• 検索結果がありません。

第4章 本件埋立対象地の有する価値と埋立てによる損失

1 自然環境

(1) 辺野古崎・大浦湾の自然生態系 ア 地理的特徴

辺野古崎・大浦湾は、沖縄県のうち沖縄島名護市東海岸にあり、

太平洋に面する地区に位置する。同地域は、サンゴ礁が広がる辺 野 古 崎 周 辺 と 外 洋 的 環 境 か ら 内 湾 的 環 境 の 特 徴 を 持 つ 大 浦 湾 が 一体となって存在 するという極 めてまれな地理的特徴を有する。

そして、辺野古崎周辺のサンゴ礁には、準絶滅危惧種に指定され ているリュウキュウスガモ、ベニアマモなど7種の海草の藻場が 安定的に広がっている。辺野古崎に隣接する大浦湾は、全体的に 水深が深くなっているが、湾奥は、海底が砂れきから泥へと移り 変わり、水深が深くなるスロープラインに沿ってユビエダハマサ ンゴの大群集が分布する。平成 19 年9月には、大浦湾の東部に 高さ 12 メートル、幅 30 メートル、長さ 50 メートルの広範囲に わたる絶滅危惧種 のアオサンゴ 群落(チリビシの青サンゴ群集)

78

が発見された。湾奥の大浦川や汀間川の河口付近には、オヒルギ や メ ヒ ル ギ と い っ た 大 規 模 な マ ン グ ロ ー ブ 林 や 干 潟 が 広 が っ て いる。さらに、辺野古崎と大浦湾の接点である大浦湾西部の深部 には、琉球列島では特異な砂泥地が広がっている。

イ 生態系の特徴

環境省は、絶滅の恐れのある野生生物(動植物)について、「レ ッドリスト」を作成し公表している。レッドリストでは、絶滅危 惧のカテゴリーとして、要保全性の高い順に、絶滅寸前(CR)、

絶滅危惧(EN)、危急(VU)の3区分に分類している。

辺野古崎・大浦湾は、レッドリストの中でも最も要保全性の高 い絶滅危惧IA類(CR)に指定されているジュゴンの生息域の ほぼ中心に位置し、海草のみを餌とするジュゴンの生息には欠か せない餌場となっている。同地域のサンゴ礁には、沖縄に生息す る カ ク レ ク マ ノ ミ な ど 6 種 の ク マ ノ ミ 全 て が 観 察 さ れ る な ど 魚 類が豊富に生息し、絶滅危惧Ⅱ類(VU)のエリグロアジサシな ど渡り鳥の生息地ともなっている。公益財団法人世界自然保護基 金ジャパン(WWFジャパン)が平成 21 年に行った調査では、

大浦湾においてわずか1週間の調査で 36 種の新種及び国内初記 録の 25 種の十脚甲殻類(エビ・カニ類)などの生息が確認され る な ど 、 生 物 学 的 に も 貴 重 な 地 域 で あ る 。 河 口 部 の マ ン グ ロ ー ブ・干潟には、トカゲハゼなどの魚類のほか、ミナミコメツキガ ニといった甲殻類、シマカノコ、マングローブアマガイなどの底 生生物などレッドリスト掲載の生物が多数生息している。さらに、

大浦湾西深部の砂泥地は、詳細な生息地が知られていなかったオ キ ナ ワ ハ ナ ム シ ロ や 新 種 の 甲 殻 類 な ど 特 異 的 な 生 物 群 と 希 少 種 が分布するなど、サンゴ礁の発達する琉球列島の中にあって極め

79 て特異な生物相を有する。

ウ 辺野古崎・大浦湾が貴重な自然環境として評価されていること 豊かな自然環境を有する辺野古崎・大浦湾は、沖縄県の「自然 環境の保全に関する指針(平成 10年)」により、沿岸地域の大部 分が、評価ランクⅠとして、自然環境の厳格な保護を図る地域と されてきた。また、同地域は、レッドリスト掲載種を多数育むな ど 生 物 多 様 性 の 見 地 か ら 保 全 上 の 配 慮 を す べ き 地 域 と し て 平 成 13 年に環境省により「日本の重要湿地 500」に選定されている。

さらに、海洋生物多様性保全戦略(環境省;平成 23 年)の「海 域の特性を踏まえ た対策の推進 」の記述においては、「藻場、干 潟、サンゴ礁などの浅海域の湿地は、規模にかかわらず貝類や甲 殻類の幼生、仔稚魚などが移動分散する際に重要な役割を果たし ている場合があり、科学的知見を踏まえ、このような湿地間の相 互のつながりの仕組みや関係性を認識し、残された藻場、干潟や サンゴ礁の保全、相互のつながりを補強する生物の住み場所の再 生・修復・創造を図っていくことが必要である」とされ、その重 要性が強調されている。「生物多様性国家戦略 2012-2020」にお いては、ジュゴン について、「引き 続き、生息環境・生態等の調 査や漁業者との共生に向けた取組を進めるとともに、種の保存法 の国内希少野生動植物種の指定も視野に入れ、情報の収集等に努 めます」とされ、その保全が急務となっている。

ジュゴンの保護は国際的な関心事となっており、国際自然保護 連合(IUCN)においては、平成 12年、平成 16年に次いで平 成 20年のバルセロナ総会でも「2010 年国連国際生物多様性年に おけるジュゴン保護の推進」が決議されている。

エ ラ ム サ ー ル 条 約 登 録 湿 地 要 件 を充 た す 国際 的 に 重 要な 湿 地で

80 あること

埋 立 予 定 地 で あ る 大 浦 湾 に 注 ぎ 込 む 大 浦 川 及 び 河 口 域 は 平 成 22年9月 30 日時点で環境省によりラムサール条約湿地潜在候補 地として選定され ている。ラム サール条約(「特に水鳥 の生息地 として国際的に重 要な湿地に関 する条約」)は、干潟を はじめと する湿地保全の重要性が国際的に認識されたことから、昭和 46 年に採択され、以 後、湿地の保全は国際的な課題となっている。

日本は昭和 55 年にラムサール条約を批准し、現在の日本におけ る同条約登録湿地の数は、46 か所となっている。ラムサール条約 は、その名が示すとおり、かつては水鳥の保護を中心とした条約 であったが、現在では広く湿地の保護を目的とするものとなって いる。登録湿地の基準については、現在は9の基準が示されてお り、そのいずれかに該当すれば登録湿地の要件を充たすものと評 価される。我が国 においては 、「国 際的に重要な湿地であること

(国際的な基準のうちいずれかに該当すること)」、「国の法律(自 然公園法、鳥獣保護法など)により、将来にわたって、自然環境 の保全が図られること」、「地元住民などから登録への賛意が得ら れること」が登録 基準とされて おり 、「国際的に重要な湿地であ ること」の要件については、環境省が平成 13年 12月に選定した

「日本の重要湿地 500」から登録湿地がほぼ選定されるという方 法が採られている。辺野古崎・大浦湾については、上記のとおり 重要湿地 500 選に含まれている。また、ラムサール条約登録湿地 の国際的な基準に照らしても、環境省レッドリストにおいて絶滅 危惧種IA類(CR)のジュゴンの生息地となっていること(基 準1) 、アマ モ類の大きな群落による藻場が形成されて いるこ と(基準8)、大浦湾についても、「日本の重要湿地 500」への選

81

定理由とされている、危急種である底生生物が多く生息すること や マ ン グ ロ ー ブ 林 の 前 後 に 存 す る 水 溜 ま り に 止 水 性 昆 虫 の 種 の 多様性が高いことから、優に「国際的に重要な湿地」の要件は充 たしていることとなる。このように、辺野古崎周辺の海域は、ラ ムサール条約締結 のための基準 を優に充たしているものであり、

国際的に重要な湿地であることは明らかである。

オ 陸域生物の要保護性も高いこと

陸域については、辺野古ダム周辺から土砂が採取され森林が改 変される計画となっているが、当該区域には国指定天然記念物で あるカラスバト等の重要な種が多数確認され、植生はリュウキュ ウ マ ツ 群 落 等 か ら 沖 縄 島 北 部 の 極 相 林 で あ る イ タ ジ イ 群 落 へ の 遷移の過程にあり、環境保全指針においてその大部分が「自然環 境の保護・保全を図る区域」であるランクⅡと評価される区域で ある。

(2) 辺野古崎・大浦湾に生息する希少生物等の価値 ア ジュゴン

ジュゴンは西太平洋からインド洋の熱帯及び亜熱帯の浅海域に 生息している。一般に生息には水温と気温が 20 度以上の環境が 必要とされており、西太平洋における分布域では、沖縄県の周辺 海域が北限にあたる。ジュゴンの分布は広い範囲に及ぶが、生息 域が不連続であるため、それぞれの集団(個体群)が地域固有の ものであると考えられている。

日本におけるジュゴンの分布域は、鹿児島県の奄美大島以南と 考えられていたが、近年、ジュゴンの目撃例は沖縄本島の周辺海 域に限られている。

ジュゴンは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドデータブッ

82

クによると、「 絶滅 種」「野生絶滅種」「絶滅危惧種」「準危急種」

(野生状態で中期的に絶滅する危険を孕んでいる種)に分類され ており、世界の多くの場所で捕獲禁止とされている。日本哺乳類 学会は、沖縄ジュゴンについて、個体数が 50 頭未満であるとの 判断のもとに IUCN 基準上の「近絶滅種」(近い将来に高い確率 で野生では絶滅に 至る危機にあ る種)に相当する「絶滅危惧種」

に指定している。また、水産庁の「日本の希少な野生生物に関す るデータブック」でも、同じく「絶滅危惧種」に指定されている。

このように、ジュゴンは、最も絶滅が危惧される生物の一つと して、その保全の必要性は極めて大きい。

イ 海草藻場

辺野古から宜野座松田までの礁池内には、「絶滅のおそれのある 野生生物の種 のリス ト-植物Ⅰ( 維管束植物)」(レッド リスト)

において、準絶滅危惧種に指定されているボウバアマモ、リュウ キュウアマモ、リュウキュウスガモ等で構成される海草藻場が広 がり、環境省が「日本の重要湿地 500」として選定している。

水底で 、海 草類が群落状に 生育 する場 所をいう海草藻場は、

国の天然記念物に指 定されて いる ジュゴ ンの餌場であること は もとより、水質を浄 化する機 能や 底質を 安定化する機能をも っ ており、生物の繁殖 場、生育 場と しての 重要性があることも 知 られている。こうし たさまざ まな 機能に より、海草藻場は、 微 小動物から大型の貝、カニ、エビ、ナマコ、魚類などに至る様々 な生物の共存を可能にして、生物の多様性を育んでいる。

海草藻場は、まさに、辺野古・大浦湾の生物多様性を根底にて 支えているものであるから、その存在価値は高く保全の必要性も 極めて大きい。