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5. 変化の仕組みを見る

5.2. 授業

前回の実習では、スペイン語の動詞体系全体の構成を立体図に してみました。今回の実習では、直説法現在の活用形の教授法と 学習法を比較してみましょう。

動詞の活用形

はじめに、皆さんに、どのようにして動詞の活用形を学習して きたのか、思い出してもらうために、5分間ぐらいグループディ スカッションをします。次に、グループの代表者にディスカッシ ョンの内容を発表してもらいます。

(…発表)

たしかに、動詞活用を学ぶのは大変でしたね。日本語の動詞に は人称による変化がないので、このようにクルクルと回るように 変化するタイプの言語(屈折型の言語)を習得するのは私たちに とって非常に困難です。スペイン語圏の人は、逆に日本語のよう にベタベタと次々に要素がつながっていくタイプの言語(膠着型 の言語)が困難なようです。また、中国語は変化しない要素がポ ンポンと孤立しているような言語(孤立型の言語)なので、中国 語圏の人は、スペイン語のようにクルクルと変化するタイプの言 語もベタベタとつながるタイプの言語も、習得がむずかしいので す。でも、仕組みをよく理解して、よく練習すれば、むずかしく ても習得できます。

さて、動詞の活用形や名詞・形容詞の変化形などや、語形成法 など、言葉の形式面を研究する分野が「形態論」morfologiaです。

今日は「動詞形態論」morfología verbal について少し考えてみま しょう。

丸暗記

先ほどの発表で、動詞の活用形を毎日繰り返し練習した、ぜん ぶ続けて出てくるまで練習を繰り返した、という発表がありまし た。たとえば、serという動詞ならば、soy, eres, es, somos, sois, son というように練習したと思います。これは 1 つの代表となる語、

たとえば不定詞をもとにして、それについて全部の形を活用表

(パラダイム)として提示する方法で、ワード・アンド・パラダ イム(Word and Paradigm)、略してWP と呼ばれます。とくにser やirなどの動詞はWPで処理するのがふつうです。つまり、丸暗 記するのです。

ser ir

soy voy

eres vas

es va

somos vamos

sois vais

son van

分解

一方、hablarやcomerなどの規則動詞は、次のようにそれぞれ 規則的な構成になっています。

hablar comer

habl-o com-o

habl-a-s com-e-s

habl-a com-e habl-a-mos com-e-mos habl-á-is com-é-is

habl-a-n com-e-n

そこで、これらの動詞は丸暗記するよりも、共通の要素を取り 出して、その並べ方を練習する方法が考えられます。hablar の a はほとんどどの活用形にも現れていますし、comerのeも同じで す。また、-s, -mos, -is, -nはhablarとcomerに共通しているので、

そのことも意識しておくとよいでしょう。

このように活用形を要素に分解して、その並べ方を練習する方 法はアイテム・アンド・アレンジメント(Item and Arrangement)、

略して IA と呼ばれています。ここでアイテムとなるのは、habl, comのような「語根」raízと、a, eのような「幹母音」vocal temática と、そしてo, s, ゼロ, mos, is, nという「人称語尾」terminación personalです。

serやirなどの不規則変化はWPが適しており、hablarやcomer などの規則変化はIAが適していると言われています。でも、ser とir の活用形をよく見ると、2人称単数で-s, 1 人称複数で-mos、

2人称複数で-is、3人称複数で-nがありますから、これらはIAで 見たのと同じです。覚えるときには、このことを意識しておくと よいと思います。一方、IAで扱ったhablar, comerの1人称単数は

hablo, comoですから、幹母音が見つかりません。このことについ

ては次で扱います。

規則

さて、次に、第3の方法、アイテム・アンド・プロセス(Item and

Process), 略して IP を説明します。ちょっとわかりにくいかもし

れませんが、よく理解してください。次のような動詞を例にして みましょう。

pensar contar pienso cuento piensas cuentas piensa cuenta pensamos contamos pensáis contáis piensan cuentan

ここで、下線部のieとueに注目すると、次の規則が働いてい ることがわかります。

規則(1):e → ie / [強勢]

規則(2):o → ue / [強勢]

これは、語根のeとo が強勢のあるところで、それぞれie, ue となる、という意味です。pendarやcontarのようなタイプの動詞 は、WP で丸暗記するよりも、また、IA で要素に分けるよりも、

一定の規則を意識して練習するほうが得策です。つまり、要素に たいして規則をプロセスとして規則を適用するのです。たとえば、

piensoはIAによってpensoという形が出来上がりますが、これに

規則(1)を適用してpienso とするわけです。pensamosにも規則(1) が適用されますが、eの部分に強勢がないのでeはieになりませ ん。スペイン語の強勢は、1 人称複数、2 人称複数では幹母音に 置かれ、それ以外は語根に置かれます。

さて、さっき扱った IA による規則変化の覚え方を、もう一度 見てみましょう。今度は vivir という動詞も含めます。これで、

ar動詞、er動詞、ir動詞がぜんぶ揃います。

hablar comer vivir

habl-o com-o viv-o

habl-a-s com-e-s viv-e-s

habl-a com-e viv-e

habl-a-mos com-e-mos viv-i-mos habl-á-is com-é-is vivís

habl-a-n com-e-n viv-e-n

これらを丸ごと全部暗記した人と、丸暗記するよりも一定の要 素に分解して、共通する要素を意識しながら覚えた人がいると思 います。みなさんはどちらのタイプですか。どちらにするかは、

個人の学習スタイルによって異なるはずです。言葉の仕組みなど をあまり考えるのではなく、とにかく丸暗記してしまう、という タイプの人と、丸暗記が嫌いなので言葉の仕組みがどうなってい るのか知りたい、というタイプの人がいます。

1 人称単数

ここで、このような規則変化にもアイテム・アンド・プロセス を適用してみたいと思います。問題は1人称単数形です。ここに は幹母音のa, e, iがありません。そこで、次のプロセスを適用し ます。

規則(1): 幹母音→ゼロ, + o / 1人称単数

斜線 (/)の後は条件を示しています。この規則は、1人称単数の とき、幹母音をゼロにしてからoを加える、という意味です。そ こでこの規則を適用すると、次のように変化します。

habl-(a) + o → habl-o com-(e) + o → com-o viv-(i) + o → viv-o

このようにすると、実はとてもいいことがあります。つまり、

1人称単数形はすべての規則変化でoをつける、という構成法と、

幹母音は1人称単数の人称語尾がつけば脱落する、というプロセ

スを意識しておけば、3つの規則変化の活用が1つだけになるん です。全部、次の人称語尾を知っていればOKです。

人称語尾 1人称単数:-o 2人称単数:-s

3人称単数:ゼロ(何もつけない)

1人称複数:-mos 2人称複数:-is 3人称複数:-n

これはいろいろな活用語尾に使われる人称語尾ですね。さっき 見た IA では全部要素に分解したから動詞は語根+幹母音+語尾 のように3つの要素に分けましたが、IPにすれば要素が2つにな ります。語根+幹母音を「語幹」とすれば、すべての形が語幹+

語尾になります。hablar ならば habl-a-r でもなく、また、habl-ar でもなくて、habla-rとします。この hablaを元にして、それに人 称語尾をつけ、さらに規則(1)を適用すればよいのです。授業では、

「不定詞のrを取り除いて、人称語尾をつけましょう」と指示し ます。

IR 動詞

実は、ここで、もう1つ規則を適用しなければなりません。vivir のようなIR動詞は、たとえばviviにo, s, ゼロ、mos, is, nをつけ ればいい、というわけにはいかないからです。これには次のルー ルが適用されます。

規則(2): 幹母音 i→e / [最終音節・無強勢]

これは幹母音のiは強勢がないときはeに変化する、とい う意味です。このルールが適用されると、

vivi-s → vives vivi → vive vivi-n → viven

となります。vivis, vivi, vivinというのはスペイン語として変で す。なぜ変かというと、スペイン語では語末の無強勢母音iが例 外的だからです。ほとんど存在しません。これらは上の規則を適 用することによって、vives, vive, viven となります。方で次は i のままです。

vivimos vivís

これらはiに強勢があるから、さっきの規則が適用されません。

vivísはvivi + is →vivísとなります。スペイン語は同じ母音が連

続するときは 1 つになる、という一般的な規則があるからです。

たとえば、canta + autor → cantautor, punta + arenas → Puntarenas などがあげられます。

いかがでしょうか。みなさんは WP 派ですか?IA タイプです か?それとも IP に興味がありますか?ちょっとグループ内でデ ィスカッションをしてください。

(…)

それでは、皆さんの意見をレポートに書いて提出ください。授 業はこれで終わります。