第5章 公有水面埋立法の要件判断の誤り(本件埋立承認の瑕疵)
2 埋立必要理由
106 ものである。
以下、2項において、上記をさらに敷衍して説明する。
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他方で、同飛行場の周辺に市街地が近接しており、地域の安全、
騒音、交通などの問題から、地域住民から早期の返還が強く要望さ れており、政府としても、同飛行場の固定化は絶対に避 けるべきと の考えであり、同飛行場の危険性を一刻も早く除去することは喫緊 の課題であると考えている。
わが国の平和と安全を保つための安全保障体制の確保は、政府の 最も重要な施策の一つであり、政府が責任をもって取り組む必要が ある。日米両政府は、普天間飛行場の代替施設について、以下の観 点を含め多角的に検討を行い、総合的に判断した結果、移設先は辺 野古とすることが唯一の有効な解決策であるとの結論に至った。
【国外、県外への移設が適切でないことについて】
・中国の軍事力の近代化や活動の活発化など厳しさを増す現在のわが 国周辺の安全保障環境 の下、在沖海兵隊を含む在日米軍全体のプレ ゼンスや抑止力を低下させることはできないこと、特に、在日米軍 の中でも唯一、地上戦闘部隊を有している在沖海兵隊は抑止力の一 部を構成する重要な要素であること
・潜在的紛争地域に近い又は近すぎない位置が望ましいこと、また、
沖縄は戦略的な観点からも地理的優位性を有していること
・米海兵隊は、司令部、陸上・航空・後方支援部隊を組み合わせて一 体的に運用する組織構造を有し、平素から日常的に各構成要素が一 体となり訓練を行うことで優れた機動力・即応性を保ち、武力紛争 から人道支援、自然災害対処に至るまで幅広い任務に迅速に対応す る特性を有しており、こうした特性や機能を低下させないようにす ることが必要であること。例えば、普天間飛行場に所属する海兵隊 ヘリ部隊を、沖縄所在の他の海兵隊部隊から 切り離し、国外、県外 に移設すれば、海兵隊の持つこうした機動性・即応性といった特性・
108 機能を損なう懸念があること
・普天間飛行場の危険性を早期に除去する必要があり、極力短期間で 移設できる案が望ましいこと
【県内では辺野古への移設以外に選択肢がないことについて】
・滑走路を含め、所要の地積が確保できること
・既存の提供施設・区域を活用でき、かつ、その機能を損わないこと
・海兵隊のヘリ部隊と関係する海兵隊の施設等が近くにあること
・移設先の自然・生活環境に最大限配慮できること
また、辺野古への移設にあたっては、空中給油を行う機能や緊急時 に多数の航空機を受け入れる機能は県外へ移転することとしており、
移転後の基地の規模は現在の半分以下とするなど、着実な負担軽減 を図っているところである。
以上のとおり、政府は、普天間飛行場の固定化はあってはならない との立場から同飛行場の 危険性除去が緊急の課題と考えている。現 在の日米合意に基づき、移設を着実に実施することで、在日米軍の 抑止力を維持しつつ、沖縄の負担軽減を実現することにより、施設・
区域の安 定的な使用を確保し、わが国の安全のみならずアジア太平 洋地域の平和と安定に大きく寄与できることから、本事業は極めて 必要性が高いものである。
(2) 在日 米軍 全体の プ レ ゼンス な いし抑 止力の維持 という 説明につ いて
ア 埋立必要理由書は、「在沖海兵隊を含む在日米軍全体のプレゼン スや抑止力を低下させることはできない」とする。
安 保 条 約 に 基 づ き 駐 留 す る 在 日 米 軍 の 抑 止 力 な い し 軍 事 的 プ レゼンスが重要であるとしても、なぜ普天間飛行場を県外等に移 設すれば、在日米軍全体のプレゼンスないし抑止力が許容できな
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い程度に低下するのかということについて、実証的・具体的根拠 はなんら示されていない。
具体的な論拠が全く示されていないものであり、このような説 明をもって、「本事 業は極めて 必要性が高い」とは認めることは できない。
イ かえって、沖縄に海兵隊航空基地があることと抑止力について は、「検証結果報告 書」が指摘 するとおり、沖縄県は「在沖海兵 隊が,国内の他の都道府県に移転した場合においても,沖縄には 嘉手納飛行場やホ ワイトビーチ など,米空軍,米海軍,米陸軍,
さらに陸上自衛隊,海上自衛隊,航空自衛隊の基地が存在してお り,周辺国が沖縄に手出しをするほど,軍事的なプレゼンスが低 下することはないのではないか」と具体的な根拠を示して疑問が あることが明らかにしている。
そもそも、米国領土以外には、海兵隊はほとんど駐留していな いものである。2013 年(平成 25年)12 月末時点で、韓国を除く 東アジア・太平洋地域には海兵隊は1万6178人駐留しているが、
日本への駐留が1万 5893 人であり、日本・韓国以外の駐留人数 は 195 人に過ぎず、実際には海兵隊の兵力はないに等しく、韓国 についても海兵隊の駐留人数は 1112 人に過ぎないものであり12、 海兵隊が駐留しなければ、駐留米軍のプレゼンスないし抑止力が ないということができないことは明らかである。
ウ 海兵隊の機能について、冷戦構造下で用いられた「抑止力」と いう概念でとらえること自体に、疑問が示されているものである。
平成 22 年6月8日の政府答弁書では、「抑止力とは、侵略を行え
12 沖縄県知事公室基地対策課「沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)
平成 27年3月」112 頁。
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ば耐え難い損害を被ることを明白に認識させることにより、侵略 を思いとどまらせるという機能を果たすものである」とし、その 定義自体をみると限定的な概念であるが、実際には、日本政府は
「抑止力」という語を幅広く用い、内容、外延の定まらないもの となっている。
日本政府の「抑止力」という言葉の使い方については、安全保 障論・防衛政策の 専門家らから も疑問が示されている。例えば、
道下徳成政策研究 大学院大学准 教授は、「アメリカの海兵隊は核 を運用するわけではないし、敵の都市や産業を攻撃するわけでは ないので、懲罰的抑止という話にはならないのです。その辺のコ ンセプトがちゃんと整理されないまま使われているのですね」13 とし、元防衛官僚の柳澤協二氏(官房長、防衛研究所長を歴任し、
平成 16 年から平成 21年まで内閣官房副長官補〔安全保障・危機 管理担当〕)は、「国際情勢がどう変わろうが、米国の戦略がどう 変わろうが、同じように、『抑止力だ、抑止力だ』と言い続けて、
今や、『抑止力ってなんだろう』『つまり、それは抑止力だから抑 止力』という話になっています」14と指摘している。
埋立必要理由書は、 まさに、 具体的内実 が一切ない、抽象的 、 情緒的なマジック・ワードとして「抑止力」という語を理由づけ に用いているに過ぎないことは明らかである。
エ なお、埋立必要理由書は、抑止力の内容についてなんら具体的 に明らかにしていないが、念のため述べておくと、駐留米軍をト リップ・ワイヤー(罠の仕掛け線)ないし人質として抑止力を説
13 柳澤協二「抑止力を問う 元防衛高官と防衛スペシャリスト達との対話」
〔道下徳成〕12 頁。
14 新外交イニシアティブ編『虚像の抑止力』〔柳澤協二〕134 頁。
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明する立場からも、普天間飛行場の移設によって抑止力が失われ るという論理は成り立ちえない。
たとえば、冷戦構造下のベルリンへの米軍駐留や、韓国への米 軍駐留の意義について、ベルリンや韓国への侵攻は米軍を攻撃す ることになり、受入国への攻撃によって自動的に米軍が参加する ことになることに抑止力があるとして、駐留米軍をトリップ・ワ イヤーないし人質として説明する立場がある。そして、普天間飛 行場の移設問題に、このロジックがあてはまると主張されること がある15。しかし、普天間飛行場が県外等に移設されても、日本 から米軍の駐留がなくなるものではないし、沖縄の米軍駐留がな くなるものもはない。そもそも、国が分裂して国境線を挟んで対 立している状況での駐留米軍の意義に関する議論が、異なる状況 に妥当するとする根拠も明らではない。
オ 以上のとおり、在日米軍全体のプレゼンスないし抑止力につい て、埋立必要理由書はこれらの語を具体性・実証性のないマジッ ク・ワードとして使っているだけであり、そのような無内容の説 明をもって、「極め て必要性が 高い」ということはできないもの である。
大切なことは、抽象的なマジック・ワードでごまかすのではな く、普天間飛行場の駐留部隊の機能を具体的事実に即して実証的 に検討することであり、以下、具体的に検討することとする。
(3) 「一体的運用の必要性」「地理的に優位であること」などの説明 について
埋立必要理由書は、海兵隊の一体的運用の必要性などを挙げ、普
15 春原剛・リチャード・L・アーミテージ・ジュゼフ・S・ナイ Jr「日米 同盟 VS.中国・北朝鮮」8頁・202 頁以下