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先行研究にみる宗族の分類―フリードマンと鄭振満の場合

ドキュメント内 京都女子大学大学院 (ページ 36-40)

宗族の基礎単位は家族である。従って,宗族の結合形態を明らかにする前に,中国の家 族の実態をまず把握する必要がある。日本人研究者にも大きな影響を与えたカルプの家族 についての類型基準は,広東省の鳳凰村での実態調査に基づくものである。かれによると,

鳳凰村の家族は,次の四つに分類することができる。①自然的家族,②因襲的家族,③宗 教的家族,④経済的家族。それぞれの意味と関連性について,カルプは次のように論じた

(カルプ1940:186-196)。

①自然的家族―性的集団は西洋社会の家族に相当するものである。…自然的家族は,

経済的集団の完全な統制下において,そして共祖的集団との関連において遂行されると ころの結婚によって作り出される。事情によっては,それは経済的集団及び共祖的集団 と全く同じになることもある。

②因襲的家族―宗族とは単系血族集団である。出生が宗族の成員たる資格を確定する。

…宗族とは,父系的,父姓的,外婚的であり,効果的な社会的輿論の範囲であり,共同 態内部の身分の決定者であり,性的,経済的及び共祖的等の序列を持つところの多数の 下位集団からなっているものである。

③宗教家族―共祖的集団は若干の性的集団及び経済的集団から成立している。事実上 この性的集団と経済的集団と共祖的集団とが同一である場合もある。…宗教的家族は祖 先祭祀の祭儀の間だけ意識的単位となるのであって,その時々に祭祀される祖先が誰で あるかに従って,それぞれ異なったものである。

④経済的家族―血縁もしくは結婚による場合を基礎として,一個の経済的単位として 共に生活している人々の集団である。それは祖先伝来の財産を分割しない自然的家族又 は数個の自然的家族でもあるだろう。時としそれは分枝家族即ち宗教的家族と一致する こともあるだろう。

カルプは鳳凰村の家族を以上のように分類したが,しかし現実の家族の中にはいろいろ な要素が混じっていて,どれか単一の類型だけで説明するには現実の方が複雑すぎるよう に思われる。

清水盛光は『支那家族の構造』の中で,集団化された親族は,家族であり,集団化の各 層をその特徴に従ってすれば,中国の家族を,自然的家族,宗教的家族と経済的家族に分 けることができる」(清水1942:110)と述べていた。彼によると,宗教的家族がいわゆる 宗族である。その理由として,「祖先祭祀は宗族における直接結合の主要契機である。歴史 的に多少の弛張があり,内容的に多少の変更が加へられたとしても,宗族結合の存すると ころ,それは恒常的に維持されていたといってよい。譜系も同じ機能をいとなむが,祭祀

にともなう効果の直接なるには如かず,また祭祀の恒存性にくらべて時代的制約が著しい のである。宗族を特に宗教的家族とよぶ理由はここにあった」(清水1942:244-5)と論じ ていた。

カルプと清水は,家族の特徴とその機能から家族を類型化し,宗族が家族の中の一種だ と位置づけた点で共通しているが,宗族の中に,さらにどのような類型があるのか,につ いては触れていない。

これまでに宗族を分類し,分析したことが殆どない中に,フリードマンは,構成員の居 住地の違いから,宗族を地域リニージ,分散リニージ,上位リニージに分類した。長くな るが該当部分を引用したい。

地域リニージは,その大小によらず包括的に定義すれば,それは,一つの集落または 固まった集落群に住む父系成員(婚出した姉妹を除き,婚入した妻たちを加える)の自 律的集団(コーポレイト・グループ)である。分散リニージは,地域リニージの祖先の 末裔のうちの或ものが,他の共同体に住んでいる場合を分散リニージと呼ぶ。貧しい人々 の間ではかなり一般的である。上位リニージは,地域リニージが他の地域リニージと結 びついていて,これらのリニージの祖先たちが共通の始祖からの父系出自集団をたどる ことに基づき,全体が一単位となって,中心に祠堂その他財産を持っている。このより 大きな集団を上位リニージと呼ぶ。

幾つかの地域リニージまたは上位リニージが実際に結びつき,共通の祠堂または財産 を設立する場合,その時には同一のクラン関係が再びリニージ結合にまで凝縮する。一 つの統合体を構成しているが,小集団ごとに分散しているという組織と,歴史的にまた は少なくとも系譜的につながってはいるが,それぞれ独立している諸リニージ間のネッ トワークとの相違は共有財産の維持やその財産に伴う儀礼的な義務と特権にかかわるも のである。地理的に離れていても諸単位間に共有財産が保たれているなら,全体リニー ジが存在する。もしそうでない場合は,増殖した分節は独立のリニージと化し,単にク ラン関係の絆で結ばれただけとなる。

同姓のリニージが系譜的に結びついていても,共通の利害や活動に伴う永続的な集団 の成員とはなっていない。これは同一クランであり,ほとんど何の意味も持たない(フ リードマン1987:28-29)

フリードマンは,宗族を三つに分類したが,血縁関係があること,同じ地域内にあるこ とは彼にとってはほとんど意味を持たず,前節で示し,瀬川が分析した通り,「かれは,土 地などによって代表される共有財産の存在こそがリニージの存立にとって決定的な意味を もっており,またリニージをクランから区別するための指標でもあると強調している」(瀬 川1991:18,)のである。

フリードマンのほかに,鄭振満は彼自身が調査を行なった福建省の事例に基づき,宗族 には「継承式宗族」,「依附式宗族」,「合同式宗族」という三つの結合形態があるとの見解 を示した。継承式宗族について,鄭は「族人間の血縁関係は継承式宗族が存在する基礎と 必要条件である」(鄭 1992:66)と語っている。この言葉からすると,鄭の言っている継 承式宗族は,血縁関係があるのは条件で,自然にできた宗族だと見えるが,「理想の継承式 宗族は,必ず完璧かつ確実な系譜構造を有しなければならないが,しかし,我々が言って いる継承式宗族は,実際に機能があり,また高度な規範によって組織した宗族でなければ ならない。系譜関係だけがあって,実際に協力関係がなく,機能と規範がない宗族はもち ろん継承式宗族と称するべきではない」(鄭 1992:68)とも語っている。宗族における継 承といえばまず血縁の継承が思い浮かぶが,以上の記述を見ると,鄭の言っている継承は 必ずしも血縁の継承ではない。

鄭によると,継承式宗族が形成される原因は主に財産,富および社会地位の継承と関係 し,不完全「分家」1)の結果である。中国では一般的に「分家不分祭」,「分家不分戸」,「分 家不析産」2)という習慣があるため,一部の財産は共同継承になり,分家後も族人たちが 関係を保ち,日常生活の中にも親密な関係がある。この時に家庭から継承式宗族になる。

継承式宗族はさらに分家することにより,支系が数多く形成され階段式構造になる。歴 代の遺産の管理と権益分配は「按房輪値」3)の方式が取られたので,この時点では族人間 の権利と義務は平等である。しかし,世代の深化によって貧富階層が生まれ,権利と義務 の分配と負担が平等にできなくなり,互いに協力関係もなくなり,継承式宗族は解体する

(鄭 1992:69)。その他,共有する族産を族人に分割し,一部の族人が族産を売り出すこ

とによって,族人間の協力の基盤が失われ,継承式宗族も解体する。ただし,一部の族人 が分割した族産を共同で継承すれば,新しい継承式宗族となる場合がある(鄭1992:75)。 つまり,族産の分割と売買は継承式宗族に分化と解体をもたらす要因だと論じたのである。

依附式宗族について鄭は,継承式宗族は,数世代経過すると,族人の間に貧富による階 層分化の現象が起こる。貧しい族人が自分の権益を他人に売る,輪番の年に納付すべき金 銭と食糧を支払う力がない,などのことによって対立が生まれる。宗族内部にこういった 現象が起こると,房と房の間で行っている輪番が継続できなくなる。そうすると,族産な どを房ごとに分割することによって,継承式宗族が解体するか,族産及び宗族内部の管理 など統括して管理し,継承式宗族から依附式宗族に変わるかする。依附式宗族が形成され ると,族人は支配者集団と依附者集団の二つの集団に分化する。依附式宗族が形成された 後しばらくすると,一般の族人には一定の権益分配があるが,族人が増加するにつれ,彼 らの権利も徐々に剥奪される(鄭1992:83-93要約)と述べている。

さらに,合同式宗族については,鄭は,合同式宗族の特徴は,族人の権利と義務は契約 関係に基づくもので,族人間の関係は平等互恵が基本である。合同式宗族は族人間の互恵 関係だけを重んずるので,血縁と地縁関係があることはさほど重要ではない。合同式宗族

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