第1章 諸言
2.1 分光エリプソメトリー
2.1.2 光学モデル
2.1.2.2 有効媒質理論
2.1.2.1 項は、複数の誘電体で構成される物質に外部電場を印加した場合である。しかし
単独の誘電体の場合、分極の影響は異なる。ここでは、球体の誘電体を単独で平行平板コ ンデンサに挿入し、外部電場を印加する場合について考える。この時、図2-16に示すよう に球体表面には均一に分極電荷が形成される。その結果、誘電体内部は外部電場 E だけで なく、分極電荷による電場E’も作用する。この電場E + E’は、Lorentzの局所電場と呼ばれ る。
ここで、E’は次式で与えられる。
0
0 2
0
3
4 cos
cos sin
2 P
r rd P E r
この結果、誘電体の局所電場Elocal = E + E’は次式で示される。
図2-16 Lorentzの局所電場
図2-15 誘電体による電子双極子放射
(2-50)
38 3 0
E P Elocal
ここで電子分極を仮定する。誘電体中の電子数をNe、分極を起こす割合を とすると、分
極はP= Ne localとなる。これを式(2-51)に代入して、次式が得られる。
3 0
1 N E
E N
P e e
上式と式(2-49)から、次に示すClausius-Mossottiの式が導出される。
3 0
2 1 Ne
誘電体がAとBの2相で形成されている場合、次式が得られる。
B B A
A N
N 3 0
1 2 1
ここで誘電体 AとBの体積分率をそれぞれ fA、1 – fAとすると、式(2-53)と式(2-54)から Lorentz-Lorenzの式が得られる。
2 1 1
2 1 2
1
B A B A
A A f
f
上式において、 A と B はそれぞれ誘電体 A と B の誘電率である。式(2-55)で示される
Lorentz-Lorenzの有効媒質理論において、誘電体は誘電率が1の媒質すなわち真空または空
気で囲まれている。
次に、Maxwell GarnettモデルとBruggemanモデルの導出について説明する。Lorentz-Lorenz の有効媒質理論において誘電体が誘電率 hの媒質(ホスト媒質)に囲まれている場合、その関 係は式(2-55)から次式で表現される。
h B
h A B
h A
h A A
h
h f f
1 2 2 2
Maxwell Garnettの有効媒質理論は、式(2-56)において A = hと仮定した場合である。
A B
A A B
h
h f
1 2 2
一方、Bruggemanの有効媒質近似(EMA)では、 = hと仮定している。
2 0
2 1 B
A B A
A A f
f
Maxwell GarnettモデルとBruggemanモデルの違いについて、図2-175)を用いて説明する。
Maxwell Garnettの有効媒質理論では、体積分率の小さい誘電体Bがホスト媒質である誘電
体 A の中で分散している。しかし、誘電体 A と B で体積分率の大小関係が入れ替わると
Maxwell Garnettの有効媒質理論では が変化してしまう。それに対してBruggemanのEMA
では、誘電体AとBによる集合体が形成されており、ホスト媒質はこの集合体すなわち有 効媒質と見なすことができる。なお、式(2-58)におけるfAと1 – fAの係数はそれぞれ、 Aと (2-51)
(2-52)
(2-53)
(2-54)
(2-55)
(2-56)
(2-57)
(2-58)
39
Bの存在確率を意味している。以上より、BruggemanのEMAでは誘電体AとBの体積分率 が大きく変化しても の計算に支障が出ない。
さらに、Bruggemanモデルは混合相の数が変化しても、次式に示すように容易に適用する
ことが出来る。
2 0
1 n
i i
i
次に有効媒質理論において、誘電体の配置による相互作用について考える。図2-186)に示 すように、外部電場Eに対して2つの誘電体AとBが並列および直列に配置された場合を 仮定する。並列の場合、誘電体AとBの相互作用がないため遮断因子(0 < q < 1)はq = 0で ある。 Aと Bの存在確率それぞれfA、 fBとすると、 は次式で与えられる。
B B A
A f
f
それに対して、2つの誘電体が直列に配置された場合はq = 1であり、 は以下で示される。
1 1 1
B B A
A f
f
また、Maxwell GarnettやBruggemanのモデルのように誘電体同士が等方的に相互作用する と仮定した場合はq = 1/3となる。
図2-17 2相媒体による(a)分散構造と(b)集合体構造、(c)Maxwell Garnettモデルと (d)Bruggemanモデルの概念図5)
(2-59)
(2-60)
(2-61)
40
上記に挙げた2相媒質におけるMaxwell Garnettモデル、Bruggemanモデル、および図2-18 のモデルは、遮断因子を使用したパラメータ = (1 − q)/qにより、次式で統一することがで きる7)。
A B B A h
B B A A h B A
f f
f f
有効媒質理論を適用するにあたって、誘電体の大きさに注意を払う必要がある。混合相 中の誘電体のサイズは原子レベルと比較して十分に大きく、またプローブ光の波長の 1/10 以下であることが望まれる。2 相以上の金属同士や半導体同士が原子レベルで混合すると、
量子効果により混合相の誘電率が有効媒質理論から得られる結果と異なる。
エリプソメトリー解析において、有効媒質理論は表面ラフネス層や界面層のモデル化に 適用される。図2-19に表面ラフネスおよび界面を持つ試料と、その光学モデルを示す。
図2-19 (a)表面ラフネス構造と(b)界面構造の光学モデル
(2-62)
図2-18 2相の誘電体が(a)外部電場に並列および(b)垂直な場合の有効媒質理論モデル6)
41
図2-19(a)では、表面ラフネス領域をバルク材料と空隙(void)の混合層と仮定し、有効媒質
理論を適用した表面ラフネス層を設定している。図 2-19(b)は同様に、界面領域をバルク材 料1 と 2 による混合層とし、有効媒質理論から界面層の誘電率が得られる。表面ラフネス 層および界面層のパラメータは、それぞれの膜厚dsとdiおよび各成分の体積分率である。
体積分率を解析パラメータとしてエリプソメトリー解析を行う場合もあるが、一般的には 各成分の体積分率を 50%ずつに固定することで解析パラメータ数が削減される。また表面 ラフネスの評価に関して、バルクが屈折率の低い透明膜の場合はエリプソメトリー解析で 感度が得られない。例えばSiO2(n = 1.457)の表面ラフネスに対してEMAを適用すると、表 面ラフネス層の屈折率はn = 1.222と非常に小さくなる。さらには、バルク層と 表面ラフネ ス層の屈折率差が小さく、表面ラフネス層の信頼区間は非常に大きくなる。有効媒質理論
の中でも Bruggeman モデルは最も適用されているが、他の有効媒質理論でも解析結果は大
きく変わらない。以上のように有効媒質理論を適用することで、表面ラフネスや界面領域 における誘電率や膜厚を少ない解析パラメータ数で容易にエリプソメトリー評価を行うこ とが可能になる。