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Ⅲ-A-5.頭頸部癌患者に対するがんリハビリテーション

2 口腔癌・中咽頭癌の周術期

1)障害の概要

舌癌をはじめとする口腔癌の術後には,舌の運動障害のため嚥下障害および構音障害を 様々な程度で認める。

舌の半分以上が切除された場合には,腹直筋皮弁などで再建が行われるが,食塊の咀嚼・

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予防的 回復的 維持的 緩和的

がん発見 治療開始 再発 / 転移 末期がん

本図はがんのリハビリの流れを示すもので WHO の緩和ケア定義とは異なることに注意

(2002 年の WHO の定義では緩和ケアは末期がんに限定されない)。

がんの診断後の早期

(手術,放射線,化 学療法の前から)に 開始。機能障害はま だないが,その予防 を目的とする。

機能障害,能力低下 の存在する患者に対 して,最大限の機能 回復を図る。

腫瘍が増大し,機能 障害が進行しつつあ る 患 者 の セ ル フ ケ ア , 運 動 能 力 を 維 持・改善することを 試みる。自助具の使用,動作 のコツ,拘縮,筋力 低下など廃用予防の 訓練も含む。

末期のがん患者に対 し て , 希 望 ・ 要 望

(Demands)を尊重し ながら,身体的,精神 的,社会的にもQOL の高い生活が送れる ように援助する。

図 1 がんリハビリテーションの病期別の目的  (文献 1,2 から引用,一部改変)

表 1 がんのリハビリテーションガイドラインにおける Clinical Question と推奨グレード

Clinical Question 推奨グレード 1 頭頸部がん領域の発話明瞭度,摂食・嚥下障害,副神経麻痺による機能障害・ADL,およびQOL について,系統的な評価を行うことは必要か? B

2 頭頸部がん手術後の摂食・嚥下障害に対して,嚥下造影検査・嚥下内視鏡検査による評価を行うことは,行わない場合に比べて,摂食・嚥下訓練を行ううえで有用か? B

3 舌がん・口腔がん術後の摂食・嚥下障害に対して,摂食・嚥下訓練を行うと,行わない場合に比べて,経口摂取が可能となる時期が早くなるか? B

4 咽頭がん術後の摂食・嚥下障害に対して摂食・嚥下訓練を行うと,行わない場合に比べて,経口摂取が可能となる時期が早くなるか? C1

5 喉頭がん術後の嚥下障害に対して摂食・嚥下訓練を行うと,行わない場合に比べて,経口摂取が可能となる時期が早くなるか? B

6 舌がん・口腔がん術後の構音障害に対して構音訓練を行うと,行わない場合に比べて,構音障害を改善することができるか? C1

7 咽頭・喉頭がん術後の喉頭全摘出術後の患者は代用音声の訓練を行えば,代用音声を獲得できるか? B

8 頭頸部がん患者に対して頸部リンパ節郭清後に副神経麻痺(僧帽筋麻痺)が生じた場合にリハビリテーションを行うと,行わない場合に比べて,肩関節周囲の障害の改善につながるか? A

9 頭頸部がん患者の放射線療法中・後に生じる摂食・嚥下障害に対して,嚥下造影検査による評価を行うことは,行わない場合に比べて有用か? B

10 頭頸部がん患者の放射線療法中に生じる可能性のある倦怠感や体力低下に対して,運動療法を行うことは,行わない場合に比べて,倦怠感を軽減することができるか? B 舌がん,口腔がん,咽頭がん,喉頭がんと診断され,治療が行われる予定の患者または行われた患者

(文献 3 から引用)

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Ⅲ.治療 17

形成,咽頭への移送といった口腔期の嚥下障害が生じる。残存舌と口蓋が接触せず,食塊を

うまくコントロールすることができない。切除範囲が舌に限局している患者では,咽頭や喉 頭の機能は保たれており誤嚥の危険は少ないので,液体やペースト状のものを,頸部を後方 へ傾けて重力を使いながら咽頭へ送り込むようにする(dump and swallow)。

構音障害に関しては,舌の切除範囲が大きくなるほどその可動性は制限され,発話明瞭度 は低下する。唾液の貯留や,咽頭まで切除範囲が及び開鼻声が顕著になると,さらに明瞭度 は低下する。

口腔底前方部の複合手術(下顎区域切除,舌部分切除,頸部郭清術との合併)では,再建 の方法,舌の切除範囲,舌骨上筋群の切断の有無によって嚥下障害の程度は様々である。

癌が上咽頭や中咽頭に及ぶと,腫瘍の切除範囲,再建の方法,舌骨上筋群の切断の有無に よって,鼻咽腔閉鎖不全,喉頭挙上の障害や食道入口部の開大不全など様々な咽頭期の障害 を生じ,誤嚥を引き起こす可能性がある。食塊が咽頭を通過するには,舌根と咽頭壁の協調 運動が必要であるため,舌根の働きは重要である。舌全摘と舌根が残存している場合の嚥下 や構音障害の程度には大きな違いがある 5)

2)リハビリテーションプログラム

術前には嚥下機能および構音機能に関して術前評価を行い,手術によって失われる機能や 障害される機能,機能回復の可能性や限界,術後のリハビリテーションの進め方について説 明する。

術後はできるだけ早期から介入し,創部の状態に合わせて訓練をすすめていく。術後7日 目頃,創部の状態も落ち着き経口摂取可能となった場合には,ビデオ嚥下造影検査(VF)・

嚥下内視鏡検査(VE)を施行し,経口摂取可能かどうか判断する。

創部の抜鈎・抜糸が済んだ頃からは積極的なリハビリテーションが可能となる。この時期 には,食事の形態はまだ常食には至っていないが,主たる栄養摂取の手段として経口摂取と なっていることが多い。しかし,嚥下障害が重度で,誤嚥の危険から直接嚥下訓練までで食 事開始に至っていない場合や,食事が開始されていても摂取量が不足している場合,主たる 栄養摂取の手段として経口摂取が確立するまでに時間がかかることが予測される場合には,

間欠的経管栄養法(OE法など)や経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG法)を選択する。

構音や嚥下障害の改善を目的とした舌接触補助床(PAP)や,軟口蓋挙上装置(PLP)など の歯科補綴装置も機能向上に大きな役割を果たすので,その適応について歯科・口腔外科医 と相談する。

退院時に嚥下障害や構音障害が残存している場合には,外来リハビリテーションを継続す る。嚥下障害に関しては,まだ改善が見込めるので外来でもVFやVEを定期的に行い,食 事の形態のアップやとろみ剤の必要性,姿勢や一口量などの代償手段の見直しを行う。構音 障害に関しては,舌の半分以上(特に全摘や亜全摘)が切除された患者に対してはさらにリ ハビリテーションを継続する必要がある。

復職を希望されている場合には,今後のおおよその回復の見込み(どの程度まで嚥下・構 音機能が回復するのか,どれくらい期間がかかるのか)を説明した上で,患者とよく話し

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合って,目標を設定する必要がある。

3)リハビリテーションの効果に関するエビデンス

嚥下障害に関しては,舌癌および口腔癌患者64例を含む82例の頭頸部癌術後患者の嚥下 機能をVFで評価し,嚥下訓練(口腔器官運動,息こらえ嚥下訓練,頸部の姿勢調整,メン デルゾーン手技,食材形態調整)を実施した経過を後方視的に調査したところ,咽頭期に重 度の問題点のある9例を除いた患者群では,口腔移送と誤嚥の改善を認めたという報告がある 6)

構音障害に関しては,舌全摘出術・舌亜全摘出術・舌部分切除術患者を対象に,平均術後 5週間から構音訓練(舌運動訓練,音読訓練,会話訓練,録音による聴覚的フィードバック)

を開始し,3〜6カ月継続したところ,舌全摘出術・舌亜全摘出術後など舌切除範囲が広い 症例では,発話明瞭度に改善を認めたという報告がある 7)。また,舌癌切除後症例に比較的 早期からPAPを装着し,3カ月間使用したところ,PAP装着時のほうが非装着時よりも,

発声発語の明瞭度は良好であったことが示されている 8)