第 3 章 排出許容枠の分配方法の変更による FIT-PCA の不公平感低減策の提案FIT-PCAの不公平感低減策の提案
3.3 不公平感の低減策
3.3.2 公共交通機関の発達差による不公平感低減策
以下の3つの条件すべてを満たしている人をガソリン・軽油の排出許容枠対象者と し、彼らに対して、ガソリン・軽油の排出許容枠を毎月追加配布する。
1. 使用目的が「日常・レジャー用」の自家用車を所有している(自家用車の使用目 的を「日常・レジャー用」として自動車保険を契約している)
2. 自動車運転免許を所有している
3. 自宅から近隣商業地域もしくは商業地域[29]まで、片道2km以上の距離がある 図3.5に示すように、日常生活における自動車の使用目的は、仕事と仕事以外に分け ることができると考えられる。そして、仕事以外の使用には、主に家庭での使用が考 えられる。さらに、仕事での自動車の使用目的としては、業務や通勤・通学での使用 が考えられ、家庭での自動車の使用目的としては、レジャーや日用品購入等での使用 が考えられる。これを踏まえ、FIT-PCAの原則に沿ったガソリン・軽油の排出許容枠 対象者の条件を設定していく。
まず、FIT-PCAの対象とするエネルギーは家庭部門の二酸化炭素排出量である。つ まり、FIT-PCAの対象となるのは家庭での使用に使われるレジャー用自動車、もしく は日用品購入等用の自動車を使用している人に限られる。よって、ガソリン・軽油の 排出許容枠追加対象者の条件の一つに「日常・レジャー用」として自動車保険を契約 している自家用車を使用している人に限定した。
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図 3.5: 日常生活における自動車の使用目的分類図
しかし、「日常・レジャー用」全ての自家用車を補助の対象とすると、レジャーのみ のために使用する自家用車についても補助してしまうことになる。これは、生活に大
きな支障をきたす可能性の高い人々に対し、より補助策を設けるというFIT-PCAの指 針からは認めることができない。そこで、対象者の自宅からスーパーなど日用品を購 入できる地域として定められている近隣商業地域もしくは商業地域[29]まで片道2km 以上の距離を設定した。そして、設定した距離は、マイカー通勤への通勤手当におい て、一定の限度額まで非課税となる通勤距離[30]を基準に考えた。これをFIT-PCAに 当てはめると、日常的に自宅から近隣商業地域もしくは商業地域までの片道2km以上 の距離を通っていれば、補助されるということである。よって、本制度の家庭での日常 生活上においても、自宅から近隣商業地域もしくは商業地域まで片道2km以上の距離 がある人に対しては、許容枠を追加配布するべきであると考えられる。そして、この 条件を加えることで、自動車の移動に制限が出ると、生活に大きな支障をきたす可能 性の高い人々に対してのみ、ガソリン・軽油の排出許容枠を配布できると考えられる。
次に、上記の条件全て満たした人に配布する毎月一世帯あたりのガソリン・軽油排 出枠は下記の式(3.1)によって算出する。
Y = 2aden
f (3.1)
Y:排出枠(kg-CO2)
a:対象者の自宅から近隣商業地域もしくは商業地域までの距離(km) d:1ヶ月あたりの自家用車の使用日数(日)
e:二酸化炭素排出係数(kg-CO2/L) n:自家用車台数(台)
f:燃費(km/L)
なお、上記の式(3.1)において、dを20、eを2.47、fを22.8とした。また、nに関し ては、例えば、自動車運転免許を所持している人が一人しかいないにもかかわらず、複 数台の自動車を所有している世帯の場合、使用する自動車は1台のみであっても十分 であり、その他の自動車にまで排出許容枠を配布することは配慮の限度を超えている と考えられる。よって、世帯での自動車運転免許所持人数以下の数とした。
つまり、各対象者に配布されるガソリン・軽油の排出許容枠は、「対象者の自宅から 近隣商業地域もしくは商業地域までの距離」の「往復分」の「20日分」に「二酸化炭 素排出係数」と「自動車台数」をかけたものを、「設定した燃費」で割ることによって 算出される。
ここで、d、e、fに設定した数値について詳しく述べる。
まず、dの「20」という数値について説明する。この数値はひと月に週5日分の使用 を補助することを目的に設定した値である。二酸化炭素排出量を削減するという FIT-PCAの目的を考慮に入れると、週6日以上に設定することは配慮しすぎであると言え る。そして、自動車保険契約において、例えば、週5日以上通学通勤用に自家用車を 使用する場合は、その自家用車を「通勤通学用」として契約しなければならない[31]。 これら2つのことを踏まえ、自家用車を日常的に使用することを換言すると、自家用 車を週5日使用することと言うことができる。よって、ひと月はおよそ4週間であるの で、週5日分、つまり、月20日分を設定すれば、日常的に自動車を使用しなければ生 活に支障をきたす人に対する必要性に配慮していると考えられるため、「20」という値 を設定した。
次に、eの「2.47」について説明する。この数値はガソリンと灯油それぞれの二酸化 炭素排出係数の中間値[32]である。中間値にしたのは、ガソリン・軽油の排出許容枠対 象者が、ガソリン車と軽油車どちらともを使用している場合が考えられるからである。
この場合に対しての特例を設けることは、FIT-PCAの複雑化につながってしまう。以 上のことから、ガソリン車と軽油車どちらの使用に対しても対応できるよう、ガソリ ンと灯油それぞれの二酸化炭素排出係数の中間値である「2.47」を二酸化炭素排出係数 として設定した。
続いて、fの「22.8」という数値について説明する。この数値は国土交通省が発表し ている「普通・小型自動車の燃費の良い乗用車ベスト10」の燃費の平均値と「軽自動 車の燃費の良い乗用車ベスト10」の燃費の平均値との中間値[33]の2割減[34]となって いる。まず、普通・小型自動車と軽自動車の「燃費の良い乗用車ベスト10」の燃費の 平均値の中間値という、自動車使用者にとって厳しい値を採用した理由は2つある。一 つは、二酸化炭素排出量を削減するというFIT-PCAの目的を達成するためであり、も う一つは、ガソリン・軽油の排出許容枠追加対象外者の不公平感の増加を防ぐためで ある。生活に必要だからという名目で無制限に許容枠を追加した場合には、二酸化炭 素排出量は増える一方になる可能性が高い。また、その場合には、ガソリン・軽油の排 出許容枠追加対象外者が、対象者に対してより不公平感を強めてしまう結果となって しまう。以上の理由から、自動車使用者にとって多少厳しい値を設定した。
ただし、この値はあくまでJC08モードにおけるカタログ燃費である[35]。このカタ ログ燃費は、あくまでも国が決めた試験法に沿って計測されたものであり、その値は 実走行燃費と大きく異なることが指摘されている[34]。そして、JC08モードにおいて 実走行燃費はカタログ燃費より平均2割低くなっていると言われている[34]。よって、
上記の算出式でも、実走行燃費に近づけるため、「普通・小型自動車の燃費の良い乗用 車ベスト10」の燃費の平均値と「軽自動車の燃費の良い乗用車ベスト10」の燃費の平 均値との中間値の2割減の数値である「22.8」という値を設定した。
さらに、図3.6に示した燃料基準達成車ステッカーと低排出ガス車ステッカーの両方 のステッカーが貼られている低燃費かつ低排出ガス認定車[36]を使用している人には上 記式で算出されたYの2倍の量の排出許容枠を配布することにする。この理由は、低 燃費かつ低排出ガス認定車の普及を促すためだからである。自動車の総保有台数に占 める低燃費かつ低排出ガス認定車の保有台数の割合は、年々増えており、平成19年度 末には自動車の総保有台数のうちの32%を占めるほどである[37]。しかし、言い方を変 えると、まだ32%しか普及していないとも言うことができる。よって、FIT-PCAの目 的を達成するためには、今後、自家用車を使用する必要がある人に対し、さらに、低 燃費かつ低排出ガス認定車の使用を促す必要があると考えられる。そこで、低燃費か つ低排出ガス認定車の使用に対し、Yの2倍の量の排出許容枠を配布することにした。
この理由は、そのわかりやすさからである。つまり、低燃費かつ低排出ガス認定車を 使用するようになれば、配布される排出許容枠が2倍になるというメッセージが全日 本在住者にすぐさま理解されやすくなり、その簡素さから、低燃費かつ低排出ガス認 定車の普及率が上がるという効果が期待できると考えられる。
以上から、低燃費かつ低排出ガス認定車を使用している対象者に対し、Yの2倍の 量の排出許容枠を配布することにした。
図 3.6: 低燃費かつ低排出ガス認定車用ステッカー[36]
3.3.3 要介護者在住による不公平感低減策提案
要介護1から5の人に対して、以下の表3.3に示した排出許容枠を毎月追加配布する。
要介護者とは、「身体上又は精神上の障害があるために、入浴、排せつ、食事等の日 常生活における基本的な動作の全部又は一部について、厚生労働省令で定める期間に わたり継続して、常時介護を要すると見込まれる状態にある65歳以上の人、もしくは その状態にある40歳以上65歳未満の者であって、なおかつその状態に陥った原因が特 定疾病[38]である人」と定義されている[14]。そして、要介護者には、要介護が必要な 時間に応じて要介護1から5までの介護度合が認定されている。その度合の中でも特 に、要介護5、要介護4の方は、介護を受ける時間が90分以上必要であると定義され ている[39]。よって、要介護5、要介護4の方は、外出したくても、家に居ざるを得な い人であると考えられる。健常者の1日の外出時間を12時間とすると、彼らが自宅に いる時間は12時間である。一方、要介護5、要介護4の方は、その度合の定義を考慮 に入れると1日中、つまり健常者の2倍の時間に相当する「24時間」自宅にいること になる。そのため、健常者の2倍の排出許容枠を配布すべきであると考えられる。以 上より、要介護5、要介護4の方には、新たに毎月一人あたり、北海道・北東北在住者
には172kg-CO2、北陸山陰・南東北在住者には129kg-CO2、その他の地域在住者には
103kg-CO2の排出許容枠を追加配布することにした。
そして、要介護3から要介護1の方には、どれだけ度合が低い場合であっても、必要 性の観点から、健常者よりも優遇すべきであることと制度対象者にとってわかりやす いよう、介護度合が1ずつ下がるにつれて、一定の割合で減らしていくことの2つを考 慮に入れ、排出許容枠の配分量を調整した。その結果、度合が1つずつ下がるごとに、
北海道・北東北在住者には毎月一人あたり43kg-CO2ずつ、北陸山陰・南東北在住者に
は32.25kg-CO2ずつ、その他の地域在住者には25.75kg-CO2ずつ減らしていくことが
適切であると導いた。以上より、表3.3に示した排出許容枠を毎月追加配布することに した。
表 3.3: 要介護者への毎月一人あたりの地域別の追加排出許容枠 排出許容枠(kg-CO2)
要介護度合 北海道・北東北 北陸山陰・南東北 その他の地域 要介護5・4 172 129 103
要介護3 129 96.75 77.25
要介護2 86 64.5 51.5
要介護1 43 32.5 25.75