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本章では,

5

章にて必要なパラメータ設定を終えた教育機会不平等モデルを 用いて,選抜制度の変化による教育機会不平等の変動を観察する.選抜制度の 中でも国私立中学校シェアの変化に注目する.前章に示したように,シミュレ ーションの大きな目的は,

(1)

パラメータ推定によるモデルの精緻化,および(

2

) モデルが導く観測不能な状態予測の

2

つである.前章までに

(1)

の手続きを終え,

本章では

(2)

に取り組む.

本章の構成は以下のとおりである.

6.1

「シミュレーションの手順」では,

5

章の結果を受けて次に行うシミュレーションの手順を説明する.

6.2

および

6.3

では,私立中学校シェアの影響に絞ってシミュレーションの結果を提示する.

6.2

「機会規模変動による格差」では,国私立中シェアの増加によって,教育機

ジットモデルの係数)を,そのまま採用することはできない.そこで,本章で は同じ

P

の組み合わせの下でそれぞれ独立に

10

回のシミュレーションを行い,

それぞれで得られた係数の群に対して分析を行う.

同じ

P

の組の下で

10

回の試行を行うので,

1

つの

P

の組合せに対して

10

個 の分析結果が推定される.P を

𝑛𝑛

𝑃𝑃パターン用意してそれぞれシミュレーション を行えば,

10𝑛𝑛

𝑃𝑃個の分析結果が図

6.1

のような層構造をもって出力される.こ れらの分析結果(具体的には教育段階ごとの一般化線形モデルの回帰係数)を

1

つのデータとして,以下のような方程式を立てる.

𝜁𝜁

𝑖𝑖𝒑𝒑

= 𝜉𝜉

0𝒑𝒑

+ 𝑟𝑟

𝑖𝑖𝒑𝒑

(6.1) 𝜉𝜉

0𝒑𝒑

= 𝜉𝜉

00

+ 𝜉𝜉

01

𝑃𝑃

1

+ 𝜉𝜉

02

𝑃𝑃

12

+ 𝜉𝜉

03

𝑃𝑃

21

+ 𝜉𝜉

04

𝑃𝑃

22

+ 𝜉𝜉

05

𝑃𝑃

31

+ 𝑢𝑢

0𝒑𝒑

𝜉𝜉

は1回の試行における分析で得られる回帰係数,i は試行,p は試行に用いた 変数群

P

の組を示す.

r

i𝐩𝐩

, 𝑢𝑢

0𝒑𝒑はそれぞれ試行レベル,パラメータの組レベルの 誤差である.このモデルは,独立変数を投入しない階層線形モデル(Empty Model)

である.これによって,進学の階級差が制度パラメータ

P

によってどのように 変化するのかを導出することができる 2.中でも本論では,中学校段階の質的 分化の影響力を示す係数

𝜉𝜉

01に特に注目し,中学校段階の質的分化が教育内移動 全体に対してどのようなインパクトを与えうるのかを考察する.

P

の変化のさせ方は以下のとおりである.まず,国私立中進学者のシェアを 示す

P

1は,若年層の値

≒ 0.05

から順次増加させ,

0.05 → 0.1 → 0.2 → 0.5

とする.

P

1

= 0.5

は,全体の半数が国私立中学校に進学するような社会であり,中学校段

階における質的分化が相当に進んだ社会と言える.高校タイプの分布を示す

𝑃𝑃

21

, 𝑃𝑃

22

, 𝑃𝑃

23は,セットで変動させる.若年層に近い値

(0.1, 0.4, 0.5)

,それよりも ややタイプ

1(最上位)の高校が縮小し,代わりにタイプ 2(中位)の学校が拡

大 し た 社 会

(0.05,0.50, 0.45)

, タ イ プ

1

が 拡 大 し , 二 極 化 が 進 行 し た 社 会

(0.4, 0.05, 0.55)

3

パターンを想定する.高等教育の分布である

𝑃𝑃

31

, 𝑃𝑃

32

, 𝑃𝑃

33も,

6.1 出力の入れ子関係概念図

128

高校段階同様セットで変動させる.若年層の値に近い

(0.05, 0.2, 0.75)

とタイプ

1

が肥大化し,タイプ

2

が縮小した社会

(0.3, 0.05, 0.65)

2

パターンを想定する.

中学校段階

4

パターン×高校段階

3

パターン×高等教育段階

2

パターンで合計

24

パターンの教育機会構造を想定し,それぞれに対して先の手順で試行

分析を 繰り返し,その結果を蓄積していく.

なお,本章の推定結果に関しては,有意水準に関する解釈は極力用いない.t 値や

χ2

乗値は,分析に用いたサンプル数に依存し,サンプル数が大きくなれば 有意になりやすくなる傾向にある.シミュレーションという手法は,分析者の 意図でサンプル数を操作できるため,「有意にしたい」係数が有意になるまでサ ンプル数を増やすことも可能となる.恣意的な操作も可能となってしまう手法 は避け,本章ではあくまでも推定された係数の値をもとにした議論を行う.

6.2

機会規模変動による格差

6.2.1

分析結果

1:進学率格差の変動

まず,私立中学校のシェアによる,高校,高等教育段階の結果を見ていく.

6.2

は中学校段階の分化の程度ごとに,高校,高等教育の進学の格差(対数 オッズ比)の分布を示した箱ひげ図である(横軸が等差でないことに注意).階 層は

S

クラス,進学パターンは非進学を基準としている.すべての

P

の組合せ において,負の値を示している.つまり

S

クラスに比べて

W

クラスも

U

クラス

6.2 国私立中学校比率と進学率格差の関係

129

も,進学を選択しづらい,裏を返せば高校段階,高等教育段階ともに

S

クラス が他のクラスよりも進学しやすいという,進学機会の階層間格差が存在してい る.中学校の分化の程度の変化によって,格差の大きさの分布にばらつきがあ ることが見て取れる.ただし,このばらつきは,シミュレーション

1

1

回の 確率的なばらつきと他の変数の変化によるばらつきが混在している.それらの 要因を区別し,中学校の分布の変動による実質的な格差の変化をとらえるため に,式(6.1)で示したマルチレベルモデルを実装した結果が図

6.3

である.

6.3

は,横軸が私立中学校のシェア

P

1,縦軸が格差の程度である.ただし縦

軸は,

P

1

= 0.1

のときに

0

になるように基準化された相対的な数値である.推定

式に

2

乗項が含まれるため,格差の予測値は放物線を描き,上に行くほど格差 が小さい(平等である)ことを示している.これを見ると,国私立中学校のシ ェアが高校段階と高等教育段階に異なる影響を与えていることがわかる.高校 段階の格差は,国私立中学校シェアの増加によって一度不平等化し,ある程度 のシェアを超えたあたりから平等化に転じてくる.これは,増加した国私立中 学校に

S

クラス出身者が優先的に配分されていることによるものと考えられる.

高校進学をより有利にする中学校の増加は,まず有利なクラスに対して恩恵を 与え,有利なクラスの教育欲求を満たしてから不平等化に転じるという

MMI

(Raftery and Hout 1993)の説と整合的と言える.一方で,高等教育に関する格 差は,中学校段階の分化に伴って不平等化する傾向を示している.放物線の頂 点は

0

の近傍にあり,グラフはほとんど単調減少と言ってよい.中学校段階の 分化が最終学歴の格差の変動にも影響を及ぼしている.

6.3 国私立中学校比率による進学率格差の変化予測

130

6.2.2

分析結果

2

:質的差異の変動

続いて,各学校段階の質的な差異を考慮した場合の分析結果を示す.本章で は,中学校段階で

2

タイプ,高校段階で

3

タイプ,高等教育段階で

3

タイプの 学校を仮定しており,S クラスを基準とした対数オッズ比は

14

個推定される.

それらすべての分布を

𝑝𝑝

1ごとに示した箱ひげ図が図

6.4

である.概観すると,ど の係数も,

𝑃𝑃

1の変化に影響を受けてダイナミックな動きをしていることがわか

6.4 国私立中学校比率と学校段階ごとの階層差の関係

131

る.また,どの係数も値は負である.中学校段階は公立中学校を基準として国 私立中学校に進学する対数オッズ比であるから,S クラスは,W,U クラスに比 べてどの社会でも優先的に国私立中学校進学が開かれている.高校,高等教育 はともに非進学を基準としたものである.S クラスが他のクラスに比べてどの 学校に進学する確率も大きいことが見て取れる.高校段階の質的差異に関して は,Sクラスと

U

クラスの間の格差が減少している.

先と同じように,学校段階ごとにマルチレベルモデルの結果から予測される 格差の変動をグラフに示すと図

6.5~図 6.7

のようになる.学校段階ごとに,複 雑な動きが見て取れる.中学校段階の格差は,ほとんど単調と言える程度に不 平等化の傾向を示している.私立中学校のシェアの増大は,階層間格差を余計 に助長する方向に働いている.国私立中学校と公立中学校のシェアが

1:1

にな

6.5 国私立中学校比率による中学校格差の 予測

6.6 国私立中学校比率による高校格差の予測

6.7 国私立中学校比率による高等教育格差の予測

132

ったときに予測される階層間格差は現在(シェア

1:9

)と比べて,

S/W

間で

1.57

倍,S/U間で

3.86

倍となる.

高校段階は,そのタイプごとに

𝑃𝑃

1による傾向が異なっている.各クラスとも,

タイプ

2

の学校は単調に平等化の傾向を示し,タイプ

3

の学校は,他のタイプ と比べて変化は小さいが不平等化の傾向を示している.先に確認した進学率の 不平等化は,主にこのタイプ

3

の学校に関するものであったと推察できる.タ イプ

1

の学校は,国私立中学校の増加に伴い,一時的に平等化するものの,一 定のシェアを超えてからは不平等化に転じる.国私立中学校が同世代の半数を 超え,むしろ多数派となってくると,より価値の高い高校タイプ

1

に対する,

国私立中進学者(卒業者)内部の競争が激しくなる.それにより,再び階層の 影響力が発現するものと考えられる.国私立中学校が多数派になると,高校段 階において,S クラスはタイプ

1(上位校),W,U

クラスはタイプ

2(中位校)

という棲み分けのような現象が起こることが予測される.

高等教育段階は,

U

クラスのタイプ

3

への進学率を除いてほとんど変化はな い.進学率だけを見ると不平等化しているように見えるが,教育機会の内部分 化を含めて観察すると,質的な格差はほとんど変化せず,安定した動きをする ことがわかる 3