第2章 大村はまの授業にみられる教師の指導性
第1節 大村はまの指導についての考え方
1 指導の前提条件としての資料の収集
大村は、「詩の味わい方」1>というとき、r準備』2)について、次の ように述べている。
大村は、『準備』3)について、まず、「資料を集めること」4)が必要 であるとしている。その資料として、第一に、「生徒の近づきやすい詩 集、ことに、少年の作品集」5)を挙げている。年齢が似通った少年の作 品は、学習する生徒の発;達段階に合っていて、言葉の使い方や題材が、
生徒に親しみやすいというのである。
第二に、「新聞、雑誌に掲載のものの中の、生徒が近づきやすい詩、
少年の作品」6)を挙げている。社会の中で、客観的な評価を受け、しか も、生徒が親しみをもてる詩や作品は、準備における資料として適切で あるというのである。
第三に、「いろいろの教科書にのせられている詩」7)を挙げている。
教科書で取り上げられている詩は、教科の指導目標に合わせてあり、詩 についての表現技法の理解や知識の修得に適しており、理解の難易度に おいて妥当な資料となるというのである。
第四に、「詩集の広告」8)を挙げている。社会において、どのような 詩集が、どういう目的をもって編纂され、読まれているかということを 生活の中から集めるというのである。
第五に、「卒業生上級生の作品」9)を挙げている。同じ地域で生活し 一37一
ている人々や、同じ学校で生活している人々が、どんな題材を選び、ど んなことを考え、どのような言葉で詩を書いたのかを知ることができる
というのである。
第六に、「詩の鑑賞について少年のために書かれたもの」Io)を挙げ ている。学習者の理解に合わせて、詩における情景描写や作者の心情に ついての説明などが書かれているものは、準備における資料として適し ているというのである。
第七に、「詩作の心境について書かれたもの」1Dを挙げている。作 者が詩を作るときにあたって、場所や時間、対象、想像したことについ て書かれたものを集めておくというのである。
第八に、「詩人の写真・筆蹟の写真」12)を挙げている。詩人は、ど んな顔や表情をしていたのかということ、どのような紙に、どのような 文字で詩を書いて残したのかということを資料として集めておくという
のである。
大村は、学習者の生活、経験に合わせて、以上のような八つの条件を、
「つねつね心がけて」t3)、それらの条件に合うものを「集めて」14)お かなければならないというのである。
2 指導に対する環境のあり方
次に、大村は、「学校新聞や掲示板などに、詩をいれる」15)必要が あるとして1次のように述べている。
日頃、発行されている学校新聞に詩を載せることについては、詩の学 習に「はいる二週間くらい前から始め」16)て、「へいぜいよりも、量 一38一
を増し、掲示する位置や掲示のしかたがめだつようにする」17)として いる。学校新聞には、行事や生徒会に関すること、文芸に関することな
ど、学校独自のさまざまな話題が載せられている。そこで、詩の学習の 準備において、意図的にできるだけたくさんの詩を生徒に読ませ、生徒
にできるだけ鮮明に詩を印象づけるために、学校新聞の中の詩の量を増 やし、目につく機会を多くするというのである。
また、大村は、「詩は季節や、そのころの生徒の生活との関係を考え て選」18)ばなければならないとしている。
生徒は、学校生活の過程において、それぞれの思いや考えをいろいろ に変化させる。例えば、各学年の1学期の始まりであれば、新しい教室 で、新しい教科書で、新しい友達と勉強をがんばろうと思ったりする。
また、3年生では、学期が進むにつれ、心の中はテストのことや進路の ことで不安や希望と入り交じって、落ち着かない状態になったりする。
大村は、授業を構築するときには、このような生徒の生活を見て、生徒 の経験に合わせて詩を選ばなければならないというのである。詩を授業 として取り扱う季節はいっかということ、また、その季節は季節の始ま りなのか、真っ只中なのか、終わり頃なのかということも理解していな くてはならないというのである。そして、その季節には、生徒はどうい う心境にあるのかということを理解していなくてはならないというので
ある。
3 指導のための予備調査のあり方
次に、大村は、「予備調査をする」19)必要があるとして、次のよう 一39一
に述べている。
まず第一に、大村は、「生徒が、詩に対して、どの程度の関心をもっ ているかのだいたいを知るために」20)、次のようなことを生徒にさせ
ると述べている。
Aとして、「このごろ掲示した詩の中で、覚えている詩を書かせる」
2Dとしている。学校新聞や掲示板に載せておいた詩について、「題で も、だいたいの内容でも、ある部分の句でもよ」22)<、その詩を読ん だことを生徒に思い出させて書かせるというのである。
大村は、この調査で、「多くの生徒が、掲示しておいた詩を読んでい る」23>場合には、生徒は「この学習にはいる状態にな?ている」2のの で、 「あまり導入ということに苦心しなくともよい」25)というのであ
る。また、「あまり掲示板の詩などは読まれていなかった」26>場合に は、「導入には十分にくふうして、詩の学習に引きつけられてくるよう にしなければならない」27)というのである。つまり、詩の学習という ときには、掲示していた詩をどれだけ読んでいたのかという生徒の経験 の多少によって、導入部分の指導を軽くしたり、重くしたりというよう に変化させることが必要であるというのである。
また、大村は、 「大部分の者が読んであって、何人かの無関心の者が あるときは、導入の時間に、目を離さないようにし」28)、「完全に、
他の生徒と同程度の関心を持たせてしまわなければならない」29)とし ている。詩に対して、一部に無関心な生徒がいるというときには、導入 の段階で注意して気を配り、関心を持つということについて、大部分の 生徒と同じくらいの関心度にしておかなければならないというのである。
逆に、「少数の読んである生徒がいる時」30>は、「読んでいない者 への導入に力をいれすぎて」3D、「少数の、しかし、この単元として 一40一
多分すぐれた生徒の学習意欲を失わせてしまうことがあってはならない」
32) ニしている。詩について、ひとりひとりの生徒の関心の程度をよく 見て、できない生徒や無関心な生徒に対する導入段階での指導は重要で
あるが、できる生徒、意欲や関心を持っている生徒に対しても、導入段 階での配慮が必要であるというのである。
この大村の調査は、生徒の「掲示しておいた詩」33>に対する経験を 確かめるものである。生徒の答えは、覚えている詩を正確に書いたもの から、全く書けないものまで分かれる。つまり、大村は、この調査によっ て、生徒の詩への経験の度合いを知ることができ、ひとりひとりの生徒 の経験を知ることによって、それぞれの生徒に合う指導計画を構築する
ことができるというのである。
Bとして、「学校図書館にある詩集について書かせる」34>としてい る。その内容は、「何冊くらいあるか」35》、「なんという詩集がある か」36>、「なんという人の詩集があるかなど」ということとしている。
この大村の調査は、詩集についての生徒の経験を確かめるものである。
この調査の答えは、生徒ひとりひとりによって、それぞれ異なるのが普 通である。図書館によく行く生徒は、おおよその冊数が答えられ、詩集 名、作者名も多く書けるであろうが、図書館へはあまり行かず、詩につ いても関心のない生徒は、全く答えられないのである。大村は、この調 査によって、生徒の詩集に対する経験の度合いを知ることができ、指導 計画の参考とするというのである。
Cとして、「ラジオで詩の朗読の放送を聞いているかどうかを書かせ る」37>としている。大村は、この調査によって、生徒の家庭での生活 の中に、詩に触れる機会がどれだけあるかということを確かめているの である。大村は、答えによって、生徒の詩の朗読を聞くということの経 一41一
験の度合いがわかるというのである。
大村は、「予備調査」38>の第二として、「環境の一端を知るために」
39> A次のようなことを書かせるとしている。
Aとして、「うちに、詩集・歌集・句集があるかどうか、あれば何冊 くらいあるかを書かせる」40>としている。 カ徒の家庭環境の中に、詩 がどれだけの重みとしてとらえられているのかということを調べるので ある。これは、生徒が詩と触れ合う機会が身近にあるかどうかというこ との調査となっている。生徒が、この発問にその場で答えられるならば、
家庭の詩集などの文芸作品が、生徒の生活の中にも取り入れられている というのである。この発問に答えられない生徒については、大村は、
「調べてこさせる」41)としている。生徒に、詩と触れ合う機会が生活 の中にどれだけあるのかということを確かめさせているのである。
Bとして、「家族や親しい人の中に、詩や短歌・俳句をたのしむ人が あるかどうかを書かせる」42>としている。大村は、この調査で、「身 近に、詩をたのしむ人を持つ生徒がわかれば、適当な学習活動を考えて、
その恵まれた環境を十分に生かすようにしむける」43>というのである。
調査の結果を調査としてだけで処理するのではなくて、生徒ひとりひと りの調査結果を指導の手段として、生徒ひとりひとりの学習活動に生か せるように使うというのである。大村は、調査で知り得た内容を、ひと
りひとりの生徒の「学習活動をきめる」44)材料にするというのである。
大村は、「予備調査」45)の第三として、「生徒のだいたいの傾向と 味わう力をみるために」46>、次のようなことを書かせるとしている。
Aとして、「好きな詩を書かせる」47)としている。生徒に、自分が 好きな詩を、「自由に、思い出すものを書かせる」48)というのである。
大村は、生徒が、自分の生活を思い出し、覚えている詩や気に入ってい 一42一