6.関棄地方各地の方言の場合
11ぺt一一ジにあげた第1表をみると,関東地方では本家:分家の集団を表わす 僅言の中で最も勢力が強いのは;イッケである。マキは,イッケについで勢力 が強いが,それでも,イッケの半分ほどの勢力しかもっていない。東北地方に 比して,マキの勢力が非當に弱いのは,おそらくイッケやイットウという漢語 系のことばの勢力の影響を受けたためであろう。
ここで,東北地方の場合と同じく,園立国語研究所の図書館に所蔵されてい る関東地方の各地の方言集や方言辞典の中からマキ・マケを見出し項潤として ある主なものをぬき出してみた。この地方には,東北地方の揚合には余りみら れなかったイチマキ・イチマケという語形も出てくる。そこで,これもぬき出
した。これらの意味用法の記述の部分を原文どおりに抜き書きしてみると,次 のようになる。
栃木県
l r栃木県塩谷郡喜連川町方言集9 手塚邦一郎皆野 昭和27年
マケ 血族。rあそこのマケは頭がいいんだよ」(あそこの一族は頭がよい んだよ)
2 r栃木県安蘇郡野上村語彙』倉N一郎氏著 平骨1年
マケ 集団。 rシシノ マケガ キタ」 r、鴇ガ マケニナッテ トブ」など という。
〔記〕 栃木県安蘇郡野上村は,渡良瀬川の支流である野上川の上流にある山 村であるが,昭掬29年以降田沼町に合併されている。わたしが昭和44年3月に この野上村の作原という部落で調査したところによると,この作原部落を含め て,旧野上村地方の方言では,本家一分家の家連合のことをイッケまたはイチ マケといっている。ただ単にマケとはいわない。マケは上記の『栃木県安蘇郡 野上村語彙』 (倉瞬一郎著)にあるとおり鳥や獣などの群をさして使うのだそ
うである。「鳥ガ マケニ ナッテ 飛ンデ 行ク」「ツグノ マケガイ ル」 「ジネノ マケが来タ」などなど。 (ツグもジネも野鳥の名前。) マケ
を本家・分家の家連合の意味ではなく,このような鳥獣の群の意味で使用する 一4( 一
のは,次の42ページにあげる『上州ことぼ』の揚合と同じである。このような 用法をもっている地域が栃木や群馬のほかにどれだけあるか知らない。少なく
とも東北地方各地方言のマキ・マケにはない用法である。
しかし,この野上材の方言のマケは,東北方言のマキ・マケが共通してもっ ている血筋・血統の意味はもっていない。イチマケもそうである。血筋・血統 の意味は,スジ・ケートー・チスジなどの語で表わす。このうち最も多く使う のは,スジである。たとえば,「渡辺イチマケハ 肺病スジダ。」「アソコノ 家ハ スジガ 悪イ。ナリンボ(需ライ病)ノ スジダ。J などなどのように 使う。
茨木県
1 『水勢地方の方言資料(1)』 外山善八・金沢直:入の両氏編
マゲ(マケ) (父親一) (石州一)その一一統。その系統。一族縁者。
;系統。
〔記〕 わたしが昭涌44年3月茨城県行方郡麻生町で調査したところによる と,この地方の方雷では,本家・分家の家連合のことはイチマケといってい る。ただ単にマキ・マケとはいっていない。たとえば「渡辺イチマケ」 「佐藤 ノイチマケ」など。これは,前にあげた栃木県の野上村,それに次にあげる群 馬県・東京都・神志野県などの各地の方書の場合と間じである。そして,この イチマケは血筋・血統の意馬はもっていない。東北地方の各地の方書のマキ・・
マケとはちがっている。血筋・血統の意味は,イチマケではなく,スジ・ケッ トー・ケートーなどの単語が表わしている。このうち最も多く使うのがスジで ある。 r渡辺イチマケハ スジガ 悪イ。」「アソコノ 家ハ スジガ 悪イ。
カッタイボー(=ライ病)ノ スジダ),「脳ノ 悪イ スジダ。」 などなどの ように使う。これは,前にあげた栃木漿安蘇郡野上村の揚合と全く同じであ る。なお小川武二氏(福島大学教授・英文学)の御教示によると,同氏の郷里 である茨城県多賀郡磯原町(現北茨城市)の方言にも,マケという時言があ る。このマケは,東北地方のマキ・マケと岡じで,本家篇分家の家連合・醐族 の意味のほかに,血筋・血統の意味をもっている。 「肺病マケ」 「マケガ 悪 イ」………などの用法をもっているという。小川氏によると,水声市の辺で
一41一
も,この談原町の解合と嗣じだということである。
群馬県
1 r万場の方書』(注13)上野勇氏著 馬面27年
マケ 一家。血統。例, 「癩病のマケ」 「マケが悪い」等。
2 『上州ことば誰 朝H新聞社前橋支局編 昭和39年
まけ 山村へいくと本家,分家の関係が次第にひろまった同姓一族の結びっ 斗
きは,まだ根強く残っている。この一族のことを西上州へいくと「まけ」,
東上州では「いつけ」という。しかしところによっては二方が使われ,「まけ」
は親類,「いつけ」が嗣族をさしているところもある。「いつけ」は二二通り
「一一・R6」でもとは一軒の家という意味からであろう。 rまけ」は「まき」とい うところもあり,サクのうちとか囲われたなかをさす言葉だったようだ。「イ ノシシのまけ」というと,イノシシがむれをなしている状態だし,村長派を
「村長まけ」などと意味がかなり拡大して使われている。
3 r佐波方言之研究』 中沢政雄氏著 発行年不詳 マケ(イチマケ) 親類系統。
埼玉県
2 『秩父の伝説と方言』 秩父市教育委員会編 昭職37年
マケ 血統。一族。類。rOOさんちは,あの一マケだ」r鉄砲祭は
幡磨のマケの人が奉仕する」いちま イチマケ 親族。一族。醐じ血統の者。一二の転言化。
〔記〕 大野晋氏(学習院大学教授・国語学)の御教示によると,大野氏の母 堂(明治27年の生まれ)の郷里は埼玉県春薄部市であるが,母堂も,たとえ ば,「どこそこの家は,ライ病マケだ。」 というようにマケを使っておられた
という。とすると,埼玉県では秩父地方ばかりでなく,春臼部市地方でも,マ ケはやはり血筋・血統のことを意味する煙書であったらしい。
千葉県
次の方言集をみたが,マキ・マケという語は見出し項目としては見当らなか
った。
注13)群馬累多野郡万場町の方雷を扱った方書集。