ ,グレーティングにはブルーブ 周期 d−1=600 line/mmを用い て ,入射角 8◦,回折角55.17◦ に設置し た .SI への入射ビ ーム径が 3.07 mm,スペクトル幅が
30 nmの時にサンプル上でのスポットサイズは2.42 mm×4.6µmとなる.入射パルスエネルギー
が0.5 mJの時にフーリエ面でのフルエンスは4.5J/cm2となり,Siターゲットのアブレーション
第7章 波形整形システムの光プロセス及び超高速コヒーレント制御への応用 175
Fig.7.1 Schematic of experimental setup. Spectral interference of pair of pulses gen-erated by AOPDF on sample placed at Fourier plane in SI setup.
閾値を超える.Siのアブレーション閾値は ,25 fsの時に 0.17 J/cm2,400 fsで0.28 J/cm2であ る8).
フーリエ変換レンズにおいて f-f の構成をとるのは ,焦点距離が短いレンズを用いたために簡 単ではない .しかし ,レンズからサンプル表面までの距離がレンズの焦点距離f に保たれていれ ば ,グレーティングとレンズ間の距離は自由に設定してもかまわない9).本実験セットアップで はグレーティングとレンズ間の距離は5 cmとした.
はじめにフーリエ面での光電界の時間空間表示を行なう.サンプル表面での光電界表示はSIが 4f 波形整形器と似た光学構成を取ることを考慮すうと ,§ 2.2.2 (p. 52)で導いた手法をそのまま 用いることができ,
esamp(x, t) =− 2π
√βλf
E˜in
2πx
βλf + γΩ β ,Ω
dω (7.1)
と示される.ここで変数は § 2.2.2 (p. 52)たものと同一である.従ってサンプル表面での空間プ ロファイルは
I(x) =
t=T t=0
esamp(x, t)dt 2
(7.2) で表される.またEq. 7.1のk = 2πx/βλf+γΩ/βの関係式より,
x= λf
2π (βk−γΩ) (7.3)
が導出される.この式はサンプル表面でのスペクトル分解能を与える.スペクトル分解能は本ス キームの光プロセスにおける空間分解能に対応する .そこでスペクトル分解能を向上させると , サンプルのある点における入射スペクトル幅が狭まる.フーリエ変換の関係(Eq. (1.1))を思い出 せば ,それは空間分解能を向上させると ,サンプル表面における光パルス幅が伸張することであ
る.Eq. (7.3)より,サンプル表面上でのパルス幅と空間分解能の関係は ,
∆x= f λ2 cdcosθd(ω0)
1
∆T (7.4)
第7章 波形整形システムの光プロセス及び超高速コヒーレント制御への応用 176 で与えられる.ここで ∆xは空間分解能,∆T はサンプル表面上でのパルス幅である.本セット アップでは光の分散する方向への空間分解能は 8.0 µmと見積もられ ,Eq. (7.4)に従うと ,パル
ス幅は 9.4 psと見積もられる.空間分解能と ,パルス幅の関係をFig. 7.2に示した .空間分解能
0 20 40 60 80 100
0 1000 2000 3000 4000 5000
Pulse width (fs)
f= 10 mm
f= 20 mm f= 50 mm
Spatial resolution ( µ m)
Fig.7.2 Relation between spatial resolution and effective temporal pulse width of pulse at sample calculated for various Fourier lens focal lengths. In our setup, focal length was f = 20 mm. Other parameters of SI setup are described in text.
を向上させるとパルス幅が伸びるが ,十分短いフーリエレンズを用いれば ,物質の熱拡散時間よ りも短く設定する事が可能である.
7.2.3 実験結果
ダブルパルス整形
はじめに AOPDFで600 fs 間隔のダブルパル スを整形した .2つのパルスの位相関係は零に
保った.サンプルに照射する前に ,サンプル面にCCDカメラを配置して ,フリンジパターンを観 測した(Fig. 7.3 (a)).フリンジ周期は161µmであり,パルス間隔600 fsに対応する.Eq. (7.2) を用いて計算したフリンジ波形を Fig. 7.3 (c)に示す .この波形を用いて ,Siサンプル上に光を 照射した .レーザシステムは1 kHzの繰り返しであるので ,1/8 s 光シャッターを開けて125パ ルスをサンプルに照射した .サンプルに光照射を行なった結果Fig. 7.3 (b)に示されるような周 期パターンがサンプル表面に得られた .CCD画像でフリンジを測定したときと比較するとコント
第7章 波形整形システムの光プロセス及び超高速コヒーレント制御への応用 177 ラストが改善された .これは物質には固有のアブレーション閾値が存在するので ,ある一定のパ ルスエネルギー以上の光のみがアブレーションに大きく関与するためである.
同様の実験で ,AOPDFで1200 fsの時間遅延をつけてアブレーションした結果をFig. 7.3 (a), (b),(c)に示す .フリンジ周期は96 µmであり ,その周期で Si基板上にアブレーションパター ンが得られていることがわかる.
0 500 1000 1500 2000 2500 250
500 0
x (µm)
y (µm)
x (µm)
y (µm) Intensity (a.u.)
Z Z Z
x (mm)
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 150300
450 0
x (µm)
y (µm)
0 500 1000 15002000 300
600 0
x (µm)
y (µm)
Z Z Z
x (mm)
Intensity (a.u.)
(a) (b) (c)
(d) (e) (f)
Fig.7.3 Figures in upper row ((a), (b), (c)) are experimental results when two pulses are separated by 600 fs delays, and lower row ((d), (e), (f)) show when pulses are separated by 1200 fs. (a) and (d) are measured CCD image at Fourier plane of SI.
(b) and (e) are written patterns on silicon wafer surface observed through optical microscope. (c) and (f) are numerically calculated patterns on Fourier plane with given parameters. Horizontal lines in (c) and (f) are rough estimates of ablation threshold
チャープしたダブルパルス整形
次に2つのパルスのうちの片方にスペクトル位相整形し ,エッチングパターンを観測した .片 方のパルスに 1.9×104 fs2の2次分散を加え ,2つのパルスの時間遅延は0とした.実験結果を
Fig. 7.4に示す.位相変調を加えることによって ,アブレーションの周期に変化が観測される.
ディスカッション
本システムを用いてエッチングされたSi上のパターンの電子顕微鏡写真がFig. 7.5である.サ ンプル上での縦方向のスポットサイズは4.6 µmと見積もられ ,Fig. 7.5 (a)の変調領域はスポッ
第7章 波形整形システムの光プロセス及び超高速コヒーレント制御への応用 178
0 500 1000 1500 2000 2500 250
500 0
x (µm)
y (µm)
0 500 1000 1500 300
600 0
x (µm)
y (µm)
Z Z Z
x (mm)
Intensity (a.u.)
(a)
(b)
(c)
Fig.7.4 Experimental results when linear chirp is added to second pulse. Delay be-tween these two pulses is set to 0 fs. Measured CCD image on Fourier plane of SI is in (a). Optical microscope image of ablated silicon wafer sample is in (b). (c) is calculated intensity profile on Fourier plane.
(a)
(b)
Fig.7.5 Scanning electron micrograph of etched silicon wafer. Thermal effect can be observed.
トサイズに対応する.Fig. 7.5 (b)の領域には熱の効果による表面の周期的な変調が見られる.こ の効果は加工面で光パルスが比較的長い幅を持つ影響と共に ,1 kHzの繰り返し周期で 125パル スの積算を行なっているために ,熱が積算する影響である.熱効果を最小限にとどめるためには , 光子系への緩和時間よりも短い幅のパルス幅が得られる条件をFig. 7.2より見つけ出し ,シング ルパルスをサンプルに照射することが有効である.
Siサンプルは表面が酸化し SiO2 膜を形成しやすい .SiO2 はSiと比較するとアブレーション 閾値が高い .本実験でもより小さなパルスエネルギーを用いると ,サンプル表面にアブレーショ ンパターンが加工されない現象が観測された.そのために ,通常のSiで必要なフルエンスよりも 高い値で作業を行なったが ,Fig. 7.5において ,当初の予想以上の熱的な効果が見られたのはその
第7章 波形整形システムの光プロセス及び超高速コヒーレント制御への応用 179 効果が影響している.
また ,より微細なアブレーション加工を行なうためには ,物質のアブレーション閾値を正確に 把握してそのアブレーション閾値付近で作業する必要がある2)が ,本スキームではスペクトルが 空間的に横に分散しているために ,スペクトル中心付近では大きくアブレーション閾値を超えて し まう.スペクトル中心と裾の両方でアブレーション閾値をわずかに超えるようなパルスを設計 するためには ,Fig. 6.15で行なったようなスペクトル振幅整形を行なう必要がある.
7.2.4 本節のまとめ
型波形整形を増幅器前に設置することによって ,波形整形器の光損傷閾値を超えることなく光 プロセスを行なった .本システムを用いることによって機械的な動作をすることなくSiサンプル 上のホログラフィックパターンを変化できることを示した .但し ,サンプル上ではパルス幅が伸 張するために ,熱的な影響を受けやすいがため ,SIに用いるレンズの焦点距離を短くするなど 熱 拡散時間よりも短いパルス幅が得られるように設計する必要がある.