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3. 枠組みを作る

3.2. 授業

スペイン語圏の国々

今日読んだテキストは、スペイン語圏広がりについて扱ってい ます。スペイン語はスペインだけでなく、南北アメリカ大陸の多 くの国々、アフリカの赤道ギニア共和国で公用語として使用され ています。

テキストではフィリピンについても触れられていますが、現在 スペイン語はあまり使用されていません。でも、次の写真を見て ください。これはフィリピンの南の島、ミンダナオ島サンボアン ガという都市にあるピラール砦の遺跡を訪ねたときにとった写 真です。

フィリピン・サンボアンガ・ピラール砦

「ここにゴミを捨ててください」

その遺跡の中で、上のようなドラム缶を見つけました。ここに

AQUI BUTA EL BASURAと書かれています。これはラテンアメ

リカのスペイン語AQUI BOTA LA BASURA「ここにゴミを捨て てください」とよく似ています12。サンボアンガで話されている 言語はスペイン語ではないのですが、スペイン語から生まれた新 しい言語です。

ピジン語とクレオール語

この遺跡ピラール砦は当時のイスラム教徒の攻撃から町を防 衛するために築かれたのですが、そのとき集められた現地の人た ちがお互いに言葉が通じないので、片言のスペイン語を操ってコ ミニュケーションをしていました。この状態の言語をピジン語と 言います。そして、その子供たちはピジン語を母語にします。こ れが新しい言語が生まれた瞬間です。このようにして生まれた新 しい言語をクレオール語と言います。世界には各地にクレオール 語が存在します。

12 スペインではbotar「捨てる」ではなくtirarが使われます。

枠組みを使った記憶法

さて、このようなスペイン語の広がりと新たな言語の誕生を見 た後で、もう一度スペイン語圏の国々の名前を思い出してみまし ょう。教科書を閉じてノートに 20 か国の国名を書き出してくだ さい。(…)

それでは、ちょっと質問します。このようなリストを書き出す ときに、いろいろな方法があると思います。たとえば、(a) 思い つくまま、(b) 、(c) 地理的な配列、などがあると思います。皆さ んはどの方法を使いましたか。

(【結果】(a) 思いつくまま: 26名;(b) ABC順またはアイウエオ 順: ゼロ;(c) 地理的な配列: 5名)

それでは、次にみんなで地図を描いてみましょう。2 名の人に 黒板に描いてもらいます。国名も入れてください。皆さんもノー トに地図と国名を描いてください。そして書き込みながら国名を 覚えましょう。(…)

さて、もう一度、この地図を見ないで国名を書いてください。

(…)結果はいかがでしたか。ノートに気づいたことを書いてく ださい。

言語の学習や研究の面では、この場合の地図のような枠組みを よく利用します。たとえば次の母音の図(写真)を見てください。

母音の発音位置

この図は、スペイン語の5つの母音の位置を示しています。こ の図を参照すれば、次のような動詞の変化が理解できると思いま す。たとえば、pedir「頼む」の点過去 3 人称単数は pidió「彼は 頼んだ」となりますが、それではdormir「眠る」の点過去3人称 単数はどのような形になるでしょうか。

pedir : pidió = dormir : X

上の図を見ると、eとiを結ぶ線はoとuの線と平行します。

そこで、dormirの点過去はdurmióであることが予想できます。

規則・体系と事例

言語の教育・学習には概念的な規則や体系を重視する立場と、

具体的な事例(例文)に基礎をおく立場があります。どちらも良 い点と問題点があるので、一般化していずれかの方法に決定する ことはできません。むしろどちらの方法も大切にしながら、場面 に応じて選択できるようにしたいと思います。たとえば、成人の 学習では最初に事例に触れた上で、その後、その規則性や体系性 に注目する、という方法が考えられます。また、抽象的な考え方

に慣れていない子供や規則性・体系性を把握することが困難な人 には事例を中心にした学習を勧めるべきでしょう。しかし、その 時も教師は規則性や体系性を念頭に置きながら指導するほうが、

事例をまったくアトランダムに提示するよりも効果的です。教師 がそれを意識していると、学習者は自分の中で形成しつつある外 国語(「中間言語」とよびます)の中に暗示的な規則性と体系性 ができあがり、応用力が増すからです。