第 6 章 石炭火力発電所新増設プロジェクトにおける我が国企業の課題
6.3 我が国企業の競争優位が発揮されるプロジェクトモデル
「パ」国のニーズと我が国技術の競争優位性分析を行い、以下の 3 つのプロジェクトモ デルを選択した。
これらのモデルにおいて「パ」国での競争優位性が発揮できる案を立案した。
(1)高効率石炭火力プロジェクトモデル
(2)環境負荷改善プロジェクトモデル
(3)石炭乾燥プロジェクトモデル
119 (1) 高効率石炭火力プロジェクトモデル
我が国の褐炭焚き USC 石炭火力プラントは効率と実績から優位性がある。「パ」国でそ の優位性を発揮するには図6.2に示すプロジェクトスキームにおいて、第5章5.2(4)ライフ サイクルコストで説明したように運開後 1-10 年間の債務返済金と金利の負担が大きく、
融資条件の有利なレンダーと連携し、コンサルタントとの情報交換により適切な技術仕様 書の作成と入札時の適正な技術評価が求められる。
図6.2 「パ」国における我が国のUSC適用スキーム
以上のプロジェクト体制の実現と我が国企業が求める条件の結果、我が国のUSC石炭火 力発電技術が「パ」国において優位性が発揮できると考える。
ただし、現状において「パ」国における日本企業はEPCへの参入には以下の理由により 否定的である。
1)CPEC資金による中国企業の参入が容易で中国業者との価格競争となる。
2)「パ」国における長期安全の確保が必要である。
スポンサー
事業会社 レンダー(金融機関)
出資 配当 ガイド
ライン
電力購入者
(電力会社等)
EPCコントラクター 入札
EPC契約 建設 買電契約(PPA)
電力供給
「パ」国政府
政府 サポート
保守・操業契約者 保守
・操業契約 融資 返済
石炭供給者 ユーティリティ供給者
機器供給者(日本等)
機器供給者(ローカル)
供給契約
購入契約 納品 シンド州政府
コンサルタント会社 OE契約
入札評価等
メンテ契約 部品供給
応札・契約者
120 (2) 環境負荷改善プロジェクトモデル
「パ」国での今後の石炭火力の増加、特にタール炭田地区への集中を考慮するとWB/IFC ガイドラインの順守によっても環境汚染防止には不十分であることは中国その他の事例か らも予想される。また、発電所レベルでの排気成分監視ばかりでなく州政府、連邦政府レベ ルでの環境監視を強化していく必要がある。
これらを考慮すると我が国の優位なAQCS(一体化環境システム)に、さらにオンライン モニタリングシステムを附属する一体化環境システム(AQCS, Air Quality Control System) とすることが望ましい。
図6.3にAQCSにオンラインシステムが附属したシステム概要を示す。
図6.3 AQCSとオンラインモニタリングシステム
出典:MHPS(三菱日立パワーシステムズ株式会社)、堀場製作所資料から調査チーム作成
オンラインモニタリングシステムには下記の優位性がある。
日本製の低濃度アンモニア分析計を採用することで、リークアンモニアを正し く計測でき、硫安の結晶生成防止につながる。
低濃度 NOX・SO2分析計にクロスフロー法を採用することで、構成頻度を減少 させることができ、メンテナンス性を向上できる。
燐酸添加装置を追加したSO2分析計の採用にて高湿度SO2の溶解損失の低減を 図る。
後方散乱式ダスト計(加熱部付きプローグ+分析計)を採用することで、水分の
NOx/O2 NOx/SO2 Air Monitor
/O2/Dust SO2/O2
NOx/O2 Leakage NH3 Portable
Analyzer
Non Leak Gas Cooler Catalysis
NH3/NH4Cl
Non Leak Gas Re-heater Low-Low Temp.
Electrostatic Precipitator
121
多いサンプルにおけるダスト計測の精度の向上を図る。
軽量で高性能のポータブル環境計測機器をバックアップに持つことで、常設機 器不良・故障時において、同機器で計測することによって環境管理能力が向上す る。
また、脱硫システムの排水処理設備を省略する無排水型脱硫システムの採用により、設備 費、運用費の低減が図れる。
図6.4に無排水型脱硫システムの概要を示す。
図6.4 無排水型脱硫システム 出典:MHPS(三菱日立パワーシステムズ株式会社)
WSD:Wastewater Spray Dryer
122 (3) 石炭乾燥プロジェクトモデル
4.3においてタール炭における乾燥技術適応可能性、経済性を評価した。
表4.12に乾燥後の注意すべき点として、自然発火の防止をあげた。
特に「パ」国におけるタール炭乾燥の目的は低発熱量の改善ばかりでなく、タール炭田地 区以外の石炭火力発電所での輸入炭との切り替えである。このため、乾燥後のタール炭は表 6.7および図6.5に示すタール炭使用を予定している石炭火力発電所まで輸送され貯炭され なければならない。
表6.7 乾燥後のタール炭を使用可能な発電所
位置 発電所名 形式 燃料 運開年 出力MW 台数
② Hub Power Balochistan Power Station
(Sub-C) IPP Import 2019 660 2
③ Lucky Electric Power Company Ltd.
Bin Qasim IPP Local 2018 660 1
④ GENCO-I Jamshoro Thermal Power
Station 国営 Import 2018 660 1
⑤ GENCO-IV Lakhra Power Station 国営 Local 1995~96 50 3
⑨ Huaneng Shandong, Shandong Ruyi
Sahiwal Power Station (SC) IPP Import 2017,18 660 2
⑩ Port Qasim Power Station (SC) IPP Import 2017,18 660 2
図6.5 乾燥後のタール炭輸送先 出典:調査チーム作成
500Km
Thar Coal-field
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そこで、乾燥後の自然発火を防止するためPVA(Polyvinyl Alcohol)等のバインダーにより 石炭表面からの揮発を防止し、また輸送および受け入れ先設備(クラッシャー、ホッパー等)
の機械的仕様に合わせるため輸入炭と同等のサイズ硬度をもつようにブリケット化を行う ことにより、乾燥技術の優位性が発揮できるものと考えられる。
石炭乾燥用STD(Steam Tube Dryer)とブリケット装置のシステムを図6.6に示す。
図6.6 石炭乾燥とブリケットシステム 出典:月島機械Dryer資料により調査チーム作成
STD(Steam Dryer)の構造
図 6.7 に水分の多いタール炭を乾燥させ発熱量の改善と輸送体積の削減を実現できる STD(Steam Dryer)の構造を示す。
基本構造はセメント事業のキルンと同じであるが、キルンが石炭燃焼ガスによる直接乾 燥に対して、乾燥蒸気を凝縮水として回収するための間接乾燥構造になっている。
低発熱量のタール炭(褐炭)を原料にしながら、輸入炭(瀝青炭)と同等の発熱量を実現 して、輸入炭焚きボイラでも充分使用可能である。(ボイラ設計許容範囲)
処理条件は 120~150℃、2-3気圧程度という比較的穏やかな条件で蒸気タービンの抽気 蒸気が利用可能である。
Dispersion Device Conveyer
Hopper
Water Steam
Steam Dryer
Kneader
Briquette Machine Air Dryer
Briquette Coal
Draft Fan Cyclone
Conveyer Binder Water
Mixer
124
図6.7 STDの内部構造(間接乾燥の概略図)
出典:月島機械
ブリケット装置について
ブリケット装置はタール炭乾燥後少量のバインダー(Poly Vinyl Alcoholまたはアスファ ルト等)を混ぜて輸入炭と同様のハンドリングが可能となるように成型される。
このバインダーが石炭粒界を覆い揮発成分の蒸発を防ぎ、自然発火を抑制して安全に輸 送・貯蔵が可能となる。
原料の褐炭を5mm以下に粉砕し、少量のアスファルトを加え、熱媒体となる軽質油と共 に攪拌混合して泥状の流体(スラリー)をつくり、これを加熱することで、褐炭中の水分を 蒸発させて除去する。
125
a. 石炭火力発電所を利用した石炭乾燥プロジェクトモデル
石炭乾燥には乾燥用の熱源が必要である。我が国技術による乾燥技術は熱源に蒸気を使 用しており、乾燥のためにボイラを必要とする。
しかし、乾燥処理は長距離輸送の不要な山元付近にて行うため、山元発電所の蒸気タービ ン抽気蒸気を利用することが可能である。
図6.8にプロジェクトモデルを示す。
本モデルの特徴は下記である。
1)石炭乾燥用熱源を石炭火力発電所より供給され、追加のボイラ、環境装置が不要。
2)蒸気抽気により発電プラントの熱消費率が改善する。
3)石炭乾燥媒体はSTD(Steam Tube Dryer)であり加熱後の凝縮水は発電所に回収さ れ水損失がない。
なお、将来的に石炭ガス化発電(IGCC)の採用による更なる効率改善を行うこともでき る(図6.9)。
図6.8 石炭火力を利用した石炭乾燥モデル 蒸気
石炭 ドレン
空気or
キャリアガス
燃焼排ガス タール炭
燃焼排ガス
STD
空気
褐炭焚 きボイ ラ
排ガス微粉砕機
タービン・
発電機 粉砕機
復水器 バグフィルタ
キャリアガス(大気)
褐炭乾燥システム 大容量抽気発電プロセス
内陸輸送
(鉄道、トラック)
「パ」国内石炭火力発電所(輸 入炭焚き)
定圧10kg/cm2
環境設備・煙突 排気ガス
環境設備・
煙突
ブリケット設備
選炭 設備
(湿式)
選炭 設備
(乾式)
選炭設備は湿式または乾式どちらかを選択
126
図6.9 IGCC(空気吹き)を利用した石炭乾燥モデル
出典:MHPS(三菱日立パワーシステムズ株式会社)資料をもとに調査チーム作成 褐炭乾燥
システム
加熱蒸気
凝 縮水
127 6.4 <参考>「パ」国に適用可能な我が国技術
表 6.2 で我が国企業が持つ技術等の競争優位と競争劣位において我が国技術の評価を行 った。評価の結果、△本事業の主眼ではないが参考技術として「パ」国に適用が可能、また は、将来適用が可能とした技術について以下に参考説明する。
(1) 石炭ガス化プロジェクトモデル
現在「パ」国は国内ガス田の生産低下(枯渇)に対応するため主にカタールから天然ガス を輸入している。これはアバシ新首相のガス化推進政策のもとで行われており、シャリフ前 首相が推進してきたCPECによるタール炭鉱開発とは一見関係がないように見える。
ただし、「パ」国のガス消費量の18%が肥料(尿素)用であり、天然ガスの供給不足は真 っ先に肥料工場の操業制限にされる現状からは、タール炭田のガス化は将来的に「パ」国の エネルギーセキュリティにかなう。
以上から我が国の石炭ガス化技術によるプロジェクトモデルを説明する。
ただし、既存のパイプラインによる移送はできないため、近隣の肥料工場との連携が必要 である。
我が国技術による石炭ガス化転換技術の状況を表6.8に示す。