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ためである.この関係からわかることは,相対リスク回避メカニズムのみに基 づいて教育意思決定を行うとき,S,W クラス共に高校には進学することが常に 合理的となり,高校非進学は発生しない.中学校・高校間の移行で歩留まり率 が厳密に

1

にならないのは,リソースの差,および構造化されていない誤差の 成分に依存するということである.

一方図

5.6

は,高校のタイプごとの,高等教育進学の期待利得を示したもの である.高等教育進学の期待利得は,高校のタイプによって異なるため,一つ の階級につき

3

つの曲線と

3

つの直線が表示される.Sクラスに対しては,高

Type1

に進学した場合,高等教育も常に進学することが合理的となる.

Type2,

3

については,進学しないことが合理的になる領域も存在する.高校のタイプ はより上位の高校ほど,進学せずに労働市場に参入した場合の下降リスクが大 きくなるような設定になっており,さらに

𝛢𝛢

の推定結果が

α

31

< 𝛽𝛽

21となっている ことから,高校段階で中位,下位に配分されてしまった場合,(トラッキング効 果も加わり)進学しないことが合理的になる層が存在する.

W

クラスに関して も類似の傾向が読み取れるが,

S

クラスとは違い,

Type2

の高校に進学した際も,

常に高等教育の進学が合理的な選択となる.グラフを見てわかるように,

Type3

の進学者に関して言えば,進学が合理的になる水準は,

S

クラスのそれの方が

W

クラスのそれよりも小さい.一方

Type2

に関しては

W

クラスの方が小さい.

合理的選択のみが進学の基準であるならば,高等教育機会の進学率は,

P(𝑠𝑠𝑠𝑠𝑎𝑎𝑦𝑦2|𝑆𝑆, 𝑗𝑗

3

) > P(stay2|W, 𝑗𝑗

3

), P(𝑠𝑠𝑠𝑠𝑎𝑎𝑦𝑦2|𝑆𝑆, 𝑗𝑗

2

) < P(𝑠𝑠𝑠𝑠𝑎𝑎𝑦𝑦2|𝑊𝑊, 𝑗𝑗

2

)

となる.

るので,これは不自然なことではない.本章の仮定の下では,上位の高校進学 者は常に高等教育に進学することを余儀なくされていると言ってよい.

2

に,相対リスク回避メカニズムのみで教育達成の階層間格差を導出する ことは不可能であることが示された.高校進学に際しては,どの階級も合理的 選択によって常に進学することが合理的になり,数理モデル上の厳密な定義か らは,教育達成の不平等は起こりえない.各階級共に高校の「非進学」が生じ るのは,リソースによる制約,さらにそれらに帰せない誤差要因によるものと 言わざるを得ない.シミュレーションが示す結果は,教育内移動において相対 リスク回避という心理的メカニズムは限定的にしか機能しないということであ る 8

.

ここまでに,相対リスク回避説に基づいた教育機会不平等のモデル化を行っ た.合理的選択によって教育達成の階層間格差を十分に再現することができた.

ここまでのモデル化を経て,次に行うことは,選抜制度による教育機会不平等 を観測することである.本章では,国私立中学校のシェア,高校・大学のタイ プ別シェアを実データから得られる値(戦後日本の「平均的な」値)に固定し た下で機会格差を算出した.次章では,このシェアを可変な変数とみなし,本 論の主要な問いである「選抜制度の変化によって階層間格差がどのように変動 するのか」を検討する.

1 教育機会不平等を予測するシミュレーションの試みが少ないのは,計算不可の問題だけに着せられな い.人工社会シミュレーションを行うには人工社会を設定し個人の選択・行動を記述する(数理)モ デルが必要である.しかし本文に示したように,合理的選択による数理モデルはBreen et al.のモデル のほかわずかしかなく,それらも教育選択を示す関数を完全に定義できていない.教育に限らず,社 会現象の説明を試みた検証可能なモデルを欠いていることが,社会シミュレーションの発展が進まな い根本の原因である.

2 確率論的なシミュレーションのうち,社会や個人のとらえ方が異なる手法を代表例として挙げた.

Gilbert and Troitzsch (1999=2003) では,このほかにもマルチレベルシミュレーション等も紹介さ れているが,これらは,複数の階層構造を持つ社会を仮定する手法であり,基本的には本文に挙げた 5つの手法のいずれかを用いる.

3 最尤解の見つけ方はこのほかにも考えられる.たとえば,複数のシミュレーションによって得られる 仮想データをマージし,仮定した𝛼𝛼の値を変数として投入した多項ロジットモデル

log𝑝𝑝𝑚𝑚

𝑝𝑝4=𝛽𝛽0(𝑚𝑚)+� 𝜉𝜉𝑖𝑖𝑖𝑖(𝑚𝑚)𝛼𝛼𝑖𝑖𝑖𝑖 𝑖𝑖,𝑖𝑖

+𝛽𝛽1𝑊𝑊(𝑚𝑚)𝑋𝑋𝑖𝑖𝑊𝑊+� 𝛾𝛾𝑖𝑖𝑖𝑖𝑊𝑊(𝑚𝑚)𝛼𝛼𝑖𝑖𝑖𝑖𝑋𝑋𝑖𝑖𝑊𝑊 𝑖𝑖,𝑖𝑖

+𝛽𝛽1𝑈𝑈(𝑚𝑚)𝑋𝑋𝑖𝑖𝑈𝑈+� 𝛾𝛾𝑖𝑖𝑖𝑖𝑈𝑈(𝑚𝑚)𝛼𝛼𝑖𝑖𝑖𝑖𝑋𝑋𝑖𝑖𝑈𝑈 𝑖𝑖,𝑖𝑖

を推定し,主効果と交互作用項で構成される階層と教育達成の結びつきと,4章で得られた𝜇𝜇の組を 対応付ける方法などがある.この方法を採用すると,

125

【注】

𝜷𝜷= [𝛽𝛽1𝑊𝑊1 ,𝛽𝛽1𝑊𝑊2 ,𝛽𝛽1𝑊𝑊3 ,𝛽𝛽1𝑊𝑊1 ,𝛽𝛽1𝑈𝑈2,𝛽𝛽1𝑈𝑈3]𝑡𝑡,𝛤𝛤=𝛾𝛾11𝑊𝑊1 ⋯ 𝛾𝛾32𝑊𝑊1

𝛾𝛾11𝑈𝑈3 ⋯ 𝛾𝛾32𝑈𝑈3 ,𝜶𝜶= [𝛼𝛼11,𝛼𝛼12,𝛼𝛼21,𝛼𝛼22,𝛼𝛼31,𝛼𝛼32]𝑡𝑡として, [𝜷𝜷 𝛤𝛤]1 𝜶𝜶�=𝝁𝝁 の関係が成り立つ.6つの未知数αに対して6つの方程式が立てられるので,これを満たすαの組合せ

𝜶𝜶=𝜞𝜞−𝟏𝟏[𝝁𝝁 − 𝜷𝜷]によって一意に求められる.しかしこの方法では,各αが単位単体外に求められる(負

の値や1より大きい値をとる,合計が1にならないなど)可能性があるため,本論ではこの方法を採 用せず,制約をつけた最小化問題として求める.

4 ただし,高校と高等教育段階に関しては,上から2つ目までの学校タイプに定員を設定し,3つ目の 学校タイプには設定しない.すなわち,進学の意思決定をすれば,各学校段階で少なくともタイプ3 の学校には進学できる.

5 実際の進学コストはこれよりも大きくなりうる.Breen and Goldthorpe (1997) においては,コスト は授業料等の直接的な費用だけでなく,その学校段階に進学せずに労働市場に参入していれば得られ たはずの放棄所得等も含まれるとしている.これらの値も,厳密に確認することは困難であり,また 本論の目的からも逸脱するため,直接経費のみを考慮したコストをパラメータとして採用する.

6 試行によっては教育段階2においてタイプ3への配分がない場合もしばしば起こりうる.その際には タイプ3に対する係数が算出できないため,便宜的に-1000を代入している.乖離度の値が枠外にあ るような結果は,この操作によるものである.

7 𝛼𝛼31𝛾𝛾1の差も𝛼𝛼31+𝛼𝛼32𝛽𝛽31+𝛽𝛽32の差も0.1とわずかである.これらの差が本質的なものであるのか という点は議論を要する.確認のために,𝜶𝜶3= (0.30,0.54,0.16)としてα31=𝛾𝛾1の下でのシミュレーシ ョン,および𝜶𝜶3= (0.29, 0.56, 0.15)として𝛼𝛼31+𝛼𝛼32=𝛽𝛽31+𝛽𝛽32の下でのシミュレーション結果を確認し たが,ともに乖離度は改善されなかった.わずかではあるが,このような大小関係が必要であること が推測される.

8 これは,相対リスク回避という心理的なメカニズム自体の存在否定を意味しない・ ・ ・.個人の意思決定の 要素として相対リスク回避のメカニズムが存在したとしても,社会の構造によってそのメカニズムの 機能を限定的にしているということである.また,誤差要因とは,必ずしも確率的な変動を示してい るわけではなく,本論で仮定していないメカニズムが存在する可能性もある.

126

本章では,

5

章にて必要なパラメータ設定を終えた教育機会不平等モデルを 用いて,選抜制度の変化による教育機会不平等の変動を観察する.選抜制度の 中でも国私立中学校シェアの変化に注目する.前章に示したように,シミュレ ーションの大きな目的は,

(1)

パラメータ推定によるモデルの精緻化,および(

2

) モデルが導く観測不能な状態予測の

2

つである.前章までに

(1)

の手続きを終え,

本章では

(2)

に取り組む.

本章の構成は以下のとおりである.

6.1

「シミュレーションの手順」では,

5

章の結果を受けて次に行うシミュレーションの手順を説明する.

6.2

および

6.3

では,私立中学校シェアの影響に絞ってシミュレーションの結果を提示する.

6.2

「機会規模変動による格差」では,国私立中シェアの増加によって,教育機