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Ⅲ-B-7.甲状腺癌

3 アルゴリズム(乳頭癌)

葉峡部切除 ± 気管周囲郭清

葉峡部切除 + 気管周囲郭清 ± 上縦隔郭清

葉峡部切除~全摘+ 気管周囲郭清 + 頸部郭清 ± 上縦隔郭清 T1

N0

N1b N1a

葉峡部切除~全摘± 気管周囲郭清

葉峡部切除~全摘+ 気管周囲郭清 ± 上縦隔郭清

葉峡部切除~全摘+ 気管周囲郭清 + 頸部郭清 ± 上縦隔郭清 T2

T3

N0

N1b N1a

経過観察

術後アブレーション

全摘 + 気管周囲郭清

全摘 + 気管周囲郭清 ± 上縦隔郭清

全摘 + 気管周囲郭清 + 頸部郭清 ± 上縦隔郭清 T4

N0

N1b N1a

*ATAガイドラインリスク因子・両葉多発病変・両側N1b,年齢、リンパ節外進展 等を考慮して全 摘やアブレーションを選択

甲状腺分化癌に対する治療法

甲状腺分化癌において,基本的に手術が根治的標準治療であるとする考え方に変わりはな い 9)。しかし,近年,非外科的治療の進歩が著しく,外科的治療といかに組み合わせていく べきか議論が盛んとなっている。

放射性ヨード内用療法(radio active iodine:RAI),特に術後アブレーション療法は,本 邦では実施可能施設が限られるなど制限が多く,欧米に比べて必ずしも積極的に行われてこ なかった。しかし,2010年に 131I(30mCi)外来投与が認可されたこと,2012年にタイロゲン

(recombinant TSH:rhTSH)の認可により甲状腺ホルモン投与を中断せずに治療準備が可 能となったことから,術後アブレーションが適用しやすくなった。また,分子標的薬治療開 始の基準として131I不応症例(一般にRAI 600mCi以上)が推奨されていることもあり,本邦 での甲状腺癌治療におけるRAIの役割が増している。

手 術

甲状腺癌における原発巣の切除術式は,全摘,亜全摘,葉切除(峡部切除を合併した場合 も含む),葉部分切除,峡部切除(錐体葉の切除も含む),核出,そのほかに分けられる。切 除術式は悪性度診断を参考にして選択するが,欧米のガイドラインが甲状腺全摘術+術後 RAIを基本とするのに対し,本邦では機能温存と合併症の抑制を目的に葉(峡)部切除にと どめるとする考え方が主流である。しかし,近年では欧米でも日本と同様に一定の条件を満 たせば,葉(峡)部切除を許容する傾向にある。ATA-DTCガイドライン2015およびNCCN

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のガイドライン2016において,全摘の対象とされているのは,術前診断にて遠隔転移,甲

状腺被膜外進展,腫瘍径>4cm,頸部リンパ節転移(ただし,0.2cm未満で5個以下の微小 転移を除く),低分化癌,放射線治療歴,甲状腺癌の家族歴,両葉病変のある症例などであ り,それ以外では葉(峡部)切除が許容されている 9,10)

甲状腺全摘術では残存葉再発は予防できるが,葉峡部切除に比べてリンパ節再発や遠隔転 移の発生は減らせないこと,再発・生命予後を向上させるエビデンスは弱い点に注意が必要 である。しかし,利点としてサイログロブリン値による経過観察や再発転移時のRAIの適 用が容易となる点があげられる。(→CQ8-3)

葉峡部切除によって得られた永久病理診断の結果として広汎浸潤型濾胞癌や低分化癌が判 明した場合にも,放射性ヨードを用いた遠隔転移巣の検索や放射性ヨード内用療法を目的に 甲状腺補完全摘術を行う。

頸部郭清の範囲に関しては,原則としてN0であれば予防的郭清術は行わない方針でよい とする報告が多い 11,12,13)。ただし,気管周囲での後発リンパ節転移に対する二次手術では,

反回神経麻痺を含む合併症のリスクが高まることなどを考慮すると 14),少なくとも患側の気 管周囲の郭清を初回手術時に行うことが推奨される。(→CQ8-2)

気管浸潤に対する切除法には,切除範囲に応じて気管層状切除(shaving),気管窓状切除,

気管環状切除がある 15)。各術式の優劣について直接比較した報告はないので,浸潤の程度に よって術式を選択する。

放射線治療

放射線治療(外照射)

外照射は,切除不能もしくは術後腫瘍残存症例で内照射が施行できない場合や,骨転移に 対する疼痛緩和目的で行われることが多い。

放射性ヨード内用療法(RAI)

術後再発転移高リスク症例に対しては,131Iによる術後アブレーションが推奨されてい る 9)。一方で,低〜中間リスク症例に対しても一律に適用すべきかについては議論が多い。

(→CQ8-4)

遠隔転移を有する甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)においては,甲状腺全摘後の転移巣 に 131Iの取り込みが認められることを確認した後に,治療目的RAIが適用される。治療目的 RAIにおける 131I投与量は100〜200mCiが推奨される 10)

比較的良好な効果が期待できるのは若年の微小結節型の肺転移病変であり 16,17),局所再 発・リンパ節転移・骨転移ではヨード集積を認めても十分な効果が出ないことが多く,脳転 移では効果が期待できないとされる 6)

TSH 抑制療法

術後補助療法としてTSH抑制療法を一律に適用することについては対立した議論があり,

その位置づけは確立されていない。McGriffらのメタアナリシス 18)では再発転移の高リスク 群に対しての有効性が報告されている一方で,Sugitaniらは単施設のRCTにおいてTSH抑

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制療法・非施行群の施行群に対する非劣性を示し,特に低リスク症例に対するTSH抑制療 法は合併症を回避する意味でも不要としている 19)

NCCNガイドラインにおいても再発リスクが高い場合にはTSHレベル<0.1mU/L,再発 リスクが低い場合には正常レベル下限前後,再発リスクが低いがサイログロブリン陽性が持 続する場合にはTSHレベル0.1〜0.5mU/L程度に保ちながら経過観察をすべきとしてい る 10)。特に,女性や高齢患者では骨粗鬆症を予防するためにTSH値を0.5μU/ml(正常下 限)程度に留めることが推奨されている 20)

薬物療法

近年,RAI不応の再発転移甲状腺分化癌に対する分子標的薬(tyrosine kinase inhibitor:

TKI)としてレンバチニブとソラフェニブの有効性が示されている 21-23)。ただし,PFSの改 善は期待できるがOSの延長についてはエビデンスが確定していないため,腫瘍進行速度や 症状の有無を勘案した上で,QOLを落とさないように有害事象のマネージメントにも注意 しながら適用すべきである。(→CQ8-5)

髄様癌に対する治療法

髄様癌の診断には他の甲状腺分化癌の診断法に加え,カルシトニンやCEA測定が推奨さ れる。また,MEN2A,MEN2B,家族性髄様癌の鑑別のための全身検索およびRET遺伝 子変異の評価も重要である 24)

治療は外科的療法(甲状腺全摘±頸部郭清術)が主体となる 6)。高リスク髄様癌(特に遺伝 性髄様癌)では甲状腺全摘と中央区域郭清を基本とし,頸部リンパ節転移がある場合には外 側区域郭清を加えることが推奨される。再発転移症例に対する治療について欧米ではバンデ タニブがcategory1として推奨されており 10),本邦でもソラフェニブ,レンバチニブに続い て2015年から保険収載された。(→CQ8-5)

未分化癌に対する治療

未分化癌の予後不良因子として腫瘍径(>5cm),急性症状,遠隔転移,白血球増多など があげられる。未分化癌はいまだ非常に予後の悪い疾患であり,StageⅣA・B症例で肉眼 的に根治手術がなし得た場合には,術後補助療法(放射線治療もしくは化学放射線治療)を 加える集学的治療が推奨されている 6,10,25)。近年,国内第Ⅱ相試験においてATCに対しても TKIが有効とする報告がなされ 26),保険承認されたが,エビデンスのさらなる構築が必要で ある。(→CQ8-5)

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