第6章 沖縄県知事による本件埋立承認取消は適法であること
3 公益侵害の程度が著しいものであること
(1) 地域環境に関する公益侵害の程度が著しいものであること ア 自然環境的価値に関する公益侵害
(ア) 公有水面埋立法への環境配慮条項の導入及び関連法令の整 備
公有水面埋立法は、今から 90 年以上も前の大正 10 年に制定
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され、現代では稀と なった文 語体 片仮名 の法律である。国土 形 成、開発促進を主眼 として制 定さ れたも のであるが、そのよ う な要請があったのは、今から90 年以上も昔のことである。制定 当時からの条文は、 適用する 側に は特別 の支障がないせいか 、 以前として制定時から大幅な改正には至っていない。
しかしながら、同法は、1970 年代の環境問題の激化を背景に して、以下の通り、環境保全法としての性質を有するに至った。
(イ) 1960 年代、日本は高度経済成長期に入り、大規模な海の埋 立てが環境を破壊することが顕在化した。これを受け、同法は、
昭和 48 年、①願書を3週間公衆の縦覧に供することにより利 害関係者の意見を反映させる、②知事の埋立免許の裁量行為に 法定の基準を明定する、③50ヘクタールを超える大規模埋立て に つ い て は 環 境 保 全 上 の 見 地 か ら の 環 境 庁 長 官 の 意 見 を 求 め る等の規定が新設された。
この改正により、免許基準として、「其ノ埋立が環境保全及災 害防止ニ付十分配慮セラレタルモノ」(4条1項2号)、「埋立地 ノ 用 途 ガ 土 地 利 用 又 ハ 環 境 保 全 ニ 関 ス ル 国 又 ハ 地 方 公 共 団 体
(港湾局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト」(同3号)
の環境配慮条項が加えられた。これにより、埋立免許(承認)
に際して環境への十分な配慮が求められることになり、行政の 裁量の余地が狭められることとなった。
(ウ) 昭和 48 年の法律改正にあわせて、法施行規則が制定され、
埋立の願書には「環 境保全に 関し講じる 措置を記載した図書 」
(3条8号)の添付 が求めら れることと なった。これにより 、 環境影響事前評価、いわゆる環境アセスメントの実施が義務付 けられるようになった。これは、港湾法等と並び、日本におけ
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る環境アセスメント法制化の先駆けである。
(エ) もっとも、上記により義務付けられた環境アセスメントの内 容は、手続きの面で住民参加を欠く等、環境保全の観点から中 途半端な内容であった。
そこで、平成9年にようやく環境影響評価法が成立する運び となった。同法の成立により、50ヘクタール以上の規模が大き く環境影響の程度が著しくなるおそれのある埋立てやそれに準 ずる 40 ヘクタール以上の埋立ては、公水法の手続きとは別に 同法の対象事業とされ、環境影響評価を行わなければならなく なった(2条2項1号ト・3項)。
(オ) 以上のとおり、公有水面埋立法は、1970 年代の環境問題の 激化を背景に、環境配慮条項の導入や、環境影響評価法等関連 法令と合わせた運用により、環境保全法制としての性質を帯び るに至った。
このような改正の経緯を経た現在の公有水面埋立法は、地方 公共団体の責任者たる都道府県知事に対して、当該地方公共団 体の地域環境を保全するために公有水面埋立法上の権限を行使 することを強く要請しているものといえる。
公有水面埋立法が、県知事に対し、行政の責任者として、環 境への十分な配慮の確保を強く要請している趣旨に鑑みれば、
埋立事業の実施にあたって、地域環境への十分な配慮がなされ ていないということが判明すれば、可及的速やかに承認を取り 消すべきことが公益上の要請とされていることは明らかである。
イ 本件埋立による地域自然環境の不可逆的な喪失
本件事業実施区域である辺野古崎・大浦湾地区には、豊かで貴 重な自然環境と良好な生活環境が残されていることは、前述のと
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そして、自然環境は、一度消失するといくら巨額の資金を投資 したとしても、人工的には再生不可能である。
環 境 へ の 十 分 な 配 慮 が な さ れ て い な い 状 況 に お い て 埋 立 を 行 うことで、事業実施区域の環境が回復不可能な被害を被るという 結果は、沖縄県の公益に著しく反するものと言わなければならな い。
(2) 日本国憲法第の精神に反する著しい公益侵害であること ア 日本国憲法第 14条
(ア) 検証結果報告書は、埋立対象地は極めて保全の必要性が高い 地域であるが埋立てが実施されればほぼ回復不可能であること、
騒音被害などは地域住民に直接多大な不利益を与えるものであ ること、沖縄県や名護市の地域計画等の阻害要因などを示し、
本件埋立が沖縄県の過重な米軍基地負担を固定化するものであ ることについて、「(ア)…沖縄県には,平成 24 年3月末現在,
県 下 41 市 町 村 の う ち 21 市 町 村 に わ た っ て 33 施 設 ,
23,176.3ha の米軍基地が所在しており,県土面積の 10.2%を
占めている。また,在沖米軍基地は,米軍が常時使用できる専 用施設に限ってみると,実に全国の 73.8%が沖縄県に集中して いる。ちなみに,他の都道府県の面積に占める米軍基地の割合 をみると,本県の 0.2%に対し,静岡県及び山梨県が1%台で あるほかは,1%にも満たない状況であり,また,国土面積に 占め る米軍 基地の 割 合は 0.27%となってい る(米軍基地の面 積について,日本全体と沖縄の負担度を比較した場合,その差
は約 468 倍に上ると指摘されている)。(イ) このように広大か
つ過密に存在する米軍基地は,沖縄県の振興開発を進める上で
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大きな制約となっているばかりでなく,航空機騒音の住民生活 への悪影響や演習に伴う事故の発生,後を絶たない米軍人・軍 属による刑事事件の発生,さらには汚染物質の流出等による自 然環境破壊の問題等 ,県民に とって過重 な負担となっている 。 このような状態は,法の下の平等を定めた日本国憲法第 14 条 の精神にも反するものと考えられる。本件埋立は,一面で普天 間飛行場の移設という負担軽減の側面があるものの,他面にお い て 普 天 間 飛 行 場 の 代 替 施 設 を 沖 縄 県 内 に お い て 新 た に 建 設 するものである。本件埋立は,沖縄県内において米軍基地の固 定化を招く契機となり,基地負担について格差や過重負担を固 定化する不利益を内包するものと言える」(検証結果報告書 45 頁)とし、本件埋立は「日本国憲法第 14 条の精神にも反する」
現状を固定化するものであると指摘している。
(イ) 前世紀、今から約 20 年前のいわゆる代理署名訴訟(最高裁 判所平成八年(行サ)第五号地方自治法一五一条の二第三項に 基づく職務執行命令裁判請求上告受理事件)の上告理由におい て、当時の沖縄県知事は、「日米安保条約は、日本全土を対象と するものであるから、沖縄県民にのみかかる米軍基地の負担を 強いることは、法の根本理念たる正義衡平の観念に照らして到 底容認しうるものではない。仮に、米軍に提供する土地の場所 や規模の決定について、地理的、歴史的条件などが考慮要素と なり、その決定が行政府の裁量事項であるとしても、沖縄県へ の米軍基地の集中の現状は、一般的に合理性を有するとは到底 考えられない程度に達しており、行政府の裁量の限界を明らか に超えているものと言わなければならない。そして、原判決も
『被告が本件署名等代行事務を拒否した背景には背景事実記載
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のような事実が存在しており、被告は、その本人尋問において、
特に、沖縄の本土復帰後二三年の間に米軍基地は本土では六〇 パーセントも縮小しているのに沖縄県では一五パーセントしか 縮小していないこと、政府は、米軍による事件事故が発生した 場合、本土においては素早い対応を見せるが、沖縄ではそうで はないなど沖縄は本土に比し米軍基地について過重な負担を強 いられていること、しかし、米軍に対する基地の提供が我が国 の安全保障上欠かせないものであるというならぱ、全国民が平 等にこれを負担すべきであることを強調する。そして、沖縄県 民の命と暮らしを守ることを使命とする沖縄県における行政の 首長としての立場からは現状のままでの米軍基地の維持存続に つながりかねない署名等代行をすることはできないとしてその 心情を吐露している。これらの事情に鑑みると、被告が沖縄に おける基地の現状、これに係る県民感情、沖縄県の将来等を慮 って本件署名等代行事務を拒否したことは沖縄県における行政 の最高責任者としてはやむを得ない選択であるとして理解でき ないことではない・・・沖縄における米軍基地の問題は、被告 の供述にあるとおり、段階的にその整理、縮小を推進すること 等によって解決されるべきものであり、前提事実及び背景事実 に照らすと、この点についての国の責任は重いものと思料され る』…と判示して、沖縄への米軍基地の過重負担を解消して不 平等を是正すべき国の責任を認めている。そして、この沖縄に のみ異常なまでに基地が集中する状態は、戦後五〇年以上、復 帰からでも二三年以上にも及んでいる。復帰当時の米軍専用施 設の施設面積は、沖縄県二万七八九三ヘクタール、本土一万九 七〇〇ヘクタールであり、既に復帰時点から沖縄県と本土の間