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これまで

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つの次元から,教育機会・教育達成の不平等をとらえる視点を整 理してきた.これらの視点が共通に抱えている問題は,「(教育の制度的な拡大 を経ても)教育機会・教育達成の格差は存在するのか」というものである.こ の問いを各段階の質的格差まで拡大させたとき,紡ぎだされる仮説は多岐にわ たる.これまでの議論をもとに,各教育段階における出身階層の効果とトラッ キングに着目すれば,階層と教育内移動の構造は出身階層

O,前期教育 S,後

期教育

H

3

者関連で示すことができる.荒牧(1998)はこの

3

者の結びつき を図

1.5

のように整理した.このモデル群は

3

者の関係のすべてのパターンを 示しているわけではなく,さらに時間的変化も含んだ関係図である.3者の関

30

係を静的にかつ網羅的に示すと図

1.6

のようになる 6.この分類によって教育機 会・教育達成と階層の結びつきが描く社会のモデルを提示する.荒牧(1998)

が試みているモデルとの対応を考慮しながら,それぞれを考察していく.ただ し,荒牧(1998)では

3

要素の結びつきの時間的変化を組み込んでいるため,

厳密な一致とはならない.

1.6

左側「トラッキング無」群は,前期の教育達成が後期の教育達成に与 える影響が比較的少ない,つまりご破算移動が比較的多く生じる場合である.

まず

A

は,教育達成に対して階層が影響力を持たない場合,つまり完全なメリ トクラシーである.ついで

B

も,前期の教育達成には階層が意味を持つものの,

最終的な教育達成には結びつかないという意味では,メリトクラシーの一形態 ととらえてもよい.この際,前期の教育は階層による格差はあるものの,消費 としての教育としてとらえられ問題にはならない.続いて

C,D

は最終学歴段 階に階層が影響している学歴格差型の社会である.荒牧仮説群の中では,D が

「階層支配仮説」とされ,この状態では教育拡大によって階層差が維持された まま各階層出身者の進学率が上昇するとしている.トラッキングがない社会で は,前期の教育に対して階層差があるかどうかは大きな問題とはならない.

一方右側は,トラッキングがある場合の社会である.この時,最終学歴段階 だけではなく,それ以前の学校段階に機会格差が生じているのかが重要になる.

E

では前期,後期ともに階層との結びつきはなく,

A,B

のメリトクラシーと同 一である.A や

B

との違いは,メリトクラティックな競争が最終学歴段階以前 に生じている点である.荒牧仮説群では,教育拡大によって

SH

の結びつきが

1.5荒牧(1998) によるモデル

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強まる「近代化仮説」を提示している.

F

H

の直接階層の効果がないものの,

階層は前期の教育段階

S

を介して最終教育達成に働きかける,いわば「不平等 隠蔽型」の社会である.この時,顕著な「階層効果逓減」と「トラッキング」

が生じる.荒牧仮説群の中では「ライフコース仮説」とされている.G は,階 層要因と同時に階層に影響されない

S

が最終教育達成

H

に影響している.この 社会は,属性主義の側面も持ちながらメリトクラティックな選抜も起こってい る「半属性主義・半メリトクラシー」といえる.荒牧仮説群では

OS

関係が次 第に弱まるが

OH

関係と

SH

関係は維持される「再生産仮説」と,同時に

OH

関 係が強まる「差別的選抜仮説」としている.最後の

I

はすべての要素が結びつ いている.階層が前期の教育を媒介し,さらに最終教育達成にも直接的に影響 を及ぼしている,「不平等蓄積型」の社会である.

教育機会・教育達成の不平等の検証は,それを通じて社会がこの

5

つの分類 のどれに属すかを検証することと同義だと言える.さらに,時代などの動的な 視点を組み込めば,これらの構造が時代・世代で変化しているのかを検討する ことになる.多項トランジションモデルの提示以降,3 つの要素を統一的に扱 った研究では,おおむね

I

の不平等蓄積型の社会が支持されている(荒牧 1998;

都村・西丸・織田 2011 など).つまり,出身階層は直接最終学歴を規定しなが ら,前期の教育にも影響し,トラッキングというメカニズムを介して間接的に も影響している.そのような社会において, 次なる検証の的は,トランジショ ンアプローチが注目してきた「教育段階移行のどこで強く生じているのか」と いう疑問である.図

1.6

で言えば,

G

F

のどちらにより近い(またはいずれ とも異なる)社会なのかということになる.この問いに関しては,「階層効果逓 減」の存在(荒牧

2008)から,前期において階層効果が強いことが示唆されて

1.6教育内移動のモデル

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いるが,その厳密な検証方法も含めて,いまだ答えは出ていない.

本章では,教育機会・教育達成の不平等を捉える

4

つの視点をレビューし,

今後の検証が想定するモデルを提示した.先に強調したように,教育機会・教 育達成の不平等を捉える研究は,主に統計的な手法によって行われてきた.そ れらは教育機会の構造の変容に伴い発展し,不平等の新しい視角を提示してき た.これまでの知見を簡単にまとめると,(1)近代以降の教育の拡大は,出身階 層による社会移動(世代間移動)の流動性を促進する十分な機能を果たしてい ないこと,(2)教育の規模が人口規模(教育需要)に対して飽和といえる段階に は,同じ教育段階において質的な分化が発生すること,(3)「より良い」教育を 得る機会が有利な階層に優先的に開かれていること,(4)質的差異も含めた教育 内部の移行の階層差を検証,説明する枠組みが必要であること,の

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点である.

教育機会・教育達成の不平等は,その内部構造を詳細に検討するという方向 で相互に関連しあいながら発展してきたと言える.社会移動における教育への 着目が地位達成モデルを発展させ,教育達成家庭に着目したトーナメント移動 モデルが

IEO

やトランジションモデルの基礎となった.さらに,多項トランジ ションモデルが,EMI など教育の質的差異への言及を可能にした.教育機会・

教育達成の不平等は,個人の教育達成の過程に焦点を当てることが主流となり,

質的差異という新しい視点への注目が必要である.

質的差異への関心は,教育と階層を論じるうえで古くから関心の対象にはな っていたものの,それを支える理論枠組みは十分に発展しているとは言い難い.

荒牧 (1998) や前節で示したモデルは,その試みの一つである.これは主に高校 と大学(高等教育)の

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段階を想定したモデルであるが,近年では,義務教育 段階における質的差異にも注目が及んでいる.少子化に伴い,国私立の小・中 学校がシェアを伸ばし,それらへのアクセスの機会が階層によって規定されて いることも知られている(西丸

2008a, b;

片岡

2009

;都村・西丸・織田

2011

小針

2004).教育と階層を描く本論の教育内移動モデルは,これらの変化をも

射程に入れる.

1 近藤(1990)が示した5つのモデルに,新たにモデルBを追加したのが図1.1である.本論で示した モデルDは近藤(1990)においては,「学歴支配」と呼ばれている.しかし,本論では教育達成の指標 として単なる学歴のみではなくその内部分化にも注目することから,「媒介再生産」の名をあてた.

2 MMIに倣って「実質格差維持仮説」と訳すのが適切かもしれないが,定訳はない.

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【注】

3 Lucas (2001) では各トランジションに関する出身家庭背景の効果を順序プロビットで検証している.

ここからもEMIが想定する教育システムは何らかの順序性を持つことが条件になる.このような教育 システムの構造は,あるトランジションの量的な拡大に伴う制度的な平準化を想定しているといえる.

日本において質的差異を問題にするとき,前述のような高等教育機関の制度的な分化により,順序性 を仮定することはせずに多項選択モデルを用いることが多い(荒牧2008など).一方,高等学校に関 しては,普通科高校が大半を占めることもあり,質的な差異は「進学校」「中堅校」「進路多様校」と いう具合に大学進学率を基準に順序尺度として扱うこともある(中村2011aなど).

4 ここで教育の「質」という表現を用いたが,本論を通じての「質的差異」などと同じように,必ずし も「質」という言葉からは序列を意味しないことに注意する.公立中高一貫校の制度化に関して公開 されている中央教育審議会の議事録では,明確に質の良し悪しに関する言及はなく,あくまでも6 間一貫教育による「ゆとり」の確保や個性尊重などの,藤田(1996)のいう「建前」のメリットを強 調する向きがある.

5 回帰分析の手法とクロス集計表の分析手法は独立変数・従属変数を区別するかしないかという点が大 きく異なるものの,互いに全く独立した手法というわけではない.相関係数の応用が線形回帰(OLS であるのと同様に,対数線形モデルの特殊な形式として2項ロジットや多項ロジットモデルが位置づ けられる(Agresti 1996).

6 このほかにもSH関係の大きさに階層が影響を与える条件付きご破算型や,OSHの相互作用効果など も考えられるが,単純化のためここでは扱わない.

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