第6章 ワインツーリズムに関する消費者動向の調査
5 小括…
本章では、札幌市と東京都の居住者を対象とするインターネットによるアンケート調査 と、空知地域のワイナリー等訪問者を対象とする郵送による回答方式のアンケート調査の 結果を、居住地の別や訪問経験の有無などと比較して考察した。両調査は実施期間や調査 方法、対象とした回答者などが異なるので直接の比較はできないが、質問項目が一致して いるものについては、一方の調査結果を参照しつつ比較した。
まず、両調査の比較から、単一の調査だけでは不十分であることが明らかである。また、
アンケート調査結果の単純集計だけで、調査対象群の異同を論述するには慎重さが必要な ことが示唆される。さらに、アンケート調査で得られた質的データの検討では、階級の数 値化を図るなどして、統計的手法を用いて客観的に考察した。
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札幌市と東京都の居住者を対象とするインターネットによる「ワイン嗜好とツーリズム に関するアンケート」調査では、ワインに関心を持ってからの年数については、両居住地 による有意差は認められなかった。ワインに対するこだわりの程度に関しては、東京都居 住者の方が札幌市居住者に比べこだわりが強い。また、ワイナリー等への訪問回数は、東 京都居住者が札幌市居住者に比べ多い。
以上の結果を総合すると、東京都と札幌市を比較すると、前者の方がワインを飲む文化 が普及しているものと推察される。このことは、後述するワイナリー等に関する情報源に 関する質問で、東京都居住者に対するインターネット調査の影響を考慮しても、新聞やテ レビなどのマスコミによる受け身の情報より、ワイン専門誌や知人などからの情報を含め、
主体的に広い情報源に接しているとする回答に一致する。
同調査では、購入先としてコンビニを選択した札幌市居住者が多いこと、札幌市居住の ワイナリー等希望者のうち約半数が日帰りを予定している点でも、居住地により有意差が 認められた。これについての1点目の理由は、1971(昭和46)年、日本ではじめてのコンビ ニエンスストアが札幌市内に開店し、その後、北海道内全域に店舗を拡張し生活に根付い ていることがある。最初にコンビニエンスストアを開いた会社は、酒類販売に関する経験 を有し、1987(昭和 62)年には、アメリカから自社独自ワインの輸入を開始し販売して きた経緯がある。
また2点目は、北海道内のワイナリーの多くが、札幌市からの日帰り圏内に立地し、か つ広大な農業地帯に位置しており、温泉地等の観光地と隣接した位置にないという環境条 件の差によるものと推察される。
さらに、ワイナリー等に関する情報源に関する質問では、インターネット調査による訪 問希望者のうち新聞やテレビと回答した者が訪問体験者に比べて多く、マスメディアによ って提供されるワイナリーの様子や周辺のブドウ畑の景観などの視覚情報が、ワイナリー 訪問の誘因となっているものと思われる。一方、訪問体験者はインターネットや雑誌・専 門誌などで自ら広く情報を求めるとともに、「知人の紹介」と回答した者が訪問希望者に比 べて多く、個人間での情報伝達が機能している。
こうした上記調査の考察を踏まえ、ワイナリー等訪問の印象や考え方の変化を問う5項 目の質問に対する回答について、各質問に対する肯定系の回答と否定系の回答区分に従っ て回答を求めた結果を、訪問回数との関連を見るためクロス集計を行った。その結果、5 項目の設問の全てについて、訪問回数が増加するに従って、各訪問回数区分の回答者では
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「そう思う」を選択した比率が高くなる傾向が認められた。このことは、西本(2013)が北 海道の小樽観光に関して述べている、「体験を重ねることで訪問先に対する理解が深まると する」という結果と一致している。
次に、空知地域の調査での回答は、インターネット調査での札幌市在住の回答者と異な る傾向を示している。インターネット調査結果では、札幌市居住者がワインの主な購入先 として、スーパー・酒販店に次いで、3 番目にコンビニをあげたことが特徴であることを 述べた。しかし、空知地域の調査では調査方法の影響があると思われるが、ワイナリーを 選択した者が最も多く、次いで酒販店、スーパー、百貨店の順で、コンビニをあげた者は 5 番目で回答者全体の 24.1%である。訪問回数をみても、5回以上の訪問者の割合が東京 都居住者を越え、ワイナリー等との関係性をそれぞれに構築していると推察される。
こうしたことから、空知地域の調査の回答者は、インターネット調査での札幌市居住の消 費者とは、消費行動に違いがあると考えられる。
また、ワイナリー等訪問の印象や考え方の変化に関する5項目の質問に対する回答を比 較すると、両調査ともに訪問による影響を肯定的に捉えている回答者の割合が多いが、イ ンターネット調査では「ややそう思う」と回答した者の割合が最も多いのに対し、空知地 域でのアンケート調査では「そう思う」と回答した者の割合が、5項目の全てで最も多い。
加えて、空知地域の調査で「そう思う」とする回答者の割合は、5 項目の全てでインター ネット調査の結果に比べ 10%以上高い。特に、空知地域の調査では、「ワイナリー等の景 観には他にない魅力がある」という質問に関して、小規模ワイナリー等訪問者で 60.8%、
大規模ヴィンヤード訪問者で59.6%が「そう思う」と回答している。空知地域の調査での、
訪問の目的は「購入」が最も多いが、訪問を通して景観の魅力を感じ、製品への信頼を深 め、生産活動を理解し、ワイナリー等を応援し、製品を飲み続けようとするなど、回答者 の考え方や行動の変化につながっているものと思われる。そのことは、購入のきっかけと 目的を問う設問への回答で、空知地域の調査で示されたように、ワインを生産者から直接 購入することともに、生育観察、生産者との対話、収穫等体験など、生産活動の一部を体 験し、生産活動の背景を知ろうとすることにも関心を持っているという結果と一致してい る。
さらに、ワイナリー等への訪問の印象を問う 5 項目の質問のうちの、「訪問先の製品を 長く飲み続けたい」とする項目については、空知地域の小規模ワイナリー等訪問者では「そ う思う」と回答した者が51.1%と高い値を示し、「ややそう思う」という回答した者も44.7%
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あった。同地域の大規模ヴィンヤード訪問者でも、「そう思う」と回答した者が39.1%、「や やそう思う」と回答した者が47.8%であった。インターネット調査での同じ質問項目に対 する回答では、「そう思う」と回答した者が13.7%、「ややそう思う」と回答した者が57.4%
であるのに比べ、規模を問わずワインを提供する生産者と愛飲する消費者との間に、特定 の関係が成立していることを示唆している。
以上のほかに、両調査の自由記載欄の記入に対し、テキストマイニング専用ソフトを用 いて、記載内容をもとに、使用されている用語を、専用ソフトの言語辞書による方法や出 現頻度をもとにした方法と、著者が着目した定義による方法を組み合わせて体系的に整理 し、カテゴリを作成した。そのうえで、カテゴリ相互の関係を見るためにコレスポンデン ス分析を行った。
この分析により、インターネット調査では希望者と体験者の結果を表す図を比較すると、
後者に中心化傾向が認められ、訪問体験によって、ワイン、ワイナリー、ブドウ栽培、地 域、振興、主体性、文化などのカテゴリに対する認識はつながっていることが示唆された。
特に、価値と価格との関係に着目すると、希望者と体験者の違いが顕著に表れていた。内 山(2006a)は、消費者が「農に対する理解」を深め、生産者との関係を構築し、生産物に対 する価値を認めるには、生産の現場に触れることが必要と述べており、ワイナリー等への 訪問を通して消費者の生産活動に対する理解が深まっていると考えられる。
空知地域でのワイナリー訪問者から得た自由記載についても、同様の方法によってコレ スポンデンス分析を行った。この地域については、ワイナリー等訪問の印象に関連する質 問に対する回答で、小規模のワイナリー等訪問者と大規模ヴィンヤード訪問者から得た回 答では傾向が異なっていた。このため、コレスポンデント分析の結果は、大規模ヴィンヤ ード訪問者からの回答と小規模訪問者からの回答を分けて図22と図23に示した。その結 果、小規模ワイナリー等訪問者では中心化傾向があり、ワイン、ワイナリー、ブドウ栽培、
地域、主体性、文化などが、近い位置関係にあった。このうち、主体性が2つの次元の原 点付近に位置したのは、空知地域における小規模の場合だけであった。
一方、大規模ヴィンヤード訪問者については、やや分散傾向にあり、中心に近いとこと に位置したのは、ワイン、地域、人の3カテゴリである。また、価値と価格の関係につい ても、小規模の場合は近い位置関係にあるが、大規模の場合は象限を異にし、離れた位置 関係にあった。なお、小規模に特徴的なこととして、「コト」が離れた位置にあることがあ げられる。「コト」のカテゴリには、「企画」がサブカテゴリとしてあるが、生業としての