高校段階,高等教育段階は安定した傾向が見て取れる.中澤(
2008
)の分析に おいても出身家庭背景の効果は高校拡大を経ても変化していないことが示され ており,それと整合的なものとなった.高等教育進学機会に関しては石田(1989)が
1975
年SSM
データを用いてその階層差の増大を示しているが,それ以降の 世代も合わせた潮流の中では大きな変化がない,安定した構造と言えよう.中 学校段階は1960
年以降生まれに一時的な平等化の傾向が見られる.これらを積 極的に解釈することもできるが,モデル比較からはこれらの傾向は誤差の範囲 であり,3章同様男性の階層効果は一貫して安定である.階層による機会格差の世代間の挙動を検証した分析では,各効果がそれぞれ 異なる挙動を示した.中学校では男女ともに,すべての年代で安定的な構造を 示し,教育達成過程上の階層による分化に静かに影響を与え続けている.
高校,高等教育段階は男女で異なる傾向を示し,男性ではともに安定的な推 移,一方女性はダイナミックな動きをしていた.女性の高等教育に関する階層 効果は,1970年代以降生まれの世代で多少の平等化を見せた.この時期は前述 したように,短大がメインであった女子の高等教育進学が徐々にその構造を変 化させ,4年制大学がとってかわった時期である.高等教育の内部分化に大き な変動がなかった男性で階層効果が安定してきたことを踏まえると,質的な差 異に関する階層効果は,質的分化の変化に影響を受けながら変動したことが示 唆される.
高等学校段階は,男女で大きな構造変動の違いは見られない.それにもかか わらず,女性の階層効果のみが変動するという特徴的な結果となった.特に大 きい階層効果が検出された
1960
年代生まれの世代は,高校進学率の急激な上昇 と高度経済成長の中での集団就職が同時に起こっていた時期に15
歳を迎える.高校進学率の急速な高まりによって,中卒ブルーカラーの職が高卒ブルーカラ ーによって代替され,高卒学歴が事務職等のホワイトカラーへの道を保証する ものではなくなった(本田
2005).
「高卒学歴が「行けば得する」という「 プレミアマ マ」であったものから,「高校くらいは最低出ておかないと!」という防衛的支出 へと変化」した時期でもある(香川・児玉・相沢
2014; 54).そのような中での
女子の質的格差の高まりは,ブルーカラーを避けるための高等教育進学を目的 とした高校進学欲求の高まりととらえることができる.これらをまとめ,女性の階層効果の変化に重点を置くと,教育内移動におけ る階層分化のプロセスは図
4.13
のような推移をしているとみることができる.図
4.13
に示したパスのうち,二重線のものは強化されたことを,点線は弱まっ たことを示している.高校進学率の上昇に伴って増大し,高校段階の質的格差 を形成してきた.やがて高校進学率が飽和を迎えると,高校段階の格差は緩和 され,また高等教育機会の質的変化によってこちらも平等化に転じるようにな った.ただし,中学校段階の階層による分化が,それ以降の分化と比べて小さ いものの,安定的に階層の影響を受け続け,高校段階へ階層効果を継承してい る.一見高校から始まるように見える階層による質的分化は,中学校段階から 始まっており,高校は中学校における階層差を部分的に継承し,それを高等教 育段階まで継承する役割を担っているといえる.とくに若年の世代では,高校,97
高等教育の階層効果の弱まりを受けて,中学校段階の質的分化が教育達成過程 全体での役割を増しているといえよう.
3, 4
章の結果は,教育機会の拡大と階層差の変動メカニズムを説明したMMI,
EMI
のロジックを一部退ける結果となった.MMI
が想定する「有利な階層の教 育要求を優先的に満たしていく」というロジックが妥当ならば,高校段階は量 的飽和後平等化に転じていなければならず,高等教育段階は一定もしくは不平 等化の傾向を持つはずである.しかし,高校段階が飽和した時期以降でも男性 の階層差は維持されているし,いまだ飽和していない女性の高等教育段階は平 等化の傾向を示している.EMI
の「量的飽和後にも質的な格差が 維持・ ・ EA A Eされる・ ・ ・ EA」 という命題とも女性の結果はそぐわない.教育機関の量的および質的な変化お よびは,その成否にかかわる出身家庭背景の影響力の変化を伴っている.教育 機関の変化と不平等の変化は,当該の段階のみの変化で説明できるものではな い.本章の結果からみられるように,高等学校段階の階層効果の男女での違い は,量的な拡大や質的な構造変動だけでは説明がつかず,その後の教育段階の 変化とも関連付けて論じる必要がある.本章の課題と展望について述べる.まず出身家庭背景のとらえ方について,
本論で用いた対数乗法層化モデルは対数線形モデル同様,少数セルによる結果 の不安定を生みやすい.セル度数を確保するため,潜在的な階層変数は
2
カテ ゴリで統一したが,これまでの研究でも社会経済的地位が非一貫性をもちなが ら分布していることが知られており(原・今田1979
),それらが1
つの次元,2
カテゴリに縮約されるということは保証されない 9.さらに,独立変数群にも 再考の余地がある.本章の分析では,データの制約から顕在的な出身家庭背景 変数として経済的な要因を含んでいない.階層要因に限らず,居住地の情報も 重要な要因となる.中学校段階に関しては家庭の経済的な要因や居住地が,高 等教育段階に関しては居住地などが効果を持つことも指摘されており,これら を含んだ教育達成への影響を考慮することも今後の重要な課題となる.本論では図
4.4
の枠組みにそって分析を行った.しかし,中西(2000)も指 摘するように,教育段階をまたぐ際の順位継承の構造もまた出身家庭背景に影図4.13 階層による質的格差構造の変化
98
響を受ける.階層によるトラッキングへの影響を視野に入れることも必要とな ろう.
以上のような課題を含みつつではあるが,本論では個人の教育達成過程にお ける出身家庭背景の役割の重要な変化を示した.質的差異を考慮した上でも,
機会の飽和した高校段階においても不平等は減じられなかった.EMIの命題の うち「量的飽和期の質的格差の維持」とは整合的な結果であり,飽和による平 等化を唱えた
MMI
退けられる.さらに依然として存在する中学校間の質的格差 とトラッキングを考えると,高校段階における階層による分化に関しては楽観 視しがたい.今回の分析から,中学校段階の質的格差に対する階層の直接的な 影響力の安定または強化によって,かつてよりも中学校段階で生じた格差を継 承した結果(迂回路)としての意味が強まっていることを確認した.MMI
やEMI
が想定する家庭の合理的選択が,教育システム全体を見渡し,より早い段階で 行われている可能性を指摘できる.少子化に伴い国私立中学校のシェアは増大 していくことが考えられる.また,近年首都圏以外においても公立中高一貫校 のような新しいタイプの学校が広がりつつある(濱本2012).義務教育段階で
生じた質的分化が,教育達成過程全体にますます重要な意味を示すことが示唆 される.本章までの分析では,中学校段階の分化に関して,その階層効果が他の教育 段階の影響を受けながら変化している可能性を示した.しかし,本来ならば,
中学校段階の機会格差は,中学校段階の分化の程度に影響を受けると考えるの が自然である.日本の国私立中学校のシェアは,戦後大きな変化を示していな いが,本章の分析よりも後の世代(
1985
年以降生まれ)では,少子化の影響も 受けながら徐々に国私立中学校がシェアを伸ばしている.これらの世代で,ど のような不平等構造が生じているのかを検証する必要がある.さらに言えば,国私立中学校や公立中高一貫校といった選抜を課すタイプの学校の増加が,ど のような不平等構造の変化をもたらすのか,本章の分析まででは判断できない.
次章からは,これらの課題に対処するため,これまでとは異なるアプローチ をとる.さきに作成した合理的選択理論による進学機会モデルをコンピュータ 上の仮想社会に再現し,教育達成シミュレーションを行うことで中学校段階の 分化が生じた際に生じる教育機会不平等構造の変化を予測する.3章の冒頭に 述べたように,本章までの分析は,数理モデルと仮想社会の妥当性を担保する ための
1
つの指標として機能する.99