第 7 章 結論
7.2 今後の課題
本節では、前節で述べた結論を踏まえ、残された問題および今後取り組むべき課題 について述べる。
まず、これまで研究された“人家”の各用法と異なる性格が見られる「人家+名詞」
という用法の特徴を明らかにすることがあげられる。「人家+名詞」用法の具体例は 以下のようなものである。
(183) 看看人家凌凯,来 矿 才 四年的学生,二十多 岁,要是 不 死, 过
見る 人名 来る 鉱山 たった 四年 の 学生 二十余り 歳 もし 否定 死ぬ 過ごす
不 了 三个月,就 是 宣传科的 副科长 了。 《盖棺》
否定 完了 三ケ月 即ち だ 宣伝課 の 課長補佐 完了
「あの凌凱をみてごらん。学生あがりでこの炭鉱にやってきてまだ四年にしか ならないが、もしこんなことにならなければはたちを少し過ぎた若さで、三か 月後には宣伝課の課長補佐になるはずだった。」
この例の“人家”は、後続する名詞“凌凱”(人名)を指す。この“人家”を省略 しても、指される対象は変わらず自然な文になる。この場合、“人家”は同位語150と して使用され、後続する“凌凱”が意味的主要部になり、指示対象が明白である。す なわち、文脈への依存度は独立的に用いられる“人家”ほど高くないことが示されて いる。これは、本研究で扱った“人家”、特に“人家”の3人称用法ともっとも異な る点だと言える。また、「人家+名詞」用法として使用される“人家”は、指示機能 より話し手の感情を表出する機能に重きが置かれていると考えられる。第6章で見た ように、中国語の「人家+名詞」は、日本語「あの+名詞」に対応し、いずれも話し手 の指示対象に対する感情が見られる。これは、話し手と聞き手の共有知識領域の活性 化に関わっているように思われる。なお、先行研究にはこの用法を提示するものもあ るが、“人家”の他の用法と区別せずに扱われている。しかし、「人家+名詞」用法 と“人家”の他の用法には明らかな相違点が見られる。つまり、文中主語や目的語と して独立に使用される“人家”とは異なり、この“人家”は同位語として扱われ、後 続する名詞が意味的主要部になっており、文脈がなくても指示する対象が明白である。
このような相違点を解明するには、当該用法の特徴を観察することが今後の大きな課 題である。
150 同位語とは、「體詞のあとにおかれる體詞で、まえの體詞を注釋的に、あるいは補足的に、もう一 度いいなおすもの」という(太田2013:52)。
また、本研究が使用した資料体『中日対訳コーパス』を整理した結果、「人家+名 詞」用法の出現数は99件であったが、“人家”の語義の歴史的変遷に関する先行研 究には当該用法に触れるものがない。つまり、この用法がいつ使用され始め、どのよ うな変遷を辿っているのかについて、不明な点が多い。そのため、「人家+名詞」と いう表現が生じるまでの通時的過程も解明する必要があるであろう。
さらに、形式的に「人家+名詞」用法に類似した表現として、「他/我/你+名詞」の ような「人称代名詞+名詞」という形式の表現がある。いずれも名詞を伴う使い方で、
人称代名詞の省略も可能である。しかし、両者の指示対象に対する感情・評価は全く 異なる。これに関する唯一の先行研究である楊(1991)は、“他”および“人家”の 3人称用法を研究対象として、それぞれ人名を伴う用法が提示されている。また、“人 家”と異なり、“他”は「人名+他」と「他+人名」の2つの形式があるとも指摘され ている。そして、「人家+名詞」用法の場合、“人家”に後続する名詞としては、人 名のほか国名や場所といった名詞の使用も可能である。これは、本研究で扱った“人 家”の関連対象喚起用法と関連するのではないかと思われる。そこで、将来的には、
この名詞を伴う“人家”および“他”の用法に見られる類似点と相違点についてもで きる限り明らかにしていきたいと思う。
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