第 5 章 「ことがら」名詞
5.2 主名詞と共起する述語や文中の働き
「ことがら」名詞における主な主名詞と共起する述語に着目すると,機能動詞と考えら れるものと共起するものが多少見られる他,「ある」及び haben(ある)などや,主名詞 の意味に関係する一定の述語との共起が多いことが分かる。ここでは,代表と考えられる 主名詞を意味的にいくつかのグループに分け,それぞれの主名詞と共起する主な述語を提 示していく。
まず,日本語から見て行く。ここで考えられる代表的な名詞は下記の通りである。
〔1〕「点」
〔2〕「姿」類:「様」,「様子」など
〔3〕「習慣」類:「癖」,「慣習」など
〔4〕モーダルな意味を表す名詞類:「許可」,「義務」,「権利」など
〔1〕「点」は,下記の(35)~(39)に見られる「除く」,「一致する」,「異なる」,「同じ
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だ」のように,一定の述語と共起することが多く見られる。下記のような述語と共起する 用例は62例(75%)である。
(35)ともかくぼく自身は,ツトムが黒いユーモアを解さないという点をのぞいてはかれの 悪徳のすべてに比較的寛容だった。「聖少女」
(36)此処が海軍陸戦隊の分遣隊のいるモイラ岬そのものであったか,或はそれより北の別 の場所であったか,林の記憶と宇垣の記述とはちがうのだが,陸軍の看護兵に応急手 当を受けたという点だけは両者一致している。「山本五十六」
(37)自分の生命を一個の匕首に変えて他の生命へ直進する単純勁烈な暗殺者であった。た だこの暗殺者は一万数千という大軍をひきいている点が,他の類型と異なっている。
「国盗り物語・織田信長」
(38)「彼」以外の何ものも心に映らないという点では今の七瀬だって同じである。
「エディプスの恋人」
〔2〕「姿」類には,「様」,「有様」,「様子」,「人影」などが数えられる。「姿」類 は下記の(39)~(43)に見られるように,「見る」やその類の動詞「見える」,「眼に 入る」と共起することが多い。収集した用例では,例えば,「様」は,42 例(41%),「姿」
は,87例(47%)において「見る」やその類の動詞と共起する。
(39) この女は,息子のことなんか忘れてるんだな,と太郎は思う。それにしても凄い集中
力だ。四十前後の女が,仕事に熱中している有様を見ると強欲で,無気味な感じがす るな。「太郎物語・高校編」
(40)枕の上で,頭をかくと,フケが枕の上に,花びらのように散るさまが見えるようだっ た。「太郎物語・大学編」
(41)三枝が,前社長の,侘しくカップラーメンをすすっている姿を見て同情心に駆られた のかもしれないと思うと,伸子はおかしくなった。「女社長に乾杯!」
(42)森の中の様子をうかがうと,もう散開も終ったとみえて,動く人影も見えません。
「ビルマの竪琴」
(43)鞄屋の軒先を借りてバスがくるのを待っていると,反対側の舗道で,やはりスーパー ドームへ行くらしい中年の夫婦が,必死にタクシーを止めようとしている姿が眼に入 ってきた。「一瞬の夏」
〔3〕「習慣」類には,「癖」,「慣習」,「悪癖」,「習癖」などが数えられる。下記の(44)
と(45)に見られる「ある」や(46)と(47)に見られる「つく」と共起し用いられるこ とが多い。収集した用例では,例えば,「ある」と共起する用例数は,「習慣」は,6例(14%),
「癖」は,36例(61%),「つく」と共起する用例数は,「習慣」は,7例(16%),「癖」は,
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11 例(19%)である。その他に「だ」と共起する用例数も多いが,その点について後述す る。
(44)しかし,動物には,親をみる習慣はないというのは本当ですね。「太郎物語・大学編」
(45)「そいつが,漢文の教師で,目をぎゅっとつぶって講義をする癖がある。…」
「太郎物語・高校編」
(46)竜二は竜二で,船での孤独な生活から,自分にわからないことは強いて詮索しない習 慣がついていた。「午後の曳航」
(47)私は,自分の心を励ますとき,校門のプラタナスを蹴りつける癖がついた。「幻燈畫集」
〔4〕モーダルな意味を表す名詞類としては,収集した名詞は,計22名詞(4.5%),計 643例(11.5%)であり,そのモーダルな意味によって,「許可」類や「可能(性)」や「義 務」類などに分けられる。モーダルな意味を表す名詞類は,「ある」の他に,機能動詞と 考えられる述語及び「負う」,「果たす」などそれぞれの主名詞の意味と関係する一定の 述語との共起が多く見られる。次の(48)に主な主名詞とそれと共起する述語を意味的に 分けてまとめる。
(48) モーダルな意味を表す主な名詞と共起する主な述語
述語の意味 述語 主名詞
保有 及び 生起
ある 許可,権限,権力,義務,責任,可能性,任務,責任,義理,
必然性,危険性,確率,
持つ 必然性 有する 特権 おびる 使命
負う 使命,義務,任務 出る 許可,可能性 降りる 許可
生じる 可能性
授受 与える 許可,権限,任務 得る 許可
獲得する 権利 もらう 許可
課す 任務,使命,義務 実施 果たす 大役,大任
(48)に見られるような述語と共起する用例数は,計 562 例(87.4%)である。次に,用
145 例をいくつか挙げる。
(49)そのような状態のうちに,辛うじて新病院は形をなしてゆき,市の委託患者を収容す る許可もおりた。「孤高の人」
(50)だから僕はここに残る義務があり,責任があるんだ。
「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」
(51)しかし,たちまちのうちに,コカインを年間二千ポンド製造する権利を獲得した。
「人民は弱し官吏は強し」
モーダルな意味を表す名詞類と同様に,主に「ある」と共起する名詞類として,契機を 表す名詞類が挙げられるが,上述したように,「関わり補充」しか認められないということ で,「特徴付け」の可能性がほとんどないと考えられ,考察対象から外すことにした。ここ では,契機を表す名詞類と共起する述語についての言及はこの程度にして置く。
最後になるが,日本語の「ことがら」名詞の一部に見られるが,「する」や「なる」と共 起し,文末形式化する名詞がある。それぞれの名詞の意味的な特徴に関しては,強いて言 えば,「する」と共起する名詞の場合,動詞的な意味の強い名詞であるが,「なる」と共起 する名詞は,「結果」,「始末」,「羽目」のような結果を表す名詞と「形」という限られたも のである。まず,「する」と共起する名詞の用例を挙げる。
(52) そのうちの一人は社長の奥さんで,段ボールに入った真白なタオルを引っぱり出し,
印刷機にのせやすいように五十枚ぐらいずつ四台の捺染の機械に分配し,会社名など が印刷されたタオルをまた段ボールの中にしまう,という仕事をしていた。
「新橋烏森口青春篇」
(53)わたしはこれしか隠し芸がないのです。泣く真似をやります。そして彼女は泣く真似 をして見せる。「エディプスの恋人」
(54)もちろん自分のところにも,たたんだ蒲団のあいだに丸薪を三本,手ごろなのを選ん で隠してあるが,海辺へは五本持って来て,およそ十二,三尺の距離から,杭に向っ て投げる練習をしていたのであった。「さぶ」
(55)明るいうちに食べて寝る準備をしなければならなかった。「孤高の人」
(52)~(55)に見られるように,「仕事」,「真似」,「練習」,「準備」は,「する」
と共起し,動詞「作業する」「まねる」,「練習する」,「準備する」と同様に用いられている と言える。これらの名詞の他に,「稽古」,「儀式」,「手伝い」,「用意」,「支度」,「努力」は
「する」と共起し文末形式化する例も見られる。
以上,日本語の主な主名詞とそれと共起する述語を見てきた。次にドイツ語の主な主 名詞とそれと共起する述語を挙げる。ここで考えられる代表的な名詞は下記の通りである。
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〔1〕Gewohnheit(習慣)とその類
〔2〕モーダルな意味を表す名詞類:Erlaubnis(許可),Pflicht(義務),Möglichkeit(可 能性)類等
〔1〕Gewohnheit(習慣)に数えられる名詞は,Angewohnheit(習慣),Brauch(風習), Gewohnheit(習慣),Gewöhnung(習慣),Mode(慣習),Tradition(慣習),Sitte(し きたり),Unsitte(悪習),Usance(慣習),Usus(慣習)の10の名詞であるが,用例を 収集できたのは,Angewohnheit(習慣)とGewohnheit(習慣)という二つの名詞のみで ある。次に,Angewohnheit(習慣)とGewohnheit(習慣)の用例を挙げる。
(56) Onkel Thomas hatte immer noch die Angewohnheit, sich beim Sprechen die Lippen zu befeuchten. In Wahrheit wird viel mehr gelogen
(トーマスおじさんは,話すときに唇を潤す癖がある。)
(57) Er hat die Gewohnheit, allen Verhafteten das Frühstück aufzuessen.
Der Prozess 奴は逮捕された者の朝飯を,みんな平らげちゃうくせがあるんだ。「審判/辻訳」
(58)… , und so nahm er zur Zerstreuung die Gewohnheit an, kreuz und quer über Wände und Plafond zu kriechen. Die Verwandlung
しかたなしの気晴らしに壁や,天井をめくらめっぽうに這いまわる癖がついた。
「変身/中井訳」
Angewohnheit(習慣)とGewohnheit(習慣)は,(56)と(57)に見られるhabenや
(58)のannehmen(身に付ける)と共起することが多く,共起する用例はが計17例のう ち13例である。
〔2〕モーダルな意味を表す名詞類としては,収集した名詞は,計29名詞(10%),計428
(20.6%)例であり,そのモーダルな意味によって,Erlaubnis(許可)類やPflicht(類)
やMöglichkeit(可能性)類などに分けられる。モーダルな意味を表す名詞類は,主にhaben
(ある)の他に,授受の意味のgeben(与える),bekommen(もらう)などとの共起が多 く見られる。例えば,名詞Möglichkeit(可能性)の場合,全例の160例のうち,「生起」
及び「保有」の意味の述語と共起する用例は, 78例(48.7%),「授受」の意味の述語と共 起する用例は,21例(13.2%),名詞Recht(権利)の場合,全例の95例のうち,haben
(ある)と共起する用例は,67例(70.5%),「授受」の意味の述語と共起する用例は,16 例(20%)である。
日本語と同様に,ドイツ語の方でも動詞machen(する)などと共起し,複合的に用いら