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分化の程度は高等教育段階に関する階層差を直接的にほとんど変化させないた め,高等教育段階までに累積していく階層による分化の程度はこれまで以上に 大きくなる.

Boudon(1973=1983)が「機会を拡大すれば不平等は減少する」という命題を

覆したように,本論からも「一部の裕福な家庭が私立学校に進学する機会を独 占しているから,公立中高一貫校の設置によってその格差を是正する」という 政策理念の誤りを指摘できる.政策的な介入の効果を事前に予測する手段とし てマルチエージェントシミュレーションは有効である.本論では教育機会の階 層間格差に対して機会規模の拡大がどのように影響するのかを主眼に置いてい たが,その応用の可能性は広いといえる.例えば

6・3・3・4

制などの現在の教 育制度の根幹をなす部分の変革に関する議論をする際,それらがどのような社 会的影響を及ぼすかを考察することは不可欠である.その議論の妥当性を担保 する手段として,シミュレーションを用いることは非常に有用になり,意図せ ざる結果を未然に防ぐ手段ともなる.

シミュレーションによる事前予測は,陰に陽に様々設定される政策目標に対 しても重要な示唆を与える.その中で,何を重視し,何を犠牲にするのかの選 択に問いかけることもできる.中学校の文脈でいえば,早期受験の拡大によっ て階層間格差を広げてでも地域の優秀な子どもを公立学校に獲得するのか,そ れとも格差の是正を優先させてありうべき早期受験の代替案を考えるのか,そ の選択肢を与えることができる.また,近年では高等教育改革議論の中で,大 学(国立大学のみの議論であるが)の役割をいくつかに分割するという改革案 が提示されている(『読売新聞』東京版

2015/09/04

朝刊)3.これらの政策が,

教育と地位達成の結びつきをどのように変化させ,さらに出身階層と教育機会 の関係をどのように変化させるのか.理念や目標が先行しがちな教育政策論議 において,シミュレーションの果たす役割が,今後期待されると言えよう.

教育の規模や質的分化が教育機会の不平等構造に影響を与えるならば,異なる 教育制度を持つ国では異なる教育機会不平等が存在し,教育が持つ社会移動へ の役割も異なるはずである.産業社会においては教育が個人の地位達成に重要 な役割を持つことはほぼ共通であるが,教育機会の構造は国ごとに大きく異な る(Hopper1968=1980).それにもかかわらず,産業社会の社会移動はほとんど 同じようなパターンであり,さらに教育機会の不平等構造も似通った傾向を示 している.これらの事実は,教育内移動をさらに詳細なパターンに分けたとき に違いが明確になることも考えられるし,それとも一見各国で異なると思われ ていた教育制度,選抜システムは,社会移動との位置づけの中で根底に持って いる性質は同質なものなのかもしれない.

本研究が用いた数理社会学的な手法は,条件の設定によってあらゆる教育シ ステムを数理モデルとして再現可能である.数理モデルによって,これらの新 しい問いにアプローチし,様々な違いを持つ諸外国の教育制度と教育機会不平 等の関係を見出す道具としての可能性が期待される.

2

の可能性は,社会制度の変化に対するメカニズム究明である.本論では 一貫して,個人を分析単位としてモデル化や分析を行ってきた.そこでは制度 の変化(進学率の変動や質的変化)はすべて外生的に与えられる条件としてと らえてきた.当然この仮定は問い直されなければならない,教育はサービスの 一種であり,教育に関する需要に従ってその規模も変動し,また質的な変化も 教育を受ける側のニーズによって変動しうる.さらに言えば,制度の変化は機 会の量的な規模や分化の程度だけではなく,どのような基準によって選抜を行 うかという軸も存在する.中村

(2011b)

が「4年制大学における推薦入試や

AO

(アドミッションズ=オフィス)入試の導入によって,進路多様高校卒業者の進 路決定が4年制大学にシフトした」と指摘するように,入学試験の形態によっ ても人々の行動は変わり,それによって選抜方法もまた変化を迫られる.本論 で強調してきた中学校段階も,国私立中学校,さらには公立中高一貫校に関し ても,公立学校以外での教育サービス需要があるからこそ生じ,または維持さ れるのである 4.一方で,近代国家の教育の発展は,国ごとの人口要因や産業 構造に依存しない自己組織的な拡大を示していたということも知られている

(Meyer, et al. 1977; Meyer, et al. 1992).現在のような選抜システムがなぜ生じ,

維持されるのか,またはなぜ変化するのかという政策科学上の大きな問いは,

いまだ手付かずのままである.「マイクロ・マクロリンク」は,社会状態の変化 を所与とする個人行動の変化を仮定しながらも,その集積としての社会状態の 変化にも視点を向ける.本論で考察した社会状態の変化とは,階層と教育の関

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係といういわば「社会学的な状態」といえるものの変化である.これらが目に 見える形での質的な分化の程度や選抜の方法をどのように変化させるかという 問いも,マイクロ・マクロリンクが取り組むべき課題として残されている.

教育・選抜の制度だけでなく,教育達成と地位達成の関係の変化も同時に考 察される必要がある,本論において,この関係は

3

つの

BGM

パラメータで表 現され,そのうちの一部を推定した,しかし,教育の拡大に伴い,これらの値 も同時に変化することも当然考えられる,本論では教育機会の不平等構造を中 心に論じたため,地位達成に関するパラメータの変化までは扱えなかった,

Boudon (1973=1983)

が教育機会の不平等のみでなく,親子間の地位継承(ISO)

の変化をも射程に入れていたように,教育と地位達成の関係を説明する理論を 確立することによって,教育達成過程を,再び地位達成過程または世代間移動 の枠組みの中に戻して,再生産のメカニズムを理論化できる.

3

の展開可能性として,計量分析の枠組みに対する数理モデルからのアプ ローチがある.

5

章で用いたシミュレーションは,その結果が計量分析の結果 に近づくようにその精度を高めていった.この方法を採用する根底には,計量 分析の結果が正しい(一般的な数理モデルで言う厳密解)という前提がある.

まったく同じ目的を持った分析であっても,用いる変数,データを変えれば結 果が変わることは

5

章・6 章でも述べたとおりである.この方法の根底にはも う一つの前提がある.それは,用いる統計モデルの正当性である.本論の

5

章 で厳密解とした値は,潜在クラスを使った対数線形モデルの結果である.階層 と教育の関係を描き出す分析手法は対数線形モデルに限られることはなく,異 なるモデルを採用すれば異なる結果を導くことにもなる.さらに言えば,多く の統計モデルは,パラメータに対して線形の仮定を置いている(浜田

2012).

これらは数学的な扱いやすさから多く採用されているが,この定式化が正しい という根拠もない 5

統計分析も数理モデルも,分析のスタートは同じであり,仮定と公理によっ て社会を表すモデル式を立てるところから始まる 6.数理モデルが,仮定と公 理にしたがって社会のモデルを設計できれば,それに沿うような計量モデルを 構築することも原理的には可能である.計量モデルの枠組みそのものを対象と する事象に沿って構築できるような,数理的手法からの接近が期待される.

これら

3

つの発展によって,より一般的な教育機会不平等のメカニズム解明 が期待できる.教育というシステムと社会とのかかわりに関する一般的な命題 を見出すには, 各国の教育システムや社会構造がどのように生成され,またそ れらが教育機会に対してどのような影響を与えているのかを検討できるような

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モデルを作成しなければならない.序章に示した

3

つの手法の連携(図

0.2

)に よって,それらは可能になる.

1 この論理は,同時に中学校段階の階層間格差自身の正当性も脅かす.すなわち,中学校段階の不平等 は,小学校などそれ以前の教育によって生じた階層間格差をトレースしたものであるという批判が生 じうる.国私立の小学校受験に存在する階層的閉鎖性などは小針(2004)が指摘しているように確か に存在し,階層的分化のスタート地点がどの時点なのかを明確にすることは難しい(遺伝的要因によ って出生時から不平等がはじまっているとみなすこともできる).本論が明らかにしたのは,すべて の階層間格差のスタート地点が中学校段階であったとすれば,中学校段階の質的分化がその不平等を 増大させるということである.

2 数学的に厳密な意味での「公理」を特定するのは難しい.一般に公理とは,演算規則や推論の根底に ある,それ自体を証明することができない最も基礎的な仮定(群)のことを指す.空集合の存在,順 序公理などがその代表である.一方,三角不等式など,ある論理体系では証明不可能であるが自明で ない(これを満たさない別の論理体系が成立しうる)命題を公準といい,公理とは区別される.「教 育機関が複数の階層構造を持ち一度そこから離脱すると戻ってこられない構造をもつ」という命題を 高坂(1987147)では公理,Boudon (19731983140) では補助公理と称していたが,この命題は 自明ではないため厳密には公理とは呼べない.その意味では,本論で用いているモデルにも「公理」

と呼ばれるものはほとんどない.「公理」と呼べるものは,「進学率の大小関係で格差を表現できる」

ことや「進学率が確率変数の分布関数で示される」などの命題に限られる.2章ではこれらの命題を 特に強調することなく用いたが,それはこれらが公理である故である.

3 「国立大学改革の概要「3類型」から将来像選ぶ」読売新聞東京版2015/09/04朝刊17 または文部科学省「国立大学改革について」(20151227日最終閲覧)

http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/1341970.htm

4 教育の供給が需要によってのみ決まるという話では,当然ない.たとえば併設型公立中高一貫校の設 置が,私立学校に流出する生徒確保の側面を持ちながら行われていたり(濱本2012),学校統廃合の 一形態として連携型の公立中高一貫校や小中一貫校を設置するというケースもある.また,高等専門 学校は,中堅技術者を養成するという経済界からの要求によって制度化されたものであり,単純な市 場メカニズムとは異なる面も多分にある.

5 もっとも,一般的な関数𝑓𝑓(𝑥𝑥)𝐶𝐶級(無限回微分可能)であるとき,テイラー展開によって

𝑓𝑓(𝑥𝑥) =𝑖𝑖=0𝛼𝛼𝑖𝑖(𝑥𝑥 − 𝑎𝑎)𝑖𝑖と表されるただし𝛼𝛼𝑖𝑖=𝑓𝑓(𝑘𝑘)𝑖𝑖!(𝑎𝑎).この定理は多変量関数にも適用されるため,一 般的な線形モデルは,真たる関数形の近似として見ることができる.関数𝑓𝑓(𝑥𝑥)𝐶𝐶𝑛𝑛(1n <∞)であ るときは𝑓𝑓(𝑥𝑥) =𝑛𝑛−1𝑖𝑖=0𝛼𝛼𝑖𝑖(𝑥𝑥 − 𝑎𝑎)𝑖𝑖+𝑓𝑓(𝑛𝑛)𝑛𝑛!(𝑐𝑐)(𝑥𝑥 − 𝑎𝑎)𝑛𝑛と表され,剰余項𝑓𝑓(𝑛𝑛)(𝑐𝑐)

𝑛𝑛! (𝑥𝑥 − 𝑎𝑎)𝑛𝑛が十分に小さければ,

線形モデルの近似とみることが可能である.

6 その意味では,統計分析も数理モデルを用いた研究分野の一部ということもできる.

0.2 本論で用いる3つの手法の関連(再掲)

151

【注】