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文書公開訴訟 の 背景と 評価

第7章   政権交代と情報公開   文書公開の意味と権力、民主化という側面から考察

Ⅰ. 文書公開訴訟 の 背景と 評価

韓国人の対日過去清算訴訟は、日本軍'慰安婦'被害者たちが提起した訴訟を始めとして、1990年代に急激 に増えた。 しかし日本の裁判所は'時効消滅'と'国家無答責の原則(敗戦前の日本には、国家の公権力行使に 責任を問うことができなかったという主張)という法技術的な障壁を固守し、韓国人被害者の要求を拒否し た。したがって日本政府としては、訴訟を起こされても裁判所を通じて棄却する戦略を取っていた。

しかし1998年4月27日山口地方裁判所下関支部が韓国人日本軍'慰安婦'被害者の請求を受け入れて一部訟 訴判決を下し、下級審を中心に'時効消滅'と'国家無答責の原則'を排除する判決が出て来始めた。そして何よ りも2000年からは、'時効消滅'と'国家無答責の原則'から自由な米国と韓国の法廷に、韓国人被害者たちが 訴訟を起こして日本に圧迫を加えた。これに伴い日本政府は、国内外的に既存の'法技術的障壁'を利用でき なくなり、韓国人個人が請求権に基づいて請求をしても、韓日協定で'完全かつ最終的にすべての請求権が 解決'されたので、それに応じる法的義務がないと対応した。

日本の司法府は韓国人の裁判に対して、2003年3月に最高裁判所で5個の裁判が一括して棄却・却下され た。1) もちろん高等裁判所段階で、画期的な判決もあった。すなわち"B C級戦犯に対して、戦犯になること を命じたのは'安全配慮義務違反'と言うことができる"とし、'国家無答責論'を認めなかった。しかしこれも また、"韓日請求権協定で、完全かつ最終的に解決された"として棄却された。(7月遺族会訴訟)2)

1) 325日‐関釜裁判(原告は慰安婦と女子勤労挺身隊。福岡地方裁判所で慰安婦に対しては勝訴したが、広島高 等裁判で敗訴した。)

328日‐宋神道裁判(日本に居住する慰安婦裁判、12審敗訴)、江原道(カンウォンド)遺族訴訟(軍人軍 属、強制労働被害の裁判、1、2審敗訴)、韓国民族訴訟(慰安婦、軍人軍属、強制労働、離散家族、独立運動 弾圧被害の裁判、12審敗訴)、三菱長崎訴訟(原告金順吉(キム・スンギル)氏、強制労働被害の裁判、12 審敗訴)、東京朝日紡績裁判(女子勤労挺身隊裁判、12審敗訴)

2) 2001126日軍人、軍属、慰安婦など原告40人が、日本政府を相手に東京地方裁判所に提訴。2001326 1審裁判で棄却。控訴して2003年7月22日控訴審棄却。

これに、裁判で重要な争点になっている個人請求権の消滅の有無を、確認して貰わなければならない立場 に立っていた強制動員被害者100人は、外交通商部を相手に文書公開を要請した。自分の権利が、韓日協定 でどのように処理されたかを確認するためのものだった。しかし外交通商部は情報公開法の例外条項と外交 部規則を掲げて、公開できないと回答して来て、2002年10月100人の被害者たち(途中1人死亡)は、韓国の外 交通商部を相手に外交文書公開拒否処分取り消し行政訴訟を提訴するに至った。

協定文書は2005年1月17日個人請求権関連文書 5件、そして同じ年の8月26日に公開命令がなかった残り の156件が、韓国政府独自の決定によって公開された。3)しかし文書が全面公開されると、屈辱外交という 韓日協定に対する既存の評価をひっくり返す、新しい主張が提起された。

韓日会談関連の外交文書を分野別に検討した'韓日修交会談文書公開審査班'は、当時交渉と関連して、"大 体で当時与えられた状況では、熾烈に日本と交渉、国益のために最大限努力した結果"と評価した。そして 文書検討に参加した民間専門家3人、チョン・ヒョンス慶北大教授、李元徳(イ・ウォンドク)国民大教授、

チン・チャンス世宗(セジョン)研究所研究室長は、報道のインタビューで審査班を、評価のような内容で 説明した。すなわち当時韓国は、1951年日本と2次大戦戦勝国間に結ばれたサンフランシスコ講和条約の正 式署名国ではなかったので、賠償ではなく請求権を要求する他はない、国際法的地位にあった。したがって 韓日会談が屈辱交渉という主張は、"このような冷厳な国際現実を勘案しない判断"だ。また韓国が受け取っ た無償3億ドルを含む6億ドルの請求資金も、当初日本は8,000万~1億5,000万ドルで妥結しようとしたが、

わが代表団が最大限金額を引き上げて受け取ったもので、"代表団が最善の努力をした"というのだ。4) このような評価は事実上、問題の焦点から完全に外れている。外務官僚が交渉で、有利な位置を占めるた めに熱心に努力したのは極めて当然なことで、歴史的評価の核心ではない。文書という'木'に陥って、'森'を 見ることが出来ない主張だ。韓日協定を屈辱協定だと批判するのは、協定の根本的な性格のせいだ。協定文 に日帝の植民支配に対する謝罪が抜けているのは勿論、曖昧な文章であたかも植民支配を正当化させるよう な誤ちを犯した。韓日間の過去清算問題を、根本的に解決できない結果だ。熱心に努力したのに、むしろ根 本的な問題を扱えないのは、交渉当事者たちが出発を間違ったからなのか、でなければ自分たちの意志とは 関係なしに、政治的解決という次元で決定されたためだ。5)どちらにせよ屈辱外交という批判を免じること はできない。

またサンフランシスコ講和条約の枠の中では、どうしようもない限界があったという主張も、問題があ る。また韓国は、サンフランシスコ講和条約の当事者国家で参加できなかったために、むしろサンフランシ スコ講和条約に拘束される理由がない。‘1957年12月31日付韓日間財産請求権問題に関する米国側覚書’でも 明らかなように、韓日協定は当事国間の特別協定なので、当事国間で解決しなければならない課題だっ 3) 韓日協定文書公開と情報の民主主義という観点で扱った文としては、金敏喆(キム・ミンチョル)、韓日協定

文書公開と強制動員被害者補償問題」「明日を開く歴史」2005年夏号参照.

4) 「国政ブリーフィング」、2005年8月26日;「韓日協定、屈辱でない激しい外交折衝戦の結果」文化日報 2005年 827日付社説;「韓日協定、韓国経済のために'実利'を選んだもの」ノーカットニュース 2005827; チョン・イルジュン、「’韓日協定'評価、変えるべきか」京郷ドットコム、2005828

5) これに対する研究成果は、すでに充分にある。 最近の代表的な文としては、チャンバクチン、2009、「植 民地関係清算はなぜ成り立たなかったのか」論型を参照。

た。6) 2000年9月21日米連邦地方裁判所が‘米軍捕虜強制奴隷労働賠償請求訴訟’に対して、1951年サンフラ ンシスコ平和条約で請求権が消滅したという判決を下しながらも、米国や2次大戦当時連合軍所属でない他 の原告たち(韓国、中国の民間が強制労働被害者)には、この判決が適用されないとして、適用対象から除外 させた。7) したがって予めサンフランシスコ講和条約という枠という限界を設定して、その限界の中で最善 を尽くしたという主張は、それほど説得力がない。

韓国政府が多少譲歩しても'経済的実利という戦略的な選択'をすることで、経済発展に寄与できたという 主張も受け入れ難い。経済的実利を選んだというが、それが本当に実利だと大言壮語することができるの か。誰の実利なのか。政権の実利なのか8)、国民の実利なのか。経済開発にお金が必要だったからという が、この主張は李承晩政権や張勉政権でも、そのまま適用される論理だ。差異は朴正煕政権がクーデターで 執権することで、権力維持の正統性が非常に脆弱だったという点だ。米国がこれを利用して、執権を認める 代わりに韓日協定を強要したのであり、朴政権が国内の反対與論を無視して、戒厳令下で推進した歴史的事 実は、協定が持つまた他の限界をよく証明している。

そして"協定を改正しなければならないという主張に対しては、同意しない"と生半可に断言する根拠は何 なのか、外交史から見ても両国間の協定が改正された例は、無数に多い。それが片方に顕著に不利な形態で 結ばれた条約だったり、協定当時には予測できなかった懸案が発生したり、または協定当時相手を‘欺瞞’し て締結した条約は、当然再協議の根拠となる。現実的な力がなくて、改正を主張する実践力と説得力がない というならば、いっそ理解が出来るが、問題が程度に交渉が最善の結果をもたらしただろうか。それには協 定から疎外された被害者の被害がとても大きく、今でも進行中であるということを認識する必要がある。改 正の必要性は独仏協定の事例からも確認できる。

‘請求権協定’に明示された徴用と徴兵などは、日本側にこれ以上責任を問うことができないとしても、原 爆被害者と軍慰安婦、在日韓国人、サハリン残留韓国人など、韓日協定当時議論にさえならない問題を置い て、韓国政府が協議に出る方式もある。条約法上の錯誤、事情変更などを理由に、日本政府に要求できる。

6)「第7次韓日会談請求権協定関係説明資料」請求権および経済協力に関する協定関連資料、196365」、1580 330332ページ。この覚書は韓国と日本の間の請求権処理に関する、日本の平和条約第4条の解釈に対する 米国政府の立場を述べたもので、要旨は次の通りだ。韓国内日本の財産権が、韓国側に帰属するということ により、韓国が日本に要求する請求権がある程度みたされたし、このような事項が平和条約の中で、これに 対する解決を規定するのに十分な事実、または適用される法理論の十分な分析があるとは思わない。した がってこのような問題は、全面的に関係国間の協定に従って、韓国と日本の特別協定に決定できる。平和条 約で規定している当事国間の特別協定を締結して、在韓日本財産の韓国帰属が、どのように考慮されなけれ ばならないかに対し、米政府が意見を提示するのは適切ではなく、特別協定は関係当時国間の問題で、当事 国が決めなければならない問題であるからだ。

7) Judgment by United States District Court, Nothern District of California, in re World  War II Era Japanese Forced Labor Litigation.

8) “民主共和党が日本から資金を貰っているという非難は、恐らく根拠が充分だ。知られたところによれば日本 企業が1961年から1965年の間に、当時民主共和党総予算の2/3を提供したが、各個別企業の支援金額が各々 百万$から一千万$に達し、6個の企業が総66百万$を支援した。”‘韓日関係の未来’(1966318日付米 CIA報告書)‐日本企業から無償資金の1/5に該当する政治資金受けた。(原文は民族問題研究所ホームページに ある)