第 1 章 先行研究
1.3 対照研究
ここでは,日本語の連体修飾節をドイツ語おける名詞内容補充表現と対照するYoshijima
(1977)や,英語と対照する寺村(1980)に見られる記述を概観する。
まず,Yoshijima(1977)から見て行く。
1. 3.1 Yoshijima (1977)
Yoshijima(1977)は,本論文の「はじめに」の(3)「川に着陸した飛行機」や(4)「川
に飛行機が着陸したという話」で見たような二分法を用いて,日本語の連体修飾節やそれ に対応するドイツ語の表現形式を二つのタイプ(以降,それぞれ,タイプⅠ,タイプⅡと 呼ぶ)に分けている。タイプⅠの日本語の連体修飾節は,ドイツ語における関係詞節,分 詞句,alsやwieで導かれる従属節,タイプⅡの日本語の連体修飾節は,ドイツ語における dass節やzu不定詞句に,それぞれ対応するとしている。本論の対象である名詞の内容補充 表現に相当すると考えられるのは,後者のタイプⅡであるため,以下では,Yoshijima(1977) によるタイプⅡに関する記述,とりわけ日本語とドイツ語との間の違いに関する指摘のみ に的を絞って,その枠組みを概観する。その前に,タイプⅠの例を挙げる。
(112) chichi ga ueta ki
der Baum, den mein Vater gepflanzt hat/hatte;
der von meinem Vater gepflanzte Baum (Yoshijima 1977:209)
(112)で見られるように,chichi ga ueta kiに対して,関係詞節のder Baum, den mein Vater gepflanzt hat/hatteと,過去分詞を用いたder von meinem Vater gepflanzte Baumが挙げられて いる。alsやwieで導かれる従属節の例は挙げられていない。
Yoshijima(1977)によれば,タイプⅡの主名詞となるのは抽象名詞であり,ドイツ語で
は,動詞や形容詞から派生される名詞が多い。このことは,たとえば次の(113)~(115) に見られる書き換えから窺える。
(113) Die Behauptung, daß sie das getan hat. → X behauptet, daß sie das getan hat.
(彼女がやったという主張 → 彼女がやったとXが主張する)
57
(114) Der Wunsch, einmal nach Deutschland zu fahren.
→ X wünscht, einmal nach Deutschland zu fahren.
(一度ドイツに行くという願い → 一度ドイツに行くとXが願う)
(115) Die Fähigkeit, uns zu helfen. → X ist fähig, uns zu helfen.
(私達を助ける能力 → Xが私達を助けることができる)
((113)~(115)は,Yoshijima(1977:215)より。日本語訳は,筆者による。)
Yoshijima(1977)は,更に,次の(116)や(117)を挙げ,以下のような書き換えが可能
なことから,補充部と主名詞との間には,本章の1.2.1の(71)で見た,関口(1960)のい う主語対述語関係が読み取れる場合が多いと指摘している。
(116) Die Frechheit, daß er nicht gekommen ist
→Daß er nicht gekommen ist, war eine Fechheit/frech.
(彼が来なかったという厚かましさ →彼が来なかったことは,厚かましいことだ。) (117) Die Tatsache, daß er nicht gekommen ist
→Daß er nicht gekommen ist, war eine Tatsache.
(彼が来なかったという事実 → 彼が来なかったのは,事実だ。)
((112)と(113)は,Yoshijima(1977:215)より。日本語訳は,筆者による。)
Yoshijima(1977:215)は,日本語のタイプⅡに関しては,補充部をそのままで上記のよう
な書き換えが可能なドイツ語と異なり,日本語では,「こと」や「の」を付加し,補充部を 名詞化する必要があるとしている。更に,日本語では,上の(116)や(117)を例に,日本 語で「トイウ」の介在なしで表現できない場合があるとも指摘している。
(116’) kanojo ga sore o shita to iu shucho * kanojo ga sore o shita shucho
(117‘) kare ga konakatta to iu atsukamashisa * kare ga konakatta atsukamashisa
((116’)と(117‘)は,Yoshijima(1977:215)より)
Yoshijima(1977:215) は,日本語におけるタイプⅡが主語を含むという点においては,
文らしさの面でドイツ語におけるdass節に近い性質を持つが,上で見たように,構文的な 制限などがある点は,zu不定詞の性格にも類似するところがあると述べ,日本語における タイプⅡをdass節とzu不定詞の中間的な表現形式として位置づけている。
Yoshijima (1977) は最後に,日本語のタイプⅡにはドイツ語のdass節で表せないような意
味関係があるとし,以下のような例を挙げている。
58 (118) Kono sakuhin o yonda kōfun
*Erregung, daß man dieses Werk las
die Erregung, nachdem/als man dieses Werk gelesen hat/las
Yoshijima (1977:216)
(118)には,「この作品を読んだのは興奮だ」という書き換えができないことからも窺える ように,(116)や(117)で見たような,主語対述語関係が認められない。このような場合 のタイプⅡは,やはり,ドイツ語で表現すると,dass節を用いることはできず,(118)に見
られるnachdem(~した後)やals(~する際)で導かれる従属節が用いられる。
以上,Yoshijima(1977)に見られる日本語とドイツ語における名詞の内容補充表現の違
いに関する記述を概観してきた。次に,日本語の連体修飾節を英語と対照する寺村(1980) の記述を概観する。
1. 3.2 寺村 (1980)
寺村(1980)は限定詞による名詞修飾,名詞による名詞修飾,形容詞による名詞修飾,
動詞及び節による名詞修飾というように,修飾する側の品詞及び表現形式ごとに分けて対 照分析を行っている。ここでは,本論文の対象にあたる,動詞及び節による名詞修飾のみ を取り上げる。
寺村(1980:237f.)は,動詞及び節による名詞修飾の表現形式として,英語については関
係詞節,同格節,準動詞(不定詞,分詞,動名詞)による名詞修飾表現形式を,日本語に ついては,動詞の諸形による連体修飾を中心に,日英両言語の対照を行っている。動詞及 び節による名詞修飾は,このように,表現形式が多様であるため,寺村(1980:238)は,そ れらの表現形式を整理・分類していくには形式的特徴を手がかりとするより,共通の視点 から,両言語における表現を見通す必要があるとした上で,二つの視点を設けている。一 つ目の視点は,主名詞と修飾部との間の統語論的関係であり,それによって,「内の関係」
と「外の関係」という二つのタイプが認められることになる。もう一つの視点は,本章の
1.1.2.1の図(3)で見た修飾部の陳述度の強弱であり,それによって,修飾部を更に,「節」
と「句」に分けている。
寺村(1980:240)は,これら二つの視点に基づいて,動詞及び節による名詞修飾の表現形
式を整理し,以下の表を提示している。
59 表(6)
陳述度大 陳述度小またはゼロ
内 の 関 係
「関係節」
The report that he wrote サンマヲ焼ク男
a book to read 読ム本
the crying baby 泣イテイル児 外
の 関 係
「内容節」(「同格節」その他)
The report that they were arrested 彼(ヲ22)ガツカマッタトイウ報告
a chance to visit
the possibility of passing the test 死ヌ覚悟
生キル喜ビ
ここでは,本論文の対象である内容補充表現に相当すると考えられる「外の関係」に関 する記述のみを概観する。
寺村(1980)は,「外の関係」の名詞修飾について考察する際,以下のa,b,cのように,
節の種類に段階性を見出している。
a. 内容節(同格節)
b. 内容節から内容句へ―修飾部の陳述性の稀薄化―
c. その他―外の境界域,およびやや複雑な,あるいは短絡的な修飾など―
以下では,上記のa,b,cに沿って,寺村(1980)の記述を概観していく。まず,a.の内 容節(同格節)から見ていく。
a. 内容節(同格節)
寺村(1980)は,1.1.2.1 で取り上げた寺村(1993b)と同様に,「ト」の引用節において
名詞節を取る動詞と,名詞の内容補充表現の主名詞となる名詞との間の対応関係に着目し,
名詞を「言う」類や「思う」類の動詞に関連付けられる「発話の名詞」や「思考の名詞」
と,動詞に関連付けられない「コトの名詞」に分けている。次に名詞に沿って見て行く。
「発話の名詞」に見られる日本語と英語の間の違いとして,日本語では「という」が介 在すれば,どのような形の文であっても補充部として用いられるのに対して,英語では,
例えば,下の(119)に見られる「帰れ」のように直接話法の文はそのまま用いられず,that 節には,命令文や疑問文などを収めることができない。
(119) 私を呼び寄せた友達は,急に国元から帰れという手紙を受けとった。
(寺村1980:255)
22 原文ママ
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更に,その内容補充節の構文的特徴からすれば,英語における「発話の名詞」には,letter やwordなどのような直接的発話に関する名詞と,story,claim,denialなどのような間接的 発話に関する名詞という二通りのタイプがあるとし,後者のタイプの名詞の内容は that 節 で表現できるのに対して,前者の場合は that 節で表現されず,大体次のような形で表現さ れるとしている。
a letter saying that ….
in which he wrote (that) … requesting (that) …
inquiring …
(寺村1980:256)
「思考名詞」に関して,寺村(1980:257)は,that節などで表せることからも,前出の
story,claim,denialなどのような間接的発話の名詞との間には,「英語では統語上とり立て
てあげるほどの違いはないようである」と述べている。
「コトの名詞」としては,寺村(1980)は,日本語の「事実」,「事件」,「可能性」,「仕 事」,「結果」,英語のfact,possibility,chance,reason,result等を挙げており,「コトの名詞」
については,その補充部の内容は,「話し手の主観的態度の表現が入りこむ」ような内容で はなく,単なる叙述内容,つまり単なるコトの形を取ることが多く,「トイウ」の介在が要 求されないことがあると指摘している(寺村1980:255)。更に,「コトの名詞」には,補充 部が「内容節」だけではなく,次に取り上げる「内容句」の両者の形やof ~などのような 前置詞句を取る名詞があるとしている。
寺村(1980)は,内容節を取る「コト名詞」の用例は,次の「b.内容節から内容句へ」
で内容句などの用例と合わせて挙げているので,ここでは,それに従う。
以上,a.の「内容節」について述べてきた。次に,bの「内容句」を見ていく。
b.内容節から内容句へ
(120) Bernstein asked if he thought there was any possibility that the President's campaign committee or―less likely―the White House would sponsor such a stupid mission as the Watergate raid.
(121) Speaking of the possibility of the nation-wide campus riots being a conspiracy, Cronkite said...
(122) This is confirmed by the possibility of having two negatives at once.
寺村 (1980:258f.)