扱うモデルのうち,外生変数を除いた主要な部分を示せば図
4.5
のように表 現できる.F
は出身家庭背景,J,H,U はそれぞれ中学校,高校,高等教育段階を 表す.出身家庭背景はそれぞれの学校段階に独自の効果を与えている一方で,前段階の教育機関での分化は次の段階の進学先に影響を与えることを示してい る.
データは
3
章に引き続き社会階層と社会移動全国調査(SSM)の1985
年と2005
年データを用いる.これらのデータには,出身家庭背景に加え,詳細な教 育歴に関する情報がある 3.用いる変数は以下のとおりである.各変数の基礎 統計(周辺度数)は表4.1
に示した.1)
潜在階層変数F:階層変数は, 3
章と同様に父職威信スコア,兄弟姉妹数,父教育年数の
3
つの顕在変数(連続)を総合して用いる.表4.1 基礎統計
男性 女性
度数 (%) 度数 (%) 中学
国私立中 123 (5.3%) 166 (6.2%)
公立中 2,184 (94.7%) 2,515 (93.8%)
高校
普通科A 283 (12.3%) 281 (10.5%)
普通科B 825 (35.8%) 1,307 (48.8%)
職業科 787 (34.1%) 640 (23.9%)
非進学 412 (17.9%) 453 (16.9%)
高等教育
大学A 166 (7.2%) 41 (1.5%)
国立大 89 (3.9%) 60 (2.2%)
私立大 396 (17.2%) 155 (5.8%)
短大専門 146 (6.3%) 688 (25.7%)
非進学 1,510 (65.5%) 1,737 (64.8%)
コーホート
1935~50年生 1,047 (45.4%) 1,164 (43.4%)
1951~60年生 540 (23.4%) 614 (22.9%)
1961~70年生 376 (16.3%) 447 (16.7%)
1971~85年生 344 (14.9%) 456 (17.0%)
Variable Mean s.d Min Max Mean s.d. Min Max 父教育年数 9.43 3.32 6 18 9.79 3.32 6 18 父職威信 50.22 11.28 23.4 90.1 50.40 11.12 23.4 90.1 兄弟姉妹数 2.47 1.70 0 11 2.48 1.76 0 11
N 2307 2681
86
カテゴリ数は
2
カテゴリで統一する.2)
中学校J:
出身の中学校に関して「国私立中学校=1」「公立中学校=2」とする.
3)
高等学校H:
出身の高校に関して普通科(理数科,国際関係学科も含 む)のうち,ほとんどの人が大学に進学する学校を「進 学校=1」,普通科のうち進学校以外の学校を「非進学校=2」,普通科以外の学科を「専門学科=3」とし,非進学
に関しても「非進学=4」とした 4.4)
高等教育U: 4
年制大学のうち,荒牧(2008b)に倣い,比較的歴史が 古く,入試難易度や社会的な威信の高い大学を「大学A
群=1」とし,そのほかは「国公立大学=2」「私立大学=3」「短大・専門学校=4」「非進学=5」とした.なお,本論 においては高校卒業後最初の進学先によって分類し,中 退や在学中も含めて進学先としている.
5)
世代C:
世代の区分は,3章では連続値を使っていたが,本章で は4
つのカテゴリに分割する.進学率の変動をもとに,高校,大学ともに拡大していた「第
1
コーホート1935~1950
年生」,高校進学率が90%を超え,大学進学率
も
30%代で安定した「第 2
コーホート1951~1960
年生」,大学進学率が再上昇した「第
3
コーホート1961~1970
年 生」,大学進学率が40%程度で一度落ち着き再び上昇した
「第
4
コーホート1971~1985
年生」4
つの世代に分ける.これらの変数に対して図
4.4
のモデルを用いた分析を行う(推定に用いたプログラムは
Appendix
に記す).表4.1
を見てわかるように,男女別にした際に特定の度数に極端に少ないセルが生じている.このような極端な分布は,推定を 不安定にすることが知られており,多くのパラメータを用いる本章の分析もこ の影響を受けやすいことが予想させる.ここで,推定するパラメータを節約す るため,高校-高等教育間のトラッキングに関して仮定を追加する.本来,局 所従属の仮定によって高校
4
カテゴリ×高等教育5
カテゴリ=20カテゴリに対 して,12 個のパラメータが推定される 5.全てのセルに対してパラメータを推 定するのは冗長なため,いくつかのセルのパラメータに等値制約をおく.高校,高等教育のランクをそれぞれ
3
つに分けた中西(2000)の教育内移動の分類で87
は,1位キープ組,2位キープ組,3位位キープ組,ご破算上昇組,落伍移動組 の
5
パターンが想定されていた.本章ではこの枠組みを一部踏襲する.中西(2000)においては非進学者が一切考慮されていなかったが,本章では非進学 者も含んでいるため,独自のカテゴリとして認識する必要がある.本章の教育 達成のカテゴリに従えば,中西(2000)の分類枠組みは,トラッキング構造に 表
4.2
のようなデザイン行列を仮定することに等しい.本論では,これに倣い,表
4.3
のようなデザイン行列を仮定する.対角線上の1
は,中西分類でいう1
~3位キープ組を同等のものとしてまとめた「順位キープ組」である.2と
3
は それぞれ落伍移動とご破算上昇に対応する.高等教育非進学は進学先の順位と しての位置づけではないため,落伍移動とはみなさない.大学非進学を独立の カテゴリとして推定することも考えられるが,この効果はすべて高校と大学の 主効果によって表現される(共線関係)ため,デザイン行列には含まれない.この仮定によって,推定するパラメータは
3
個にまで節約できる.分析の第
1
段階として,図4.5
の各関連が存在するのかを検証する.そのあ と第2
段階として,それぞれのパスがコーホートごとに変化しているのかを,対数乗法層化モデルを用いて検討する.対数乗法層化モデルは,2 つの変数の 関連のパターンを固定し,その大きさが第
3
変数によって異なることを想定し たモデルである.本論では,
F, J, H, U
それぞれの関連のパターンは変化させずに,関連の大き さがコーホートによって変化しているのかを検討する.それによって,階層効 果とトラッキング効果が全体として固定化しているのか開放化に向かっている のかを検討する.第1
段階で確認された出身家庭背景と進学先の関連がコーホ ートによって強まっている(𝜙𝜙
𝑐𝑐𝐶𝐶> 1)
ならば,若年世代において教育機会の不平 等は強まっていると理解できる.また,第1
段階で確認されたJ, H, U
間の関連 がコーホートによって強まっていれば,若年世代において教育内移動の固定化 が進んでいると理解できる.表4.2 デザイン行列(中西2000) 表4.3本章で用いるデザイン行列
大学A 大学B 大学C 短大専門 大学A 国立大 私立大 短大専門 非進学 普通科A 1 5 5 5 普通科A 1 2 2 2 0 普通科B 4 2 0 0 普通科B 3 1 1 0 0 普通科C 4 0 3 0 職業科 3 0 0 1 0 職業科 4 0 0 0 非進学 0 0 0 0 0
88
表4.4 対数線形モデルの比較(男性)
主効果 Log likelihood df 比較 ΔL2乗 p
1 無効果 [C][F][J][H][U]
[CF][CJ][CH][CU] (base) -26423.62 39
2.1 トラッキングのみ [JH] [HU] -26228.11 45 1 391.00 0.000 2.2 階層効果のみ [FJ] [FH] [FU] -25860.60 47 1 1126.04 0.000 2.3 中学校無効化 [FH] [FU] [HU] -25872.61 49 1 1102.02 0.000
3 トラッキング
+高等教育主効果 [FU] [JH] [HU] -26084.65 49 2.1 286.93 0.000
4 中学校階層効果無 [FH] [FU] [JH] [HU] -25862.52 52 3 444.26 0.000 5 階層効果+トラッキング [FJ] [FH] [FU] [JH] [HU] -25842.72 53 4 39.60 0.000