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主名詞による「特徴付け」

ドキュメント内 名詞の内容補充表現 (ページ 162-172)

第 6 章 まとめと今後の課題

6.1 主名詞による「特徴付け」

先行研究では,内容補充表現は主に形式と構造を中心とした文法論の問題として研究さ れている。しかし,内容補充表現の意味・機能的な側面及び表現機能の研究はほとんどな されていない。そこで,本論文では,名詞の内容補充表現に主にその主名詞の意味や機能 からアプローチし,補充部と主名詞がどのように作用し合うかという観点から論じた。具 体的には,先行研究で等閑視されていると見られる主名詞から補充部への作用に目を向け,

先行研究の記述をより精密に捉え直し,主名詞の作用を詳細に検討した。

2.3で述べたように,本論文では,主名詞から補充部への作用をその性質によって少なく とも二通りに分けることができると考えている。一つは,主名詞と補充部という二つの要 素が融合した以上,相互的に何らかの影響を及ぼし合うと考えられるため,補充部から主 名詞へ作用するだけではなく,主名詞から補充部に対しても何らかの情報を付加している と言える。本論文ではこれを「意味の付加」と呼ぶ。もう一つは,単なる「意味の付加」

ではなく,主名詞が補充部に対して,その内容を何等かの範疇に分類するという作用であ る。ここでは,このような「範疇化」を「特徴付け」と呼び,「意味の付加」と区別してい る。更に,この主名詞による「特徴付け」が認められるかどうか,すなわち内容を何らか の範疇に分類するか否かは主名詞と補充部だけでは判断材料として十分でないと考え,本 論文では,〈主名詞と補充部の意味関係〉,〈主名詞と共起する述語や文中の働き〉,〈主名詞 の意味〉という三つの観点に着目し,主名詞による補充部に対する「特徴付け」の可能性 を検討した。

以下にこの三つの観点に沿って,第 3章から第 5章で主名詞による「特徴付け」の可能 性について明らかになったことをまとめる。

〈主名詞と補充部の意味関係〉

本論では,主名詞と補充部の意味関係という観点から,主名詞による作用を検討し,主 名詞と補充部の意味関係が一様でないことが明らかになった。ここでは,主に「統合補充」,

「関わり補充」,高橋(1979)の「特殊化のかかわり」を取り上げるが,名詞「言葉」,「手 紙」,「音」とその類の名詞で見たように,これらの三つの関係の他に,名詞の内容補充表 現と共通点が見られるものの,周辺的なものとして位置づけられるものもあった。この多

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様な意味関係の中で用いられる主名詞による作用は,先行研究で指摘されている「ラベリ ング」という機能だけだと言えるのか。各々の意味関係における主名詞による作用,とり わけ「特徴付け」の可能性を検討した結果,主名詞と補充部が同格になるという「統合補 充」が認められる場合は「特徴付け」の可能性が高いと考えられるのに対して,補充部が 主名詞の指し示すことがらと関連のあることがらを示す「関わり補充」及び主名詞と補充 部との間に上位概念-下位概念の関係が認められる高橋(1979)の「特殊化のかかわり」

が認められる場合は「特徴付け」の可能性がほとんどないと考えられるということが明ら かになった。

1.1.1で取り上げた日本語の先行研究に見られる内容補充表現の意味によるタイプ分けで

見たように,主名詞と補充内容との間の意味関係には,寺村(1993b)のいう「ふつうの内 容補充」と「相対的内容補充 」や高橋(1979)のいう「内容づけのかかわり」,と「状況 のかかわり」などのタイプが認められている。本論文では,前者を「統合補充」,後者を「関 わり補充」と呼ぶ。また,高橋(1979)が更に提唱している「同情する気持ち」のように 上位概念‐下位概念の関係が認められる「特殊化のかかわり」もここでは,「統合補充」に 見られる特殊な関係として位置づけ,名前を変えず採用することにした。

以下に,例を挙げ,まず,「統合補充」と「関わり補充」の違いを説明する。

(1) a. 火事が広がった原因は空気が乾燥していたことだ。

b. 空気が乾燥していたという原因…

(2) a. キング牧師が暗殺された結果,黒人解放運動は過激化の道を辿った。

b. 黒人解放運動は過激化の道を辿ったという結果…

((1),(2)は寺村(1993:199)より,1.1.1.1の(4)~(5)を再掲)

(1)aと(2)aにおいて,「原因」や「結果」の内容を表しているのは補充部ではなく,それ に後続する,「空気が乾燥していた」及び「黒人解放運動が過激化の道を辿った」といった 事態である。下線部の補充部によって表されるのは,(1)aでは,「空気が乾燥していたこと」

によって生じた事態,すなわち,結果であり,(2)aでは,「黒人解放運動が過激化の道を辿 った」ことの原因である。(1)a と(2)a に見られる「関わり補充」では,補充部が主名詞の 内容を表すのではなく,何の「原因」や何の「結果」といったように,主名詞の指し示す 事柄と関連するもう一つの事柄の内容を表す。一方,(1)b と(2)b の「統合補充」では,補 充部が主名詞の内容を表す。

「関わり補充」は,ドイツ語にも認められる。

(3) Aber eine solche, wenn auch berechtigte Befürchtung ist für mich noch kein Grund, die Sache nicht doch zu wagen Das Schloss

しかし,いかにも正当な心配ではありますが,わたしに言わせれば,こういう心配だ

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けでは,まだ自分の願いをあきらめる理由にはなりかねます。「城」

(3)では,Grund(理由)そのものを表しているのは,主語のBefürchtung(心配)であ り,補充部によって表されているのは,Befürchtung(心配)が引き起こしたことがらdie

Sache nicht doch zu wagen(自分の願いをあきらめる<やっぱりそれを敢行しないこと)

である。

このように,「関わり補充」は,日本語とドイツ語の両者で認められる補充の仕方である。

「特徴付け」の可能性に関しては,「統合補充」では,後述する主名詞が機能動詞結合に用 いられる場合や「特殊化のかかわり」を除くと,基本的に「特徴付け」の可能性が高いと 考えられる。一方,「関わり補充」では,主名詞による「特徴付け」の可能性がほとんどな いと考えられる。というのも,補充部が主名詞の内容ではなく,主名詞の指し示す事柄と 関連するもう一つの事柄の内容を表すため,主名詞が補充部の内容を特徴付けていると言 えないからである。

「統合補充」は,ほとんどの主名詞に見られるのに対して,「関わり補充」は,一部の主 名詞にしか見られない。それらの名詞は,先行研究でも指摘されているように,また上の 例で「原因」及び「結果」が代表として用いられることが示唆するように,基本的に「こ とがら」名詞に数えられる名詞,とりわけことがらの側面を表す名詞であると言える。た だし,ドイツ語のみではあるが,「言語活動」名詞にも「関わり補充」の例が観察できた。

第3章の3.1の(9)と(10)で見た主名詞Erklärung(説明)の例を再掲する。

(4) … , und das Ganze schien damals für seinen Unverstand nur die Erklärung zu haben, daß die Mutter von ihm weglaufen wolle. Amerika

そんなことがみんな,お母さんはおまえを放っておいて逃け出したいんだよ,と言 われているみたいに子供の幼稚な頭には思われてならなかった。「アメリカ」

(5) Plötzlich fiel ihr eine Erklärung dafür ein, warum ihr der Türsteher vor dem intercontinental bekannt vorgekommen war. Tausend strahlende Sonnen

(なぜインターコンチネンタル前のドアマンが見覚えのあるように思われたのか,

突然思いついた。)

((4),(5)は3.1の(9)~(10)の再掲)

(4)では,dass節(母親が彼から逃げ出したいのだということ)がErklärung(説明)の 内容を表しているのに対して,(5)では,相関詞のdafürを介しての補充部warum … war

(なぜインターコンチネンタル前のドアマンが見覚えのあるように思われたのか)には,

Erklärung(説明)の内容が表されておらず,ドアマンが見覚えのあるように思えたこと,

すなわち Erklärung(説明)されるべき事態だけが述べられ,なぜそう思えたのかという

説明自体は述べられていない。このように,Erklärung(説明)の内容が表される(4)は

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「統合補充」であるのに対して,Erklärung(説明)と関連するもう一つの事柄,ここでは 説明されるべき事態が表される(5)は「関わり補充」である。

日本語とドイツ語における「ことがら」名詞に見られる「関わり補充」は,ことがらに 関係する要素もしくはことがらの側面を表す名詞の用例で多く観察された。これらの名詞 を意味的に分類すると,日本語では,①「モーダルな意味」を表す名詞類(「許可」,「権限」,

「義務」等),②「姿」類(「様子」,「格好」,「調子」等),③「理由」,「結果」,「方法」④ 契機を表す名詞類(「力」,「機会」,「自由」等),⑤「証拠」類(「跡」,「兆候」,「前轍」等)

という 5 つのサブグループが認められる。ドイツ語では,①「モーダルな意味」を表す名 詞類(Erlaubnis(許可),Fähigkeit(能力),Pflicht(義務)等),②Grund(理由),③ Art(仕方)類(Methode(方法),Weise(方法)等)及び「契機」を表す名詞類(Kraft

(力),Anstrengung(努力)等),④Beweis(証拠)類(Signal(合図),Zeichen(しる し)等)という 4 つのサブグループが認められる。それぞれのグループは,更に「統合補 充」も認められるかどうかという観点から次のようにまとめることができる。

(6) 「関わり補充」が認められる日本語の主な名詞

主名詞の意味 「統合補充」

の有無

重なり の有無

① モーダルな意味を表す名詞類(「許可」類,「可能(性)」

類,「義務」類に更に分けられる)

○ ○

② 「姿」類(様子,格好,調子など) ○ ○

③ 理由,結果,方法 ○ ×

④ 契機を表す名詞類(力,機会,自由など) × ×

⑤ 「証拠」類(跡,徴候,前轍など) × ×

(7) 「関わり補充」が認められるドイツ語の主な名詞

主名詞の意味 「統合補充」

の有無

重なり の有無

① モーダルな意味を表す名詞類(Erlaubnis(許可)類,

Fähigkeit(能力)類,Pflicht(義務)類に分けられる)

○ ○

② Grund(理由) ○ ×

③ Art(仕方)類及び契機を表す名詞類(Anstrengung(努

力),Kraft(力), Mühe(努力/苦労)など)

× ×

④ Beweis類(Signal(合図),Zeichen(しるし)など) × ×

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