第 3 章 窰洞四合院の空間構成と各棟の特徴
3.2 米脂四合院の空間構成
3.2.3 古城四合院各棟の名称と機能
米脂四合院は地上式窰洞と房で構成される。奥にある母屋は全て窰洞であり、「正窰」
と呼び、その後ろに付属して倉庫として使う窰洞を「枕頭窰」と呼ぶ。両側の向かい合う 棟を「廂房」あるいは「廂窰」、母屋の反対側にある北京四合院の倒座に当たるものを「庁房」
あるいは「庁窰」と呼ぶ ( 図 3-10)。家族内の上下関係或いは老幼関係により使用できる部 屋を決めているようだ。各棟は中庭を中心に展開しており、北京四合院のような回廊が見 られない。入口となる大門は院子の東南側に設置することが多く、便所は院子の隅にある。
房では柱間の距離が 1 開間となり、3 開間と 5 開間の構成が見られる。窰洞の一室は「1 孔」
と数え、1 列に 3 室がある場合では「1 列 3 孔」と呼ぶ。古城では、主窰が 1 列 3 孔あるい は 1 列 5 孔であり、廂房と庁房は主に 3 開間、廂窰と庁窰は 1 列 3 孔である。
大門 正窰棟
中庭 枕頭窰
廂房/
窰棟
廂房/
窰棟
庁房 (窰)棟
動線 壁 古城四合院基本形
大門:昔ここで進入の許可を待つところ として利用されてきた。入口に入ると庁 房或いは廂房の壁面を利用する照壁が設 置され、「福」、「吉」など縁起が良い 字の彫刻が施されている。
正窰棟:四合院一番奥にある棟が「正窰
」(zheng yao)と言われ、1列3孔、5孔で あり、東南あるいは西南向きに配置する のが一般的である。主に接客や持ち主の 寝室となる。
廂房(窰)棟:正窰の両側に設置する1列3孔 の窰洞或いは木造・煉瓦壁の部屋を廂房(窰 )と呼ばれ、昔は息子と娘たちの寝室或いは 厨房として利用されていた。
庁房(窰)棟:正窰に向かう棟は庁房(窰) と呼ばれ、1列3孔の窰洞或いは木造・煉 瓦壁の部屋である。建てられた時期は使 用人の居室、先祖を祀る場所、行事を行 う場所として使われていた。
枕頭窰:正窰の後ろに連続設置される食 糧や石炭を貯蔵するための窰洞である。
中庭:中庭を介して、各棟へとつながる。
家族団欒や食時の場とされ、植栽の栽培、
洗濯物を干す場所として利用されていた。
図 3-10 古城四合院の基本構成
①大門と照壁
古城四合院では、入口となる大門は進入の許可を待つところとして利用されている。31 院中の 28 院では間口 2m、奥行き 3 m前後の煉瓦壁・木造切り妻屋根の大門であり、北京の「垂 花門」と似ているものがあれば、アーチを持つ型式も見られる ( 図 3-12)。また、大きな木 造の屋根がある型式と西洋の要素を取り入れた型式も見られる。それ以外、庁房棟窰洞の 真ん中の 1 孔に木製の扉を付けて、入口として利用する事例が 3 院に見られる ( 図 3-13)。
その使い方は他地域四合院では見られないが、木造・煉瓦壁の倒座棟の 1 室を大門として 利用する事例はあるので、同様に活用した例と言える。何院の大門では黒塗り金文字の横 額も見られ、「堂構維新」などの文字が書いてある。
大門に入るとその正面に視線を塞ぐための照壁がある。照壁は廂房の妻壁を利用するケ ースも多く見られ、「福」、「吉」など縁起が良い字や絵の彫刻が施されている。それは 北京四合院と平遥四合院と同様である。照壁に土地の神様を祀る場所を設置した事例も見 られる。
図 3-12 大門写真
図 3-13 四合院入口スケッチ
②正窰
北京四合院の正房棟は全部木構造の「房」であり、間口数は 3,5,7 の奇数である。「一 明両暗」注 7)は一般的であり、明室は接客或いは家族団欒のスペースであり、暗室はプライ バシー性高いの寝室である。正房棟の両側に間口数 1 或いは 2 の「耳房」が設けられ、主 に家族家長の居室や書斎として利用されていた。党家村四合院の正房棟は「庁房」と言われ、
間口数 3 間のものか「小 5 間」と呼ばれる両側の部屋がより狭いものである。庁房は居室 として利用するのが少なく、昔は家族の先祖を祀る場所あるいは接客の場所として利用さ れていた。山西四合院の正房棟は木構造の「房」或いは「窰洞」を用い、「一明両暗」や「三 明両暗」の部屋割りが見られ、明室は接客の場或いは祖先を祀るところであり、暗室は寝 室として利用されている。
それに対して、米脂古城の四合院では、室数は 3 と 5 が多く、孔の間に扉を付けて主に
「一明両暗」の構成であり外部から必ず「明」の部屋を経由して両側の寝室行くとのこと である ( 図 3-14)。かつての使い方として、真ん中の 1 孔は接客あるいは家族が話し合う場 所であり、両側の部屋は持ち主と長男の寝室であった。北京と平遥でも同じような使い方 が見られる。正窰前面に設けられたテラスは月台 (YueTai) と呼ばれ、地面より 450mm か ら 1000mm 程度高く作られる。正窰の高さは廂窰と庁窰より高く、建物の格が表れていると 考えられる。同じく窰洞の場合、山西省四合院では月台に屋根をかけるのが多く見られ、
半屋外空間となっている。木造の柱と斗拱が設けられているのは構造より装飾上の意味が 大きい。米脂では、月台の屋根がほとんどなくなり、それは降水量と関係なく、ただ経済 上に高い木材を負担するのができなかったためと推測できる。
「枕頭窰 ZhenTouYao」は正窰の裏に設置され、食糧や石炭を貯蔵する場所であった。事
図 3-14 一明両暗 図 3-15 枕頭窰
明
暗 暗 接客、
会話
寝室 寝室
例中 3 院に見られ、清時代の乾隆年に建設したものが 1 例、中華民国時代に建設したもの が 2 例ある。平遥では枕頭窰は見られないが、北京には正房棟の後ろに同様の役割を持つ「後 罩房」がある ( 図 3-16)。
③廂房 ( 窰 )
廂房について、北京四合院と山西四合院は間口数 3 間の房が一般的であり、主に若者の 居室、客室として利用している。党家村四合院では、間口 2 の「房」が多く見られ、「一 明一暗」の構成が多く、東廂房は主に持ち主と長男の寝室として利用され、西廂房は若者 の寝室あるいは厨房、倉庫として利用された。
米脂県古城四合院では、間口数 3 の「房」或いは窰洞であり、「一明両暗」、「一室」、
「一明一暗」の構成が見られる。古城四合院では廂房は左右対称に配置されるが、一般的 には西廂房より東廂房が上位とされる。廂房は主に息子あるいは娘達の寝室として利用し ていたが、厨房や倉庫として利用する事例もある。
④庁房 ( 窰 )
他地域において、正房の反対側にある棟を倒座と言い、主に使用人の寝室あるいは倉庫 として利用していた。古城では「庁房」と呼ばれ、「庁」は接客の場所や人が集まる場所 を意味する注 9)。党家村では正房に当たるものを「庁房」と呼び、先祖を祀る場所、接客の 場所や宴会を行う場所であった。古城の「庁房」は使用人の部屋、倉庫あるいは店舗とす る事例も見られるが、建設当初は党家村の「庁房」と同じように主に宴会や行事を行う場
図 3-16 他地域四合院の平面構成注 8)
内院 正房
倒座 倒座 倒座
正房 庁房
耳房 耳房
廂 房 廂
房 廂
房
廂 房
廂 房
廂 房 前院
大門
大門 大門
上院
下院
1 3 5 10m
北京四合院 平遥四合院 党家村四合院
後院 後罩房
参考文献 7,8,9 による。
注 8)
所あるいは先祖を祀る場所であった。しかし、米脂県四合院では、庁房を大門の近い場所 に設置する点において、機能的には合理である。
⑤中庭
四合院では、中庭を介して各棟へと繋がり、住棟の採光と通風などには重要である。日 常生活は中庭を中心に展開されており、各棟は方位により、上下関係がある。昔は家族団 らんや夏の食事に利用され、観賞用の植栽なども置いてあった。
ここでは、正房棟がある上院の中庭に着目してみる。北京四合院以外、各棟を繋がる回 廊の設置が見られてない。参考資料に載せた事例の図面のデータにより、中庭の奥行きと 間口の比率に着目すると、北京四合院、米脂四合院、山西四合院、関中四合院の順に細長 くなる。
「漢典」により。
注 9)
図 3-17 米脂県庁房 図 3-18 党家村庁房利用例
表 3-1 米脂古城四合院と他地域四合院の比較
米脂県古城 北京四合院 関中四合院 ( 党家村 ) 山西四合院 ( 平遥古鎮 )
入 口
大門:木構造、窰洞型 照壁:基本的には大門に向か って設置され、廂房の壁を利 用するところが多い
大門 : 木構造
照壁:基本的には大門に向かって 設置され、廂房の壁を利用すると ころが多い
大門:木構造
照壁:設置しないところもあ る。
大門:木構造
照壁:基本的には大門に向か って設置され、廂房の壁を利 用するところが多い
中 庭
奥行きと間口の比率 1:0.82 ~ 1:3.5
奥 行 き と 間 口 の 比 率 平 均 値 1:1.60
( 実測した 32 院のデータにより )
奥行きと間口の比率 1:0.62 ~ 1:1.38
奥行きと間口の比率平均値 1:1.02 ( 参考資料 20 院のデータにより )
奥行きと間口の比率 1:1.75 ~ 1:6.32
奥 行 き と 間 口 の 比 率 平 均 値 1:4.26
( 参考資料 15 院のデータにより )
奥行きと間口の比率 1:1.6 ~ 1:3.5
奥行きと間口の比率平均値 1:2.42
( 参考資料 22 院のデータにより )
正 房 / 窰
・1 列 3 孔と 5 孔子の「窰洞」
・「一明両暗」
・回廊なし
・両側に「耳房」がない
・「正窰」と呼ばれ、居室、
接客
・間口数は 3 間、5 間、7 間の「房」
・「一明両暗」
・回廊あり
・両側に間口 1 間或いは 2 間の「耳 房」がある
・「正房」と呼ばれ、居室、接客
・間口数は 3 間、小 5 間の「房」
・「一室」
・回廊なし
・両側に「耳房」がない
・「庁房」と呼ばれ、居室、接客、
倉庫
・間口数は 3 間、5 間の「窰 洞」及び「房」
・「一明両暗」
・回廊なし
・両側に「耳房」がない
・家族の家長の居室、接客
廂 房 / 窰
・間口 3 の窰洞或いは「房」
・「一明両暗」、「一室」
・回廊なし
・耳房なし
・若者の寝室、客室、厨房、
倉庫
・間口 2 間或いは 3 間の「房」
・「一室」、「一明一暗」
・回廊あり
・耳房あり
・若者の寝室、客室
・間口数は 2 間、3 間の「房」、
部屋の数は 2 或いは 4 が多く 見られる
・「一明一暗」「一明両暗」
・回廊なし
・耳房なし
・寝室、接客、炊事、食事
・間口 3 の窰洞或いは木造・
煉瓦壁
・「一明両暗」、「一室」
・回廊なし
・耳房なし
・若者寝室、厨房、倉庫
庁 房 / 窰
・間口 3 の窰洞或いは柱間数 3 間と 5 間の木造・煉瓦壁
・「一明両暗」
・回廊なし
・使用人の居室、接客、倉庫
・庁房 / 庁窰
・間口数 3 間と 5 間の「房」
・「一室」「一明両暗」
・回廊なし
・使用人の居室、客室、倉庫
・倒座
・柱間数 3 間と 5 間の「房」
・「一明両暗」
・回廊なし
・客室、居室
・倒座
・柱間数 3 間と 5 間の木造
・煉瓦壁の「房」
・「一明両暗」
・回廊なし
・使用人の居室、客室、倉庫
・倒座 三間二耳
三孔窰 五孔窰
三孔窰 五孔窰
三間 五間四耳
三間 五間
小五間
窰洞(一明両暗) 房(一室)
一明両暗 房(一明一暗) 一室 一室
両側耳房あり 一室 単側耳房あり
4間式 (一明一暗)
3間式 (一明両暗)